フェイクニュース・ニセ情報に騙される人は増えたのか?

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要約

日本人は海外に比べてフェイクニュース・ニセ情報にだまされやすいという結果が出ていますが、これをどう受け止めたら良いのでしょうか?最近の調査事例や政府の取り組みなどを整理し、加えて「ニセ情報に騙される人は増えたのか?」という疑問について考えます。

本文:ニセ情報に騙される人は増えたのか?

最近フェイクニュース(ニセ情報や誤情報、もしくはデマ)関連で「日本人はニセ情報にダマされやすい」というニュースがあり、今回はこれを取り上げてみようと思います。

読売新聞オンライン:日本は米・韓より「偽情報にだまされやすい」、事実確認をしない人も多く…読売3000人調査

日本は米・韓より「偽情報にだまされやすい」、事実確認をしない人も多く…読売3000人調査
【読売新聞】 デジタル空間の情報との向き合い方を調べるため、読売新聞が日米韓3か国を対象にアンケート調査を実施した結果、米韓に比べ、日本は情報の事実確認をしない人が多く、ネットの仕組みに関する知識も乏しいことがわかった。日本人が偽情

韓国や米国よりも日本人はダマされやすいという結論が出されており、それを踏まえて以下のようなコメントが専門家(憲法学者がフェイクニュースの専門家?)から出されています。

宍戸常寿・東大教授(憲法学)の話「日本は偽情報への耐性が弱く、深刻な状況にあることが裏付けられた。早急にリテラシーを高める取り組みが求められる」

ひょっとすると日本は米国などよりもフェイクニュース・ニセ情報の悪影響が小さいため、あまりフェイクニュース関連の用語に興味もなく、情報の真偽を確かめる習慣もないだけかもしれません。そうすると結論自体が逆転してしまいますね。

玉石混合のSNS時代にリテラシーを高める取り組みが必要であることは全く同意するのですが、このニュースはもう少し慎重に受け止めたほうがよいのではないかと思います。このようにニュースを疑う姿勢こそがフェイクニュースへの一番の対抗策なのですから。

このニュースと直接関係ありませんがさらに疑問に思うのは、SNS時代になって「人々は以前よりもダマされやすくなってきたのかどうか」です。SNSにはよい面もたくさんあり、情報をめぐる環境が悪化しているだけではないはずです。以前よりもダマされやすくなっているのならばそれを一番問題視すべきでしょう。

本記事では、フェイクニュース・ニセ情報をめぐる最近の調査結果などを調べ、それとともに政府の取り組みなどを整理し、最後に「人々は以前よりもダマされやすくなってきたのかどうか」という疑問について考えた結果をまとめます。

ニセ情報への脆弱性

冒頭で紹介した読売新聞ニュースで注意したい点は日米韓で調査対象者が同じような集団と言えるかどうかです。こういうのは論文を読んでみないとわかりません。対象者の抽出法が違っていたり、年齢・性別・学歴(リテラシーの指標)などの構成が異なっている場合、集団同士で比較してもあまり意味がありません。

さらにこのニュースでは、偽情報にだまされる傾向があるのは「SNSを信頼している人」「ニュースを受動的に受け取る人」であり、だまされにくかったのは「新聞を読む人」「複数メディアから多様な情報を取得している人」ということが書かれていました。

新聞社がこういう情報(新聞を読むと騙されにくい)という手前味噌なものを出してきたときは特に気をつけたいですね。どのような調査や解析からこの結果を導いたのか、詳細を調べようと思っても論文へのリンクはありませんし、共同研究者である国際大の山口真一准教授の論文を探しましたが見つかりませんでした。

日本ファクトチェックセンターによる以下の記事では似たような結果を報告しています。

日本ファクトチェックセンター:誤った情報、5割超の人が「正しい」 2万人調査結果を公開へ 4月16日にシンポ

誤った情報、5割超の人が「正しい」 2万人調査結果を公開へ 4月16日にシンポ
日本ファクトチェックセンター(JFC)は国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)と、日本で拡散する偽情報について2万人超を対象とした大規模調査を実施しました。誤った情報をそれぞれ約半数が「正しい」と捉えており、その影響は深刻です。調査の詳細を発表し、政治・メデ...

ここでは15の偽・誤情報を見せて、その真偽を質問したところ、誤りと気づいた人は15%程度しかいなかったとのことです。

読売新聞ニュースのほうでは、同様に15件の偽情報について「誤り」と見抜くことができた人は日本で27%でした。両者とも同じ山口真一氏が調査をしているのでおそらくこの15の偽情報は同じものでしょう。それでも誤りに気付いた人はファクトチェックセンターでは15%、読売新聞では27%で二倍近くの差が出ています。

つまり、調査対象がどのような集団かによってこの程度の差はすぐに出てしまうわけです。国際比較は相当に慎重にやらないと素直に結果を受け止められないですね。

また、偽情報を見せてこれが正しいか間違いかを答えよ、という質問はナンセンスだなと思います。その情報に興味を持っていろいろ調べないとフェイクかどうかはわかりませんよね。普通は興味のないニュースは調べもしません。興味がない情報はなんとなく本当かな?と思っているだけでそれ以上考えてないだけでしょう。そのニュースへの関心度の調査をしているだけになっているかもしれません。

以下の資料にもフェイクニュースに関する各種調査が掲載されています。

みずほリサーチ&テクノロジーズ コンサルティングレポート vol.3 2022:国際比較を通じた日本人の偽・誤情報に対する意識と取り組むべき対策
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/report/2022/pdf/mhrt03_disinformation.pdf

これによると情報の真偽を見分ける自信は5か国中で日本が最下位でした。ただし、自信のある人ほど騙されやすいという傾向もあるため、日本人は慎重に物事を考えていると解釈できるでしょう。また、日本人は自分で真偽を確かめる傾向が低いという結果も報告されています。日本人は気質的に自分で真偽を判断するのではなく、みんなが信じているかどうかを重視する傾向が強いのかもしれません。

ニセ情報対策に関する政府の動向

次に政府の動向についてもチェックしてみましょう。総務省のフェイクニュース対策のWEBサイトは本ブログの過去記事でも紹介したことがあります(過去記事は最後の補足参照)。

総務省:インターネット上のフェイクニュースや偽情報への対策

総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)|インターネット上のフェイクニュースや偽情報への対策

さらに、最近になり「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」が立ち上がっており、2023年11月~2024年5月9日までで18回も会議が開催されています。これだけ頻繁に開催しているということは、かなりチカラを入れていると考えてよさそうです。

総務省:デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会

総務省|デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会|デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会

とにかくいろんな関係者を読んでプレゼンさせている勉強会のような感じですね。いまいちなものや単なる業者の宣伝になっているようなものまでレベルも玉石混合な感じです。

現時点での最新回(2024年5月9日)の
資料18-3-1「デジタル空間における情報流通の健全性に関する基本的な考え方と課題(案)https://www.soumu.go.jp/main_content/000945547.pdf
は現状と課題がよくまとまっている資料になっています。そろそろまとめに入っていくのでしょう。

また、総務省は以下の教育教材を作成しています。監修は冒頭の読売新聞ニュースでも調査を担当した山口真一氏です。用語もわかりやすくてよい教材ですね。

【啓発教育教材】インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~

【啓発教育教材】インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~ | 安心・安全なインターネット利用ガイド | 総務省
ネットの時代におけるデマやフェイクニュース等の不確かな情報について解説する特集ページです。

part4の「騙されないためには?」のところでは
・情報源はある?
・その分野の専門家?
・他ではどう言われている?
・その画像は本物?

という基本の4つの疑問が示されています。

冒頭の読売新聞ニュースの内容は
・情報源の論文なし
・専門分野とずれている憲法学者がコメント
・過去にニセ情報を発信
・関連する情報・商品を売っている(新聞を売っている会社が「新聞を読むとダマされにくい」という結果を報告している)
の4つが該当するので要注意ではありますね。こういう意味でも冒頭の読売ニュースは「疑う目を養う」ための良い題材のように思います。ちなみに読売新聞の「過去にニセ情報を発信」については例えば最近では以下のようなものがありました。

朝日新聞デジタル:読売新聞記者を諭旨退職処分 紅麹問題で談話捏造、編集局長ら更迭へ

読売新聞記者を諭旨退職処分 紅麴問題で談話捏造、編集局長ら更迭へ:朝日新聞デジタル
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ニセ情報にダマされる人は増えてきたのか?

ここまでいろいろと最近の情報を整理してきましたが、最後にフェイクニュースやデマにだまされる人はSNSの登場によって増えてきたのか?について考えてみましょう。ただし、情報を調べていってもこの疑問に答えられる情報は見つかりませんでした。

個人的な考えとしては、デマに騙される人はおそらくそれほど増えていないと思います。昔からデマはたくさん撒き散らされきて、それが近年SNSによって可視化されるようになった(今まで見えないものが見えるようになった)だけではないでしょうか。

昔のほうが迷信とかの非科学的な話を信じる人は多かったでしょうし、ひのえうまの年に出生数が激減するとかリアルな影響も大きいものでした。コーラで骨が溶けるとか私が子供のころはみんな言っていましたよ。

テレビも非科学的な心霊番組などを平気で放送していましたよね。川口探検隊みたいな「フェイク」もたくさんありました。オウムのサリン事件で「オカルト」がリアルに悪影響を与えることが注目されて、だんだんとテレビからオカルトものが消えていったようです。ただしその後もスピリチュアルなどはまだ根強い人気がありますね。

実際にはネットよりもテレビのほうがはるかに強い影響があります。ネットの影響は過大評価され過ぎではないでしょうか。ネット世論はリアルな世論ではないことは選挙などでもよく言われます。ネットで人気の人よりも芸能人のほうが選挙で強いですよね。

冒頭のニュースでも調査されていましたが、よくSNSでのエコーチェンバーやフィルターバブルの影響が主張されます。ただしこれも影響は過大評価されているでしょう。むしろSNSにより多様な情報に触れることでデマに強くなることもあります(補足で紹介している本ブログの過去記事参照)。

また、これも過去記事(リンクは補足参照)で紹介していますが、知識のある人ほどデマの影響を過大視する傾向もあります(第三者効果)。このような知識層によってデマの影響は増幅されてしまいます。

AIによってフェイクニュースも精巧になってきたのでだまされやすくなっているとの指摘もあります。一時的にはそうなるかもしれませんが、AIっぽいものはだんだんわかるようになります。特にAIを頻繁に使っていると文章なり画像なりAIっぽいという感覚はよくわかりますね。

まとめ:ニセ情報に騙される人は増えたのか?

日本人は海外に比べてフェイクニュース・ニセ情報にだまされやすいという結果が出ていますが、逆に言えば日本はニセ情報の悪影響が少なく対策の必要性が低いという解釈も可能です。過去に比べて現在はニセ情報にダマされる人が増えたという根拠はなく、現在の状況を少し冷静にとらえることも必要でしょう。

補足

本ブログのフェイクニュース関連の過去記事を紹介しておきます。

プラットフォームがとるべき技術的対策についてのまとめ。総務省の取り組みも紹介。エコーチェンバーやフィルターバブルの影響が過大評価されていることも。

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