「若者でもコロナで重症化することがある、死ぬ可能性はゼロではない」という論法はなぜダメなのか?

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要約

医療関係者がよく使う「若者でもコロナで死ぬ可能性はゼロではない(だからもっとコロナを怖がろう)」という論法は、反ワクチンなどが使う「ワクチンで死ぬ可能性はゼロではない(だからもっとワクチンを怖がろう)」という論法と全く同じであり、分母無視の法則の悪用例です。

本文:「若者でもコロナで死ぬ可能性はゼロではない」はなぜダメか?

若者でもコロナで重症化することがある
死ぬ可能性はゼロではない

わかりました!もっとコロナを怖がります!

ワクチンで心筋炎になることがある
ワクチンで死ぬ可能性はゼロではない

わかりました!もっとワクチンを怖がります!

2022年2月16日に、10代後半の男性(基礎疾患なし、ワクチン2回接種済)がコロナのため死亡したとのニュースがありました。コロナによる医療ひっ迫の影響で救急搬送の受け入れが困難な状況もあり、適切な対処が遅れたことも要因になるでしょう。

首都圏 NEWS WEB:新型コロナ感染10代男性が死亡 基礎疾患なし さいたま

新型コロナ感染の10代男性が死亡 基礎疾患なし さいたま | NHKニュース
【NHK】さいたま市は新型コロナウイルスに感染した市内に住む10代後半の男性が死亡したと発表しました。男性に基礎疾患はないというこ…

このようなニュースを見ると、コロナ対策の目的は感染者数の低減よりも医療ひっ迫を防ぐことにある、ということを再確認できます。

これに対して、特に医療関係者からの「若者でも重症化することがある」、「死ぬ可能性はゼロではない」(だからもっとコロナを怖がろう!)的な意見が目立ちます。「若者でも重症化することがある」という言い方は本当に良くないなと前々から気になっていましたが、改めてマズイ表現だと思いました。

市民(特に若者)はコロナ慣れでたるんでいるから、もっともっと恐怖感を与えて活動を自粛させよう、という気持ちが表れているようです。しかしながらこのような表現は反ワクチンなどが使う論法と同じなのですね。

「ワクチンで心筋炎になったり後遺症が出たりすることがある」、「ワクチンで死ぬ可能性はゼロではない」(だからもっとワクチンを怖がろう!)、というメッセージは全く同じ論法です。これらの表現は決して「デマ」ではありません。可能性はゼロではないですし、そもそもゼロであることを証明することは困難です。

このような論法は「分母無視の法則」を悪用したものです。わざわざ医療関係者が使うべき論法ではありません。本記事では、この分母無視の法則を本ブログの過去記事からおさらいし、なぜこの分母無視の法則の利用がマズイのかを説明します。最後に実際の10代のコロナ死亡リスクを計算してみます。

分母無視の法則のおさらい

分母無視の法則について本ブログの過去記事から復習してみます。

確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その4:ワクチンの有効率・副作用と分母無視の法則
確率で書くとわかりにくい例として「ワクチンの有効性95%」や、分母を無視して判断を誤りやすい例として「ワクチン接種後に〇〇人死亡」について解説します。確率よりも頻度で示したほうがわかりやすくなりますが、頻度であっても分母を揃えて比較しないと容易に判断を誤ります。

分母無視の法則とは、分母の数字を無視して分子の数字だけで判断してしまう傾向のことです。ある要因で死者が10人出た人口10万人の都市Aと、同じ要因で死者が100人出た人口1000万人の都市Bでは、人口あたりの死者数は都市Bのほうが一ケタ少ないですが、都市Bのほうがなんだか危険と感じてしまいがちです。

さらに、分母を(ときには意図的に)隠してしまうと、死者10人の都市Aと、死者100人の都市Bの比較では完全に都市Bのほうが危険と判断されてしまいます。

このように、何かを比較する際は分母を揃えないと容易に判断を間違ってしまいます

ワクチンの有効性についても「コロナワクチンの効果95%」などという数字ばかりが一人歩きしますが、この確率の分母が何で分子が何かを明示してくれないことが多いので、その意味を正しく理解することが困難です。

さらに、コロナワクチンの接種開始には「ワクチン接種後に〇〇人死亡」などのニュースもよく出てきました。これについても、普段その集団が一定期間にどのくらい死者が出るかという数字を分母にし、コロナワクチン接種後の同期間の死者数を分子にすることで、初めてワクチンの影響の判断に役立ちます。ここで分母の数字を(多くの場合意図的に)隠してしまうとワクチンへの恐怖を煽ることになります。

つまり、分母を意図的に隠すという論法は正しい理解を妨げることになります。ではなぜ医療関係者が10代死亡のニュースでこのような誤解を招きやすい論法を使うのでしょうか。彼らは目的(コロナを鎮静化させる)のためなら手段は正当化される(印象操作で洗脳しても良い)と考えているようなのです。このような考え方は過去記事でも紹介しています。

トンデモ科学を撲滅せねば!と憤慨したときに考えるべきことその2:自分以外はダマされやすいと考える第三者効果
デマやトンデモ科学と戦う際に気をつけたいのが「自分はダマされないが他の人は簡単にダマされる」というバイアスが働く「第三者効果」です。専門的知識のある人、デマの嫌いな人、自分に自信のある人ほどこのような効果が高まり、デマの影響を過大視してしまいます。

分母無視の法則を使ったメッセージが効果的ならそれで問題ないのでは?

このような誤解を招く論法を使っても、それで若者に恐怖心を植え付けて、意識や行動が変わるならばそれで良いのではないか?という考えも当然あると思います。ただし、私は長期的に見てマイナスの影響のほうが大きいのではと考えています。この理由として2点考えるべきことがあります。

1点目は、一般市民(特に若者)はバカだからダマしても良い、という考えがベースにあることです。リスクコミュニケーションの目的は相互理解・信頼関係の醸成であって洗脳することではないので、このような考えが透けてしまうと目的は達成できません。そしてこういう態度は往々にして相手にも伝わってしまいます。

2点目は、一旦はダマすことができても同じ論法でまたダマされるからです。これが冒頭の会話で示したことです。「若者でもコロナで死ぬ可能性はゼロではない」というメッセージで意識が大きく変わった人は、同じように「ワクチンで死ぬ可能性はゼロではない」というメッセージで意識が変わってしまいます。

敵も同じ論法を使ってくるということを考えれば、「分母を無視した論法にダマされないで」というメッセージのほうが長い目で見て効果的でしょう。

10代のコロナ死亡リスクとリスクのものさし

それでは最後に、いつものように10代後半の若者に対するコロナ死亡リスクを、リスクのものさしを使って示してみましょう。年代別コロナ死者数は以下の情報を参考にします。

東洋経済ONLINE:新型コロナウイルス国内感染の状況

新型コロナウイルス 国内感染の状況
日本国内において現在確定している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況を厚生労働省の報道発表資料からビジュアル化した

10代死亡は2022年2月22日現在で6人。これが全て1年の内に発生し、全員が10代後半と仮定すると、2019年の15-19歳人口は582万人ですから、10万人あたりの年間死者数は0.10人と計算されます。ちなみに2019年はインフルエンザで15-19歳が8名亡くなっていますので、リスクは0.14人となります。

これをリスクのものさしとともに示してみましょう。本ブログの上のリンクからRiskTools(リスクのものさし表示ツール)に飛ぶことができます。

http://risktools.nagaitakashi.net/

このツールの中に出てこない任意のリスクを表示させる機能はまだないので、とりあえず15-19歳の総死亡リスクを表示させてみましょう。以下の図のように選択して一番下の決定ボタンを押します。

risktools1

そうすると、結果が以下のように出てきます。この結果にコロナも含めてリスクのものさしを作成します。

risktools2

15-19歳のリスクのものさしを改めて作成すると以下のようになります。

死因10万人あたり年間死者数
総数20.6
自殺9.9
交通事故2.3
がん2.2
新型コロナ0.1
火事0.1
落雷0.0017

ということで、若者の場合は死者の半数程度が自殺です。若者のことを本気で考えるなら、コロナ禍は感染症直接の問題というよりも社会の問題と見なしていくべきではないでしょうか

人との関係性が変わる、スポーツ・旅行等やりたいことができなくなる、経済が悪化する、就職が上手くいかなくなるなど、アナタの人生への影響を抑えるためにもコロナ感染拡大防止が必要だ、と言ったほうが「若者でも死ぬ可能性はゼロではない」と脅すよりもよっぽど意味があると思います。

まとめ:「若者でもコロナで死ぬ可能性はゼロではない」はなぜダメか?

医療関係者がよく使う「若者でもコロナで重症化することがある」、「死ぬ可能性はゼロではない」(だからもっとコロナを怖がろう!)という論法は、反ワクチンなどが使う「ワクチンで心筋炎になったり後遺症が出たりすることがある」、「ワクチンで死ぬ可能性はゼロではない」(だからもっとワクチンを怖がろう!)、という論法と全く同じであり、分母無視の法則の悪用です。短期的には効果があるかもしれませんが、相手も同じ論法を使うということを考えると悪手なメッセージであると思われます。

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