コロナ禍の2021年から2022年にかけて日本の死亡リスクのトレンドはどのような変化をしたか?

risk リスク比較

要約

2022年の人口動態統計による死因別死者数や死因別超過死亡のデータを分析しました。他殺や結核・ウイルス性肝炎は減少、一方でコロナ・不慮の事故、老衰、循環器系疾患の増加が目立ちました。年代別では10代後半の女性と100歳以上の死亡率の増加が特徴的となりました。

本文:2021~2022年にかけての日本の死亡リスクのトレンド

新型コロナウイルス感染症による統計上の死者数は2020年に3466人、2021年に16784人、2022年に47657人となりました。

2023年5月8日にコロナは感染症の分類として5類となり、日々の感染者数や死者数の公表はなくなりました。ただし、2023年の1月1日から5月7日までの死者数は17150人であり、2022年の同時期の11484人と比べてさらに増加しています。

さて、今後のコロナ死者数はどのように見ていけばよいのでしょうか?人口動態統計の死因別死者数は5か月後くらいにとりまとめが公表されています。それではさすがに遅すぎですよね。

NHK: 新型コロナ死者数 約2か月後にとりまとめて月1回公表へ 厚労省

新型コロナ死者数 約2か月後にとりまとめて月1回公表へ 厚労省 | NHK
【NHK】新型コロナの死者数の動向を迅速に把握するため、厚生労働省は新たな試算方法でおよそ2か月後に死者数をとりまとめ、今後、月に…

そこで、厚生労働省は、自治体に提出された死亡診断書などに記された「最も死亡に影響を与えた病気」や「死亡の原因となった病気の経過に影響を及ぼした病気」が「新型コロナ」だったケースを分析する新たな試算方法を導入しておよそ2か月後にとりまとめることになり、7日に初めてことし4月分の結果を公表しました。

それによりますと、死亡診断書などで「最も死亡に影響を与えた病気」の欄に新型コロナの記載があった人は550人でした。

さらにこの人数に「死亡の原因となった病気の経過に影響を及ぼした病気」として新型コロナが記載されていた人を加えると1406人でした。

実際に日々発表された死者数の合計は2023年4月で1472人でしたので、「死亡の原因となった病気の経過に影響を及ぼした病気」の数に近いものになっています。すなわち、「最も死亡に影響を与えた病気」としてカウントされた数の倍以上が「コロナ死」として統計上カウントされたことになります。これは2022年以降に流行したオミクロン株の特徴で、もともとあった基礎疾患が悪化して死に至るような間接的な影響が多くなっています。

本ブログではこれまでに、2020年と2021年における日本の死亡リスクのトレンドについてまとめた記事をそれぞれ書いています。今回はこれと同様に2021年と2022年でどのように変化したかに注目してみます。

2020年コロナ禍は日本の死亡リスクのトレンドにどのような影響を与えたか?
2020年の人口動態統計の死因別死者数が公開されました。インフルエンや肺炎などの呼吸器系疾患が大きく減少し、交通事故や火災などの不慮の事故も目立って減少しました。時期的には、2020年の前半が特に平年よりも死者数が減少しています。超過死亡数の国際比較についてもみていきます。
コロナ禍の2020年から2021年にかけて日本の死亡リスクのトレンドはどのような変化をしたか?
2021年の人口動態統計の死因別死者数によると、インフルエンザなどの呼吸器系疾患は2020年に引き続いて減少が目立ちました。自殺の超過死亡は損失余命で比べるとコロナによる損失余命と同等で、年代別に見るとその特徴が大きく異なり、若者ほど自殺の損失余命が大きくなります。

まずはおなじみの人口動態統計を整理し、次に超過死亡について整理します。最後に、年代別死亡率の経年推移がコロナ禍で特徴的な変化を示しているので、それを紹介していきます。

人口動態統計

使用するデータはおなじみの人口動態統計です。死因別死亡数は以下のページの第6表にあります。

厚生労働省:令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況

令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省
厚生労働省の各種統計結果、令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況について紹介しています。

これは死因の中でも簡単分類別というものですが、それでも100種類以上の死因が出てきます。全部並べるとごちゃごちゃするので、昨年と同様に26種類をピックアップして死亡リスク(人口10万人あたりの年間死者数)をグラフに表します。比較のために2021年の死亡リスクも同時に掲載します。死亡リスクの高いものから低いものまで一つのグラフに載せるため、軸は対数にします。

death_rate

「その他の特殊目的用コード」という死因が新型コロナによる死亡を意味します。

2021年に比べて死者数の減少率が最も高い死因(年間100人以上の死者がいる死因に限定)は「他殺」で、17%減となっています(グラフでは両年とも0.2になっているのでわかりにくいですが)。

ほかに10%程度以上の目立った減少が見られたのは
・結核
・C型ウイルス性肝炎
・周産期に発生した病態
です。この3つはコロナ発生後に継続して減少しています。一方で、これまでコロナ発生後に減少を続けた肺炎や喘息は下げ止まりました。

インフルエンザはコロナ発生後に激減した状態が2022年も続いています。

次に死者数が増加した死因も見てみましょう。まずダントツで目立つのは新型コロナになります(2021年の16784人から2022年の47657人へ184%増!)。

次に増加率が高いのは「不慮の溺死及び溺水」で、21%も増えました。「その他の不慮の事故」も18%増と大きく増えています。「転倒・転落・墜落」も13%増と、事故死が全体的に増えてしまっているのです。

ほかに増加しているものとしては、
・老衰(16%増)
・敗血症(14%増)
・高血圧性疾患(14%増)、
・その他の循環器系の先天奇形(13%増)
・誤嚥性肺炎(13%増)
・その他の心疾患(12%増)
・不整脈及び伝導障害(11%増)
・パーキンソン病(11%増)
・糖尿病(11%増)
などでした。目立つのは老衰と循環器系の疾患の増加ですね。老衰はコロナ禍と一見関係なさそうですが、長引く自粛により体力が落ちたり、人と接点が減少したりなどの影響も考えられます。溺死(高齢者の風呂がほとんど)や転倒などの増加も自粛による体力の低下が原因かもしれません。

超過死亡ダッシュボード

上記の統計上の数字とは別に、超過死亡数(平年から予想される死者数を上回る死者の数)も見ていく必要があります。インフルエンザと同様にコロナにおいても超過死亡による死者数の推定が行われています。ただし、コロナ対策が社会経済を大きく変えてしまったので、超過死亡とコロナ死亡との関連付けは単純ではありません。

超過死亡を見るには「日本の超過および過少死亡数ダッシュボード」というサイトが非常に便利です。都道府県別に期間を限定して、超過死亡数の週ごとの推移を知ことができます。いくつかの死因については死因別のデータもあります。

日本の超過および過少死亡数ダッシュボード

まずは2020~2022年にかけての週ごとの超過死亡(すべての死因)を見てみましょう。

excess_death_all

赤の点線が平年から予想される死亡数で、その上下に「このくらいの変動は想定内」というラインが引かれています。青の縦棒グラフが実際の死亡数です。赤の点線よりも下回ると平年よりも少なく、さらにその下のラインを下回ると「統計的有意に」低い(マイナスマークが付される)という意味になります。上側についても同様で、緑のラインを上回ると「統計的有意に」高い(プラスマークが付される)という意味になります。

2020年の前半はおおむね平年よりも低く推移していましたが、2021年になりコロナ第4波と第5波の時期にプラスマークが目立つようになります。2022年に入りオミクロン株が登場し、第6波と第7波の時期にやはりプラスマークが増え、年末には第8波のピークも見えています。プラスマークの数や緑線からの超過の度合いが2021年よりも2022年は大きくなっているのがわかります。

以下に、死因別の超過死亡として、呼吸器系疾患と循環器系疾患の推移も掲載します。基本的に全体の超過死亡とほぼ似たような推移をたどり、コロナの波のときに超過死亡が増加しています。

excess_death_respiratory
呼吸器系疾患の超過死亡
excess_death_circulatory
循環器系疾患の超過死亡

この解釈はなかなか難しいですね。コロナが増えるときは人流が増えているときであり、人流の増加によってコロナ以外の感染症が増え、肺炎などの呼吸器疾患につながった、などの原因があるかもしれません。

また、コロナによって死亡まではしなかったが呼吸器系や循環器系の内蔵にダメージがあり、それによって呼吸器疾患や循環器疾患による死亡が増えた、ということもあるでしょう。

さらに、肺炎などの呼吸器系の疾患で死亡した患者の検査をしたらコロナ陽性でした、みたいな場合に死因をコロナにするか肺炎にするか、などの判断は死亡診断書を書く医師によって異なる場合もあり、両者が同時に増えてしまうということも考えられます。

自殺についても以下に示します。

excess_death_suicide
自殺の超過死亡

2020年前半は低いのですが、後半からプラスマークが2021年前半までずっと続きます。2021年後半になってようやく平年並みに落ち着いてきましたが、2022年の5月ことからまたピークが見られます。コロナ対策の副作用として、景気悪化や雇用悪化、家庭環境の悪化など自殺につながる要因が増えてしまいました。

また、プラスマークがつく時期の前には芸能人の自殺報道があることが多いです。2022年5月のピークについても、3人組お笑いグループメンバーの報道によって残念ながら起こってしまったと考えられます。報道が最後の引き金になってしまうのですね。現在の自殺報道には非常に問題が多く、マスコミの自主規制が求められます。

年代別の死亡率の経年変化

最後に死亡率の経年変化のトピックとして、年代別・男女別死亡率の経年変化を見ていきましょう。これも2022年に大きな変化が出る特徴が見られました。

by-age

まず0-4歳については、死亡率が経年的に減少し続けている年代です。コロナ禍でも上昇は見られませんでした。

次に15-19歳については、男性は減少し続けて2020年以降は横ばい、女性は2015年に最も下がりましたがその後は上昇を続け、2022年では2005年ころの死亡率まで後戻りしてしまいました。これは実にショッキングなグラフです。
(あと気になるのは昔は男が死にすぎじゃないですか!?この年ごろの男ってホントに危険だったんですね)

ここでは80-84歳の例を出していますが40-80歳代はだいたい傾向が同じで、2020年までは減少傾向が続いていましたが、2022年に上昇していることがわかります。これはやはりコロナによる死亡の影響と見られます。

最後に100歳以上について、2020年にいったんポンと減少したのですが、2021年にリバウンドのように増えて、さらに続けて2022年にドンと増えています。2020年は自粛により、コロナ以外も含むさまざまな死因で死者が減少しました。それ以降の増加については、コロナの直接的な死亡も影響しているでしょうし、老衰が大きく増えているので長引く自粛による逆の悪影響も出てきていると考えられます。自粛は短期的にはよかったのですが、長期間になるとむしろ逆効果なのかもしれません(逆効果についてはまだエビデンスがないのですが)。

まとめ:2021~2022年にかけての日本の死亡リスクのトレンド

2022年の人口動態統計の死因別死者数によると、他殺や結核・ウイルス性肝炎は減少、一方でコロナ・不慮の事故、老衰、循環器系疾患の増加が目立ちました。超過死亡についてはコロナ感染拡大の波にあわせて増加しており、コロナ以外にも循環器疾患や呼吸器疾患による死亡もコロナのピークに合わせて増加しています。自殺は芸能人の自殺報道の直後に増加する傾向が明確です。年代別では10代後半の女性と100歳以上の死亡率の増加が特徴的となりました。長期的な自粛による悪影響が出ている可能性があります。

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