要約
Google検索履歴やYAHOO!知恵袋、Twitter、News APIを用いて「リスク」や「リスクコミュニケーション」のトレンドを定点調査しています。本記事は2022年度下半期(10~3月)の調査結果を報告します。アフターコロナの時代になって多様なリスクに注目が集まっていることが示されています。
本文:2022年10月~2023年3月のリスク
Google検索履歴やTwitter、YAHOO!知恵袋などを対象としてソーシャルリスニングを行い、今人々がどんなリスクに注目していたり不安を持っていたりするかを調査しています。方法については2020年3月の調査結果をご覧ください。
2022年10月~2023年3月の期間におけるリスクに関するトピックは、コロナ第8波、ソウル梨泰院の雑踏事故、コオロギ食の炎上、岸田首相襲撃事件などがありました。他には、リスクのトピックではありませんがAIチャットであるchatGPTの登場は世界を大きく驚かせました。
本記事では、定点調査として2022年10月~2023年3月にどんな「リスク」に焦点があてられたかを分析した結果を報告します。以前は月毎にまとめて報告していましたが、現在は半年に一度報告しています。そして今回が最終回になります。Twitter API有料化につき残念ながらツイートの収集が困難になったためです。
Google Trends
2022年10月~2023年3月の期間内で「リスク」とともにどんなキーワードが検索されているかを調べ、関連キーワードの注目度(検索数が増えたもの)トップ10を抜き出しました。
順位 | キーワード | トピック |
1 | ユーラシアグループ 10大リスク | リスク一般 |
2 | 世界10大リスク | リスク一般 |
3 | リスクヘッジ 野球 | スポーツ |
4 | ソブリンリスク | 金融 |
5 | レピュテーションリスク | リスク一般 |
6 | 10大リスク | リスク一般 |
7 | リスクアセスメント 対象物 | 化学物質 |
8 | リスク社会とは何か 現代文 | リスク一般 |
9 | ハイリスクアプローチについての正しいのはどれか | リスク一般 |
10 | リスクアセスメント 対象物質一覧 | 化学物質 |
第1位と第2位、第6位は米国の調査会社ユーラシア・グループが公表した「世界10大リスク2023年版」に関係します。10大リスクの1位はロシアで2位は習近平です。
JETRO: 米調査会社、2023年の「世界10大リスク」の1位、2位にロシアと中国
第7位と第10位は職場の化学物質管理に関連します。過去記事に書いたように職場の化学物質管理は自主的な管理に大きく舵を切りました。
コロナ関係は2022年上半期と同様にトップ10のうちゼロとなりました。
YAHOO!知恵袋
2022年10月~2023年3月の期間内で「リスク」を含む質問のうち、閲覧数が多かったトップ10を抽出しました。
順位 | カテゴリ | トピック | 要約 |
1 | 美容整形 | 整形手術 | 整形手術の安い手法はリスクがあるか? |
2 | 恋愛相談、人間関係の悩み | パパ活 | パパ活のリスクとメリットを教えて |
3 | ファッション | 化学物質 | SHEINの服に含まれ散る鉛のリスクは?子供に着せても大丈夫か? |
4 | 結婚 | 結婚 | 離婚したいがリスクがあるため踏み切れない |
5 | 美容整形 | 整形手術 | 整形手術したいが後遺症などのリスクがあるため踏み切れない |
6 | 住宅ローン | 住宅ローン | 変動金利の住宅ローンのリスクが高いのは当然 |
7 | 妊娠、出産 | 出産 | 望まない妊娠をしたが、中絶しても産んでもリスクがあるためどうしたらよいかわからない。 |
8 | 大学受験 | 受験 | 第1志望に不合格だったが浪人しても受かるとは限らないため、滑り止めに進学するかどうか悩んでいる |
9 | 自動車 | 中古車 | 中古車を買うのはリスクがある |
10 | 大学受験 | 受験 | 受験する科目の選択に迷っている |
2022年度上半期はトップ10のうち4つがコロナ関係、ワクチンのリスクは1つでしたが、今回の下半期ではコロナもワクチンもトップ10に入りませんでした。関心の低下が進んでいることを示しています。
注目したいのはSHEINの服に鉛が含まれているという話題です。カナダでの話で、以下のようなニュースが引っ掛かりますが、「鉛が検出された」というだけで、実際に健康影響があるレベルかどうかの量的な説明がありません。服をぺろぺろ舐めない限り体内に入ることはありませんが、赤ちゃんは服を舐める可能性があります。このとき、どの程度の曝露量になるのか?その曝露量は無影響量と比べて高いか低いか?という情報がリスクの判断のために必要です。
他のほとんどは「人生選択リスク」とくくることができるトピックでした:整形手術をするかしないか、パパ活するかしないか、離婚するかしないか、浪人するかしないか、住宅ローンの変動金利か固定金利か、出産するかおろすか、中古車を買うか新車を買うか、受験科目の選択。
2022年10月~2023年3月の間につぶやかれた「リスク」を含む1万ツイートを毎週収集し、リスク関連単語の使用頻度ランキングの月毎の推移をまとめました。また、注目すべきワードは背景色を付けてみました。
まず、「コロナ」は調査開始以来ずっとトップ10以内にランキングし続けてきましたが、2023年の3月についにトップ10から陥落しました。同様に「ワクチン」もずっとトップ10位内にありましたが、2023年2~3月はトップ10から陥落です。
「マスク」はランクの変動が激しいのですが、2023年の1~3月はトップ10に入りました。これは脱マスクについての議論が多かったためと思われます。
「投資」は相変わらず上位にランクし続けています。
また、今回注目したいのは「情報」です。これまであまりランクインしてこなかったワードです。chatGPTや画像生成AIの登場と関連しているかもしれません。AIのリスクみたいな話も最近は結構よく目にするようになりました。
ニュース
NewsAPIというツールを使って、タイトル中に「リスク」を含むニュースやブログをウオッチしています。NewsAPIについての説明は過去の調査結果をご覧ください。
2022年10月~2023年3月の間にタイトル中に「リスク」を含むニュースは970件配信されました。Twitterの分析と同様に、収集したタイトル中の単語頻度ランキングの月毎の推移をまとめました。注目ワードの背景色もTwitterのランキング表と同様です。
「コロナ」や「ワクチン」はランク外の月も多く、Twitterと比べて注目度が低くなっています。「投資」や「経済」などは上位にランクされています。
今月注目したワードは「サービス」で、かなり上位にランクインすることが多くなっています。リスク診断サービスやリスク管理コンサルなどのサービスを開始しましたというニュースが増えてきた印象があります。
さらに今月は「AI」というワードも要注目です。これまで「AI」がランクインしたことはなく、新たなリスクとしての認知が増えてきた証拠と言えます。
リスクコミュニケーション
最後に、リスクコミュニケーションに関するツイートの定点観測結果をまとめていきます。
リスクコミュニケーションに関する一般の動向を探るため、Twitter上で「リスクコミュニケーション」もしくはその略称である「リスコミ」を含む発言を収集しています。まずは2022年10月~2023年3月分を含めたツイート数の変化を下図に示します。
新型コロナウイルスによるコロナ禍が始まるまでは月に100件程度であったリスコミ関係ツイートは、2020年4月に3000件を超えてピークに達しましたが、その後は減少傾向を続け、その後はコロナ第3波、第5波、第6波、第7波の感染拡大とともにピークが見られました。ただし、オミクロン株登場以降の第6波、第7波ではピークといってもそれまでに比べると低調な水準になり、第8波でのピークはもうよくわからなくなりました。
次に、リスクコミュニケーションに関するトップ10ツイートの内容をまとめます。「いいね(fav、ふぁぼ)」が多かったトップ10ツイートを抽出し、トピックと要約を手作業で付けました。いいねがたくさん付いたツイートほど、多数の人が共感を得たツイートであると考えられます。これを見ていくことでリスクコミュニケーションのヒントが得られるかもしれません。
2022年10月~2023年3月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートの要約は以下の通りです。
順位 | トピック | 要約 |
1 | コロナ | 同じ事例と数字から正反対の解釈が生まれるのがSNSのリスコミ |
2 | コロナ | 「屋外ではマスクは原則的に不要」はリスコミとして良くない |
3 | ワクチン | アメリカの小児ワクチンの接種率が高いので日本のリスコミは負け |
4 | コロナ | 若者のワクチン接種は有効なので、正しいリスコミが求められる |
5 | ワクチン | HPVワクチンは日本のリスコミの敗北の歴史 |
6 | コロナ | 政治家ではない感染症の専門家に自由を制限されたのはリスコミ失敗という話ではない |
7 | コロナ | リスコミ事業に選ばれた人が科学の基礎知識も持っていない |
8 | コロナ | コロナで亡くなる人が増えており、リスコミの改善が必要 |
9 | コロナ | 知識が伝わっていないのはリスコミの失敗といわれているが、これは双方向性のリスコミのことではない |
10 | コロナ | 日本のコロナ対策はリスコミ失敗という話ではなく、一貫して非科学的だった。 |
トップ10のすべてがコロナウイルス・ワクチン関係となり、リスコミへの注目についてはいまだにコロナ・ワクチンで占められていることがわかります。リスク全般のトレンドとは大きく異なっています。
内容を見てみると、コロナの出口戦略(制限を緩和してコロナ前に戻る)とこれまでの対策の検証・総括が主なトピックとなっており、「終わりの始まり」感が漂ってきています。
まとめ:2022年10月~2023年3月のリスク
2022年度下半期(10~3月)の「リスク」のトレンドを解析した結果、アフターコロナの時代になって多様なリスクに注目が集まり、特にAIのリスクが新たに注目を集めたことが示されました。
定点観測の定期的な報告は今回で終了となりますが、Twitter以外の観測は今後も継続しますので、何かの機会にまたブログで取り上げることがあるかもしれません。
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