2020年9月の「リスクコミュニケーション」を分析してわかったこと~SNS定点観測結果14~

twitter SNS定点観測

要約

リスクコミュニケーションに関するツイートを解析しています。リスコミに関するツイート数は減少を続けており、コロナによる緊急事態から食品安全や原子力など平常時のトピックに戻りつつあるように見えます。また、コロナについての政府のリスコミは改善の兆しが見えてきません。

本文:9月のリスクコミュニケーション

リスクコミュニケーションに関する一般の動向を探るため、ツイッター上で「リスクコミュニケーション」、もしくはその略称である「リスコミ」を含む発言を収集して解析しています。これまでのsns定点観測結果はこちらにあります。

SNS定点観測
「SNS定点観測」の記事一覧です。

本記事では2020年9月のツイートを解析した結果を報告します。発言数の推移と使用頻度の高い単語、「いいね」数トップ10ツイート、ニュース・ブログ記事の順で見ていきましょう。

リスクコミュニケーションに関するツイート数の経時変化とツイート内の単語の使用頻度

まずは2020年9月分を含めたツイート数の変化を下図に示します。先月まではツイート数+リツイート数までを含めたツイートの広がりの数を示していましたが、両者はほぼ同じ推移になることがわかってきたので、今月からはシンプルにツイート数だけを示すことにします。

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新型コロナウイルスによるコロナ禍が始まるまでは月に100件程度であったリスコミ関係ツイートは、1月以降上昇を続けて4月に3000件を超えてピークに達しましたが、5月以降は感染再拡大の際にも関係なく減少傾向を続けており、9月はピーク時の1/10まで減少してしまいました。喉元も過ぎてないのに熱さを忘れていく瞬間を目の当たりにしているようです。

次に、使用頻度の高い単語トップ50単語(リスク、コミュニケーション、リスコミの3つを除いています)をワードクラウドにまとめてみました。

risukomi2009

解析を始めて以来6か月連続で「専門」だったトップ単語がついに入れ替わりました。ただ、トップ1, 2は「感染」と「コロナ」であり、リスコミの関心がコロナ関連にあることは変わっていません。

目立つのは「食品」という単語で、7月に初ランクイン(50位)、8月に16位と急激に順位を上げ、9月はついに4位になりました。添加物も同様にランクインしました。もともと食品安全はリスコミの対象として重要な位置づけにありましたが、コロナ発生以降はコロナ関連の中に埋もれてしまっていたようです。

また、「放射線」「福島」「復興」「被ばく」など、原発事故関連の複数の単語がコロナ発生以降で初登場しました。「放射線」は初登場6位です。これらも食品安全同様に、今まではコロナ関連の中に埋もれてしまっていたと思われます。

ピークの4月にはひと月に100回出てくる単語じゃないとトップ50にすら入れませんでしたが、9月では100回出てきたらトップ1になってしまいます。先月からさらにコロナの(単語の)山が崩れ落ちて平常時のリスコミが姿を現し始めているようですね。

リスクコミュニケーションに関するトップ10ツイートの内容

「いいね(fav、ふぁぼ)」が多かったトップ10ツイートを抽出し、トピックと要約を手作業でつけました。いいねがたくさんついたツイートほど、多数の人が共感を得たツイートであると考えられます。これを見ていくことでリスクコミュニケーションのヒントが得られるかもしれません。

9月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートの要約は以下の通りです。先月はトップ10のうち7つがコロナウイルス関係でしたが、今月はトップ10のうち9つがコロナウイルス関係となりました。

順位トピック要約
1コロナコロナ接触確認アプリで陽性者との接触があったとの通知を受けたときにどうすればよいかわからないから困る
2コロナ「手を洗う救急医Takaさんと考える、このままで大丈夫?日本のワクチン事情」動画の紹介
3コロナコロナワクチンが普及するかどうかはリスコミ次第、っていうのはおかしい。ワクチンのリスクを下げるのが先。
4コロナコロナ分科会は追認組織と見なされても仕方がない
5コロナヘルスコミュニケーション学会で、コロナとリスコミに関するセッションが開催される
6コロナ欧米よりもコロナの対策はうまくいっているので、政府には恐れることなく正直なリスコミを期待する
7コロナコロナワクチンが普及するかどうかはリスコミ次第、っていうのはおかしい。ワクチンのリスクを下げるのが先。
8コロナ何が必要で何は必要ないということを根拠をつけて説明してほしい
9コロナ青森県むつ市長がリスコミについて市民に講演した
10リスコミ一般リスコミは蓄積された信頼感に基づいて機能する

1番目について。通知があったけどどうすればいいか?という問い合わせが保健所に殺到して保健所が疲弊しているとのこと。自身に症状がある場合や、過去2週間以内に身近に接した方に感染者や症状のある方がいる場合以外は普通に過ごしてよいということが伝わっていないようです。

2番目はyoutubeの動画(長い。。動画には何分から何について話してる、などの目次のような機能をつけてほしい)

https://youtu.be/J7FH5kWNuro

4番目について、GoToトラベルへの東京追加など、コロナ分科会で議論される前に閣僚などが発表して報道されてしまっています。

このことに関してはコロナ分科会会長代理の脇田氏もやめてほしいと話しています。また、リスコミは改善したが?との問いについて以下のように答えています(リスコミの専門家がメンバーに入ったことによる改善はやはり見られませんね)。

分科会は経済重視?政府の方針を追認するだけ? 新型コロナ分科会に関して広がる誤解にメンバーは…
東京を除外した上での「Go To トラベル」のスタート、「Go To トラベル」への東京追加など政府閣僚が分科会開催前に発表する方針。分科会は「政府の方針を追認しているだけなのではないか?」との声も上がるが、実態はどのようなものなのか。

どうでしょうか…そもそも、専門家会議として発信していた形が良かったのか、悪かったのかわからないというのが正直なところです。

当時は、専門家会議の後に2時間程度の時間をかけて、様々な説明を行い、マスコミの皆さんからの質問を受けてきました。それらが生中継されることで、市民の皆さんが直接専門家の見解を知ることができたという側面がありました。

同時に、専門家から様々な話をしたことは反省点でもあります。政府と専門家助言組織は、全く違うことを言ってはいけませんし、ワンボイスでコミュニケーションをする必要があると今は考えています。

そうした背景から、提言の中ではリスコミの専門家を入れて、情報発信を行うよう求めました。

現在の西村大臣が前に立ち、尾身先生がそれを横で支える形を想定して、提言をしていたわけではないですし、分科会に参加していただいているヘルスケアコミュニケーションプランナーの石川晴巳さんが最後の記者会見を仕切っているわけでもありません。 

改善、進歩したと言えるのか。以前と比べ、ワンボイスでの発信を行うことはできていると思いますが、国民の皆さんが知りたいと思っていることに応えられているのかはわかりません。

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/covid-19-wakita-2

5番目について、第12回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会(すでに終了)にて、特別シンポジウム 「新型コロナウイルス感染症に関するリスクコミュニケーション」が開催されました。

第12回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会
会期:2020年9月26日(土)~27日(日)テーマ:新型コロナ時代に考える健康格差へのヘルスコミュニケーションの挑戦

ニュースとブログ記事

NwesAPIを用いたニュースとブログの分析も行っています。方法については以前の記事を参照ください。

2020年6月の「リスク」を分析しました~SNS定点観測結果7~
Google検索履歴やTwitter、YAHOO!知恵袋を用いて「リスク」のトレンドを定点調査しています。2020年6月の調査結果からは、コロナ関連の話題は現減少を続け、人々の意識が経済優先に傾いていることがわかりました。各種の行動をとってもよいかどうかの判断基準については引き続き高い情報ニーズがありますが、対応する情報提供がないままです。

9月の「リスクコミュニケーション」を含むニュース・ブログ記事は4件と、8月の6件よりも減りました。5件前後でずっと続いているようです。内訳はニュースが3件、ブログ(投稿されたものなのでブログ相当と判断)が1件です。以下に記事のタイトルを表にして示します。

タイトルソース
総裁選公開討論会詳報(9)菅氏「今のままでコロナ対策はしっかりやっていく」(産経新聞)Yahoo.co.jp
コロナ対策に成功した国と失敗した国を分けたもの──感染症専門家、國井修氏に聞くNewsweekjapan.jp
PwCあらた有限責任監査法人PwCあらた、医療情報を取り扱う情報システム・サービス事業者向けに、新セキュリティガイドラインへの対応支援サービスを提供開始CNET
医療政策学から斬る「コロナ騒動」(下)Livedoor.com

最初の記事は菅氏(まだ総裁選の最中)がコロナのリスコミについて語ったという内容です。ただ、総理になってからコロナについて国民に説明をするという場面はまだないようですね。

菅氏「この問題については、まさに首相を先頭に私どもそれぞれ所管がありますから。厚労相、そして担当の大臣、で私。まさに総力を挙げて取り組んできました。しかし、このことがなかなか国民の皆さんに届いてないということも、調査結果を見ますと、事実だというふうに思ってます。
 ですから、その中で、首相は節目節目に会見はしてきたということも事実だというふうに思います。なぜ、国民の皆さんに届いてなかったのか。ただ、政府として、あのクルーズ船の対応だとか、今の私どもの対応については、海外では評価されてることは事実だと思います。だからいいというわけではありませんけれども、もっともっと国民の皆さんに客観的なことを説明させていただきながら、やはり進めなきゃならないのかなというふうに思ってます」

https://www.sankei.com/politics/news/200912/plt2009120034-n1.html

2番目の記事は各国の対策の違いなどを「成功・失敗」と分けて評価した内容です。

3番目の記事は医療情報を電子的に管理する情報システム・サービス事業者とそのシステムを使う医療機関との間のコミュニケーションの話です。

4番目の記事はコロナは風邪と同じで騒ぎすぎという論です。

まとめ:9月のリスクコミュニケーション

リスクコミュニケーションに関するツイート数は減少を続けており、コロナによる緊急事態から食品安全や原子力など平常時のトピックに戻りつつあるように見えます。コロナに関しては分科会で議論される前から情報が発表されてしまうなど、政府のリスコミの改善は進んでいないように見えます。菅新総理による説明もいまだありません。

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