成年年齢の18歳引き下げにともない、なぜ「お酒は18歳から」にならなかったのか?

alcohol 基準値問題

要約

飲酒開始年齢の根拠はアルコールの有害性などの科学的根拠ではなく「20歳以上は成年であるから」であったため、成年年齢が18歳に引き下げられると自動的に「お酒は18歳からOK」になるはずです。ところが飲酒開始年齢の引き下げに動いた自民党に対して日本医師会が撤回要求をしたため先送りになったようです。

本文:なぜお酒は18歳からにならないのか?

2022年4月1日から、民法改正に伴って成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。主に、
① 一人で有効な契約をすることができる年齢
② 親権に服することがなくなる年齢
が18歳になります。さらに、女性の婚姻開始年齢が16歳から18歳に引き上げられます。

ただし、お酒やタバコ・競馬などのギャンブル・猟銃の所持など、20歳以上のままに維持されるものもあります。制度的にはかなりややこしいものになりますね。

Q4 お酒やたばこが解禁される年齢も18歳になるのですか?
A 民法の成年年齢が18歳に引き下げられても,お酒やたばこに関する年齢制限については,20歳のまま維持されます。また,公営競技(競馬,競輪,オートレース,モーターボート競走)の年齢制限についても,20歳のまま維持されます。  これらは,健康被害への懸念や,ギャンブル依存症対策などの観点から,従来の年齢を維持することとされています。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00238.html#4

本来、お酒は20歳以上という要件は、アルコールの有害性などの科学的根拠というよりも「20歳以上は成年であること」が根拠となっています。そのため、成年年齢が18歳になれば自動的に「お酒も18歳以上から」になるはずなのです。ところがそうなっていないのはなぜなのか?という疑問が出てきます。

本ブログでは基準値の根拠についてをメインコンテンツの一つとしており、これも早速調査してみたいと思います。

基準値問題
「基準値問題」の記事一覧です。

本記事では、まずそもそもなぜこれまでお酒は20歳以上だったのかを改めて整理し、次に、18歳に引き下げられたものと20歳以上のままに維持されたものの違いを見ていきます。最後に、なぜ18歳以上にならなかったのかの経緯を整理します。あまりスッキリとした結論は得られませんでしたが、これもいつものように「基準値あるある」になっています。

そもそもなぜお酒は20歳からか?

まずは、そもそもなぜこれまでお酒は20歳以上だったのかを改めて整理しましょう。国税庁のページに「未成年者がお酒を飲んではいけない5つの理由」というのがあります。

1.脳の機能を低下させるおそれがあります
2.肝臓をはじめとする臓器に障害を起こしやすくなります
3.性ホルモンに異常が起きるおそれがあります
4.アルコール依存症になりやすくなります
5.未成年者の飲酒を禁じる法律があります

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/campaign/h28/Apr/03.htm

ここで出てくる疑問は
・「未成年者」の飲酒を禁じるなら成年が18歳に引き下げられるとどうなるのか?
・アルコールに害があるのはわかるが、なぜ「20歳(19歳でも21歳でもない)」なのか?
の2点です。

上記は平成28年に作成されたページですが、令和4年版は以下のとおり、「未成年」という言葉が「20歳」に置き換えられています。

20歳未満の者の飲酒防止の推進|国税庁

「20歳」の根拠については拙著「基準値のからくり」に詳しく書かれていますが、当該部分は以下で読むことができます。

なぜ「お酒は20歳から」に決まったのか?――意外すぎるその理由とは(村上 道夫,永井 孝志,小野 恭子,岸本 充生)
賞味期限、放射線量、電車内での携帯電話……私たちはさまざまな基準値に囲まれて、超えた/超えないと一喜一憂して暮らしています。しかし、それらの数字の根拠を探ってみると、じつに不思議な決まり方をしているものが多いようです。

その理由は、1947年の青少年禁酒法案に関する参議院会議録に見ることができる。飲酒禁止を25歳未満にまで引き上げるべきだという発案に対し、当時の政府委員はこう答弁している。

「年齢満二十歳以上の者は民法上も完全な能力者であり、公法上は選挙権を有し、国政に参与いたしておる者でありまして……」

つまり、20歳になれば自己責任がとれるなど、法律の面で自立する「成年」となるから、というわけである。

20歳は「成年だから」お酒OKになったわけです。そして20歳が成年とされた根拠は以下のとおりで、「欧米人よりも日本人は精神的に成熟していてかつ寿命が短い」からなのです。つまり、アルコールの有害性などの科学的根拠がベースとなっているわけではないのです。


その根拠は、1876年(明治9年)の太政官布告にまでさかのぼる。当時、欧米諸国が21-25歳程度を成年年齢と定めていたのに対し、それらの国の文明・制度に学んでいた日本は、より若い年齢を成年とした。その理由が面白い。欧米人と比べ、日本人が「精神的に成熟している」ことと、「平均寿命が短い」ことから、20歳が成年年齢として採用されたのである。

これは、以下の資料からも見ることができます。

法制審議会民法成年年齢部会第1回会議(平成20年3月11日開催):配布資料3 民法の成年年齢が20歳と定められた理由等

法務省:法制審議会民法成年年齢部会第1回会議(平成20年3月11日開催)
法務省のホームページです。

つまり、2022年4月から18歳が「法律的に自立した成年」になるということは、この根拠に従って「お酒は18歳から」にならなければおかしいのです

年齢要件はさまざま、規定する法律もさまざま

今回の民法改正に伴って、18歳に引き下げになるもの、20歳のまま維持されるものとさまざまな年齢要件があり、以下のページの「成年年齢の引下げに伴う年齢要件の変更について」という資料にまとまっています。

法務省:民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について

法務省:民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について
年齢要件
https://www.moj.go.jp/content/001261083.pdf

これめちゃくちゃ面白いですよね。18歳に変更する要件、20歳のまま維持される要件があり、それぞれに法律上これまで「20歳」と規定されていたものや「未成年」と規定されていたものがあり、グチャグチャになっています。これまでは20歳=成年だったので、「20歳未満」と規定しても「未成年」と規定しても同じだったものが変わってきてしまいます。

医師免許も18歳になるというのは驚きです。実質上引き下げる意味がないのですが、20歳以上に維持するには現状「未成年」と規定されているものをわざわざ法改正する必要があるので面倒なんでしょうね。

飲酒については「未成年者飲酒禁止法」という法律の名称自体を変更する必要がありました。名称を変えないと18歳以上OKという意味の名称になってしまうからです。この法律は大正11年(1922年)にできた法律でちょうど100年の節目をむかえます。

ただし、法律の条文には「未成年」ではなく「満二十年ニ至ラサル者」と書いてあるので(大正ロマン感ある条文ですね!)、条文は変更する必要がありません。法律の名称と条文があわないので名称だけの変更になります。

未成年者飲酒禁止法 | e-Gov法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

そして、2022年4月1日以降は「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」に改名されます。この名称には正直ぶったまげました!今さら法律の名称に大正ロマン感出す必要なくないですか?こんなことするなら条文のほうを現代語に変えてほしかったです。

二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律 | e-Gov法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

なぜ「お酒は20歳から」のままに維持されたのか

前置きが非常に長くなってしまいましたが、なぜ「お酒は20歳から」のままに維持されたのかに迫ります。

成年年齢引き下げの検討を行った法務省の法制審議会 民法成年年齢部会(2008-2009年に開催)を調べたところ、飲酒開始年齢に関する議論は全く見つかりませんでした。これはちょっと肩透かしです。

法務省:法制審議会民法成年年齢部会

法務省:民法成年年齢部会

ただ、ちょうどこの時期にやはり飲酒開始年齢の話題は盛り上がっていたようで、以下のシンポジウムでも議論がされています。「資料2 未成年者の飲酒可能年齢について」を見ると、医学的見地からは引き下げに否定的な意見が出ています。

厚生労働省 平成21年度アルコールシンポジウム「アルコール問題を考える」

平成21年度アルコールシンポジウムの開催について|厚生労働省
平成21年度アルコールシンポジウムの開催についてについて紹介しています。

次に成年年齢引き下げに伴う環境整備に関する検討を見ても、若者の自立支援、消費者被害、AV問題、成人式のあり方などが議論されていますが、ここでも飲酒開始年齢の議論は見つからないのです

法務省:成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議

法務省:成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議

行政における表立った議論が見つからず困りました。ただヒントとなりそうなものは以下のニュースです。ネットで調べられる範囲でわかったのはここまででした。

日医online:飲酒及び喫煙年齢の引き下げ案の撤回を要求

飲酒及び喫煙年齢の引き下げ案の撤回を要求
横倉義武会長は、自民党の「成年年齢に関する特命委員会」が、民法上の成年年齢を20…

横倉義武会長は、自民党の「成年年齢に関する特命委員会」が、民法上の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることに伴い、飲酒及び喫煙の禁止年齢も18歳未満に引き下げることが妥当であるとの提言案を示したことに対し、「医療の専門家として、この提言内容は容認しがたい」と述べ、撤回を求めるとともに、同日、自民党の稲田朋美政務調査会長に申し入れを行ったことを報告した。

この申し入れは2015年9月9日付で、18歳引き下げに反対という内容です。この後の2015年9月17日付で自民党政務調査会は成年年齢に関する提言を公表し、飲酒開始年齢の引き下げについては賛否両論あり引き続き検討する、という内容になっています

自由民主党政務調査会:成年年齢に関する提言

成年年齢に関する提言 | 政策 | ニュース | 自由民主党
国民投票の投票権を有する者の年齢及び選挙権を有する者の年齢が満18歳以上とされたことを踏まえ、新たに大人となる年齢層を含めた我が国の国家像等を勘案しつつ、民法、少年法その他の法律の規定における成年年齢...

つまり、18歳に引き下げるべきというトーンになっていた自民党政務調査会の提言が、日本医師会の撤回要求によりトーンダウンして先送りになった、ということがうかがえるのです。

先ほど書いたように、いろいろな法律の条文を変更するのは手間がかかるので、医師免許の例のように変更せずに済むものはなるべくそのままにしておきたいでしょう。20歳以上で維持するには未成年者飲酒禁止法の条文を改正する必要がなく、自民党が先送りにしたため行政による検討すら行われなかった、という事情が想像されます。もしも条文のほうにも「未成年」と規定されていたら結果が変わったかもしれません。

ただし、日本医師会の申し入れは18歳への引き下げに反対しているだけで、そもそもの飲酒OKの根拠(成年であるから)との関係は示されていません。医学的見地からはそもそもなぜ20歳でOKかという説明はできないので、この点はきちんと明らかにしてほしいと思います。

まとめ:なぜお酒は18歳からにならないのか?

飲酒開始年齢の根拠は「成年であること」であったため、成年年齢が18歳に引き下げられると自動的に「お酒は18歳からOK」になるはずです。ただし、未成年の飲酒を禁じる「未成年者飲酒禁止法」は、法律の名称は「未成年」であるのに条文では「20歳未満」と規定されています。これを引き下げようとした自民党に対して日本医師会が撤回要求をしたためトーンダウンし、法律の条文が改正されなかった(名称のほうが改正)という事情がうかがえました。

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