新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを比較したいときに押さえおきたいポイント4つ。その3:数字に飛びつく前に信頼性を判断する

uncertain リスク比較

要約

メディアによる記事にはセンセーショナルな数字が見出しとして出てくることがありますが、その数字に飛びつく前にその信頼度がどの程度かということを考えることが重要なポイントになります。実際の統計値と仮想的シナリオによる評価、数理モデルによる予測の信頼性について記載します。

本文

以下のようなニュース記事がありました。センセーショナルな死者数が見出しに踊っています:
新型コロナの米国死者、最大20万人も-4月半ば1日2200人と最新予測

新型コロナの米国死者、最大20万人も-4月半ば1日2200人と最新予測
ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策調整官のデボラ・バークス氏は3月31日、最も厳しい公衆衛生上の制限をさらに30日間課した場合でも、新型コロナ感染症による米国での死者が最大20万人に達する可能性があるとの予測を明らかにした。

トランプ大統領もこの死者20万人という数字に言及しています。えてしてこのような数字は独り歩きしやすいものであって注意が必要です。もしもこれが過大な推定であった場合や信頼できない数字であった場合、ほかのリスクとの比較はフェアな比較ではなくなってしまいます。数字に飛びつく前に考えてみたい信頼性について書いてみます。

感染者数の信頼性

まず、現状では感染者数の把握は信頼度がそれほど高くないことがうかがえます。感染者数の報告は検査の頻度によるので、検査を多数行っている国と日本のようにそうでない国と単純に比較してもあまり意味がなさそうです。日本では症状による判断や感染者の濃厚接触者など、確度の高い人にしか検査を行っていないので無症状や風邪と同程度の症状の感染者は数字に入っていません。検査自体にも不確実性があります(これは別のところで書きたいです)。ただし、中国の武漢ではチャーター機などでそれぞれの国に帰った人たちの感染率(1%程度)から推定しても感染者は10万人程度であって、報告数と倍も変わらないという話もあります。

感染者数の信頼度が高くなければ致死率(死者数/感染者数)の数字も同様に信頼度が下がります。特にインフルエンザやSARSなどとの致死率の比較は、SARS>今回の新型コロナ>インフル程度のことくらいしか言えず、インフルの○○倍、ということまで言うのは難しそうです。

死者数の信頼性

感染者数よりは信頼できる数字が死者数です。ただし、最も不確実なのは、一体今後どれだけ死者数が増えるのか、ということになります。過去に例のないことのため実際の統計値がありません。ここでは最悪の事態になるとこのくらいのリスクになるから、それを避けるために様々な対策を実行する必要がある、ということを考えるためのリスク比較をしてみます。

まずは、最悪の事態となるようなシナリオ(ワーストケースシナリオ)を設定して評価してみます。シナリオは武漢とクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号を取り上げます。この二つはすでに収束しているので、今後極端に数字が変わる可能性は低いからです。

中国の死者はほとんどが武漢に集中しています。武漢の人口が1100万人程度なので、10万人あたりの死者数は29人となります。

クルーズ船では3711人全員に検査が行われており、約2割に相当する712名の感染者と、現在までに11人の死者が確認されています。つまり、10万人あたりの死者数は296人となります。
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症について:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

逃げ場のない3密の状況や、乗客がかなり高齢者に偏っていることを考えると、これが最もワーストケースになると考えらえます。前回記事のものさしでいうとがんのリスク(10万人あたりの死者数は297人)に匹敵する程度になってしまいます。このような事態は絶対に避ける必要があります。

これらは実際の統計値なので予測ではありません。感染者数が増えればそれに対応する対策が施されて最終的には減ります。後で説明する数理モデルによる予測は、感染が増える部分の予測は簡単にできますが、その後社会がどういう反応をしてどういう対策が打たれてどういう風に減っていくか、というの部分の予測が一番難しいのですね。ただし、全く別のシナリオを日本の今後を占うことに外挿するというプロセスが一段階入りますので、その部分で信頼性が1段階落ちることになります。

ということで、さらに信頼性が落ちるのが数理モデルによる将来予測による数字になります。現在日本においては対策の元となっている将来にわたる感染者数の予測はありますが、死者数の予測は出ていません。
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(3月19日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

上記の感染者数予測を行っている北海道大学の西浦教授も、以下の記事を読む限りでは死者数の推定はやっているけどまだ示せていない、と読めます:
「このままでは8割減できない」 「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200411-00010003-bfj-soci&p=7

海外を見てみるとワシントン大学のThe Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME)は、各国の感染者数や年齢別致死率、人工呼吸器数、集中治療室(ICU)のベッド数などに基づき、国別の死者数の将来予測を行っています。さらに、最新のデータに基づいて頻繁に更新されているようです。
https://covid19.healthdata.org/united-states-of-america

4月10日時点の予測では、アメリカでは収束までに死者数が61545(信頼区間26487-155315)人に達すると予想されています。更新のたびに死者数予測が減ってきており、状況好転の兆しなのかもしれません。また、英国では同様に死者数が37494(信頼区間26149-62519)人に達すると予想されています。このモデルの中身がどのようなものかきちんと調べたわけではありませんので、実際にどの程度の信頼性かは私は判断できません。ただし、このような将来予測は上記に書いたように、政府や人々がどう反応するかの予測が難しく推定の幅が大きいため、武漢やクルーズ船の数字を用いたリスク評価よりもさらに信頼性は落ちることになります。また、この予測は一番最もらしい推定とその信頼区間が幅として示されています。これを使えば、あり得そうな事態とワーストケースシナリオを分けてリスク評価することができます。

これらの数字を使ってみると、米国の場合は10万人あたりの死者数は19(8~47)人になり武漢シナリオと同程度になります。英国の場合は10万人あたりの死者数は60(42~101)人になり、武漢シナリオよりもさらに2倍程度も大きなリスクになってしまいます。

以上のように、クルーズ船や武漢、米国英国の予測を用いたリスクと比較してみると、日本におけるコロナウイルスの現時点の数字を用いたリスク(10万人あたり死者数0.06人)は非常に低く、今後死者数が100倍になること(10万人あたり死者数6人)を想定してもまだまだ低いほうだということになります。これが前回の記事で書いた「死者数が現状の100倍程度で収まればマシな方」と書いたこととつながります。

さて、この記事の最初に紹介した「新型コロナの米国死者、最大20万人も」という見出しの記事に戻りますが、やはり幅がある数字の大きいほうだけが見出しに踊ったようです。リスクを比較する際はそのことをよく理解する必要があります。

まとめ

リスクの情報を出す際にはその数字の信頼性がどの程度かということを考慮する必要があります。実際の(1)これまでの統計データ、(2)実際のデータだが別のシナリオ、(3)モデルによる予測、ととりあえず3段階くらいに分けましょう。そして情報の送り手は信頼性の程度を同時に出しましょう。最後になる4つめのポイントは数字を多面的に見ることの重要性になります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを比較したいときに押さえおきたいポイント4つ。その4:全体でみるか細かい集団に分けるか
コロナウイルスのリスクは性別や年代、地域によって違うことがわかっています。集団を分けると全体のリスクと異なってくることが今回のポイントです。この記事では東京都に住む60代男性のリスクはどの程度か?日本全体のリスクと比べてどのくらい違うか?などの計算をしてみます。

補足(リスク情報の送り手側へ)

リスクの大きさの情報を出す際には信頼性の程度がどの程度か、という情報を一緒に明示する必要があるでしょう。前回の記事でも紹介したリスクコミュニケーションの専門家である中谷内教授の研究によると、リスク情報はそれが不確実であることを正直に示した方が情報の送り手への信頼度が上がる、という結果があります(災害の事例ですが):
https://doi.org/10.1111/risa.12883

参考

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