珪藻土製品に混入したアスベストは危険なのか?その1:基準値の根拠と情報ニーズ

coaster 基準値問題

要約

珪藻土製品に基準値を超えるアスベストが検出された問題について調べたところ、基準値0.1%はリスクベースではなく、実行可能性や分析法の限界によって決まっていることが推察されました。つまり、基準値を超えているから危険という判断はできません。また、現在どのような情報提供が必要になるのか、ソーシャルリスニングの手法を用いて情報ニーズを整理しました。

本文:珪藻土製品に混入したアスベスト問題1:基準値の根拠と情報ニーズ

知人から、アスベストが混入されたと報道されている珪藻土マットを持っていて、ヤスリで削ったりしたけどアスベストは大丈夫か、と聞かれたのでリスクを調べてみることにしました。

2020年12月に、ホームセンターのカインズやニトリで販売された珪藻土のバスマットやコースターから基準値を超えるアスベストが検出されたとの発表が相次ぎ、メーカーなどによる自主回収が発表されました。

厚生労働省:石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について

石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について

また自治体からは、該当製品はメーカーの回収に従いごみには出さないようにとの注意喚起もあります。

横浜市:石綿(アスベスト)を含有する珪藻土製品について

石綿(アスベスト)を含有する珪藻土製品について

さて、アスベストが少し混入しているからといっても、ただ使っているだけではそこからアスベストがどんどん出てくるというわけではありません。今回大きく注目を集めたポイントは、バスマットの吸水効果を復活させるためにヤスリが付属しており、使用者が自分で表面を削り取るような製品となっていたことです。

朝日新聞デジタル:ニトリとカインズ「削らないで」バスマットにヤスリ付属

ニトリとカインズ「削らないで」バスマットにヤスリ付属:朝日新聞デジタル
 健康被害の恐れがあるアスベストが含まれていた珪藻土(けいそうど)製バスマットの自主回収を始めた家具大手ニトリが、手入れ用ヤスリを付けて販売していたとして、削るとアスベストが飛散する可能性があるため「…

削り取ればやはり周辺に飛散しますので、すでに削ってしまった人はやはり不安になるでしょう。本記事では、アスベストの基準値超過とリスクがどのような関係にあるのかを調べた結果を書きます。さらに、このような状況下でどのような情報提供が求められているのかをソーシャルリスニングの手法を整理していきます。

アスベストの規制と基準値0.1%の根拠

まず、今回の問題は、アスベストが基準値を超えて検出されたというところから始まっています。基準値といえば本ブログの中心的なテーマの一つですので、調べないわけにはいきません。

基準値問題
「基準値問題」の記事一覧です。

まず、アスベストの含有率による規制は次の3段階で規制強化されてきました:
1975年:労働安全衛生法に基づく規定「労働基準法特定化学物質等障害予防規則」によって、アスベストを5%以上含む製品等の吹き付け作業が原則禁止
1995年:5%が1%に下げられ規制強化
2006年:労働安全衛生法施行令、石綿障害予防規則(労働基準法特定化学物質等障害予防規則から切り替え)によってアスベスト0.1%以上含む製品の製造・輸入・使用が禁止

2006年の規制強化の背景には、その前年2005年に起きたクボタショックと呼ばれる工場周辺住民に中皮種患者が出ていることが、大きく報道で取り上げられたことがあります。

この0.1%というのは、建築基準法でも廃棄物処理法でも同じ数字が使われています。ただ、なぜ0.1%かという決定的な根拠は見つかりませんでした。最初の規制は5%、次に1%、そして現在は0.1%と段階的に下げられてきた経緯から、リスクベースで決められたものではなく、実行可能性をベースに決まったのではないかと想像します。

リスクベースでいきなりものすごく厳しい基準を作ったとしても、誰も守れない基準であれば意味がありません。脱アスベスト技術の進展とともに実行可能な数字として下げられてきたと考えるのが自然ではないでしょうか。数字そのものは海外でこうだからとか、そんな理由があるあるですね。特に0.1%は輸入禁止の基準値でもあるので、海外との整合性は取られているのではないでしょうか(アスベストの海外規制は調べてませんが)。

さらに、分析可能な下限値も考慮されているようです。例えば0.01%にすると現在の分析法では分析できないので、守られているかどうかの確認が不可能になります。これも分析法の詳細を調べたわけではありませんが、2006年6月26日に開催された第25回労働政策審議会安全衛生分科会の議事録には以下のような記載があります。


現在の1%というのは、平成7年の改正によりまして、従来の5%から現在の1%に拡大をされたところです。ご承知のとおり、石綿は肺がんや中皮腫といった重度の健康障害を生ずる物で、現に多数の健康障害が発生している状況にあります。そういう観点から、できるだけすそ切り値につきましても低い値を設定するということが、望ましいと考えられますが、現在の測定技術をもってすれば、石綿を確かな精度で測定できる水準は、0.1%程度だろうということから、今回すそ切り値を1から0.1%にさせていただきたいということです。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/txt/s0626-1.txt

このような分析法ベースで基準値が決まっているというのも結構あるあるです。

ちなみに、この基準値は法律的に考えて、建築作業員や労働者、廃棄物処理業者など労働者全般の安全を守るための基準であって、今回のバスマットなど家庭用品の使用時に使用者の安全を守る目的の基準値ではなさそう、という点も注目しておく必要があるかと思います。

すなわち、基準値の0.1%を超えた製品を使用しているからといって何らかのリスクがあるとは限りません。ではどの程度危険なのか、についてはリスク評価によって判断する必要があります。

珪藻土のアスベスト問題についてどのような情報が世の中から求められているか?

基準値超過問題は化学物質では定期的に発生するものですが、アスベストは珍しい事例です。リスクコミュニケーションの問題として、このような場面でどのような情報提供が必要なのかを考えてみます。

こういう場面ですぐにできる方法がソーシャルリスニングです。どのような情報提供が必要かはすでにみんなが書いてくれているのです。本ブログで「リスク」について定期的に行っていることです。 

SNS定点観測
「SNS定点観測」の記事一覧です。

特に今回はYAHOO!知恵袋から情報を得てみましょう。ツイッターやGoogleトレンドもやってみましたがあまり役立ちそうな結果が得られませんでした。2020年12月の期間内で「珪藻土」を含む質問のうち、閲覧数が多かったトップ10を抽出して要約しました。

順位要約
1回収対象になったら向こうから連絡が来るのか?
2バスマットをヤスリで削ってしまったが、肺疾患になる確率はあるのか?ニュースを見て不安で眠れない。
3ニトリの珪藻土バスマットは安全か?中国製か?
4バスマットのアスベストによる危険度はどのくらいか?ゴミ袋を二重にして保管しろと書かれると、かなり危険な物のように思えてくるので怖い。
5ソイルという商品は大丈夫か?
6バスマットのアスベストによる危険度はどのくらいか?割ってしまってそのまましばらく置いといたが、その時肺が痛かったので心配。
7ダイソーの珪藻土マットは大丈夫か?
8ニトリ・カインズ以外の珪藻土商品は大丈夫か?
9珪藻土のバスマットやコースターを持っているか、どこで買ったかわからなくても回収してもらえるか?
10バスマットをヤスリで削ってしまったが大丈夫か?レシートがなくても回収してもらえるか?

回収方法(連絡が来るのを待つのか?、どこで買ったか覚えていなくても大丈夫か?、レシートがなくても大丈夫か?)、類似の商品は大丈夫か?、ヤスリで削ったり割ったりした場合のリスクはどのくらいか?などの情報にニーズがあることが整理できますね。

こういう情報を素早く正確に流すことがリスクコミュニケーションでは重要でしょう。よくリスコミでは「気持ちに寄り添う」とか「共感を呼ぶメッセージを」などのことが言われますが、そのような技術的なこと以前に、そもそも何をコミュニケーションするかという内容が第一です。リスクがどれくらいかにニーズがあるのにリスク評価をせずに共感ばかりしていてもしょうがないのです。
(もちろん不安で眠れないとか肺が痛かったので心配などの不安な感情も示されているので、そういう不安には寄り添うことも必要です)

このように、みんなが欲している情報は何かをリサーチする事例を示してみました。そのための手法として、YAHOO!知恵袋などを活用するソーシャルリスニングの有用性が見えてきます。

珪藻土のアスベスト問題について(自分だったら)どんな情報が欲しいか

基準値の根拠については完全とはいきませんがだいぶわかってきました。実行可能性や分析法がベースになっていると思われますが、結局のところ基準値とリスクの関係については全く情報が得られませんでした。これはかなり消化不良なところです。つまり、基準値を超えたということが何を意味するのか、についての情報が欲しいです。

ところで、化学物質の基準値超過事例はニュースなどの見出しに「基準値の〇〇倍!」となることが多いのですが、今回はそれがありません。これがわからないとリスク評価ができません。アスベストの含有量の情報もやはり欲しいところです。

また、珪藻土そのものにはアスベストは含まれておらず、強度を出すために意図的に混入されたものであると言われています。そうすると、アスベストが含まれていないと言われている商品は、何か別なものを混ぜて強度を出しているのか、それともアスベストを基準値以内で混ぜて強度を出しているのか、どちらなのか?ということが気になります。アスベストの分析結果はある・なしではなく、量で示して欲しいです。

だたこれも分析法との兼ね合いがあり、0.1%を超えるかどうかの定性分析がまず行われ、定量分析は必ずしも必要ないとのことです。この辺が化学物質の分析とは状況が違うようですね。

さて、いよいよ珪藻土バスマットのアスベストによるリスク評価を行ってみたいと思いますが、ここまでであまりに長くなってしまったので次回書くことにします。

(2021年1月7日追記)
今回のバスマットなど製品中のアスベスト含有量は0.2%から1.5%という情報が出てきました。

アジアプレスネットワーク:<速報>ニトリ販売のバスマットから基準15倍のアスベスト検出

<速報>ニトリ販売のバスマットから基準15倍のアスベスト検出
355万個超の自主回収が公表されたニトリの珪藻土バスマットなどの製品から最大で基準の15倍に当たるアスベスト(石綿)を検出していたことが明らかになった。

まとめ:珪藻土製品に混入したアスベスト問題1:基準値の根拠と情報ニーズ

珪藻土製品に混入したアスベスト問題について、まずはアスベスト濃度の基準値0.1%の根拠を調べました。その結果、実行可能性や分析法の限界によって決まっていることが推察されました。次に、このような問題が起こった際にどのような情報提供が必要になるのか、ソーシャルリスニングの手法を用いて情報ニーズを整理しました。その結果、回収方法、類似の商品は大丈夫か?、ヤスリで削ったり割ったりした場合のリスクはどのくらいか?などの情報にニーズがあることがわかりました。自分としては基準値超過とリスクの関係、回収製品のアスベスト濃度等の情報が欲しいと思います。

次回は珪藻土バスマットのアスベストによるリスク評価を行います。

珪藻土に混入したアスベストは危険なのか?その2:リスクを計算して比較する
珪藻土バスマット中のアスベストは危険なのかどうかを判断するために発がんリスクを評価しました。ヤスリで削ったり割ってしまった場合でも、もともと存在する自然由来のアスベストの吸入量と比べて二桁以上低くなり、発がんリスクも懸念レベルにないと判断されました。

補足

以下のサイトでは、アスベストの法規制をはじめ様々な情報が良くまとまっています。

国土交通省:アスベスト対策Q&A Q14アスベストに関する法的規制はどのようなものがありますか。

アスベスト対策Q&A - 国土交通省

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