確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その4:ワクチンの有効率・副作用と分母無視の法則

vaccine リスクコミュニケーション

要約

確率で書くとわかりにくい例として「ワクチンの有効性95%」や、分母を無視して判断を誤りやすい例として「ワクチン接種後に〇〇人死亡」について解説します。確率よりも頻度で示したほうがわかりやすくなりますが、頻度であっても分母を揃えて比較しないと容易に判断を誤ります。

本文:ワクチンの有効率・副作用と分母無視の法則

コロナウイルスのワクチンの接種は海外で先行して始まり、近いうちに日本でも開始されるようです。ワクチンの有効性や副反応でも確率がよく使われますが、確率で示されるとわかりにくいと感じています。本ブログでも確率で書くとわかりにくいのでやめようという記事を、コロナウイルスを例にいくつか書いてきました。例えば以下のような記事があります。

確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その2:死亡率0.001%と言われても、自分が死んだらならそれは100%ではないのか?
これまで新型コロナウイルス感染症のリスクを比較してきましたが、リスクは10万人あたりの死者数、つまりある一定の集団の中の死者の頻度として表現しました。これを確率で表現するといろいろとややこしい問題が出てきますので、リスクコミュニケーションでは確率ではなく頻度で表現したほうがベターです。

本ブログではリスクを表現する際に確率ではなく頻度で示すようにしていますが、頻度であっても分母を揃えないと問題が起こります。

感染者が10人いる人口10万人の都市Aと、感染者が100人いる人口1000万人の都市Bでは、人口あたりの感染者数は都市Bのほうが一桁少ないですが、都市Bのほうがなんだか危険と感じてしまいがちです。これは分母を無視して(人口10万人対1000万人)を無視して分子の数(10人対100人)だけ比較して判断してしまうクセが人間にはあるからです。

本記事では、ワクチンの効果や副作用を例に、確率で書くとわかりにくい例や分母を無視してしまいがちな例について解説していきます。

コロナワクチンの効果95%はわかりにくい

海外で接種が始まっているコロナワクチンはその有効性が95%と言われています。

東洋経済オンライン:米ファイザー、コロナワクチン有効率95%確認

米ファイザー、コロナワクチン有効率95%確認 | ロイター
米製薬大手ファイザーは18日、独バイオ医薬ベンチャーのビオンテックと共同開発する新型コロナウイルス感染症ワクチンの臨床試験(治験)で95%の有効率が確認されたとする最終結果を発表…

見出しだけを見たイメージでは、ワクチンを打てば95%の人はコロナにかからない、つまり自分がコロナにかかる確率は5%になる、と思ってしまう人が多いのではないでしょうか。

正確にデータを見たいので、一応元論文にも目を通しました。

Polack et al. (2020) Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. The New England Journal of Medicine. 383:2603-2615

Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine | NEJM
Original Article from The New England Journal of Medicine — Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine

ワクチンの臨床試験の結果、
ワクチン投与者は21720人のうち8人が感染
プラセボ(偽薬)投与者は21728人のうち162人が感染
ということで、分母はほぼ同じでワクチンなしの感染者162人の5%が8人ですから、95%の効果があったと計算されるわけです。これは「相対リスク低減効果」になります。そもそもワクチンを打たなくても99%以上の人はコロナに感染していないので、ワクチンを打つと95%の人がコロナにかからないという解釈は誤りです。

一方で、感染確率で見ると、
ワクチン投与者の感染確率は0.04%
プラセボ(偽薬)投与者の感染確率は0.74%
なので、ワクチンを投与したグループは感染確率が0.7%減少したことになります。これは「絶対リスク低減効果」です。

「絶対リスク低減効果」よりも「相対リスク低減効果」で示したほう大きな効果がありそうなイメージになります。もしニュースの見出しが「ワクチンのリスク低減効果は0.7%!」だったら多くの人はガッガリするのではないでしょうか。

一番の問題は有効率95%が「95%はコロナにかからない」なのか「相対リスク低減効果」なのか「絶対リスク低減効果」なのかきちんと書いてない、ということです。これを書かないくらいなら確率を使わないほうがよいでしょう。

冒頭に書いたとおり、本ブログではリスクを表現する際、常に分母を揃えて10万人あたりの年間死者数で書いてます。これと同様に10万人あたりで考えてみると、
ワクチン投与者は10万人あたり37人感染
プラセボ(偽薬)投与者は10万人あたり746人感染
なので、ワクチンの効果は10万人あたり709人ということになります。このように分母を揃えた形で頻度を用いて表現したほうが確率で示すよりも誤解を招きにくいでしょう。

ちなみに感染者の致死率1.5%で計算すると、死亡リスクの低減効果は10万人あたり11人となります。これは非常に大きな効果と言ってよいです。ただし、これは感染の蔓延状況で変わる数字であり、治験をした時点(2020年7月から11月)での、しかも主に米国の状況下の数字です。みんなが感染していない状況でワクチンを打っても効果が小さいということは直感的にわかると思います。

ワクチンの副作用かどうかの判断は単純ではない

ワクチンは有効性とともに副作用(副反応)もあります。上記のThe New England Journal of Medicineにも各種副作用の確率が示されています。これはまた別の機会に取り上げたいと思いますが、最近になり、ワクチン接種後に死亡したというニュースが複数出ています。ワクチン接種後に死亡と聞くとショッキングに思う人が多いでしょう。

YAHOOニュース:ファイザー、ワクチン接種後の死亡例を調査-因果関係の有無巡り

ファイザー、ワクチン接種後の死亡例を調査-因果関係の有無巡り(Bloomberg) - Yahoo!ニュース
(ブルームバーグ): ファイザーと米連邦保健当局は、同社とドイツのビオンテックが開発した新型コロナウイルス感染症(COVID19)ワクチンの1回目の接種を受けた医療従事者が16日後に死亡した事例を調

この医師の死亡については米紙ニューヨーク・タイムズが最初に報じた。同紙によれば、医師(56)は脳出血で死亡したと妻が5日にフェイスブックに投稿していた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/70d7df70bd04e152d5d979e46fda2db95b14e165

本ブログでおなじみの人口動態調査によれば、脳内出血で死亡する人は年間3万人程度です。つまり、通常でも1か月の間に1千万人あたり200人くらいが脳内出血で死亡することを意味します。

1か月の間にランダムに選んだ1千万人にワクチンを接種したとして、この人達のうち200人が脳内出血で死亡することは「通常のこと」になります。もっと言えば、95%信頼区間である170~230人くらいの間は「通常のこと」と判断できます。もしこれが400人死亡であれば明らかにおかしいと考えるべきです。

ところがこれも分母を無視して「ワクチン接種後に1か月に脳出血で200人死亡!!」という部分だけが見出しとなって報道されるとどうなるでしょうか。ワクチンの副作用で200人もの人が亡くなった、という非常にショッキングな(しかし間違った)イメージが出来上がってしまいます。

さらにもう一つ見てみましょう。

ブルームバーグ:新型コロナワクチン接種後の死亡者が増加-ノルウェーの高齢者

新型コロナワクチン接種後の死亡者が増加-ノルウェーの高齢者
ノルウェーでは ファイザーとビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチン接種を受けた後に死亡した高齢者の数が推計29人に増え、基礎疾患のある高齢者にとっての安全性について懸念が高まっている。

ノルウェーでは ファイザーとビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチン接種を受けた後に死亡した高齢者の数が推計29人に増え、基礎疾患のある高齢者にとっての安全性について懸念が高まっている。

ノルウェーは75歳以上の人を対象に死亡者の推計値をまとめた。同国では高齢者など新型コロナ感染症にかかった場合最もリスクが高いと考えられる人を中心に、これまでに約4万2000人が少なくとも1回の接種を受けている。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-01-17/QN1V23T1UM0W01

上記と同様に人口動態調査の結果を見ると、日本では75歳以上の人の死亡率は10万人あたり年間5700人になります。4万人あたりでは2280人となり、さらに1か月あたりでは190人になります。つまり、75歳以上の人が4万人いれば、1か月でそのうち190人が亡くなることは通常のことです(ニュースではいつからいつまでにという期間が書いてないので、1か月で区切ったのは適当です)。このようなバックグラウンドの死亡率(4万人中190人)と今回の4万人中29人を比較しなければいけないのですが、そのような比較がニュースで出てくることはありません。このニュースだと「ワクチン接種後29人死亡」という数字だけが頭に残ってしまいます。

分母無視の法則

分母を無視して分子だけを比較しがちな傾向を確かめる実験はこれまでに多数あります。例えば、壺のなかにビー玉はいっており、赤いビー玉を引いたら勝ちというゲームがあります。次の二つの壺から一つを選ぶことができます:
壺A:ビー玉が10個入っており、そのうち赤いビー玉が1つ
壺B:ビー玉が100個入っており、そのうち赤いビー玉が8つ
確率で比較すると壺Aのほうが赤を引く確率が高い。にもかかわらず、被検者の30~40%が壺Bを選んだというのです。分母(10対100)を無視して分子(1対8)だけで選んでしまった人が少なからずいるのです。

リスクを扱った別の事例もあります(文献は補足参照)。
Aの情報「この病気にかかると1万人あたり1286人が亡くなる」
Bの情報「この病気にかかると100人あたり24.14人が亡くなる」
Aは死亡率に直せば12.86%で、Bは24.14%ですから、Aのほうが半分低いです。それでも、このときかなり多くの人がAのほうが危険だと判断したのです。これも分母の数字(1万対100)を無視して分子(1286対24.1)の比較をしてしまった結果と考えられます。

このような心理的効果を心理学では「分母無視の法則(denominator neglect)」と呼びます。

いずれも分母を揃えないと容易に判断を誤ってしまうことになります。しかし、リスクを比較する際に、本ブログのように丁寧に分母を揃えてくれる場面はなかなかありません。おそらくニュースでは、大げさに判断してしまうような表現方法をわざと採用することが多いのではないでしょうか。ニュースを見るときはそのような「意図」を常に意識しておかないといけないようですね。

まとめ:ワクチンの有効率・副作用と分母無視の法則

確率で書くとわかりにくい例として、ワクチンの有効性95%の意味を解説しました。「95%の人はコロナにかからない」なのか「相対リスク低減効果」なのか「絶対リスク低減効果」なのかきちんと書いていないと誤解する可能性が高く、確率よりも頻度で示したほうがわかりやすくなります。また、頻度であっても分母を揃えて比較しないと、分母無視の法則が働き、分子の数字の大小だけで判断してしまう傾向があります。ワクチン接種後に死亡したなどのニュースを見る際はこの点に気をつけないとワクチンの副作用で死んだと早合点することになります。

補足

ワクチンのメリットよりもデメリットに注目が集まる要因を心理学の「特定できる被害者効果」によって説明した記事も書いています。合わせてお読みいただくと理解が深まります。

ワクチンはなぜ嫌われるのか?メリットよりもデメリットに注目が集まる心理的要因
ワクチンはなぜ嫌われるかを心理学の「特定できる被害者効果」によって説明しました。ワクチンによって救われているはずの多数の命は「単なる統計的情報」である一方、ワクチンの副反応で苦しんだ特定の個人の声のほうが心理的なインパクトが大きくなるので、メリットよりもデメリットに注目が集まりやすくなります。

本記事の分母無視の法則については、いつものネタ帳「ファストアンドスロー」下巻第30章:めったにない出来事、を参考にしています。

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分母無視の法則について、「12.86%の死亡率が24.14%よりも危険になるとき」というタイトルがズバリそのまんまの論文です:

Yamagishi (1997) When a 12.86% mortality is more dangerous than 24.14%: implications for risk communication. Applied Cognitive Psychology 11, 495-506.

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