要約
リスクコミュニケーションに関するツイートを解析しています。リスコミ関するツイート数はコロナ感染が拡大した7月においても減少傾向が続きました。内容としては、コロナ専門家会議から指摘を受けた政府主導のリスコミが見えてこないこと、感染者差別の懸念が増えていることなどがありました。
本文:7月のリスクコミュニケーション
リスクコミュニケーションに関する一般の動向を探るため、ツイッター上で「リスクコミュニケーション」、もしくはその略称である「リスコミ」を含む発言を収集して解析しています。これまでのsns定点観測結果はこちらにあります。
本記事では2020年7月のツイートを解析した結果を報告します。発言数の経時変化、使用頻度の高い単語、「いいね」数トップ10ツイートの順にみていきます。最後にニュース・ブログ記事の解析結果も付け加えます。
リスクコミュニケーションに関するツイート数の経時変化
まずは2020年7月分を含めたツイート数の変化と、ツイート数+リツイート数までを含めたツイートの広がりの数の推移を下図に示します。
新型コロナウイルスによるコロナ禍が始まるまでは月に100件程度であったリスコミ関係ツイートは、1月以降上昇を続けて4月にピークに達しましたが、5月以降は減少傾向が続いています。7月はまた感染が急拡大しましたが、リスコミに関するツイート数は増えませんでした。これは意外な結果でした。以前の感染ピーク時(4月まで)と比べると、わからない度が減ってきたからかもしれません。もしくは死者数が少ないことや、コロナ情報への慣れ・飽きである可能性もあります。こういうのが「気の緩み」「油断」のサインであるということも考えられますね。
リスクコミュニケーションに関するツイート内の単語の使用頻度
次に、使用頻度の高い単語トップ50単語(リスク、コミュニケーション、リスコミの3つを除いています)をワードクラウドにまとめてみました。
トップは解析を始めて以来5か月連続で「専門」です。コロナ対策専門家会議がコロナ対策分科会に移行し、「専門」や「会議」の文字は先月よりも小さくなりましたがそれでもまだかなり大きくなっており、「分科」はそれに比べて小さいです。以前の記事でも書きましたが新たな分科会は分野間の利害関係の調整のような役割に見え、存在感が低下した感が否めません。
その後感染症対策の専門家会議的なものの本丸は、コロナ分科会から厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」のほうに移ったように見えますね。
また、専門家会議は今後のリスクコミュニケーションは専門家会議ではなく政府が主導するべき、と提案しましたが、やはりそういう政府の動きは見えてきていませんね。また、当初リスコミで存在感を発揮していた知事の方たちも、東京アラートの不発やうがい薬問題などで鳴りを潜めてしまったように感じます。
リスクコミュニケーションに関するトップ10ツイートの内容
「いいね(fav、ふぁぼ)」が多かったトップ10ツイートを抽出し、トピックと要約を手作業でつけました。いいねがたくさんついたツイートほど、多数の人が共感を得たツイートであると考えられます。これを見ていくことでリスクコミュニケーションのヒントが得られるかもしれません。
7月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートの要約は以下の通りです。トップ10すべてがコロナウイルス関係です。
順位 | トピック | 要約 |
1 | コロナ | 政府が主導すべきリスコミが見えてこない |
2 | コロナ | ちゃんと知らない人が悪いというメッセージはリスコミの悪い事例 |
3 | コロナ | 情報の機密を守れない組織がリスコミするのは危険 |
4 | コロナ | 重症者数が少ないが、今後増える可能性がある |
5 | コロナ | 特異度99%という過去の知見を持ち出すのはリスコミとして悪質 |
6 | コロナ | コロナ対策の最大の問題はリスコミ |
7 | コロナ | GoToキャンペーンは感染防止と経済対策で矛盾しており混乱させている |
8 | コロナ | PCR検査抑制派のリスコミはパターナリズムである |
9 | コロナ | 政府が主導すべきリスコミが見えてこない |
10 | コロナ | 政府のリスコミは国民の認識とギャップを埋められていない |
1, 9位について、政府が主導すべきリスコミが見えてこないというのは上記で書いた通りですが、先月も同じことを書いたので本当に進んでいないのではと思います。
2位について、コロナについてちゃんと知っていてちゃんとコロナ感染防止対策をしていても、感染確率は減らせますが最後はその確率の中での運次第で感染してしまうので、そういう人を自己責任で責めないようにという文脈の話です。しごくもっともな話です。集団のリスクと個人のリスクの関係に通じるものがあります。結果(感染したかどうか)ではなくプロセス(対策をとっていたかどうか)で考えるべきです。
5, 8位について、PCR検査の問題は当初偽陽性のことでしたが、当初の想定(99~99.9%)よりも特異度が高そうなので、偽陽性の問題はあまり考えなくてよくなったと思います。それよりも陰性証明を求める声が高まり、感度70%しかない検査(無症状ならもっと低い)で陰性が出たらすぐに通常通り活動してしまうことの問題が大きくなってきました。検査と隔離はセットで、検査だけ考えてもダメだという認識がまだまだ足りませんね。
ニュースとブログ記事
NwesAPIを用いたニュースとブログの分析も行いました。方法については以前の記事を参照ください。
7月の「リスクコミュニケーション」を含むニュース・ブログ記事は6件と、6月の8件から減少しました。ドメイン名から見るとニュースが4件、ブログが2件です。ただし、CNETのようなニュースやブログ・コラムの総合サイトはあまりニュースかブログかの区別がつきません。得られた6件の記事のタイトルのみを表にして示します。
タイトル | ソース |
If you don’t mask, you should keep SD and don’t talk.~COVID19感染予防の基本はマスク・手洗い・消毒~ – 山崎 毅(食の安全と安心) | Blogos.com |
感染は自己責任? 「コロナ差別」を生み出した“とにかく自粛”の曖昧さ | Itmedia.co.jp |
自由を担保すればどうしてもこうなる 小池さん、西村さんのジレンマと尾身さんの人間的凄さ – 中村ゆきつぐ | Blogos.com |
政府の新“対策会議” 「8割おじさん」入らず | Livedoor.com |
危機を好転するコミュニケーションスキルが学べる「日本リスクコミュニケーション協会」が2020年7月6日に新設 | Prtimes.jp |
一般社団法人日本リスクコミュニケーション協会危機を好転するコミュニケーションスキルが学べる「日本リスクコミュニケーション協会」が2020年7月6日に新設 | CNET |
最初の記事はマスクをせずに感染するのは自己責任といった内容で、2番目の記事はその反対で自己責任論は差別を助長することを懸念する内容です。
4番目の記事、ニュースの見出しに「8割おじさん」が入ったことに本人(西浦教授)もツイッターで驚いていました。もともと専門家会議のメンバーではありませんでしたし、会議に出るよりもデータ分析に時間を割くほうが良いと思います。
5,6番目の記事は日本リスクコミュニケーション協会発足に関するニュースです。名前はリスコミそのものなので非常にインパクトがあります。事業内容はリスクコミュニケーションスキルが身に付く資格取得プログラムを提供することです。ただし、その内容は企業経営におけるリスクマネジメントの文脈のリスコミであって、BCP(事業継続計画)や危機管理広報が中心のようです。
まとめ:7月のリスクコミュニケーション
リスクコミュニケーションに関するツイート数は4月をピークに下がり続けており、感染が拡大した7月においても減少傾向が続きました。専門家会議から指摘を受けた政府主導のリスコミはまだその姿を現していません。また、感染者差別の問題を指摘するものが先月までは全然見られませんでしたが、7月に入って増えてきた印象です。日本リスクコミュニケーション協会発足も大きなニュースでしょう。
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