リスク比較のためのRisktools ver4を公開しました

リスク比較

要約

リスク比較のためのWEBアプリ「Risktools」を作っています。今回公開した改良版(ver4)では、「死因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータを追加、「リスク要因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータ・性別とリスク指標の選択を追加しました。

本文:リスク比較のためのRisktools ver4

本ブログの上部メニューにあるRisktoolsは、リスク比較を目的として、死因別にリスクの大きさをリスクのものさしと共に表示するツールです。

RiskTools

最近では非エンジニアであってもこのようなWEBアプリケーションを開発して公開することが以前よりも容易になりました。2022年1月に最初のver1を公開し、2022年9月に公開した改良版のver2では経年変化・性別・年齢別のグラフが表示される機能を追加しました。この開発の経緯は以下の過去記事に書いています。

リスクのものさし表示ツールの開発~非エンジニアがPythonでWebアプリを作ってみた
リスク比較の手法として有用な「リスクのものさし」を表示するWebアプリケーションをPythonを使って開発しました。私のような非エンジニアでもサクっとWebアプリを作って実装するための、さまざまなツールと学習するための教材(書籍やWeb上の情報)を紹介します。
リスク比較のためのRisktools ver2を公開しました
リスク比較のためのWEBアプリ「Risktools」を作っています。今回公開した改良版(ver2)では、死因、年齢階級、評価する年、性別を選択すると、リスクのものさしに加えて経年変化・性別・年齢別のグラフが表示される機能を追加しています。特に経年変化は興味深い結果がいろいろと得られます。

さらに、世界疾病負荷(GBD)研究の結果を活用して、リスク要因別リスクのものさし表示ツールは試作版をver3として公開しました。リスク要因とは、がんなどの直接の死因となる病気の原因となる要因(タバコやお酒など)のことです。詳しくは以下の記事を参照してください。

日本におけるがんのリスク要因は何か?世界疾病負荷(Global Burden of Disease)研究の結果を紹介します
世界疾病負荷研究(GBD study)が提供するツールを用いて、日本のがん死亡に対するリスク要因を整理しました。その結果、たばこやお酒、不健康な食事などの日常生活に起因するがんの影響は化学物質によるがんと比べてけた違いに大きくなっています。

そしてこのたび、各種統計データの更新版やGBD研究の最新版(以下の記事参照)を踏まえて、2024年8月にさらなる改良版であるver4を公開しました。

コロナ禍における日本と世界のリスクをDALYで俯瞰する―世界疾病負荷2021
リスクを俯瞰する試みとして世界疾病負荷(GBD)研究の2021年度版を紹介します。DALYを指標としてコロナ禍における日本と世界のリスクを比較してみました。新型コロナ関連のリスクは日本では低い(交通事故と火事の間)ものの世界ではがんを上回り非常に高くなりました。

本記事では、今回公開したRisktools ver4の改良点について紹介します。この改良版を使って、いくつかのリスク比較例を示します。ぜひ自分でいろいろと試して頂ければと思います。

Risktools ver4の改良点

Risktools ver4の改良点を、「死因別リスクのものさし表示ツール」と「リスク要因別リスクのものさし表示ツール」にわけて解説します。

「死因別リスクのものさし表示ツール」は、年・リスク要因を選択して、死亡リスクの大きさの指標「10万人あたり年間死者数」をリスクのものさしと共に表示することができるツールです。

ベースとなるデータは1995年~2020年までの5年ごとの人口動態調査の結果「表5-16 死因(死因簡単分類)別に見た性・年齢(5歳階級)別死亡率(人口10万対)」です。

これまでは1990, 1995, 2000, 2005, 2010, 2015, 2020年のデータを搭載していましたが、今回新たに現時点の最新版である2022年のデータを搭載しました。

「リスク要因別リスクのものさし表示ツール(ver3では試作版)」は、年・リスク要因を選択して、死亡リスクの大きさの指標「10万人あたり年間死者数」をリスクのものさしと共に表示することができるツールでした。

ベースとなるデータはGBD研究の結果です。以下のサイトでデータベースを利用できますが、まだ活用できていない大量のデータがあります。

GBD Results

これまでは1990, 1995, 2000, 2005, 2010, 2015, 2019年のデータを搭載していましたが、今回新たに追加された2020年と2021年のデータを搭載しました。

また、性別も選択できるようにしました。

さらにここが一番大きな改良点ですが、リスク指標として死亡率(10万人あたり年間死者数)だけではなく、損失余命やDALY(disability-adjusted life year:障害調整生命年)でも表示できるようにしました。DALYなどの指標の説明は以下の記事を参照してください。

リスク指標としての損失余命はわかりやすい?その1:コロナウイルスの計算事例
コロナウイルスによる損失余命を計算してみました。死者数に加えて死亡時の年齢の情報、その時点での年齢別平均余命の情報(生命表)を基に計算すると、2020年10月14日時点(死者数1633人)で合計損失余命:18898年、死亡者1人あたり:11.6年、人口10万人あたり:15年、人口1人あたり:1.3時間という結果となりました。
コロナ禍における日本と世界のリスクをDALYで俯瞰する―世界疾病負荷2021
リスクを俯瞰する試みとして世界疾病負荷(GBD)研究の2021年度版を紹介します。DALYを指標としてコロナ禍における日本と世界のリスクを比較してみました。新型コロナ関連のリスクは日本では低い(交通事故と火事の間)ものの世界ではがんを上回り非常に高くなりました。

以下、実際の結果を例示していきます。

死因別リスクのものさし表示ツールの2022年度データ追加

実際にRisktools ver4の中から、「死因別リスクのものさし表示ツール」に2022年度版のデータを加えた出力結果を紹介します。最新年のデータを更新した影響を見たいので、経年変化のグラフのみを掲載します。

まず、2020年から集計が始まった新型コロナウイルス感染症(年齢総数、性別総数)です。2020年に比べてオミクロン株の登場した2022年は死亡リスクが大きく上昇しました。

cause_corona

次に転倒・転落・墜落(年齢80-84歳、性別総数)です。過去から順調に減少傾向にあったのですが、2022年に急に上昇に転じました。長引く自粛生活などで高齢者の足腰が弱った、医療がひっ迫して普段なら助かった人が助からなかったなどの解釈が考えられます。

cause_fall

自殺(年齢15-19歳、性別女性)の傾向も大きな問題をはらんでいると言えるでしょう。コロナ禍をきっかけに若年女性の自殺率が急上昇しました。コロナ禍での対人関係や経済状況の悪化が原因と考えられます。

cause_suicide

最後に順調に減少傾向にある例(結核、年齢総数、性別総数)も出しておきます。特にコロナ禍では感染症が全般的に減少しました。

cause_tuberculosis

関連する本ブログの記事は以下があります。

コロナ禍の2021年から2022年にかけて日本の死亡リスクのトレンドはどのような変化をしたか?
2022年の人口動態統計による死因別死者数や死因別超過死亡のデータを分析しました。他殺や結核・ウイルス性肝炎は減少、一方でコロナ・不慮の事故、老衰、循環器系疾患の増加が目立ちました。年代別では10代後半の女性と100歳以上の死亡率の増加が特徴的となりました。
自殺のリスク評価その1:若者ほど増加傾向で高齢者ほど減少傾向
自殺のリスク評価の第1回として、年代別の自殺リスクについてまとめます。自殺リスクはかつては高齢者が多かったのですが、若者ほど増加傾向で高齢者ほど減少傾向となっています。リスク指標として死亡率で見るか、損失余命で見るかでイメージが大きく変わります。

リスク要因別リスクのものさし表示ツールの正式版公開

次に、Risktools ver4の中から、「リスク要因別リスクのものさし表示ツール」に2021年までのデータ、性別・リスク指標の選択を追加した正式版の出力結果を紹介します。リスクのものさしに加えて、経年変化と性差、リスク指標間の差の3つのグラフが表示されます。

ただし、リスクのものさしは「落雷」の代わりに「自然の力による曝露」を使用しています(以下の記事参照)。

コロナ禍における日本と世界のリスクをDALYで俯瞰する―世界疾病負荷2021
リスクを俯瞰する試みとして世界疾病負荷(GBD)研究の2021年度版を紹介します。DALYを指標としてコロナ禍における日本と世界のリスクを比較してみました。新型コロナ関連のリスクは日本では低い(交通事故と火事の間)ものの世界ではがんを上回り非常に高くなりました。

まず、喫煙(性別男、指標はDALY)の結果を見てみましょう。リスクのものさしもDALYで表示されています。がんのリスクの半分以上となるリスクの大きさであることがわかります。経年的には減少傾向で、男性のほうがかなりリスクが高いことが特徴的ですね。また、損失余命とDALYの差が少なく、DALYの7割以上が死亡によるものであることがわかります(死なないけど障害を受けるということではない)。

factor_monosashi
factor_smoking

次に肥満(高BMI、性別総数、指標はDALY)を見てみましょう。これは経年的には上昇傾向で、男女間の差があまりありません。損失余命はDALYの半分以下で、死なないけど障害を受けるリスクも結構大きいことがわかります。

factor_BMI

変わった事例として鉄欠乏症(性別女性、指標はDALY)も紹介します。経年的には一旦下がった後にまた上昇に転じ、女性のほうがリスクがかなり高くなっています。DALYに比べて損失余命はほとんどなく、死ぬリスクではなくて生活の質の低下が主なリスクであることがわかります。

factor_iron

ところで、GBD研究のデータはリスク要因だけでなく死因別のデータもあるので、「死因別リスクのものさし表示ツール」のほうも死亡率、損失余命、DALYの各指標で示すことができるはずです。また、日本全国だけではなく都道府県別の数字もあります。データが膨大過ぎるのですべて確認できていませんが、もっといろいろなリスクを可視化できるようになるでしょう。

さらに、GBD研究のデータにはリスク要因と死因の関係のデータまであります。例えば肺がんによる死亡リスク(死因)とタバコによる死亡リスク(リスク要因)だけではなく、タバコを原因とする肺がんの死亡リスクはどれくらいか?ということがわかります。今後の改良ではこういう複雑なデータもうまく可視化できるようにしたいと考えています。

まとめ:リスク比較のためのRisktools ver4

Risktoolsの改良版(ver4)では、「死因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータを追加、「リスク要因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータ・性別とリスク指標の選択を追加しました。死亡率に加えて損失余命やDALYも併せて表示できるようになり、よりリスクの特性が理解できるようになっています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました