コロナ濃厚接触者の定義「15分ルール」のからくり―給食14分ルールは安全か?

contact-tracing 基準値問題

要約

コロナ感染者が出た際に濃厚接触者の認定を避けるため、学校現場では給食を15分以内に食べなければいけない、15分ごとに座席を離れていったん距離をとる、などのトンデモルールが実施されています。濃厚接触者の定義である「15分ルール」が設定された根拠について解説します。

本文:濃厚接触「15分ルール」のからくり

ある小学校で、給食を14分で食べなければいけないというルールがある、と話題になっています。給食を食べるときにマスクを外して15分経過すると、コロナ感染者が出た場合に隣の席の人などが濃厚接触者扱いになるため、それを避けるための措置のようです。教師がわざわざタイマーまで持ち出して、きっちり14分測るのだそうです。

まいどなニュース:ある小学校の「給食14分ルール」が物議 「食べるのが遅い子には苦痛」「マスクより換気の方が効果的」

ある小学校の「給食14分ルール」が物議 「食べるのが遅い子には苦痛」「マスクより換気の方が効果的」|まいどなニュース
いただきます。ただし14分以内で…(ankomando/stock.adobe.com) ある小学校の給食14分ルールが議論を呼んでいます。その名の通り、給食を14分で食べる、というものですが、きっかけとなったのは、医療従事者のpr...

濃厚接触者の定義とは「距離1m以内」「マスクなし」「15分以上会話」というものです。マスクありなら1mでも大丈夫で、マスクなしなら2mの距離をとる必要があります。学校の教室では生徒同士で2mの距離をとることは不可能ですから、給食でマスクを外すと15分で濃厚接触者になります。そうすると感染者が出た場合に1m以内に座席がある生徒は7日間学校に来られなくなります(2022年3月現在のルール)。

マスクなしなら2m、マスクありなら1mという距離の根拠については、以前にも本ブログにてソーシャルディスタンスの基準値の根拠を書いた記事で紹介しました。

何メートル離れれば安全なのか?ソーシャルディスタンスのからくり
ソーシャルディスタンスの距離は、ニュージーランドとイギリスで2m、米国では1.8m、オーストラリアで1.5m、シンガポールで1mです。日本ではマスクなしで2m、マスクありで1mです。この差は科学的な根拠に基づくものではなく、それぞれ科学と現実の狭間から生まれたものであろうと推測されます。

今回調べてみたのは距離のほうではなく「15分」という時間のほうです。当然会話の時間が長くなるほど飛沫(に含まれるウイルス)を浴びる量が多くなります。15分以内なら大丈夫で、15分を超えると感染するのでしょうか?本記事ではその根拠についてまとめていきます。

ところでもっと気になるのは、給食14分ルールで「14分で食べきれなかった場合、一度マスクをして、また外してから食べる」というトンデモルールです。本当???と思いましたが、以下のサイトを見てもそのように書いてありますね。

J-CASTニュース:給食「14分ルール」に医師「驚きました」 加藤浩次が同情示した「学校の立場」

給食「14分ルール」に医師「驚きました」 加藤浩次が同情示した「学校の立場」
「子どもの小学校、マスクを15分外すと濃厚接触者になるため、給食を14分で食べるルールになった。先生がタイマーをかけ、14分経ったらおしまい」。そんな母親のSNS投稿が話題になっている。謎の「14分ルール」の真相を、28日(2022年2月)の「スッキリ」が探った。「無意味かなと思ったことでも...」 厚生労働省がいう「...

いったんマスクを着用すれば浴びたウイルスの量がチャラになるわけがないので、「なるべく14分以内で食べよう」までは許容できても「いったんマスクをすればチャラ」というトンデモルールはさすがにありえないですね。

濃厚接触者の定義「15分ルール」の根拠

15分ルールの根拠を調べていくと、だいたい米国CDC(疾病予防管理センター)の情報にたどり着きます。2020年10月にCDCは濃厚接触の定義を変更しました。それまでは6フィート(1.8m)以内の距離で15分以上の継続的な接触であったのが、24時間以内に複数回の接触の合計時間が15分以上と変わったのです(距離6フィートは同じ)。

日本ではWHOの定義に基づいて15分以上の継続的な接触のときに濃厚接触になり、合計時間は使いません。一方で米国だと合計時間になるので、給食14分トンデモルール(いったんマスクをすればチャラ)は適用できなさそうです。

話を戻して、米国で「複数回接触の合計15分」に変更された理由は、バーモント州の刑務官の感染事例に基づきます。この刑務官(常にマスク着用あり)は6名の受刑者(マスク着用ありのときとなしのときがあった)と単独ではごく短時間(1分程度)の接触しかしなかったものの、1日の合計では22回約17分の接触がありました。その後6名の受刑者は全員がコロナ陽性と判定され、さらに刑務官もコロナを発症しました。この刑務官はそれ以前の14日間はほかの感染者との接触や旅行歴はなく、受刑者からの感染と考えられたのです。

17分というのはやたら細かい数字だなと思いますよね。なんとこれは刑務所の監視カメラの記録を再解析して、合計接触時間17分という数字を叩き出したのです。ものすごい執念を感じます。

この結果から、一度にウイルスを浴びた量ではなく、合計のウイルス曝露量が重要であるという結論に至ったわけです。それまでは「15分」という線引きの根拠すらもほとんどない状態だったと思われますが、後付けで15分の根拠もおおむね妥当であることが示された格好です。このように根拠が後付けで出てくるのも「基準値あるある」です(ソーシャルディスタンスも同じパターンでした)。

米国の14分ルール「COVIDシャッフル」

さて、冒頭の14分トンデモルールに戻ると、感染リスクはいったんマスクをした時点でそれまでに浴びたウイルスの量がチャラになるわけではないので意味がないということはわかりました。こんなことをやっているのはさすがに日本だけだろうと思っていたら、実は海外でも同様なことが起こっているようでした。名付けて「COVIDシャッフル」です。

事例1:
モンタナ州のビリングス学区では15分ごとに生徒の座席を入れ替えるというトンデモルールが提案されました。これによって濃厚接触者となることを避けられるということのようです。当然ですがこれで感染リスクを避けられるわけはなく、むしろ15分以内の短時間接触者を増やす方向に向かってしまいます。

学校側の言い分としては、座席のシャッフルによって空気中のウイルスがかき混ぜられて薄まるから感染リスクが減るのだ、とのことでした。しかし感染症の専門家からはこれに否定的な見解が出されています。

事例2:
アイオワ州のウォーキー学区のいくつかの学校にて、12~14分ごとに休憩をとり席を立って歩き回るという対策が実施されたとのことです(休憩後は元の席に戻る)。これは学区全体で実施されたわけではなく、教師の判断で実施されたものです。

この「COVIDシャッフル」は、生徒同士の接触を減らすどころかむしろ増やしてしまうとのことで、アイオワ州公衆衛生局から批判されたようです。

これも学校側の言い分としては、目的は隔離を避けることではなく生徒に運動をさせて健康を維持することである、ということでした。これは非常に苦しい言い訳で、だったらなぜ12~14分なのか?とツッコまれること間違いないでしょう。

ということで、こういうことを考えるのは日本人だけではなくどこでも起こりうることなんですね。「15分」という基準値が示されて、それを超えるとアウトという運用がなされると、なんとか基準値以下になるように努力をしてしまうのが人間の性なのでしょうか。

15分ルールとどのように向き合うべきか?

「基準値というものは、考えるという行為を遠ざけさせてしまう格好の道具である」という言葉を拙著「基準値のからくり」にて引用しました(元ネタは補足参照)。いったん基準値が決まるとそれがあたかも「権威」のようになり、その根拠をあまり考えずに使ってしまうことを戒める言葉です。日本の給食14分ルールや米国のCOVIDシャッフルは、まさにそういう罠に陥った典型例と言えるでしょう。

濃厚接触者の定義である「15分ルール」は、本ブログで毎度紹介している基準値の根拠と同じで、15分以内なら安全・15分を超えると危険、という白黒ハッキリつくものではありません。接触時間が増えるほどに感染の確率は高まり、そこに本来線引きはできないものです。

一方で、保健所などによる接触者追跡(別名コンタクトトレーシング:感染者の行動歴から濃厚接触者を特定して、自宅待機させたり健康観察をしたりすること)を行う際には、無限に接触者を追跡するわけにはいきません。そこで「この基準を満たした接触者のみを追跡する」という線引きをどこかでする必要が出てきます。効率的にリスクの高い接触者を追跡するためにこの15分ルールが生まれたのです。

結局のところ「15分ルール」は接触者追跡のオペレーションのためのルールであり、なにかしらのきっちりとした科学的根拠で決まった数字ではありません。よって、14分59秒なら大丈夫というものではありませんし、やっきになってぎりぎりで15分を回避することにも感染対策上の意味はないのです。

それでも、15分を超えてしまうと濃厚接触者としての追跡や自宅待機などが発生してしまい、負担が増えてしまうということもまた事実です。米国の14分ルールも接触者追跡が学校の大きな負担となっていることから出てきたアイディアだったということですから、現場の運用上の問題が出ていることは提起が必要でしょう。

また、濃厚接触者の定義に戻ると、「距離1m以内」「マスクなし」「15分以上会話」ですから、15分を超えても「密接」行為すなわち「会話」がなければ該当しないわけです。会話をなくすことで感染リスクを下げて濃厚接触へも該当させないことが最も現実的な話ではないでしょうか。

まとめ:濃厚接触「15分ルール」のからくり

濃厚接触者となる定義の「15分」の根拠は、感染者との接触者を効率的に追跡するために設定されたオペレーションのためのルールであり、何らかの科学的根拠で設定されたものではないようです。ただし、17分の接触で感染が確認されるなど、後付けで断片的な根拠も出てきています。

補足:参考とした情報源

米国の濃厚接触者の定義など:
米国CDC: COVID-19 Quarantine and Isolation

COVID-19 and Your Health
Symptoms, testing, what to do if sick, daily activities, and more.

刑務官のコロナ感染の経緯:
米国CDC: COVID-19 in a Correctional Facility Employee Following Multiple Brief Exposures to Persons with COVID-19 – Vermont, July-August 2020

COVID-19 in a Correctional Facility Employee Following ...
This report describes how a correctional facility employee contracted COVID-19 after multiple brief encounters with six incarcerated or detained persons with CO...

米国CDCの15分ルールの解説1:
Cleveland Clinic: What is the Coronavirus 15-Minute Rule?

What is the Coronavirus 15-Minute Rule?
And learn how to stay safe while you're indoors or waiting in lines

米国CDCの15分ルールの解説2:
University of Michigan: An epidemiologist explains the new CDC guidance on 15 minutes of exposure and what it means for you

An epidemiologist explains the new CDC guidance on 15 minutes of exposure and what it means for you
The CDC has new guidance clarifying what exactly “close contact” means when it comes to coronavirus transmission. Ryan Malosh of the U-M School of Public Health...

米国での14分ルールの事例1:
The New York Times: To avoid quarantining students, a school district tries moving them around every 15 minutes.

To avoid quarantining students, a school district tries moving them around every 15 minutes. (Published 2020)

米国での14分ルールの事例2:
Des Moines Register: Iowa’s top health official discourages school ‘COVID shuffles’

Iowa's top health official discourages school 'COVID shuffles'
The intent was to give students a break, not to avoid quarantine responsibilities, one Iowa school administrator said.

拙著 講談社ブルーバックス「基準値のからくり」

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「基準値というものは、考えるという行為を遠ざけさせてしまう格好の道具である」の元ネタ:
国立環境研究所:大垣眞一郎「考えることを遠ざけさせるもの」

考えることを遠ざけさせるもの|国環研ニュース 27巻|国立環境研究所
国立環境研究所では様々な環境研究に取り組んでいます。

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