要約
ロシアのウクライナ侵攻下における日本でのリスクと情報ニーズについて、TwitterやGoogle検索履歴、YAHOO!知恵袋を用いて調査しました。日本での注目点は(1)物価上昇などの直接的影響、(2)なにか自分にできることはないか?、(3)戦争に至った経緯を知りたい、という3つポイントに絞ることができます。
本文:ウクライナ情勢での日本のリスク
本ブログでも紹介した世界経済フォーラムによる「グローバルリスク報告書2022」では、「地政学的対立」が中期(2-5年)、長期(5-10年)、深刻度の3つのランキングで10位以内に入りました。
そして2022年2月24日にロシアはウクライナへ侵攻を開始し、まさしく「グローバルリスク」である地政学リスクが顕在化してしまいました。侵攻開始後の時系列の情勢については以下のサイトがまとまっています。
産経新聞:時系列でみるウクライナ侵攻
私はこのような地政学リスクに関しては素人なので解説などできませんが、注目されているリスクに関する人々の声を拾うことは本ブログで定期的に取り組んできました。リスクのトレンドをウォッチングするために、Google検索履歴やTwitter、YAHOO!知恵袋などを対象としてソーシャルリスニングを行い、今人々がどんなリスクに注目していたり不安を持っていたりするかを調査しています。
そこで本記事では、ウクライナ情勢に関するリスクについてソーシャルリスニングを行い、どのようなリスクが注目されているか、何に不安を感じているか、どのような情報ニーズがあるか、についてまとめます。最後にそのような状況下で日本政府はどのような情報提供をしているのか、の対比を行います。
注意点:情勢は現在進行形で日々変化しますが、2022年3月2日までの情報に基づいて書いています。また、日本語の解析ですので当然ながら日本人目線での話になります。
ウクライナ情勢に関するリスク
まずはTwitterの解析から始めます。2022年3月2日から一週間ほどさかのぼって、その間につぶやかれた「ウクライナ」と「リスク」を両方含む7700ツイートを収集しました。そして、ツイート中(ノイズを取り除くため、いいねの数>10のツイートに限定)に登場する単語の頻度ランキングを以下のようにワードクラウドにまとめました(ウクライナ ロシア リスクの3単語を除く)。
株、投資、経済、市場、下落、ドル、円、相場、インフレ、ダウ、金融、原油、金利、通貨など、投資や経済に関するワードが非常に多いことがわかります。株式市場の値下がりがウクライナ情勢の主要な「リスク」と捉えられていることがわかります。直接自分たちの命がかかっているわけではないですから、このような反応になるのかなと思われます。
以上は単語の登場頻度による解析でしたが、これとは別に実際のツイートの内容からリスク要因の洗い出しをしてみると以下のようになります。
・情報公開のリスク
・ウクライナ在留邦人の退避
・原発の管理(チェルノブイリほか)
・ロシアによる核兵器の使用
・ウクライナから退避する難民の大量発生
・エネルギー供給の不安定化
・台湾や沖縄の有事への飛び火
・投資リスク
・(戦地での)コロナ感染拡大
情報公開のリスクとは、日本大使館の機能がどこどこに移ったとか、邦人退避のルートなどを政府が公開するとそこが狙われる可能性がある、という意味のことです。ウクライナの原発と言えばチェルノブイリですが、他にも稼働中の原発が結構多いようですね。あとは説明不要かと思います。
ついでに、日本人はウクライナ情勢の何に不安を感じているのか、ということも解析してみました。先ほどと同様に、「ウクライナ」「不安」を含む7700ツイートと「ウクライナ」「心配」を含む17100ツイートを収集し、同様に解析しました。
「ウクライナ」「不安」のワードクラウドは以下のようになります。先ほどのリスクの解析のように具体的な不安要因があるというよりは、ニュースを見て漠然と戦争が始まったことへの不安を感じている人が多いことが想像されます。実際にツイートの内容を眺めてもそのように感じます。加えて、実際にウクライナにいる人のツイートがいいねの数で上位に入っていました。これについては漠然とした不安というよりは命の危険が迫っている緊迫感に満ち溢れています。
続いて「ウクライナ」「心配」のワードクラウドは以下のようになります。ウクライナにいる家族、友人、知人が心配、みたいな話が多いと思われます。あとは戦争開始を嘆くなど漠然とした心配が多いという印象でした。
ウクライナ情勢に関する情報ニーズ
次に、Google TrendsやYAHOO知恵袋を使って人々がどのような情報を求めているのかについて調べていきます。
Google検索履歴を調べるGoogle Trendsを用いて、2022年3月2日から1週間さかのぼり「ウクライナ」とともにどんなキーワードが検索されているかを調べ、関連キーワードの注目度(検索数が増えたもの)トップ25を抜き出しました。この25のキーワードを内容でまとめると以下の表のようになります。
キーワード | ランクインした数 |
寄付 | 13 |
志願兵 | 5 |
情勢 | 3 |
理由 | 2 |
その他 | 2 |
寄付に関する検索キーワードが圧倒的に多いという結果になりました。なにか自分にできる支援はないかと考えている人が多く、どうやって寄付すればいいのかという検索に現れた結果と言えますね。在日ウクライナ大使館が寄付を募っていますが、他にも国連の難民支援機関・UNHCRやユニセフなどいくつかの寄付先があるようです。
寄付の次には志願兵に関する検索キーワードが多かったです。これはかなり意外でしたね。これも在日ウクライナ大使館が志願兵を募っているわけですが、日本から行きたいと考える人が想像以上に多いのかもしれません。そして法律上の問題(兵隊として戦争に参加すること(そしてロシア兵を殺すこと)が法律上許されるのかどうか)を知りたいという需要があるようです。
それ以外にはウクライナ情勢を知るための検索、なぜ戦争になったのかの理由を知るための検索などがありました。
YAHOO知恵袋では、2022年3月2日から1週間さかのぼり「ウクライナ」を含む質問のうち、閲覧数が多かったトップ30を抽出しました。そして質問内容を分類して以下の表にまとめました。
質問内容 | ランクインした数 |
戦争になった理由 | 20 |
どっちが悪いのか | 5 |
2国間以外の関係 | 2 |
その他 | 3 |
トップ30のうち20の質問は、なぜロシアがウクライナに侵攻したのかの理由を問うものでした。とにかくわかりやすく教えてくれという質問文が多く、回答ではウクライナはロシアの元カノであり、ウクライナの今カレがNATO、元カノとよりを戻したいロシアがNATOからウクライナを取り戻すため、という例え話が多いですね。
次に多いのはロシアとウクライナとどっちが悪いのかという質問で、その次にはロシア-ウクライナ以外の国との関係を尋ねる質問でした。
その他の中には志願兵に関するものもありました。ウクライナに戦いに行きたいという相談者に対して多数の回答者が反対しているという構図となっています。これも広い意味での「なにか自分にできることはないか」系の話だと思います
日本政府はどのようなリスク対策・情報提供をしているのか?
ここまでで(日本人にとっての)リスクの洗い出しや情報ニーズの整理を行いました。それではこのような結果と比較して、日本政府はどのような取り組みや情報提供をしているか、を整理してみます。
(2022年3月2日までの情報です)
首相官邸:ウクライナ情勢に関する対応について
特に以下の首相会見ではいろいろな話題が取り上げられています。日本の取り組みは以下のとおりです。
・ロシアへの経済制裁
・ウクライナ在留邦人の安全確保
・G7をはじめとする国際社会との連携による外交
・経済への悪影響に対する取り組み(原油などエネルギーの安定供給・価格上昇の抑制、貿易保険)
首相官邸:令和4年2月25日 岸田内閣総理大臣記者会見
外務省では林外相の会見で以下のような言及があります。志願兵だろうが何だろうがウクライナには渡航するなというのが政府の姿勢です。
・ロシアによる国際法違反への非難
・ロシアへの経済制裁
・邦人保護
・G7との連携
・人道支援
・外国人部隊
外務省:ウクライナ情勢に関する対応
リスク対策という面では、在留邦人の安全確保と人道支援(難民支援も含まれる)、経済影響については原油価格抑制に関する言及があるだけです。
情報提供については、「情報公開のリスク」ということが言われているように、情報を出せないことがたくさんありますね。現在の情勢や戦況の詳細に関する発表は一切無いようです。もちろん西側の戦略を相手側に漏らすようなことがあってはなりません。
日本はロシアとは敵対し、ウクライナ側についているという姿勢は明確です。G7との連携を強調しており、逆に言えば日本は独自にはなにも考えてないような印象もあります。
最も情報ニーズの高い「日本人としてなにかできることはないか?」についての情報は全くありません。真偽不明の情報を拡散するな、みたいな話はあっても良いように思います。寄付についても日本による寄付のとりまとめみたいな話は特に無いようです。
ということでまとめると、全般的に政府から国民に対するリスクコミュニケーション(有事なのでクライシスコミュニケーション)を積極的に行う姿勢は感じられません。コロナ禍でリスコミリスコミとさんざん騒いできたのにまた振り出しに戻ってしまうのでしょうか?
まとめ:ウクライナ情勢での日本のリスク
ロシアによるウクライナ侵攻について、日本で注目されていることは「物価上昇などの直接的影響」、「なにか自分にできることはないか?」、「戦争に至った経緯を知りたい」という3つにまとめられました。私がこんな記事を書いているのも、リスクの専門家と自称しつつも地政学リスクについては素人である自分がなにかできることはないか、と考えた結果かもしれません。
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