確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その3:コロナウイルスの致死率、陽性率、病床稼働率もわかりにくい

probability リスクコミュニケーション

要約

コロナウイルスの情勢でよく出てくる致死率、陽性率、病床稼働率という3つの確率について考えてみました。致死率なら人口と感染者数と死者数の関係、陽性率なら検査数とその意味(検査数の中には何が含まれているのか)、病床稼働率なら重症病床と通常病床のキャパシティ等、分母と分子を明示したほうがよいでしょう。

本文

最近のニュースですが、東京都で抗体検査を実施したところ陽性率が0.6%であったと報告がありました。

新型コロナ抗体、東京都の陽性率は0.6% 1万人規模の抗体検査を実施へ | Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
 加藤勝信厚生労働相は15日午前の閣議後記者会見で、東京都と東北地方で行っていた試験的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)抗体検査の結果、東京都の陽性率は500検体で0.6パーセント、東北

これをそのまま東京都の人口に換算してしまうと東京都だけで8万人の感染者がいる計算になり、現時点(2020年5月18日)の東京都の累積感染者数5065人の10倍以上ということになってしまいます。この計算はどこがマズイのでしょうか?

コロナウイルスをめぐる情勢では確率がたくさん出てきます。死亡率や致死率、陽性率をよく見かけますが、病床稼働率という言葉も出てきますね。以前の記事でも確率を使うのをやめようということを2回にわたって書きました。この時は感度や特異度、死亡率の意味を解説しました。結論としては、確率での表記はわかりにくいので頻度で示そう、となります。

確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その1:コロナウイルスのPCR検査で陽性がでたら感染している可能性は〇%か?
PCR検査は白か黒かをはっきりさせる確実なものではありません。偽陽性や偽陰性の問題がありますが、これを確率で表すととてもわかりにくいものになります。代わりに頻度で示すことによって理解しやすくなります。事例として検査で陽性が出た場合に本当にどれくらいの人が感染しているのか計算してみます。
確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その2:死亡率0.001%と言われても、自分が死んだらならそれは100%ではないのか?
これまで新型コロナウイルス感染症のリスクを比較してきましたが、リスクは10万人あたりの死者数、つまりある一定の集団の中の死者の頻度として表現しました。これを確率で表現するといろいろとややこしい問題が出てきますので、リスクコミュニケーションでは確率ではなく頻度で表現したほうがベターです。

致死率、陽性率、病床稼働率も確率を使うとわかりにくいと感じています。今回の記事ではこの3つの確率について解説してみたいと思います。

致死率

死亡率は人口あたりの死者数のことで、これまで本ブログでたくさん計算してきました。これに対して致死率は死者数/感染者で計算され、全人口ではなく感染者あたりの死者数になります。ただし、冒頭に示した抗体検査が起こなわれたモチベーションは、そもそもの感染者数の全体像が分かっていないことであり、分母である感染者数が不確実だとそれがそのまま致死率の不確実性につながります。

コロナウイルスが原因のMERSも致死率34%(確定症例2468例中死亡851例)という驚異的な数字がでてきていますが、主要発生国のサウジアラビアにおける抗体検査の結果では10009人中15人で抗体が見つかっており(この解釈は下の陽性率の解説をご覧ください)、これを加味すると致死率はだいぶ過大に評価されていることになるでしょう。今回の新型コロナウイルスと同様に無症状の感染者が多数いたものと考えられます。

国立感染症研究所:中東呼吸器症候群(MERS)のリスクアセスメント (2019年10月29日現在)
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/mers/mers-ra-191029.pdf

もう一つ致死率の問題点はやはり計算式の中の分母と分子の関係にあります。病気Aの致死率が10%で感染率(感染者数/人口)は1%、病気Bの致死率が1%で感染率は10%だったとします。10万人あたりの死者数はA(1000000.010.1=100)もB(1000000.10.01=100)も同じで100人になります。致死率だけを比べてどちらが怖いかは議論できません。人口、感染者数、死者数のバランスで決まるものなので、致死率という確率で示さずにこの3つの数字を示すほうが良いでしょう。

陽性率

以前の記事で自粛解除の基準を紹介しましたが、茨城県の基準は①重症病床稼働率【県内】、②病床稼働率【県内】、③1日当たりの陽性者数【県内】、④陽性者のうち濃厚接触者以外の数【県内】、⑤陽性率【県内】、⑥1日当たりの経路不明陽性者数【都内】となっており、確率が3つも出てきます。このうち陽性率は茨城県以外にも多くの都道府県の基準として採用されています。

コロナウイルスとのたたかいは何をもって収束と言えるのか?都道府県独自基準のからくり
安全とは「許容できないリスクのないこと」と定義されるので、許容できないリスクの定義が必要です。コロナウイルス対策に関しては医療崩壊が起こることが許容できないリスクとみなされ、都道府県ごとに異なる状況にあわせて独自の基準が出されてきました。

陽性率とは、「陽性者数/検査数」で計算されます。茨城県では2020年5月19日時点でもう2週間近く新規感染者が出ていないため、ゼロが続いています。しかし、確率だけを示されても検査数が少なくて陽性者が出ていないのか、十分に検査をしたうえで感染者が出ていないのかがわかりません。また、検査数も退院の基準となっている2回連続陰性を達成するための検査と、感染疑いの人を検査するものを区別しないとやはり「陽性者数/検査数」の分母がよくわかりません。このほか、健康保険適用の検査件数が含まれているかどうかなどの議論もあるので、これも明示したほうが良いかと思います。確率だけではなく感染疑い者を何人検査して何人陽性だったかという頻度も示したほうがわかりやすいです。

次に冒頭に示した抗体検査の陽性確率:東京で0.6%という数字の意味を考えてみます。そもそもこのデータを見る限り、これで東京都の陽性率0.6%という解釈も厳しいように思います。

厚生労働省 抗体検査キットの性能評価
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000630744.pdf
2020年6月14日更新:リンク切れ。以下のリンクで同じ内容のものが見れます。なぜころころリンクを変えるのでしょうか??
https://www.mhlw.go.jp/content/000637286.pdf

E社のデータでは新型コロナウイルス発生前の2019年でも500検体中2件が陽性、東京都で同じく500検体中2件が陽性ですから、普通に考えて500検体中本当の陽性は1件未満で検出できていないとみなせます。C社のデータでも、2019年でも500検体中1件が陽性ですので、東北は1件未満、東京は1件となるでしょう。東京で陽性1件(この検体はA社、B社でも陽性なので可能性は高いか?)だとして、そのまま東京都の感染者数は2万7千人と計算できるでしょうか?

全数調査ではなくサンプリング調査を行う場合は、この500人の調査結果から本当の東京都全体の比率(母比率)を推定することになります。母比率の95%信頼区間を二項分布を用いて計算すると(すいませんがここは天下り式にやります。Rで「binom.test(1, 500)」で計算)、0.005%から1.1%の間に入ることになります。つまり、東京都の累積感染者数は670人から15万人の間に入る可能性が高いということになります。これではあまり確かなことは言えません。

仮に今後1万人規模で同じような調査をして、20人の陽性者(確率は同じ0.2%)となったとすると、東京都の累積感染者数の95%信頼区間は1万6千人から4万人の間と推計され、だいぶもっともらしい数になるでしょう。確率だけではなく分母の数が非常に重要になるのはこのような理由です。

病床稼働率

病床稼働率で一番わかりやすいサイトは「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」ですね。

COVID-19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード #StopCOVID19JP
日本の新型コロナ対策病床使用率と現在患者数を都道府県別にすばやく表示、厚生労働省と各自治体から提供されるオープンデータ使用 #StopCOVID19JP

都道府県ごとに病床のキャパシティと現在患者数が表示され、病床が埋まるまでどの程度の余裕があるかが一目でわかります。ただ、ここで表示されている患者数は必ずしも入院を必要とする患者数とは異なりますし、軽度と重症では受け入れ可能数が異なるだろうと思われます。

ここでも私の住んでいる茨城県の話ばかりになりますが、茨城県基準では現在Stage1(感染が抑制できている状態)であり、病床稼働率に関する基準である重症病床稼働率10%以下、病床稼働率30%以下を達成しています。重症病床というのがICUのことを指すのか人口呼吸器数のことを指すのかは明示されていません。ただし、実際にICUや人工呼吸器数や受け入れベッド数がわからないとどれくらい感染者が出たら医療崩壊になるのかわからないので、やはり母数の情報があったほうが良いですね。

茨城県 「緊急事態措置等の強化・緩和に関する判断指標」の考え方(更新日:2020年5月8日)
https://www.pref.ibaraki.jp/1saigai/2019-ncov/shihyo1.html

を見ると、重症病床は30、病床は151のようです。ここはざっくり確率を使いますが5%が重症とすると感染者が600人でると重症病床は満杯になるという計算になります。さらにざっくりですが半分くらいホテルなどで療養可能とすると感染者300人で通常病床はいっぱいになるということになるでしょうか。茨城県の場合確定感染者数は4月のピーク時に120名程度だったので、半分弱のリソースを使用していたことになります。本当に感染爆発になるとあっという間に倍に増えるのでこれでもギリギリだったと言っても良いと思います。

ちなみに都道府県ごとの受け入れ病床数は以下にありました。ただし重症病床数は書いてありません。
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症入院患者受入病床数等
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000631036.pdf
(2020年6月4日修正リンク切れ。PDFはちょこちょこ消されてしまうようなので以下のリンク先から見つけてくださいhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00023.html

まとめ

コロナウイルスの致死率、陽性率、病床稼働率を調べていきましたが、どれも確率だけを示されても情報として不十分です。致死率なら人口と感染者数と死者数の関係、陽性率なら検査数とその意味(いったい何を含んでいるのか)、病床稼働率なら重症病床と通常病床のキャパシティ、を共に示すほうがよいでしょう。

補足

蛇足気味なので補足に持ってきましたが、抗体検査の陽性率の考え方をサウジアラビアのMERSの抗体検査の例にざっくりと当てはめてみると、陽性率の95%信頼区間は0.84%~0.25%となり、サウジアラビアの人口3000万人に換算すると推定累積感染者25000~75000人(下の論文とは少し数字が違いますが。。)、致死率は1.1%~3.4%となります。

Muller et al. (2015) Presence of Middle East respiratory syndrome coronavirus antibodies in Saudi Arabia: a nationwide, cross-sectional, serological study. Lancet Infect Dis. 2015 May; 15(5): 559-564

NCBI - WWW Error Blocked Diagnostic

一方で、新型コロナウイルスの致死率はクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の数字である1.8%(死者13名/感染者712名)が全員検査しているため信頼できます。サウジアラビアの抗体検査が「正確」なものと仮定すると(ここ重要だが調べてない)、MERSも新型コロナとあまり変わらないということになります。

コメント

  1. たくろー より:

    なるほど(`・ω・´)✨

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