リスク指標としての損失余命はわかりやすい?その1:コロナウイルスの計算事例

lifetime リスク比較

要約

コロナウイルスによる損失余命を計算してみました。死者数に加えて死亡時の年齢の情報、その時点での年齢別平均余命の情報(生命表)を基に計算すると、2020年10月14日時点(死者数1633人)で合計損失余命:18898年、死亡者1人あたり:11.6年、人口10万人あたり:15年、人口1人あたり:1.3時間という結果となりました。

本文:コロナウイルスによる損失余命

つい最近ですが、コロナウイルスの影響で米国の損失余命が200万年になった、というニュースがありました。

パンデミックの影響で、米国人の損失生存年数が200万年に

パンデミックの影響で、米国人の損失生存年数が200万年に
米国では現在も、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)によって多くの人が亡くなっており、死者数は20万人を超えている。本来なら、その大半の人はこれから先、何年も人生が続くはずだった。サウスフロリダ大学が行った研究によると、パ

米国では現在も、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)によって多くの人が亡くなっており、死者数は20万人を超えている。本来なら、その大半の人はこれから先、何年も人生が続くはずだった。サウスフロリダ大学が行った研究によると、パンデミックで多くの米国人が早死にしたことで、「損失生存年数(years life lost: YLL)」は総計で約200万年にのぼったという。

https://forbesjapan.com/articles/detail/37375

このニュースでは損失生存年数(Year of Life Lost, YYL)という言葉を使っており、おそらくこちらのほうが正しい用語と思われますが、日本では一般的には損失余命という単語のほうが知られていると思いますので、このブログでも損失余命と書きます。

20万人の死亡で200万年ですから、死者の平均で10年ほど余命が失われたことになります(コロナにかかっていなかったらあと10年ほど生きられたという意味)。

本ブログではこれまでいろいろなリスク比較の記事を書いてきましたが、基本的に死亡率(10万人あたりの年間死者数)をリスク指標としてきました。死亡率は誰が亡くなっても等しく死者数1人と数えますが、若い人と高齢者では亡くなった時の損失余命が違います。つまり、死亡率と損失余命は両方死亡リスクの指標ですが意味が違います。死亡率よりもわかりやすいリスク指標という人もいます。

死亡率でみた新型コロナウイルスのリスクはいろいろなところですでに出てきていますが、日本国内の損失余命はあまりみたことがありません。本記事ではコロナウイルスを例にリスク指標としての損失余命について考えてみます。

損失余命の計算例

すでに誰かが計算しているだろうと思うので、「コロナウイルス 損失余命」で探してみました。Googleでは出てきませんでしたが、Bingでは2位に京都大学の方による計算結果が出てきました。(最近Googleへの不信感を強めてBingを併用しています)

新型コロナウイルス感染死による余命損失に関する研究(https://jsce-ip.org/wp-content/uploads/2020/08/14_ueda.pdf

損失余命のリスク指標としての利点や課題も整理されています。

寿命を尺度とするリスク評価の利点と課題
利点
・ 青年期の自殺や事故,中年期の悪性新生物などによる損失との比較を含めて,死亡者数の質的な違いが検討できる.
・ 医療などの介入による疾病障害の負担軽減効果を見積もり,その費用と比較することで,政策や利用可能な資源の活用方法についての議論を増幅させることができる.

課題
・ 平均余命には,年齢・性別以外の非健康要因が考慮されていない
・ 損失余命等の指標を最小化することが最も望ましいとは限らない.
・ 高齢者差別につながるおそれがある.

https://jsce-ip.org/wp-content/uploads/2020/08/14_ueda.pdf

計算結果は2020年7月29日時点で、
・死亡者数:992名
・損失余命:12412.5年
・死亡者1人あたり損失余命:12.5年
となっています。インフルエンザ、肺炎、自殺、交通事故、東日本大震災との比較例もあります。

冒頭に紹介した米国の事例でも死者1人あたり平均的に10年ほどの寿命が失われたという結果となっていましたが、ほぼ同様の結果ですね。

もちろんこれはコロナウイルスによる「直接の死亡」の影響であり、経済的な影響や、医療のリソース不足によって別の病気で死亡したなどは含まれません。その点は注意しておきましょう。

改めてコロナウイルスによる損失余命を計算

上記の例では死者の年代のみを考慮し、性別のデータがないため陽性者の割合で男女に分けたとあります。ただこれも探してみると、8月18日までの死者個人ごとの日時、地域、性別、年代のデータが以下に公開されています。おそらく、自治体の発表を一つずつデータにまとめていったものと思われますので大変な苦労をされたと思います。

Database for COVID-19 deaths in Japan by age, sex, date, and region https://github.com/fumiyau/COVerAGE-JP/blob/master/jpn_death_share.csv

このデータを用いて改めて計算しなおしてみることにします。まず、年齢は10歳階級になっていますので、平均余命も10歳階級に直す必要があります。これも上記の計算例にならい、令和元年ベースで人口による加重平均をとって10歳階級の平均余命を計算しました。ただし、100歳代は単純に各年齢の平均余命の平均値を使いました。

年代男性女性
10代未満77.083.0
10代67.173.1
20代57.463.4
30代47.553.3
40代37.943.6
50代29.034.4
60代20.124.8
70代13.216.7
80代7.29.2
90代3.74.6
100代1.51.8

なお、使用したデータは以下の通りです。

令和元年簡易生命表の概況

令和元年簡易生命表の概況|厚生労働省
令和元年簡易生命表の概況について紹介しています。

人口推計(2019年(令和元年)10月1日現在)

統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2019年(令和元年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐
2019年(令和元年)10月1日現在の日本の人口について,年齢各歳別人口や都道府県別人口の推計結果を掲載しています。

次に、上記のCOVerAGE-JPのデータから、年代性別の不明なデータを除いた964人分のそれぞれの損失余命を計算します。例えば80代女性でしたら、上記の表から9.2年の平均余命が残っていますので、その分が失われたとします。これを964人分合計し、人数で割ると死者1人あたりの損失余命が計算されます:
・964人分の合計損失余命:11156年
・死亡者1人あたり損失余命:11.6年

年代・性別の比率が変わっていないと仮定して、2020年10月14日現在の死者数は1633人となっていますので、現在に換算すると1633人分の合計損失余命は18898年となります。

これをさらに死亡率とそろえるため人口10万人あたりに換算すると15年となり、人口1人あたりだと1.3時間となります。

損失余命は本当にわかりやすい?

損失余命はわかりやすいリスク指標と言われていますが、では今回計算された以下の4つの数字のうち、どれをリスク指標とすればよいでしょうか。結構悩みどころですね:
・合計損失余命:18898年
・死亡者1人あたり:11.6年
・人口10万人あたり:15年
・人口1人あたり:1.3時間

1人あたりにするのは死者や人口1人1人が等しく寿命が縮むような誤解を与えやすく、わかりやすいとは言えません。さらに比較をするためには分母がそろっている必要があり、日本の合計損失余命も他国や地域との比較ができないので×になります。そうすると死亡率と同じように人口10万人あたりにするのが妥当でしょうか。もしくは10万人あたりの死者数の補足として死亡者1人あたりの損失余命の情報を加えておく、というところですね。

他にも、たばこ1本あたり12分、コーヒー1杯あたり20秒など、活動を分母とする方法があります。ただ、感染症の場合はその時の感染状況により活動ごとの感染リスクが全く違いますので、例えばカラオケ1回あたりのリスクなどを計算するのは難しいでしょう。

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活動を分母とする方法が一番よくないと思う点は、誰もがたばこ1本吸うごとに等しく12分ずつ寿命が縮んでいくような誤解を与えてしまうことです。ここで評価しているリスクはあくまで集団のリスクであり、個人のリスクではありません。そこを誤解しやすい表現は避けるべきだと考えています。「わかりやすい=誤解しやすい」にならないように気をつけねばなりません。

まとめ:コロナウイルスによる損失余命

コロナウイルスによる損失余命を計算してみました。死者数に加えて死亡時の年齢の情報が追加で必要になります。また、その時点での年齢別平均余命の情報(生命表)も必要になります。これらから損失余命を計算すると、2020年10月14日時点で
・合計損失余命:18898年
・死亡者1人あたり:11.6年
・人口10万人あたり:15年
・人口1人あたり:1.3時間
という結果となりました。
分母をそろえて比較しやすいのは人口10万人あたりの損失余命と考えられます。

次回は損失余命によるリスク比較する場合に、死亡率の比較に使用しているリスクのものさしが損失余命で使えるかどうかを考えてみます。

リスク指標としての損失余命はわかりやすい?その2:リスクのものさし損失余命版
損失余命を指標としてリスク比較する際にもリスクのものさし(一定のリスク比較のセット)があると便利です。「がん、自殺、交通事故、火事、落雷」の5つの要因の損失余命を最新(令和元年)のデータを用いて解析し、リスクのものさしとして活用できるようにしました。

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