GoToせずともStayhomeにリスクありその2:Stayhomeのリスクは家庭内人間関係か?

DV 身近なリスク

要約

コロナ禍にて自殺数の増加や幸福度の減少が見られていますが、これには家庭内暴力(DV)や介護など家庭内人間関係の悪化が関係しているようです。これは家庭内で起こることなのでStayhomeのリスクの一つといえます。特効薬はなさそうなので、経済対策や包括的な自殺対策、DV対策や介護の支援など、これまで通りの地道な対策が求められます。

本文:Stayhomeのリスクは家庭内人間関係

コロナ感染は4月に入り第4波に入ってきたことが鮮明になってきました。旅行や飲食などの自粛はまだまだ続くことでしょう。ところが、家にいさえすればリスクはないのか、といえばそんなことはない、ということを本ブログでは書きました。特にStayhomeのリスクは冬のリスクであることに注意が必要でした。

GoToせずともStayhomeにリスクあり。冬の家庭内のリスクをまとめます。
外出自粛で家に閉じこもっていても、家庭内での溺死、転倒・転落、窒息、火災などでの死者数は合わせて年間1万人以上を超えており、これは多くの人が考えているよりもずっと大きなリスクです。特にこれらは「冬のリスク」と呼べるもので、冬に多く発生するため一層の注意が必要です。

その後、2020年度の死者数統計が出され、全体の死者数は減少し、さらに死因別(9月までのデータ)で見ても、火災や溺死、窒息などStayhomeのリスクに関して死亡率が下がったことがわかりました。これも詳しくは過去記事をご覧ください。

2020年コロナ禍にて死者数は減少(主に高齢者に恩恵)し、幸福度も減少(主に若者と女性に損害)した
2020年の日本ではコロナ禍で逆に全体の死者数が減少しました(主に高齢者に恩恵)。一方で、コロナ禍の中でも特に若者と女性は、学校・仕事・社会経済などの劇的な変化を受けて幸福度が減少し、自殺者数も増加しました。世代・性別により恩恵と損害を受けた層が違っています。

ということはStayhomeのリスクは大丈夫じゃないか、と思われるかもしれません。ところが上記二番目の記事に書いたように、問題は自殺者の増加と幸福度の低下(特に女性と若者)にあります。

ん?それはStayhomeのリスクとは関係ないよね?

ここでツッコミが入ってしまいましたが、実はいろいろな関係があります。例えば、以下のように、自殺対策団体がコロナの影響で活動縮小を余儀なくされた、などがあります。

厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センター:新型コロナ感染症の影響で「83.6%の自殺対策民間団体が支援活動を制限、休止」

厚生労働大臣指定法人・一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター
「自殺総合対策=生きることの包括的支援」のハブ(つなぎ役)として、『誰も自殺に追い込まれることのない社会』の実現を目指します。

この中では、スタッフが出勤できなくなった、施設の利用ができなくなった、対面の相談ができなくなった、行政から活動自粛要請があった、などの理由が挙げられています。スタッフが高齢でありコロナ重症化リスクが高いため、特に活動が制限されているとのことです。

Stayhomeしながらリモートワークすればよいじゃないかとも思われますが、自殺相談は相談を受ける人にとっても精神的なダメージが大きいため、一人で家にこもってやるのは相談員のメンタルへのリスクが高くなってしまいます。

他にどんな影響があるのか、本記事ではStayhomeと自殺者増加・幸福度低下の関係性について書いていきます。注目すべき要因として、心理的苦痛の要因を調べた研究の結果など、いくつかの資料から、家族間の人間関係がリスクの要因になっていることが明らかになってきました。

新型コロナ流行下の日本人の不安・抑うつの危険因子

最近出てきた論文(査読前のプレプリントであることに注意が必要)から、新型コロナ流行下の日本人の不安・抑うつの危険因子を見ていきます。

Yoshioka et al (2021) Factors Associated with Serious Psychological Distress during the COVID-19 Pandemic in Japan

Factors Associated with Serious Psychological Distress during the COVID-19 Pandemic in Japan
Importance The coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic may have a negative impact on mental health of the population, leading to higher...

2020年8-9月に約25000人に対してインターネット調査が行われました。このうち約10%に心理的苦痛(不安・抑うつ)の症状が見られましたが、心理的苦痛を上昇させる要因として有意だった要因は、女性、15-44歳の若年層、低所得層と高所得層、自営業、介護者の存在、ドメスティックバイオレンスの経験、新型コロナへの恐怖であった、との結果になっています。

この結果は女性と若者で自殺者増加&幸福度低下が見られることと一致しています。注目すべきは、この要因の中で特に影響が大きいのが介護者の存在とドメスティックバイオレンス(DV)の経験の2つであったことです。15-29歳の若年女性に限定してもこの2つの要因が大きかったと結果です。

介護あるいはDVは両方とも家庭内で起こることです。Stayhomeの時間が増加することで介護のストレスが増加したり、DVの被害が大きくなることは容易に想像できます。このように、家庭内人間関係がStayhomeのリスクになっている現状が浮かび上がります。

このようなコロナ禍における家庭内人間関係のリスクは日本だけではなく、世界中で見られるようです。

Usher et al (2020) Family violence and COVID‐19: Increased vulnerability and reduced options for support. International Journal of Mental Health Nursing, 29(4) 549-552.

Handle Redirect

以下、論文中からいくつか例を挙げてみます。どの国もひどい状況ですね。
・オーストラリアでは、家庭内暴力のサポートに関連するGoogle検索が75%増加した
・フランスではロックダウンの実施後、家庭内暴力の苦情が32~36%増加した
・英国の全国家庭内暴力ホットラインでは、外出禁止令が実施されてから電話が25%増加した
・米国の各州で家庭内暴力事件が21~35%増加した
・中国では2020年2月に報告された家庭内暴力事件が前年の3倍に増加した

自殺対策推進センターや内閣府調査の報告内容とでも家族間の人間関係が問題に

次に、「2020年コロナ禍にて死者数は減少(主に高齢者に恩恵)し、幸福度も減少(主に若者と女性に損害)した」の過去記事でも紹介した下記のレポートを再掲してみます。

厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センター:コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)
https://3112052d-38f7-4601-af43-2555a2470f1f.filesusr.com/ugd/0c32a8_91d15d66d1bf41a69a1f41e8064f4b2b.pdf


さらに細かく、「性別×同居人の有無」と「性別×職の有無(有職か無職か)」について分析したところ、7 月において「同居人がいる女性」は男女全体の自殺死亡率を 0.7 上昇させ、「無職の女性」は 0.6 上昇させていることが分かった。8 月においては「同居人の有無」や「職の有無」が「不詳」となっている部分が多いが、それでも 7 月同様に、「同居人がいる女性」と「無職の女性」が、男女全体の自殺死亡率を上昇させている。

ここでは同居人がいることが自殺率を押し上げているという結果になっており、家庭内人間関係がリスクとなっていることが示唆されます。また、相談窓口に寄せられて声として、関係するものをピックアップすると以下のようなものがあります。


「コロナでパートの仕事がなくなり、夫からは怠けるなと毎日怒鳴られる。こんな生活がずっと続くなら、もう消えてしまいたい」
「子どもが発達障害で子育てがとても大変なのに、ステイホームでママ友とも会えず、実家にも帰れない。子どもの検診もなくなって、ひとりでどうやって子育てをしていけばいいのか分からない。死んで楽になりたい」
「母親がずっと家にいてイライラしており、自分がストレスのはけ口にされている」

ということで、以下の2つのルートによってStayhomeのリスクが増加したものと考えられます
1.コロナ感染拡大->外出自粛で家にいる時間が増加->もともと良くなかった家庭内人間関係がさらに悪化
2.コロナ感染拡大->景気悪化->雇用悪化->仕事がなくなり家にいる時間が増加->もともと良くなかった家庭内人間関係がさらに悪化

これは、上記過去記事にも書いたように、「男性の場合は家族と過ごす時間が増加したほうが生活満足度の下落幅が小さく、一方女性の場合は家族と過ごす時間が増えたほうが満足度の下落幅が大きかった」という内閣府の調査結果とも一致しています。

内閣府:満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)

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自殺リスクの大きさは慎重に見る必要がある

ということで、コロナ禍でのStayhomeのリスクが家庭内人間関係にあることがわかってきました。「自殺増加は経済の悪化が原因だから一律給付を!」という声もありますが、経済の悪化が原因ではあるものの、給付しただけでは家庭内人間関係の解決にはなかなかつながらなさそうです。

一方で、昨今の情勢から女性と若者だけに焦点があたりがちですが、もう少し全体を慎重に見る必要もあるのではと思います。自分でデータを分析してみようと思いましたが、下記の記事にとてもよくまとまっているので、これを参考にします。

日本経済新聞:自殺11年ぶり増 コロナ影響か、女性や若者が増加

自殺11年ぶり増 コロナ影響か、女性や若者が増加 - 日本経済新聞
警察庁と厚生労働省が16日に発表した2020年の自殺者数(確定値)はリーマン・ショック後の09年以来、11年ぶりに増加した。女性や若年層の自殺が増えている。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、経済的な苦境に追い込まれたり、孤立に陥ったりする人が増えているとみられる。16日、警察...

いろんなデータが出てくるのですが、まとめると以下のようになります:
・全体の自殺者数は減少のトレンドにあって、増加に転じた2020年でも2017年と同レベルである
・若者の自殺が増えたといっても、自殺者全体に対して若者の割合がそれほど高いわけではない
・女性が増えたといっても、やはり男性のほうが相当(2倍以上)自殺者数が多い
・動機については健康問題が最も多い

つまり、コロナ禍が関係する自殺は自殺全体の中では大きなものとはいえず、女性・若者への支援の拡充が必要だ、ということ自体はよいと思いますが、全体的な自殺リスクの低減にはこれまで通りの包括的な支援が必要だということになりますね。

まとめ:Stayhomeのリスクは家庭内人間関係

以下にまとめるように、コロナ禍における自殺数の増加や幸福度の減少には家庭内人間関係が関係しているようです:
・心理的苦痛の要因として大きいのが介護者とDV、つまり家庭内の人間関係に起因している。
・世界的にコロナ禍ではDVが増加している。
・同居人がいることが女性の自殺率を押し上げている。
・経済の悪化により職を失い、または外出自粛により家にいる時間が増えている。

これは家庭内で起こることなのでStayhomeのリスクの一つといえます。特効薬はなさそうなので、経済対策や包括的な自殺対策、DV対策や介護の支援など、これまで通りの地道な対策が求められます。

補足

上記の日本経済新聞の記事では、「昨年下半期に急増、著名人死去も影響か」という見出しもあります。

自殺者数の時系列推移を見ると、2020年4月あたり(第1波のピーク)で自殺者数が低くなっていますが、これは社会の危機的状況で生存本能が高まったり、苦しいのは自分だけではないという意識が働いたようです。その後、2020年7月にどんと増加し、さらに10月にどんと増加しています。これは、この時期に著名人の自殺報道があったため、と見られています。

これは人生に悩んでいる人の自殺衝動に引き金を引いてしまう「ウェルテル効果(マスメディアが大衆に自殺行動を誘発する作用)」と呼ばれており、反対に「パパゲーノ効果(マスメディアが大衆の自殺行動を防止する作用)」などもあります(以下の論文参照)。このように、自殺報道は影響力を持っており、このようなブログ記事でもそのような影響力を意識して書く必要があるようです。

Werther効果とPapageno効果:自殺予防におけるマスメディアの功罪について
http://cont.o.oo7.jp/40_1/p215-20.pdf

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