コロナワクチンのリスクとリターン(ベネフィット)を定量的に比較する

scale リスク比較

要約

コロナワクチンについての安全性について注目されているところですが、リスクとリターンをきちんと定量的に評価して比較したものは今のところ見あたりません。そこで、分母を揃えた形でリスクとリターンを評価して比較してみました。比較は単純ではありませんが、20代と60代の比較ではリスクとリターンの関係が逆転する可能性があります。

本文:コロナワクチンのリスク・リターン関係

アメリカでは、医療従事者がワクチンを拒否しているとのニュースがあります。医療従事者の2-3割が拒否しているということで、割合としてそれなりに多いと思います(一般の人ならそのくらいは普通かもしれない)。コロナのリスクとワクチンのリスクを比べた結果、コロナになったほうがましだとのことです(以下の記事でコメントしている方は妊婦さんだったりするのでだいぶ複雑ですが)。

Los Angeles Times: Some healthcare workers refuse to take COVID-19 vaccine, even with priority access

Some healthcare workers refuse to take COVID-19 vaccine, even with priority access
Doubts about the vaccine among healthcare workers could have serious implications for public health, say experts.

米でコロナワクチン接種進まず、医療従事者の25%が接種拒否

米でコロナワクチン接種進まず、医療従事者の25%が接種拒否
米国で新型コロナウイルス感染が拡大し、医療体制が圧迫される中、連邦政府や州、地方自治体の当局者は、遅れているワクチン接種を加速させようと対策を打ち出している。

 CDCはワクチン接種を受けた人をソーシャルメディア上で称賛することや、接種を広げるためにピザパーティーを開催したり景品を渡したりすることを提案している。
 プルイットヘルスのプルイットCEOによると、同社では1万6000人の職員の半数がこれまでに接種を受けている予定だったが、実際には25%程度にとどまっている。接種に乗り気でない職員に対し、10ドル(約1040円)のギフト券や、アップルの「iPad(アイパッド)」が当たるチャンスのあるくじなどを提供。上級スタッフのほか、牧師まで駆り出して説得に当たっているという。

https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-usa-idJPL4N2JJ0IZ

これホントの話ですかね?ピザ―パーティーやくじでワクチンを打つようになるんですか(しかも一般の人じゃなくて医学の知識のある医療従事者の話でしょ?)?まあこの辺は大げさに報道しているかもしれないので話半分に聞いておくとして、実際にはコロワクチンを打った場合のリスクとリターンの関係はどのようになっているのでしょうか。

ワクチンのリスクとリターン(ベネフィット)を比べて判断すべき、と言っている人は多いのですが、その比較が数字で示されているのを見たことがありません。ほとんどが自分の気持ちや可能性、もしくは願望を示しているだけです。「コロナよりもワクチンのほうが何が起こるかわからない」というのも比較になっていませんよね。分母を無視して何が起こるかわからないのはコロナも同じですから。

そこで本記事では、コロナワクチンの有効性や副作用のことを書いた前回の記事(以下にリンクを貼ります)にならって、分母を揃えた形で定量的にリスクとリターンを比較してみます。

確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その4:ワクチンの有効率・副作用と分母無視の法則
確率で書くとわかりにくい例として「ワクチンの有効性95%」や、分母を無視して判断を誤りやすい例として「ワクチン接種後に〇〇人死亡」について解説します。確率よりも頻度で示したほうがわかりやすくなりますが、頻度であっても分母を揃えて比較しないと容易に判断を誤ります。

コロナワクチンのリターンもしくはベネフィット(コロナのリスク)

まずはワクチンのリターン、つまりワクチンを打つことによって減るコロナのリスクを評価します。ただし、ワクチンのリスクとリターンは年代によって大きく違ってくると予想されます。そこで、20代と60代で別々に計算してみましょう。また、20代では死亡リスクはほとんどないので、死亡に加えてコロナによる熱で苦しむなどの要治療となるリスクも計算します。

年代別の陽性者、その後の経過(要治療、重症、死亡など)については、東洋経済オンラインからデータを持ってきました。

新型コロナウイルス 国内感染の状況
日本国内において現在確定している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況を厚生労働省の報道発表資料からビジュアル化した

評価シナリオとして2パターン用意してみました。現状の感染者数(2021年1月19日現在)と、将来的にさらに感染が継続的に進んで国民の2割が感染するというシナリオです。2021年1月19日現在でコロナ陽性者の類型は約34万人、すなわち10万人あたり約270人です。また、2割という数字には何の根拠もありませんが、このシナリオに納得がいかなければぜひ自分でシナリオを作って計算してみるとよいでしょう。

一つ目のシナリオとして、2021年1月19日現在の状況での要治療と死亡リスクを10万人あたりの人数として以下の表に示します。

人口
(万人)
陽性者
(人)
要治療
(人)
重症
(人)
死亡
(人)
要治療リスク
人口10万人あたり
死亡リスク
人口10万人あたり
20代126369311927212730.016
60代162324823440192328272.0
2021年1月19日現在シナリオによるコロナリスク

二つ目のシナリオとして、国民の2割が感染したとという状況での要治療と死亡リスクを10万人あたりの人数として以下の表に示します。要治療者数と死者数は、現状シナリオにおける要治療者/陽性者や死者/陽性者の割合に、陽性者数(人口の2割)をかけて算出しています。

人口
(万人)
陽性者
(人)
要治療
(人)
重症
(人)
死亡
(人)
要治療リスク
人口10万人あたり
死亡リスク
人口10万人あたり
20代126325260003379137326750.58
60代16233246000575500428913546264
国民2割感染シナリオによるコロナリスク

上記にリンクを貼った前回の記事から、ワクチンの有効率95%として(95%の意味は前回の記事を参照)、上記のリスクに0.95をかけたものをワクチンによるリスク低減効果、すなわちワクチンのリターンとします。

要治療リスク低減効果
人口10万人あたり
死亡リスク低減効果
人口10万人あたり
20代2021年1月19日現在700.015
60代2021年1月19日現在261.9
20代国民2割感染25420.55
60代国民2割感染3369251

コロナワクチンのリスク

前回の記事でも紹介した治験によるワクチンの効果95%の根拠を示した論文に副作用の記載もありますので、これを参考にしていきます。

Polack et al. (2020) Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. The New England Journal of Medicine. 383:2603-2615

Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine | NEJM
Original Article from The New England Journal of Medicine — Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine

ワクチン投与者は21720人、プラセボ(偽薬)投与者は21728人です。このうち、ワクチン2回目接種後に若者(16-55歳)の16%、高齢(55歳以上)の11%に38度以上の熱が出ています。プラセボ(偽薬)接種の人たちでは全く熱が出ていないので、この熱は副作用によるものと考えられます。16%というのはかなり高い割合だと思います。熱以外にも倦怠感や頭痛、寒気、嘔吐・下痢、筋肉の痛み等の発生が報告されています。また、重度の全身性症状(詳細不明)は2%以下という結果でした。死亡例もワクチン投与(2人)とプラセボ投与(4人)の両方にありましたがワクチンとは無関係と考えられています。

ワクチンを接種した集団のリスクとして、発熱の割合で示してみましょう:
20代の熱リスク―10万人あたり16000人
60代の熱リスク―10万人あたり11000人

これとは別に、治験ではなくアメリカでの接種された189万人のうち、重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシー反応が21例で見られたという結果も報告されています(全員が回復)。つまり、10万人あたり1.1人という頻度になります。年齢は27~60歳で高齢者はいないようですが、今は医療従事者がメインでしょうから、若者と高齢者を比べるようなデータにはなっていないと思います。治験の4万人とはもう桁が違いますので、安全性についての不確実性は今後どんどん下がってくるでしょう。

CDC: Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine – United States, December 14-23, 2020

Allergic Reactions Including Anaphylaxis...
As of January 3, 2021, a total of 20,346,372 cases of coronavirus disease 2019 (COVID-19) and 349,246 associated deaths have been reported in the United States.

コロナワクチンのリスク・リターン関係

ワクチンのリスクとリターンをそれぞれ評価したところですが、単純に比較できるものではなさそうです。分母は人口10万人あたりで揃えましたが、分子はコロナの場合は要治療と死亡数で、ワクチンの場合は発熱とアナフィラキシーの数であり、症状が違っています。それでも、現時点での定量的な判断材料は大体これくらいでしょうから、これでリスク・リターン関係を考えてみます。

20代の場合のワクチンのリスク・リターン関係は以下のようになります。
ワクチンのリスク:
熱リスク―10万人あたり16000人
アナフィラキシーリスク―10万人あたり1.1人
ワクチンのリターン:
要治療リスク低減効果10万人あたり70人(現状)、2542人(国民2割感染)
死亡リスク低減効果10万人あたり0.015人(現状)、0.55人(国民2割感染)

20代ではコロナによる死亡リスクは非常に低いです。要治療のリスクはそれなりにありますが、要治療には風邪程度から中等症(酸素マスク使用など)までを含んでいるので、重篤度の評価は難しそうです。一方で、ワクチンによる発熱リスクはかなり高く、国民の2割がコロナに感染したと仮定した場合の要治療リスクよりも大きな数字になります。ワクチンによるアナフィラキシーの重篤なリスクもコロナによる死亡リスクを超えています。もちろん「コロナの要治療」と「ワクチンによる発熱」などは症状的に単純に比較できるものではありませんが、総合的に見ると「自分たちの」コロナとワクチンのリスク「のみ」を比較するならば、ワクチンを打たないほうが得なのかもしれません。

60代の場合のワクチンのリスク・リターン関係は以下のようになります。
ワクチンのリスク:
熱リスク―10万人あたり11000人
アナフィラキシーリスク―10万人あたり1.1人
ワクチンのリターン:
要治療リスク低減効果10万人あたり26人(現状)、3369人(国民2割感染)
死亡リスク低減効果10万人あたり1.9人(現状)、251人(国民2割感染)

60代ではワクチンの発熱リスクのほうがコロナの要治療リスクよりも数字は高くなっていますが、コロナはこれに加えて死亡リスクが出てきますので、これはワクチンを打ったほうが得だということになるでしょう。

このようにワクチンのリスクとリターンの関係は年代によって大きく変わってくると考えられます。若者に関しては自分たちの損得だけを考えると打たないほうが得ということになるかもしれません。もし多くの若者が打たないという選択をすると、「若者はケシカラン」、「打たない若者がこんなにいる」という報道が多数出てくることが予想されます。しかし、これは以前の記事にも書いたように逆効果となるでしょう。

「緊急事態宣言下なのに外出している奴がこんなにいる」という報道は逆効果
「緊急事態宣言なのに外出している奴がこんなにいる」という論調の報道は怒りの感情を高めるだけで逆効果となり、逆に「自粛している人がこんなにいます」という部分を強調したほうが一人一人の行動の効果を実感できるため効果的と考えられます。現状では出歩いている奴を罰したいという感情を高め、人々の分断や差別をまねく懸念があります。

一方で、「若者も重症化することもある」などと分母を無視した脅迫にも賛成しません。あなたの行動が世の中を救うという自己肯定感を高めるメッセージを出して協力をお願いすることになるでしょう。または、早く収束させないと経済が上向かずに就職などで損をする、医療がひっ迫すれば交通事故などの際に救急の受け入れ先が見つからずに治療を受けにくくなるなどの、別なリスクの上昇についての情報提供も必要ではないでしょうか。

まとめ:コロナワクチンのリスク・リターン関係

コロナワクチンのリスクとリターンを評価してその関係を比較してみました。リスクを表す際の分母は揃えましたが、分子のほうは症状がそれぞれ異なるため単純な比較はできませんでした。ただし年代別に見ると、20代と60代の比較ではリスクとリターンの関係が逆転するかもしれません(20代では死亡リスクが低くワクチンのリターンが少ない)。社会全体としての感染対策のために、どのように若い人にワクチンを普及させるかが課題となるでしょう。

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