2020年コロナ禍にて死者数は減少(主に高齢者に恩恵)し、幸福度も減少(主に若者と女性に損害)した

well-being 幸福

要約

2020年の日本ではコロナ禍で逆に全体の死者数が減少しました(主に高齢者に恩恵)。一方で、コロナ禍の中でも特に若者と女性は、学校・仕事・社会経済などの劇的な変化を受けて幸福度が減少し、自殺者数も増加しました。世代・性別により恩恵と損害を受けた層が違っています。

本文:2020年コロナ禍で死者数と幸福度が減少

本ブログでは頻繁に活用させていただいている人口動態統計の2020年の速報値が公表され、年間死亡数が11年ぶりに減少したという結果になりました。私もコロナ禍において、コロナによる死者数に対してむしろ活動自粛によって全体の死者数は減るかもしれないと思っていました。それでも実際に減少したというデータを見て驚いています。

日本経済新聞:年間死亡数11年ぶり減 コロナ対策で感染症激減

年間死亡数11年ぶり減 コロナ対策で感染症激減
2020年の国内の死亡数は前年より約9千人減少したことが22日分かった。死亡数は高齢化で年平均2万人程度増えており、減少は11年ぶり。新型コロナウイルス対策で他の感染症が流行せず、コロナ以外の肺炎やインフルエンザの死亡数が大きく減少したためとみられる。厚生労働省が22日に発表した人口動態統計(速報)によると、20年に死...

一方で、トータルのリスクは減ったと喜んでばかりはいられないようです。昨年秋ころから自殺者数が増加していることが報じられてきているように、特に若い人や女性の精神面への悪影響が大きくなっているのかもしれません。

nipponcom:【Japan Data】児童生徒の自殺、過去最多の479人 : 女子高校生が前年から倍増

【Japan Data】児童生徒の自殺、過去最多の479人 : 女子高校生が前年から倍増(nippon.com) - Yahoo!ニュース
緊急事態宣言に伴う長期の休校。部活も家族での旅行もできず自宅でぼんやり過ごす毎日。あふれるエネルギーを発散できずに、子どもたちは大人とは違うストレスを感じていたに違いない。

本記事では2020年に死者数は減ったが幸福度も減ったという現象について書いていきます。幸福度との関係が高いと考えられる自殺の傾向についても見ていきます。

死者数の減少

人口動態統計速報は2か月遅れで出てきますが、死因別・年代別などの数字などが出ていないため、まだ細かな解析ができる状況ではありません。死因別の情報は5か月遅れで出てきます。今回発表された結果のポイントは以下のようになっています。

人口動態統計速報(令和2年12月分)

人口動態統計速報(令和2年12月分)|厚生労働省
人口動態統計速報(令和2年12月分)について紹介しています。

【調査結果のポイント】(令和2年 1 月~12 月速報の累計)
・出生数は、872,683 人で過去最低 (対前年 25,917 人減少 △2.9%)
・死亡数は、1,384,544 人で 11 年ぶりの減少 (同 9,373 人減少 △0.7%)
・自然増減数は、△511,861 人 (同 16,544 人減少)
・死産数は、17,894 胎で減少 (同 2,107 胎減少 △10.5%)
・婚姻件数は、537,583 組で昭和 25 年以来の減少率 (同 78,069 組減少 △12.7%)
・離婚件数は、196,641 組で減少 (同 16,314 組減少 △7.7%)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2020/dl/202012-houdou.pdf

死亡数が11年ぶりの減少となっており、高齢化により年間死者数はずっと増加傾向にあったため、減少するのは異例のことと言えます。他にも、出生数が過去最低、婚姻件数の減少率も大きくなっています。コロナ禍によって結婚の機会が減少した影響が見られます。出生への影響は2021年のほうが大きくなると思われます。

若者の死者数はもともと低いですから、死者数減少の恩恵を受けたのは高齢者が中心ということになります。一方で、婚姻・出生の減少は若者世代が損害を受けていると考えられますね。世代によって恩恵と損害を受けた層が違う、ということになります。

死因についても9月までの情報で見てみましょう。1~9月までの累計を年間死亡率に換算し、2019年との比率を計算します。2019年よりも死亡率が10%以上減少したのは、以下のものです。
・結核
・C型ウイルス性肝炎
・その他のウイルス性肝炎
・喉頭の悪性新生物<腫瘍>
・インフルエンザ
・肺炎
・急性気管支炎
・慢性閉塞性肺疾患
・喘息
・胃潰瘍及び十二指腸潰瘍
・その他の先天奇形及び変形
・交通事故
・煙,火及び火炎への曝露

人口動態統計月報(概数)(令和2年9月分)

人口動態統計月報(概数)(令和2年9月分)|厚生労働省
人口動態統計月報(概数)(令和2年9月分)について紹介しています。

感染症や呼吸器疾患の減少が目立ちます。人との接触がどれくらい呼吸器疾患のリスクを高めるかという実証になりました。胃潰瘍が減ったのは飲み会が減ったからでしょうか?

密になる電車に乗ることを嫌って自動車に乗ることが増加するため、交通事故の死者は増えるのではないかと想像していましたが、逆に10%以上減少という結果です。人出自体が大きく減ったということでしょう。ただし東京では増えているようです。

交通事故の死者17%増 コロナ禍の2020年東京都内 発生件数は大幅減も重大化

交通事故の死者17%増 コロナ禍の2020年東京都内 発生件数は大幅減も重大化 | 乗りものニュース
死者数は減少から一転。重大事故が増えているようです。

火災以外にも溺死や窒息の死亡率も下がっており、stayhomeのリスクも下がっています。本ブログの過去記事では外出自粛によりstayhomeのリスクに注意すべきことを書きましたが、少なくとも9月までの時点では増加するどころか減少しています。

GoToせずともStayhomeにリスクあり。冬の家庭内のリスクをまとめます。
外出自粛で家に閉じこもっていても、家庭内での溺死、転倒・転落、窒息、火災などでの死者数は合わせて年間1万人以上を超えており、これは多くの人が考えているよりもずっと大きなリスクです。特にこれらは「冬のリスク」と呼べるもので、冬に多く発生するため一層の注意が必要です。

ところで、この辺の状況は欧米とはかなり異なるようです。フランスでは死亡率が9%上昇、米国の平均寿命は1歳縮まり、人種による差も拡大しています。

ロイター:仏、20年の死亡率が9%上昇 新型コロナで

仏、20年の死亡率が9%上昇 新型コロナで
フランス国立統計経済研究所(INSEE)は15日、2020年の全体の死亡率が過去2年から9%上昇したとの暫定データを発表した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が要因という。

CNN:米国の平均余命、1歳縮む 昨年上期の推計値

米国の平均余命、1歳縮む 昨年上期の推計値
2020年上半期の米国の平均余命が1歳縮んだことが、米疾病対策センター(CDC)の18日発表の報告書でわかった。専門家からは新型コロナウイルス感染症(Covid―19)が大きな影響を及ぼしたとの見方が出ている。

若者と女性の幸福度が特に下がった

日本の死者数がコロナ禍においても減少したこと自体は良いニュースですが、やはり日常の活動を制限した影響により幸福度は減少したようです。ここでは内閣府による「満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)」を見てみましょう。

内閣府:満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード) 

満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード) - 内閣府
満足度・生活の質を表す指標群を公開しています。内閣府。

この中の「第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を見ると、p61に「6.生活全体の満足度(全員)」という調査結果があり、11段階で回答する生活満足度(補足参照)がコロナ禍前に比べて下がっていることを示しています。特に10代・20代は他の世代よりも、そして男性よりも女性のほうが下げ幅が大きくなっています。

上記の調査は2020年12月のもので、割と最近の結果です。ただし、時系列で見るともう少し違う傾向が見えてきます。上記の同じページに掲載されている「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書のほうは2020年5月(1回目の緊急事態宣言解除直後)の調査です。この中のp94「第2章 with コロナの暮らしと満足度」を見ると、女性のほうが男性よりも生活満足度の減少幅が大きいことは2020年12月の調査と同じですが、年代別のほうはちょっと違います。2020年5月の時点では若者世代よりも60代・70代のほうが満足度の下げ幅が大きかったのです。

1回目の緊急事態宣言の時点では、コロナに対する恐怖感がピークで、高齢者にとっては自分の生命が脅かされる恐怖心が強かったのではないでしょうか。その後徐々に日常を取り戻していきますが、高齢者よりも若者のほうが満足度の回復度合いが小さくなりました。仕事をリタイアして年金で生活している高齢者にとっては経済活動の制限の影響は小さかったのかもしれませんが、若者にとっては学校・仕事・経済の状況が激変して、メンタルヘルスへの悪影響がより大きかったのかもしれません

もう一つ興味深かった点は、男性の場合は家族と過ごす時間が増加したほうが生活満足度の下落幅が小さく、一方女性の場合は家族と過ごす時間が増えたほうが満足度の下落幅が大きかったことです。おそらく普段から家事・育児をやらなかった旦那が突然家にいる時間が長くなると、奥さんのほうはストレスがたまってしまうのかもしれません。私自身も家族との時間が増えて生活満足度が上昇したと思っているので、この結果は重く受け止めます。。

若者と女性の自殺率も上がった

さて、冒頭に自殺者数が増加しているニュースを紹介しましたが、2020年の自殺についてより詳細に解析した論文が公表されています。東大からプレスリリースも出ています。

Sakamoto (2021) Assessment of Suicide in Japan During the COVID-19 Pandemic vs Previous Years. JAMA Network Open. 2021;4(2):e2037378.

Assessment of Suicide in Japan During the COVID-19 Pandemic vs Previous Years
This cross-sectional study examines suicide rates in Japan during the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic in 2020 compared with 2016 to 2019.

プレスリリース
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20210208.pdf

この研究の解析によって、2020年の自殺率は2016~2019年と比べて、男性では10月と11月、女性では7月から11月に増加していることが明らかとなりました。特に30歳未満の男性と、30歳未満・30~49歳の女性で増加が顕著であったとのことです。幸福度が減少しているのは若者と女性であり、自殺率が増加している層と一致しています。

若者と女性は特に景気後退の影響を受けやすく、非正規雇用や特に影響の大きかった外食・観光業などのサービス業で特に割合が高くなっていることとの関連が示唆されています。

(以下、2021年3月3日追記)
さらに、以下のレポートも参考になります。

厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センター:コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)
https://3112052d-38f7-4601-af43-2555a2470f1f.filesusr.com/ugd/0c32a8_91d15d66d1bf41a69a1f41e8064f4b2b.pdf

自殺に関する相談として、配偶者と暮らす女性から「コロナでパートの仕事がなくなり、夫からは怠けるなと毎日怒鳴られる。こんな生活がずっと続くなら、もう消えてしまいたい」といった相談や、シングルマザーの母親から「子どもが発達障害で子育てがとても大変なのに、ステイホームでママ友とも会えず、実家にも帰れない。子どもの検診もなくなって、ひとりでどうやって子育てをしていけばいいのか分からない。死んで楽になりたい」といったような相談が多く寄せられている。


これも自殺に関する相談として寄せられた声に関する考察だが、自殺対策 SNS 相談「生きづらびっと」には、女子中高生から「休校明けでクラスが変わりなじめなくてつらい」「母親がずっと家にいてイライラしており、自分がストレスのはけ口にされている」「オンライン授業についていけず、高校を辞めたい」といった相談が日々寄せられており、コロナ禍で多くの児童生徒が様々な問題を抱え込んでいる可能性があるとみられる。

これは、女性の方が家族との時間が増えたことで幸福度の減少幅が大きくなっている、という内閣府の調査結果の原因を示していると考えられます。

まとめ:2020年コロナ禍で死者数と幸福度が減少

日本で死者数が減少したのは欧米とは状況が異なっており、国民が感染拡大防止に努めた結果、コロナ以外の感染症(インフルエンザなど)による死者が大きく減りました。

コロナ禍の中でも特に若者と女性は、学校・仕事・社会経済などの劇的な変化を受けて幸福度が減少し、自殺者数も増加しました。一方で日本全体の死者数減少の恩恵を受けたのは主に高齢者だと考えられます。つまり、世代や性別によって恩恵と損害を受けた層が違う、ということになります。

補足

生活満足度を0~10の11段階で評価する手法は幸福度(その中でも主観的幸福度と呼ばれるもの)を測定する手法として一般的なものとなっています。OECDや国連が測定している幸福度もこのようなものです。これについては本ブログの過去記事をご覧ください。

リスクと幸福はどんな関係にあるのか?その2:OECDが測定する幸福度とリスク
OECDが測定する幸福度は、主観的幸福度と能力アプローチ(健康、教育、所得などの自分の人生の機会を拡大する因子)、公正な配分という3つのアプローチからなる11の側面で評価するものです。指標としては平均寿命、大気汚染、殺人率などリスクの指標と重なるものもあります。
リスクと幸福はどんな関係にあるのか?その4:国連の世界幸福度報告は単なるランキング以上の優れモノ
国連の世界幸福度報告(World Happiness Report)の2020年度版について紹介します。ニュースなどでは単なるランキングモノとして扱われますが、幸福度と健康・環境リスクとの関係や、流行りのSDGsとの関係も示されており、さまざまなトレードオフ関係を幸福度という一つの統一指標で表現できる可能性を見せてくれます。

国連の調査の2020年度版では、日本は生活満足度の平均が5.87で、156か国中62位です。2020年3月の公表ですからおそらく調査自体はコロナ禍前と思われます。内閣府の調査でも、コロナ禍前(2020年2月)の生活満足度は平均5.8ですから、かなり再現性の高い調査ですね。

(以下、2021年3月3日追記)
以下は相談先のリンクとなります。
・#いのちSOS(電話相談)https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
・よりそいホットライン(電話相談)https://www.since2011.net/yorisoi/
・生きづらびっと(SNS 相談)https://yorisoi-chat.jp/
・厚生労働省 相談先一覧 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html
・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)https://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php

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