珪藻土に混入したアスベストは危険なのか?その2:リスクを計算して比較する

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要約

珪藻土バスマット中のアスベストは危険なのかどうかを判断するために発がんリスクを評価しました。ヤスリで削ったり割ってしまった場合でも、もともと存在する自然由来のアスベストの吸入量と比べて一桁以上低くなり、発がんリスクも懸念レベルにないと判断されました。

本文:珪藻土に混入したアスベスト問題2:アスベストのリスク評価

2020年12月に、ホームセンターのカインズやニトリなどで販売された珪藻土のバスマットやコースターから基準値を超えるアスベストが検出されたとの発表が相次ぎ、メーカーなどによる自主回収が発表されました。

前回の記事では、基準値0.1%はリスクベースではなく、実行可能性や分析法の限界によって決まっていることを書きました。つまり、基準値を超えているから危険という判断はできません。また、現在どのような情報提供が必要になるのか、ソーシャルリスニングの手法を用いて情報ニーズを整理しました。

珪藻土製品に混入したアスベストは危険なのか?その1:基準値の根拠と情報ニーズ
珪藻土製品に基準値を超えるアスベストが検出された問題について調べたところ、基準値0.1%はリスクベースではなく、実行可能性や分析法の限界によって決まっていることが推察されました。つまり、基準値を超えているから危険という判断はできません。また、現在どのような情報提供が必要になるのか、ソーシャルリスニングの手法を用いて情報ニーズを整理しました。

本記事では、前回の続きとしてアスベストの発がんリスクを計算し、その危険性を判断してみます。まず、比較対象となる自然由来(バックグラウンド)のアスベストによるリスクを計算し、次にバスマットをヤスリで削ってしまった場合や割ってしまった場合のリスクと比較を行う、という順序で書いていきます。

アスベストのバックグラウンド(自然由来)リスク

アスベストは天然鉱物が繊維状に変形したもので、極めて安定で強度も高いことから有用な材料として活用されてきました。ところが、アスベストの繊維を長年吸引することで、肺がんや中皮腫と呼ばれる肺の病気の原因となることがわかってきました。

もともと天然由来のものですから、昔はゼロであったわけではなく、微量は存在してきたはずです。まずはこのバックグラウンド(自然由来)リスクがどの程度かを計算し、それと同程度以下であればリスクの懸念材料にはならないだろうという判断をします。

早速、環境省が行っているアスベスト大気中濃度のモニタリング結果を見てみましょう。解体現場などの発生源周辺地域と発生源の影響を受けない住宅地域や、山間・離島などのバックグラウンド地域でモニタリングを行っています。令和元年度(2019年)の調査では、バックグラウンド地域の濃度は<0.056~0.33本/Lとなっていました。2005年からの継続的な濃度推移を見ても、0.1~0.3本/L程度であることがわかります。

環境省:令和元年度アスベスト大気濃度調査結果について

環境省_令和元年度アスベスト大気濃度調査結果について
環境省では、アスベストによる大気汚染の状況を把握し、今後のアスベスト飛散防止を検討するための基礎資料とするとともに、国民に対し情報提供するため、平成17年度から毎年、大気中のアスベスト濃度を調査しています。今般、令和元年度の調査結果を取りまとめましたので、お知らせします。令和元年度は全国39地点で測定しました。多くの地...

ただよく見ると、0.1%以下という規制が始まった2006年から、バックグラウンド地域においても濃度が減少傾向であることもわかります(分析法の変化による可能性もある)。発生源付近ではもっと劇的に下がっていますので、規制の効果は大きかったのでしょう。

だいたい自然由来のアスベストが0.2本/Lだったとして、次に0.2本/Lのアスベストを長期に吸い続けた場合のリスクを計算します。

アスベストは発がん性物質なので、大気中濃度にユニットリスクをかけることで生涯における発がん死のリスクを計算できます。線形仮定を用いて低用量の曝露におけるリスクを外挿して計算する方法で、化学物質の発がんリスク評価でも一般的に使われています。このユニットリスクはおおむね1本/Lあたり2×10-4になります(詳しくは補足)。
0.2×2×10-4 = 4×10-5
により、生涯発がん死のリスクは10万人に4人という計算になります。発がん性を持つ化学物質のリスク管理のおおまかな目安となる10万人に1人を超えていることになります。自然由来のもの(ヒ素とか)は、アスベストに限らず10万人に1人というレベルで管理しきれないものは結構あるものです。ともかくここではこのリスクを比較対象と考えます。

また、バックグラウンドレベルのアスベストを長期間吸い込んだ際のアスベストの吸入本数も計算しておきましょう。1日に15m3(15000L)の空気を吸い込むので、50年間吸い続けたときに
0.2(本/L)×15000(L/日)×365(日/年)×50(年) = 5.5×107
程度のアスベストを吸うことになります。これと同程度であれば大きな影響はなさそうと判断することにしましょう。

バスマットをヤスリで削ったときのリスク

長年吸い込んだときのリスクと短期間の吸入のリスクはおそらく違いますが、ここではとりあえず同列にして計算します。このような問題は、原爆のような単回の曝露による影響評価から、原発事故後のような少量・長期間の曝露におけるリスク評価に外挿する際にも同じように起こります。

ヤスリでバスマットを削った場合の吸入量の想定はなかなか難しいのですが、せいぜい削る量は1g程度で、そのうち1%程度を吸入する、というのが安全側な量と考えます(ここはかなりざっくりです)。ということで吸入する粉塵の量は10mgとします。

また、実際には削った粉塵は肺まで到達しない大きな粒子を含んでいますが、ここではすべて肺に到達するような細かい粒径であるとします(補足参照)。これも最大限安全側に偏った仮定です。

さらに、今回のバスマットなど製品中のアスベスト含有量は0.2%から1.5%という情報があり、とりあえず最大の1.5%とします(基準値0.1%の15倍)。ということで、吸入するアスベストの量は粉塵10mgに1.5%をかけて150μgとします。

アジアプレスネットワーク:<速報>ニトリ販売のバスマットから基準15倍のアスベスト検出

<速報>ニトリ販売のバスマットから基準15倍のアスベスト検出
355万個超の自主回収が公表されたニトリの珪藻土バスマットなどの製品から最大で基準の15倍に当たるアスベスト(石綿)を検出していたことが明らかになった。

ところで、アスベストのリスクは繊維の本数をベースに評価しましたが、150μgというのは重量なので、これを繊維数に換算する必要があります。この辺が化学物質のリスク評価と少し違うところでしょうか。厚生労働省のアスベスト分析マニュアルでクリソタイル(白石綿)1本の重量は0.9×10-4μgという記載があったので、この数字を使います。

アスベスト分析マニュアル – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000201490.pdf
(56ページに「2μmφのクリソタイル繊維で長さ10μmの重量は約0.9×10(-4)μg(1x1x3.14x10x3(密度)x10(-12))g となる」とある)

吸入するアスベストの量150μgを繊維数に換算すると
150(μg)/0.9×10-4(μg/本) = 1.7×106
となり、これはもともとバックグラウンドで生涯で吸い込む量5.5×107本に比べて1/30程度であり、影響が出るとは考えにくいと判断できます。発がん死のリスクにすると、1×10-6(10万人あたり0.1人)程度です。

バスマットを割ってしまったときのリスク

それではバスマットを割ってしまった場合はどうでしょうか?割ってしまった場合はより広範囲に飛散するかもしれません。以下の資料を読むと、以前使われていたアスベスト含有のケイカル板(ケイ酸カルシウム板)を折った場合に作業場のアスベスト濃度は8本/Lになるという数字が出ており、類似のシナリオになりそうです。これは混入ではなく意図的に含めたものであり、その量は今回問題となった製品よりは高いと想定されます。よって、これも安全側の数字と考えてよさそうです。

石綿濃度とばく露量
https://www.jaish.gr.jp/information/mhlw/sekimen/p90_99.pdf

さて、8本/Lのアスベストを1日吸い込んだとすると
8(本/L)×15000(L/日) = 1.2×105本/日
となり、これでもバックグラウンドで生涯で吸い込む量5.5×107本に比べて二桁少ないので、影響が出るとは考えにくいと判断できます。発がん死のリスクにすると、9×10-8(10万人あたり0.009人)です。

バスマットを削った場合と割った場合で、全体的にかなり安全側仮定(吸入量、粒径分布、含有量、線形仮定の低用量外挿)をおいて計算しましたが、それでも心配するようなリスクの大きさではなさそうです。

まとめ:珪藻土に混入したアスベスト問題2:アスベストのリスク評価

珪藻土バスマット中のアスベストは危険なのかどうかを判断するために発がんリスクを評価しました。バスマットをヤスリで削ったり、割ってしまった場合でも、もともと存在する自然由来のアスベストの長期的な吸入量と比べて一桁以上低い吸入量となり、発がん死のリスクも10-7~10-6のオーダーと非常に低い数字となりました。単回の曝露であればリスクの懸念はほぼないと判断できるでしょう。

もちろんわざわざよけいに吸う必要もないので、該当する製品は削ったり割ったりする前に使用をやめて返品したほうがよいでしょう。そのまま捨てちゃうのは廃棄物処理業者に迷惑がかかります。

補足

アスベストのユニットリスクについては以下の二つの資料を参考にしました。1f/Lと1本/Lは同じ単位です。

1.2012年8月27日 環境省 石綿飛散防止専門委員会資料(村山武彦)
https://www.env.go.jp/council/former2013/07air/y0711-04/mat03.pdf


・USEPAのIRIS (Integrated Risk Info System)におけるユニットリスク(1993, last revised)
― 1[f/mL]→2.3×10-1
― 0.1[f/L]→2.3×10-5

・ WHO, Regional Office for Europe (2000)
― 0.1[f/L]→ 4(3.0~5.9)×10-5 喫煙者
 2.2(1.2~4.1)×10-5 非喫煙者

2.寺園淳 (2018) アスベストによる環境リスクとこれからの課題. 保健医療科学/67巻3号 268-281

アスベストによる環境リスクとこれからの課題
J-STAGE

前述のようなモデルを用いて,肺がんと中皮腫による生涯の健康リスクについて,アスベスト濃度1f/Lあたりのユニットリスクを求めることが可能となる.例えば,村山は男性の中皮腫の生涯死亡率はl.7×10-4程度という値を得ている[20].寺園[19]も同様の計算によって肺がんと中皮腫の合計で2.2×10-4という数値を得ており,一生涯を通じて1万人に2人程度がアスベスト汚染により死亡するということになる.この値は近年,生涯リスクの判断の目安として用いられる実質的安全容量(VSD:Virtually Safety Dose)で判断基準になりつつある10-5レベルを超える値となっている[20].

いずれのユニットリスクも1本/Lあたり2×10-4程度となっています(喫煙者はもう少し高い)。

また、粒径分布について、本記事でのリスク評価ではすべて肺に到達するような細かい粒径であると仮定しました。
環境省による粒子状物質の特性について
https://www.env.go.jp/council/former2013/07air/y078-02/mat02-1.pdf
という資料を参考とすると、削るなどの機械的生成による大気粒子の粒径は5~30μmにピークを持つ分布をとります。肺に到達する粒径を5μm以下とすると、粒子の半分くらいの割合になります。

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