トンデモ科学を撲滅せねば!と憤慨したときに考えるべきことその2:自分以外はダマされやすいと考える第三者効果

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要約

デマやトンデモ科学と戦う際に気をつけたいのが「自分はダマされないが他の人は簡単にダマされる」というバイアスが働く「第三者効果」です。専門的知識のある人、デマの嫌いな人、自分に自信のある人ほどこのような効果が高まり、デマの影響を過大視してしまいます。

本文:自分以外はダマされやすいと考える第三者効果

いつの世もデマやトンデモ科学は問題になっていますが、最近のコロナ禍においても多くのデマやトンデモ科学がはびこっています。本ブログでも情報発信していますが、正確な情報を伝えることは非常に大切です。

「デマやトンデモ科学と戦うヒーロー」というのもかっこいい感じですね。一方で、デマの「内容」を叩くのはよいと思いますが、デマを発信する「人」を叩くというのは分断をさらに強めるのではないかという危惧もあります。分断が進むとその閉じた世界の中でデマが増幅されるようになります。

デマと戦うほうは正義と思っていますが、デマをバラまいているほうもまた自分たちは正義だと思っているわけです。この「正義感」というやつは厄介なもので、「正義のためなら相手に攻撃的になってもOK」という非道徳的な行動を正当化しやすくなります。

以上のようなことを以前に本ブログで書きました。また、ブログ記事で紹介したピンクドルフィンさんのツイートは現在は削除されていて、以下のニュース記事で読むことができます。 

トンデモ科学を撲滅せねば!と憤慨したときに考えるべきことその1:反ワクチンから抜け出した話を読んで
反ワクチン思想から抜け出したという話がTwitterで話題になっていますが、これは反ワクチンの人が読むべきというよりはトンデモ科学を撲滅せねば!と憤慨している人こそ読むべきです。合理的=科学的とは限らず、判断の背後にある物語や価値観を理解することが重要です。

女性自身:「友人全員失った」元“反ワクチン”派の女性が語る陰謀論の代償と後悔

「友人全員失った」元“反ワクチン”派の女性が語る陰謀論の代償と後悔 | 女性自身
「元々私は“コロナは存在しない”、“ワクチンは人口を減らすためのもので必要ない”と信じていました。身の回りにコロナに感染したという人がいたら、雇われた“工作員”だと考え『新型コロナのワクチンを打ったら、死んでしまうからワクチンは打たないほうがいい』と周囲の人を説得。その結果、学生...

今回は「トンデモ科学を撲滅せねば!と憤慨したときに考えるべきことその2」ということで、デマと戦う人たちの気持ちについてさらに深めていきたいと思います。特に心理学でいう「第三者効果」というものに注目します。これは、マスメディアの影響を、特に専門的知識のある人たちが過大視してしまう効果のことです。

つまりは、「自分はダマされないが無知な一般人は簡単にダマされる」という感情になりやすいことを指しています。特に高学歴の人ほどこの効果が高いといわれています。こういう感情になると、「賢い側の人間が無知な側の人間に教え諭す」という構図になりやすくなります。これはやはり分断を生んでしまうことになります。

本記事では、第三者効果とは何か?、日本のsns利用における第三者効果について、第三者効果を踏まえて気をつけたいこと、の順で解説していきます。

第三者効果とは何か?

第三者効果とはマスメディアの影響に関してDavisonという社会学者が1983年に提唱した仮説です。 Davison は第二次大戦の硫黄島の戦いで日本軍がアメリカ軍の黒人兵士にバラまいたビラの効果に興味を持ったようです。そのビラには「白人のために命をかけるな」などと書かれていました。このビラは実際には黒人兵士の士気にはほとんど影響がなかったのですが、そのビラを見た白人将校たちが「黒人兵士たちはきっと影響を受けるに違いない」と考えて黒人兵士を前線から撤退させた、という話です。

第三者効果はリスクコミュニケーションを学ぶ上で知っておくべきことの一つです。リスクを伝える際にマスメディアの影響は重要ではありますが、マスメディアの影響を過大視して「リスコミ=マスコミ対応」と考えてしまうと、その向こうにいる情報の受け手のことを重視しなくなってしまいます。硫黄島の例でいえばビラだけを見て黒人兵士たちを見ていなかったということですね。

このようなバイアスの根底にあるのが「自分はダマされないが無知な一般人は簡単にダマされる」と考えてしまう傾向です。ダマされない自分スゴいという自尊心が関係していることが指摘されており、高学歴の人や専門的知識のある人ほどこの効果が大きいようです。さらに、内容と自分の考えが離れているほど第三者効果が高くなり、つまりデマが嫌いな人ほどデマの影響を過大視する傾向が強くなります

緊急事態に「情報を正直に全部流したら住民がパニックになるからしばらく情報提供をひかえよう」と考えてしまうのも第三者効果が関係していると思われます(自分は冷静に受け止められるが一般人は、、、)。実際にはパニックは起こりにくいことが知られており、パニック「神話」となっています。

フェイクニュースに関しても同様の傾向が知られています。2016年に行われたピューリサーチセンターの調査によると、調査対象者の84%がフェイクニュースを見分ける能力にある程度以上の自信を持っていたにもかかわらず、同じ人たちの64%はフェイクニュースが大きな社会的混乱を引き起こしていると考えています。自分はダマされないが他の人はダマされると考えているのですね。また、高所得者ほど大きな社会的混乱を引き起こしていると考える割合が高くなっています。

Many Americans Believe Fake News Is Sowing Confusion
About two-in-three U.S. adults say fake news stories cause a great deal of confusion about the basic facts of current issues. And nearly a q...

この効果は「情報の検閲」という方向に向かいやすいことも指摘されています。中国などではネット情報の検閲が厳しく行われていますが、「デマと戦う」という姿勢はそのような方向に向かう危惧もあります。

日本におけるsns利用時の問題を扱った第三者効果の研究事例

第三者効果に関する日本の研究事例やデマ発信に関する研究事例はあるのだろうか、と少し調べてみましたが、近そうなものとして以下の研究がありました。
(専門外なので内容の妥当性などについては評価できません)

山本真菜、宮下達哉、堀川佑惟、木村敦、岡隆 (2020) SNS利用におけるリスク認知の第三者効果とその関連要因の検討. 日本大学文理学部人文科学研究所 研究紀要 (99), 141-153
https://www.chs.nihon-u.ac.jp/institute/human/kiyou/99/7.pdf

sns利用において生じる具体的な問題として「個人情報の漏えい」、「違法有害情報の発信」、「誹謗中傷や悪口の書き込み」、「犯罪に巻き込まれる」の4つのカテゴリが取り上げられ、それぞれにおいて自分が問題の該当者になるリスクと他者についてのリスクを回答し、自分と他者についてのリスクの差を第三者効果としています。デマ・フェイクニュースというカテゴリはないですが、デマを信じて拡散するようになることが「違法有害情報の発信」に近いと考えます。

第三者効果は4つのカテゴリの全てで確認されました(自分は大丈夫だが他者は大丈夫でない)。「違法有害情報の発信」に関する第三者効果と関係する要因を調べると、ステレオタイプ認知と自尊心はプラス、楽観性はマイナスの影響があり、認知的熟慮性とsns利用頻度の影響は統計的有意ではありませんでした。

ステレオタイプ認知とは「注目されたい」、「目立ちたがり」、「常識がない」などの特別な人が「違法有害情報の発信」に関する問題を起こすと考える傾向のことです。つまり、自分はそのような特別な人とは違うので有害情報を発信したりはしない、と考えるわけです。

自尊心が強いほど第三者効果が高いというのは先ほども紹介した通りで、それと一致する結果となっています。

(自分の人生について)楽観的な人は第三者効果が低いという結果になりましたが、これは従来の知見とは逆の傾向のようです。他者に対しても寛容なのかもしれません。

認知的熟慮性とは、慎重に考えてダマされにくい性質のことです。これと第三者効果が関係なく、自尊心は第三者効果を高めるというのは結構怖い結果です。つまり、ダマされにくいわけじゃないのに自尊心だけ強い人が「自分はダマされないが他者は容易にダマされる」と感じる傾向が強いわけです。自信過剰というのはむしろダマされやすい状態です。

第三者効果を踏まえて気をつけたいこと

以上の調べたことをまとめると、

  • 専門的知識のある人
  • デマの嫌いな人
  • 自分に自信のある人
  • デマにダマされるのは自分とは異なるタイプの人間であると考えている人

このような人がデマの影響を過大視する傾向があると考えられます。科学の専門家などは多くの人がこれに当てはまると思うので、第三者効果というものを自覚しておく方がよいかもしれません。専門家が考えているほど一般の人はアホではなく、専門家もまたちょっと専門分野が違えば簡単にダマされることがあります。

第三者効果を自覚できていないと、一般の人には難しいことをいっても無駄だから「〇〇は科学的にゼッタイに安全!」と断言するなど単純なメッセージを繰り返して洗脳すればよい、という方向に向かってしまいがちになります。

ちなみにコロナ禍で活躍している医療系インフルエンサーの人も「目的のためなら手段は、、、」という考えがベースにあるようです(コロナ禍前のツイートですが)。

ただ、情報の受け手からするとこのようなメッセージは馬鹿にされていると感じてしまいます。リスク評価には科学的不確実性があるのが当然で、むしろこのことを正直に話したほうが話し手への信頼感が上がるというような研究結果もあります。

デマやフェイクニュースは思っているほど影響がないのだから放置しておいてよい、というわけではもちろんありません。国の対策の方向は以下のサイトにありますのでこれを参考にしてみましょう。以下に最終報告書の概要から気になる部分を抜粋します。

総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)|インターネット上のフェイクニュースや偽情報への対策

・我が国では、米国や欧州と比較すると、現時点では偽情報に関して大きな問題は生じていない。

・表現の自由への萎縮効果への懸念、偽情報の該当性判断の困難性、諸外国における法的規制の運用における懸念等を踏まえ、まずは民間部門における自主的な取組を基本とした対策を進めることが適当。

・個別のコンテンツの内容判断に関わるものについては、表現の自由の確保などの観点から、政府の介入は極めて慎重であるべき。

・我が国において、持続可能なファクトチェックの事業モデルが存在せず、社会的認知度や理解度が不足しているという課題を踏まえ、ファクトチェック活性化のための環境整備を推進。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000670018.pdf

YouTubeがワクチンデマを発信するアカウントを停止するなどの対策を進めていますが、基本的にはこのような事業者による自主的な対策がいま最も必要と思われます。Twitterとかの魑魅魍魎の世界は本当にもっとここを頑張らないとダメですよね。ファクトチェッカーとして博士号取得者をたくさん雇う余地もあるんじゃないでしょうか。

まとめ:自分以外はダマされやすいと考える第三者効果

「第三者効果」とは、専門的知識のある人たちがマスメディアの影響を過大視してしまう効果のことです。デマやフェイクニュースの影響も同様に過大視されており、多くの人が「自分はダマされないが他の人は簡単にダマされる」と考えています。専門家による情報発信はこの第三者効果を自覚していないと、上から目線の単純なメッセージングになってしまいます。

補足:参考にした文献など

吉川肇子編 (2012) リスク・コミュニケーション・トレーニング ―ゲーミングによる体験型研修のススメ.

https://www.amazon.co.jp/dp/4779506972/

第三者効果の最初の論文:
Davison, W. P. (1983). The third-person effect in communication. Public Opinion Quarterly, 47(1), 1-15.(アクセスできないので未読)

JSTOR: Access Check
JSTOR is a digital library of academic journals, books, and primary sources.

不確実性の開示の影響を調べた論文:
Nakayachi et al (2018) Effects of Acknowledging Uncertainty about Earthquake Risk Estimates on San Francisco Bay Area Residents’ Beliefs, Attitudes, and Intentions. Risk Analysis, 38, 666-679.

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