要約
sns定点観測にてリスクコミュニケーションに関するツイートを収集しています。2019年11月~2020年3月の調査結果を見ると、1月にコロナウイルス問題が発生してからリスクコミュニケーションに関するツイートは急上昇し、「〇〇はリスコミぶち壊し」などの批判的な内容にあふれていることがわかりました。
本文
リスクに関してツイッター等snsの定点観測、いわゆる「ソーシャルリスニング」を行っていることは以前の記事に書きました。
これは「リスク」をキーワードとする結果ですが、他にもいくつかのキーワードで調査を行っています。リスクコミュニケーションもその一つです。本記事ではツイッターでの「リスクコミュニケーション」のつぶやきに注目して解析してみました。
ツイートの収集と解析
2019年11月から2020年3月までに、ツイッターにおける「リスクコミュニケーション」もしくはその略称である「リスコミ」を含むツイートを週1回収集しています。「リスク」を含むツイートは数が多いのですべてを収集していませんが、「リスクコミュニケーション」と「リスコミ」を含むツイートはそれに比べると数が少ないのですべてのツイートを収集できているはずです。
さらに、各月において「いいね(fav、ふぁぼ)」が多かったトップ10ツイートを抽出し、トピックと要約を手作業で付けました。いいねがたくさんついたツイートほど、多数の人が共感を得たツイートであると考えられます。リツイート(あるツイートをほかのフォロワーに広めること)は必ずしも共感を示すわけではなく批判的にリツイートする場合もあります。たくさん共感されたツイートを見ていくことでリスクコミュニケーションのヒントが得られるかもしれません。
経時変化
それではリスクコミュニケーションとしてどのような会話がなされているか、それが経時的にどう変化しているのか、を見ていきます。まずはツイート数の変化と、ツイート数+リツイート数までを含めたツイートの広がりの数を推移を下図に示します。
11月、12月に比べて、1月にツイート数は上昇し、さらに2月に入ると一気に増えます。2月、3月のリスクコミュニケーションを含むツイート数は11月、12月の10倍程度にまでなってしまいました。リツイートを含むツイートの広がりの数も1月に入ると急上昇しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大とともにリスクコミュニケーションに対する関心が一気に高まったと考えられます。
トップ10ツイートの内容(2019年11月~2020年2月)
11月と12月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートは以下の通りです。
Fav順位 | トピック | 要約 |
1 | 原発事故 | 細野豪志氏のリスコミを評価 |
2 | 原発事故 | 日本原子力研究開発機構が作成板の作成したリスコミ素材が炎上 |
3 | 原発事故 | バナナでも被爆するので危険 |
4 | リスコミ一般 | リスコミ素材の改善が重要 |
5 | 金融 | 暗号資産古物商協会による仮想通貨のリスコミを評価 |
6 | 感染症 | 厚生労働省はリスコミ下手 |
7 | 災害 | 国会議員に対してリスコミの講演をした |
8 | リスコミ一般 | 評論家のコメントはリスコミぶち壊し |
9 | オリンピック | 東京五輪での交通規制はリスコミがカギ |
10 | 災害 | 和歌山県広川町は津波防災教育をしている |
Fav順位 | トピック | 要約 |
1 | 原発事故 | ゼロリスクはない、ということだけ広まるのでリスコミは難しい |
2 | リスコミ一般 | 消費者庁リスコミに吉本芸人が出ることへの疑問 |
3 | 原発事故 | 福島第一原発の処理水を海洋放出しても科学的に安全。でもゼロリスクはない |
4 | リスコミ一般 | パブリックアフェアーズにリスコミも含まれる |
5 | 災害 | 逃げ地図はリスコミに重要 |
6 | 金融 | ローンを組む際にもリスコミが必要 |
7 | 原発事故 | 文部科学省放射線の副読本の内容 |
8 | リスコミ一般 | リスクコミュニケーションの基本は『相手がどう捉えるか』を意識すること |
9 | リスコミ一般 | 徳島県の消費者庁リスコミ講座の内容 |
10 | リスコミ一般 | 消費者庁リスコミに吉本芸人が出ることへの疑問 |
トピックをみると原発事故関係がやはり多くなっているのがわかります。あとはリスクコミュニケーション一般の話、災害や金融のトピックも見られています。〇〇はリスコミぶち壊しなどの批判的な論調が多いのも特徴です。これはツイッター全体の特徴とも言えますが。
1月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートは以下の通りです。まだまだコロナは中国の出来事という状況でした。
Fav順位 | トピック | 要約 |
1 | コロナ | 感染者の個人情報暴露への懸念 |
2 | コロナ | 素人はリスコミの邪魔するな |
3 | コロナ | 朝日新聞はリスコミぶち壊し |
4 | コロナ | 朝日新聞はリスコミぶち壊し |
5 | コロナ | マスコミはリスコミぶち壊し |
6 | コロナ | コロナのデマに注意しろ |
7 | コロナ | 感染の疑い段階で報道するな |
8 | コロナ | マスク、眼鏡、手淡い、うがいをしろ |
9 | コロナ | 2009年に最も有効なリスコミをしたのは中国 |
10 | コロナ | コロナは死者数ゼロなのになぜ恐怖するのか? |
一気にトピックが新型コロナウイルス一色に染まります。やはり〇〇はリスコミぶち壊しのような話題が多いです。デマや個人情報暴露への懸念という話題もあります。素人は黙ってろ的な論調もあります(お医者さんに多いです)が、これはコミュニケーションとしては良い傾向ではないですね。
2月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートは以下の通りです。
Fav順位 | トピック | 要約 |
1 | コロナ | 岩田教授はリスコミぶち壊し |
2 | コロナ | 素人はリスコミの邪魔するな |
3 | コロナ | 厚生労働省によるクルーズ船対応への批判 |
4 | コロナ | 医療崩壊防止のためリスコミをせよ |
5 | コロナ | 岩田教授はリスコミぶち壊し |
6 | コロナ | CMによるリスコミをせよ |
7 | コロナ | 岩田教授はリスコミぶち壊し |
8 | コロナ | 厚生労働省によるコロナ対応への批判 |
9 | コロナ | 高須氏はリスコミぶち壊し |
10 | コロナ | コロナの陰性証明というのはない |
2月はまだ日本本土の感染者数は少なく、クルーズ船への対応が注目された月です。リスクコミュニケーションの本まで出版している神戸大学岩田教授に関する話題が多かったです。岩田教授がクルーズ船内の感染症対策ができていないことを告発した動画は炎上と言ってよいほどの賛否両論の注目を浴びました。これはリスクコミュニケーションの教科書に絶対載せるべき、と言えるくらいの事案だと思います。別の機会に考察を書いてみたいです。
2020年3月のリスクコミュニケーション
3月のリスクコミュニケーショントップ10ツイートは以下の通りです。
Fav順位 | トピック | 要約 |
1 | コロナ | 休校の理由を説明せよ |
2 | コロナ | 休校の理由を説明せよ |
3 | コロナ | リスコミ専門家は不安を取り除くための情報を発信せよ |
4 | コロナ | 休校の理由を説明せよ |
5 | コロナ | 広報はリスコミのプロ |
6 | コロナ | メールマガジンの宣伝 |
7 | コロナ | パニックになりかかっている国民にどう対処するか |
8 | コロナ | 軽症者は自宅で、という方針転換のリスコミが重要 |
9 | コロナ | リスコミは交渉力がものをいう |
10 | コロナ | 政府への信頼の低さがリスコミを困難にしている |
特徴は元大阪府知事・大阪市長の橋下徹氏がリスクコミュニケーションに関するツイートをたくさんしており、それがトップ10の中に4つも入っていることです。3月初めから全国の学校を休校することが突然決定され、その休校の理由を説明せよ、といった主張です。ただし、これは専門家会議にも諮問していない政治案件(効果は弱いが対外的に目に見える実績になる、反対する勢力が政治的に弱い)なのでリスコミ案件とは違うような気がします。また、橋下氏はリスクコミュニケーションは交渉であり交渉力がものをいうというツイートもしていますが、リスクコミュニケーションが相手にYESと言わせる技法と思われるとだいぶ違うかなと思います。
不安を取り除くためにリスコミの専門家が情報発信できないか?という意見も「いいね」を集めていますが、たいしたリスクもないものに不安になっているのであれば可能かもしれませんが、現時点ではそうではないので不安なのは正常な感覚であろうと思われます。ただ、不安自体が心身の健康に対する大きなリスクであることは間違いないです。社会の安定に対しても大きなリスクです。
政府への信頼の低さがリスクコミュニケーションを困難にしているのは確かにその通りです。政府を妄信する必要はないのですが、政府を信頼しない代わりにもっとリスクのあるもの(奇跡の〇〇でウイルスが消える!など)に飛びついてしまう心配もありますね。
まとめ
2020年1月から、リスクコミュニケーションに関するツイート数は増大し、その内容も新型コロナウイルス一色になりました。「○○はリスコミぶち壊し」のような話題が目に付くので、皆に注目される失敗事例を収集するのにツイッターを用いたソーシャルリスニングは適しているかもしれません。今後も経時変化などを見ていきたいと思います。
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