要約
デパ地下は高リスクなため入場制限が必要、逆に観客が声を出さないコンサートなどは低リスクなため利用可能と指摘されたところですが、YAHOO!知恵袋やTwitterなどによるソーシャルリスニングの結果からはデパ地下には擁護論が多く、ロックフェスには非常に厳しい声が多いことがわかりました。
本文:コロナ禍におけるデパ地下とロックフェス
専門家:デパ地下は高リスク!入場制限を!
市民:ハァ!?なんでデパ地下なの?デパ地下の前に制限すべきものが他にいくらでもあるでしょ!?
専門家:観客が声を出さないコンサートは低リスク!利用してよい!
市民:ハァ!?音楽なんて不要不急の最もたるもの。特にロックフェスはこの世に不要!
通りすがりの人:ところで、両者のリスク評価はどこで見られるんでしょう?
専門家:・・・
市民:・・・
東京オリンピック・パラリンピックはほぼ無観客での開催となりましたがそれなりの盛り上がりを見せて終了となりました。その間にもコロナのデルタ株による第5波感染拡大はピークを迎え、医療崩壊状態となっていることが報道されてきました。
この間の出来事としては印象的であったのは、政府のコロナ分科会においてデパ地下が名指しで高リスクと指摘され、逆に声を出さないコンサートや演劇、映画館、公園、図書館・美術館などはリスクが低いと指摘されたことです。
新型コロナウイルス感染症対策分科会 令和3年8月12日(持ち回り) 第5回資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai5/gijisidai.pdf
もう一つはフジロックフェスをはじめとするロックフェスか各地で開催され、猛批判にさらされていることです。特に愛知県で行われた波物語2021なるイベントは感染対策がなされておらず大炎上しました。
茨城県で開催予定であったロックインジャパンフェスティバルの中止についてはすでに記事を書いています。結論としては、リスクの大小のみではなくリスク許容度との関係を考えなければいけません。安全とは「許容できないリスクがないこと」ですから、リスクが小さくてもさらに許容度が小さければ安全ではありませんし、リスクが大きいものでもさらに許容度が高ければ安全と判断されてしまいます。そしてロックフェスはリスク許容度が非常に低い状態にあります。
本記事では、これまでに本ブログで行ってきたソーシャルリスニングの手法を用いて、デパ地下とロックフェスについて人々がどのような態度を取っているかを調べてみたいと思います。
これまでに行ってきたソーシャルリスニング定点観測の結果については以下をご覧ください。Google Trends、YAHOO知恵袋、Twitterの3つのツールを使ってきましたが、今回Google Trendsでは検索数が少なくキーワード検索のデータが取れなかったため、YAHOO知恵袋、Twitterの2つを使います。
そして最後に、デパ地下とロックフェスの両者に共通することとして「事業者によるリスク評価の不在」を指摘したいと思います。
「デパ地下」のソーシャルリスニング結果
これまでYAHOO知恵袋を用いて、「リスク」を含む質問のうち閲覧数が多かったトップ10を抽出して、その傾向を探ってきました。今回は2021年8月1~31日の期間中の「デパ地下」を含む質問を同様に抽出して、デパ地下のリスクについて規制に同意的な意見(リスクが高いので規制すべき)か、擁護的な意見(名指し規制はやりすぎ、他に規制すべき場所はいくらでもあるだろ的なもの)か、関係ない意見かを人力で振り分けました。その結果、
同意的:3件 vs 擁護的:4件
という結果になりました。
次にTwitterの分析として、8月14~22日の期間中の「デパ地下」を含むツイートを抽出して「いいね」がついた数の順で並べ替え、同様に同意的か擁護的か関係ない意見かを人力で上位から振り分け、同意的と擁護的が10件になるまで続けました。その結果、
同意的:3件 vs 擁護的:7件
という結果になりました。
制限に同意的な意見としては例えば以下のようなものがありました:
そごう・西武、大丸松坂屋、高島屋、三越伊勢丹がデパ地下など入場制限スタート
尾身会長の提言に従った形。既に阪神梅田、伊勢丹新宿店、阪急梅田で大規模感染が発生してますしね
(いいね670件)
次に、擁護的な意見としては例えば以下のようなものがありました:
昼間銀座のデパ地下に行きましたが入場制限するほどのお客様も居ず、店員さんたちも呼び込みを控えるよう言われているのか静かで尾身会長のお望み通り活気がなくなっていました。人流に拘る尾身さんですが入国者制限緩和については何も触れないのは何故でしょう?デパ地下よりよほど大問題だと思うけど
(いいね924件)
YAHOO知恵袋でもTwitterでも、デパ地下に関しては同意的・擁護的両方の意見がありつつも擁護的な意見の方が目立ちます。
最後に収集したツイートをテキストマイニングにかけて頻出単語上位50でワードクラウドを作成しました。やはりコロナ、感染、制限、クラスターなどの単語が目立ちますね。
これが少し時間が経過して8月31日~9月9日の期間で同じことをやったらどうなるかも示します。なんと今度はみんなキラッキラのツイートで埋め尽くされるようになってしまいました(!)。緊急事態宣言も解除されてないのにわずか2週間でコロナのリスクなど忘れてしまったかのようです。
「ロックフェス」のソーシャルリスニング結果
上記の「デパ地下」を「ロックフェス」に置き換えてまったく同じことをやってみます。まずはYAHOO知恵袋を用いて、「ロックフェス」のリスクについて制限に同意的・擁護的・関係ない意見を人力で振り分けました。その結果、
同意的:6件 vs 擁護的:1件
という結果になりました。
次にTwitterを用いて同様に分析しました。その結果、
同意的:8件 vs 擁護的:2件
という結果になりました。
制限に同意的な意見としては例えば以下のようなものがありました:
私は決してフジロック開催に反対してはいなかったし、むしろ「感染対策が万全ならスポーツイベントやロックフェスも開催しても良い」という立場だったが、あそこまで対策ガバガバ、しかも五輪反対しといて出演していたアーティストの言い訳がくそダサすぎて、本当に失望している。
(いいね216件)
次に、擁護的な意見としては例えば以下のようなものがありました:
オリパラは都と国が関わるイベントだから主権者・納税者たる我々が開催可否について意見するのは当たり前。でもロックフェスはそうじゃなくて主催者や出演者にとって生きてくための仕事なわけだし、しかも多くが経済的に困窮してる状況で、他人が簡単に中止しろとか言える話じゃないと思うんだけどね。
(いいね175件)
デパ地下と比べてロックフェス擁護の意見は圧倒的に少ないです。これはYAHOO知恵袋でもTwitterでも共通しており、ハッキリとした傾向が見えてきます。
最後はデパ地下と同様に、収集したツイートをテキストマイニングにかけて頻出単語上位50でワードクラウドを作成しました。やはりフジ、コロナ、感染、中止などの単語が目立ち、フジロックは中止すべきという意見が多いことがわかります。
さらに同様に少し時間が経過した8月31日~9月9日の期間で同じことをやってみました。愛知の文字が最も大きく、波物語2021の批判が多いことがわかります。デパ地下が感染のことなどすっかり忘れたようになっているのとは対照的ですね。
デパ地下とロックフェス、両者に共通する足りないモノは何か?
デパ地下が名指しされた根拠は冒頭に示した分科会資料のp13-14に掲載されています。5例以上の陽性者がでた百貨店は23店舗あり、その階別陽性者の比率を見ると地下が33%を占めているようです。ただ、デパ地下が他の場所に比べて特別リスクが高いのかどうかに関する情報はありません。以下、これに対する第5回コロナ分科会での議事概要の中から河本委員の発言を抜粋します。
5点目に、資料3ページで「百貨店の地下の食料品売り場(いわゆるデパ地下)」を特記しているが、参考資料15ページのデータでは、地下1階より1階や2階の陽性者数の方が多いなどとなっており、恣意的な括りに捉えられないか。報道されている事例は従業員の感染であるが、その場合、従業員間の感染を疑い、バックヤードの感染対策をするのが重要なのではないか。「デパ地下」が顧客間の感染が起こるような売り場であるとの実態がないのであれば、名指しで百貨店の地下をリスクの高い場所だと指摘するのは慎重にすべきではないかと思うが、特記した理由は何か。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai5/gijigaiyou.pdf
この質問に対する回答は議事概要にはないのでわかりませんが、リスクとしては主に従業員のものであって客のリスクではないのでは?という意見ですね。
ところでデパ地下って一体どのくらいの人が訪れるのでしょうか?下記の記事を見て結構ぶったまげました。コロナ前の数字ですが都心のターミナル駅近くで10万人/日くらいの集客があるようですね。10店舗あれば100万人/日です。すごい数字ですよ。
週刊女性PRIME:1日の平均来場者は11万人!『お肉の細道』が大盛況のデパ地下戦略
デパ地下とロックフェスを比べてみると以下のような特徴があります:
・デパ地下は屋内、対面、会話あり、行き帰りは電車が多い、都内だけで少なくとも100万人/日の集客
・ロックフェスは屋外、客は皆同じ方向を向いている、声出しは禁止、行き帰りは自家用車が多い(ただし県をまたぐ移動が多い)、1万人程度/日の集客
どう考えてもデパ地下の方が高リスクのようにも思えますが、だからロックフェスはOKでデパ地下はダメ、ということを言いたいわけではありません。以前の記事にも書いたとおり、ロックフェスは不要不急の典型だと思われていてリスク許容度が低いのです。
結局のところ、事業者側がきちんとリスク評価していない(もしくは明示していない)、ということが両者に共通する足りないモノなのです。デパ地下営業したい、ロックフェス開催したい、ということであるならば、だれかのお墨付きを待っていないで自分たちでリスク評価して、感染対策を行うことでこれくらいまでリスクが下げられるのだということを公表し、それが許容可能なものかどうかを世間に判断してもらうべきなのです。こういうことをやらないのが一番の問題なのです。
だれかに何か言われたから渋々対策します、ではダメです。もしくは法律・規制を守ってます、という態度でもダメです。法律・規制はコロナ禍の激しい状況の変化に追いついていません。自分たちでリスクマネジメントする、というところがポイントです。
まとめ:コロナ禍におけるデパ地下とロックフェス
政府のコロナ分科会においてデパ地下は高リスクなため入場制限が必要、逆に観客が声を出さないコンサートなどは低リスクなため利用可能と指摘されました。ところが、ソーシャルリスニングの結果からはデパ地下には擁護論が多く、ロックフェスには非常に厳しい声が多いことがわかりました。ロックフェスは以前の記事にも書いたとおりリスク許容度が非常に低いようです。そして結局のところ、事業者側がきちんとリスク評価していない(もしくは明示していない)、ということが両者に共通する足りないモノなのです。
補足:ロックフェスの実態
ロックフェスの実態として、感染対策をどうやって守らせるか、という実効性が重要です。波物語2021はこれがまったくできていなかったので炎上しました。以下の動画を見てもノーマスクで大声を出し、モッシュする(ステージ前でぎゅうぎゅう詰めで大騒ぎ)などひどい限りです。
これに対して2021年6月に神奈川県で行われたDEAD POP FESTIVALは、マスク着用・フィジカルディスタンス・声だし禁止などが見事に守られていて感動します。この動画はぜひとも最後まで見てほしいです。コロナ分科会が示した低リスクである「声を出さないコンサート」の典型ですね。また、主催者(兼出演者)による強力なメッセージはまるでリスクコミュニケーションのお手本のようです。このように言われたらこの人の顔に泥塗っちゃいけない、って思いますよね。
ちなみに今年のフジロックの様子も以下の動画で確認できます。まさに百聞は一見に如かず、みなさん距離をあけてまったりと過ごしている様子がわかります。
ただしデパ地下と同じなのですが、観客の感染リスクが低くても出演者(&スタッフ)の感染リスクはどうなのか?というところは正直気になります。コロナ第5波ではアイドルの感染報告が多数ありましたね。
最後になりますが、なぜロックフェスはリスク許容度が低いのか、という理由についてはヒューリスティックという心理的効果の影響がありますので、詳細については本ブログの過去記事をご覧ください。
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