確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その2:死亡率0.001%と言われても、自分が死んだらならそれは100%ではないのか?

dice リスクコミュニケーション

要約

これまで新型コロナウイルス感染症のリスクを比較してきましたが、リスクは10万人あたりの死者数、つまりある一定の集団の中の死者の頻度として表現しました。これを確率で表現するといろいろとややこしい問題が出てきますので、リスクコミュニケーションでは確率ではなく頻度で表現したほうがベターです。

本文

kurozu

この写真は以前に買った黒酢風調味料の表示ですが、私はあまりよく見ずに黒酢100%と思って買ってしまい、後でよく見たら黒酢は20%程度しか入ってなかったというものです。
上段には黒酢100%使用と書いてあり、下段には本品15mlあたり黒酢は3ml入っていますと書いてあります。はっきり言って上段の確率表現は必要なくないですか?たぶん酢の成分の中の黒酢は100%という意味なのでしょうがたいへん紛らわしいです。

前回の記事で、検査の問題を理解するには確率よりも頻度のほうがわかりやすい、ということを書きましたが、本記事ではリスクを表現する際も確率よりも頻度で示すべきということを書いていきます。

確率と頻度

天気予報で降水確率が30%という予報が出た時の30%の意味とは何でしょうか?過去に同じような気象条件が100回あったとして、そのうち30回で1mm以上の降水があったら、降水確率は30%となります。なにをもって同じような気象条件とするか、などの単純ではない部分もありますが、基本的に過去の頻度に基づいています。

ただし、それを30%という確率で表現してしまうと、母数の情報がなくなってしまうため、何が母数なのかは情報の受け手にゆだねられてしまいます。なので、降水確率30%と聞いたときに、1日24時間のうち30%である7時間程度雨が降る、と考えてしまう人もいますし、予報が出ている地域の30%の面積で雨が降る、と考えてしまう人もいます。

これはリスクを表現する際も同様で、10万人という集団の中で1人が死亡した場合の死亡率を0.001%もしくは10のマイナス5乗などと確率で表現すると、母数が何なのかわからなくなります。死亡率0.001%と聞いたときに、特定の個人が今年死ぬ確率が0.001%と考える人もいれば、特定の個人が生きるか死ぬかはゼロかイチだから確率なんかじゃない、などと反感を持つ人もいます。説明している側は当然のごとく集団のリスクを説明しているつもりであっても、確率で示されたリスクは個人の中のリスクだと受け止められてしまうのです。

ということで、これまでに書いたコロナウイルスのリスク比較(4部作)では、確率を使わずに必ず10万人あたりの死者数でリスクを表現してきました。

リスクの低減効果も確率で示すとややこしい

さて、ここで10万人あたりの年間死者数10人になるリスクがあったとします。このリスクを低減させるためにある対策をとったところ、10万人あたりの年間死者数が2人になったとしましょう。この場合にリスク低減効果は10万人あたりの年間死者数を8人減らした、と表現できます。

これを確率で表現するとどうなるでしょうか。もともとのリスクは年間死亡率0.01%であったところが対策により0.002%になりました。この場合「絶対リスク減少率」で表現すると0.008%のリスク低減効果と表現できますし、「相対リスク低減効果」で表現すれば、リスク0.01%の80%低減された、と表現することもできます。こちらは確率のさらに確率で示すことになります。どちらで表現するかで情報の受け手のインパクトは大きく異なると考えられます。当然ながら、相対リスク低減率で示したほうがより大きな効果があると心理的に思ってしまうことでしょう。

逆に、リスクが上昇する際に、絶対リスク上昇率よりも相対リスク上昇率で示したほうが、より不安を煽ることができます。どちらを使うかで、大衆心理を情報の発信元の都合の良いように操作されてしまう可能性が出てきてしまいます。

さらに、一般的に低い確率は過大評価され、大きい確率は過小評価されることも知られています。0.01%と0.001%の違いは心理的にはほとんど認識されず、同じくらいに低いもの、とされてしまいます。これを「10万人あたりの」に統一的に変換することで10人と1人の違いとして表現され、より違いを認識しやすくなります。

確率の種類

確率の解釈はざっくりと3種類に分けられます。頻度と傾向性と信念の度合いの3つです。

頻度
実験室内での動物実験として、ある動物20匹にある化学物質を投与したところ試験期間内に5匹が死んだ、という実験結果が得られたとします。この場合の死亡確率25%は頻度に基づく確率になります。

傾向性
サイコロを振って1が出る確率は1/6ですという場合については、たくさんサイコロを振ってみれば頻度としてだんだん1/6に近い数字が得られるでしょうが、そうしなくてもサイコロの構造を見れば1/6という数字が出てきます。これは傾向性に基づく確率になります。

信念の度合い
今年からスタートする新しいプロジェクトが成功する確率は80%だ、などと表現することもあります。これは一度きりのプロジェクトですし、過去に同じプロジェクトをたくさんやったわけではないのですから、頻度ではありません。これはその人の信念の度合いで表現される確率になります。

解釈が複数あるため、例えば医者が患者に対して「あなたが受ける手術が成功する確率は50%」と話した場合、話し手は信念の度合いとしての確率を話しているつもりでも、受け手は頻度のこと(この医師の手術の実績)だと勘違いしてしまうこともあります。これも確率で表現するデメリットになります。頻度である場合は確率よりも分母と分子を伝えたほうが伝わりやすいでしょう。

まとめ

死亡リスクを確率で示すとその意味(リスクの大きさやリスクの低減効果)が伝わりにくいので、代わりに頻度で示すようにしましょう。確率の解釈は複数ありますので、誤解を招きやすい特徴もあります。頻度で説明する際には母数はいったい何なのかを示すことも重要です。

補足

本記事では確率を3種類に分けました。ただし、すべての確率がこの3つのどれかにすっぽりとはまるわけでもありません。私が専門とする化学物質のリスク評価では、頻度に基づくデータ(ラボでの動物実験など)、傾向性に基づくデータ(これは性質的にこうなるはず、などの情報)を使い、さらにデータが不足する部分は信念の度合いで埋めたりしながら、最終的に確率でリスクを表現したりします。いろんな確率がミックスされた結果です。

参考

確率ではなく頻度で示そう、というのはこの本全体のテーマとなっています。

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