地元(北海道岩内町の周辺)の歴史とリスク

tomari その他

2020年もお世話になりました。年末年始のためいつものブログ記事の更新はお休みです。かわりに地元の歴史のことなどをエッセイ風に書いた記事を掲載します。

洞爺丸台風とマルチリスク

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北海道の積丹半島周辺の地図。地図の出典は地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/)。

地元の歴史というものは案外知らないものだ。私は北海道の出身であるが、そもそも歴史の教科書に北海道が登場するのは明治維新時の五稜郭の戦いくらいである。そのため北海道には歴史がないものと思っていた。そして最近になって漫画「ゴールデンカムイ」を読んでアイヌの歴史のことなど全く知らない自分が恥ずかしくなった。北海道にも歴史があったのだなどと今更ながら思うようになっている。

ところでリスクも歴史に学ぶことが大事だ。歴史と言っても戦国時代のようなものではなく主に戦後から始まる現代史になる。私にとっての歴史的大災害は私の地元岩内町の大火である。これは岩内の人間なら知らない人はいない。何かにつけて周りの大人たちから言われ続けてきた岩内人の傷である。昭和29年に町の8割に上る3000戸以上が焼失し、一夜にしてまさに町全体が焼け野原と化してしまった。これは日本の戦後の火災として3番目の規模となる(1位は1952年の鳥取大火で5000戸以上が被災)。

もう一つの北海道の重要な歴史的大災害は、青函トンネルを計画するきっかけとなった日本最大の海難事故である洞爺丸沈没事故である。これは昭和29年9月26に台風15号(洞爺丸台風とも呼ばれる)によって引き起こされた。北海道の函館と本州の青森を結ぶ青函連絡船の一つである洞爺丸は、台風の接近によって一旦は運航を中止したが、晴れ間がのぞいたことで台風の目が通過したと判断した船長が出港を決断した。当時台風の進路予測はすでに始まっていたものの、衛星画像もなく現代と比べて貧弱なものであった。船長が台風の目と判断したものも実は閉塞前線というものであったらしい。そして出港後に洞爺丸は激しい波風により転覆し、乗員乗客1314人のうち1155人が死亡した。これは世界の海難事故において3番目の死者数となる(1位は1912年のタイタニック号の約1500人)。中学や高校の修学旅行で何も考えずに青函トンネルを通ったが、こういう歴史的経緯をきちんと教わっていたかったと思う。

この二つの災害は私の中では別々に記憶されていた。大火は小さいころから周りの大人達から刷り込まれた記憶で、洞爺丸事故の方は大人になってから知識として得たことである。その二つの災害が実は同一の台風によって引き起こされたものであることを知ったのはここ数年のことである。この台風は台風そのものの被害も大きかったが、記録的な海難事故と大火をも引き起こすマルチリスクに発展した。自分の中で全く接点を持たない二つの記憶が重なったことは私にとってはかなりの衝撃だった。

事実は小説よりも奇なり?堀株(ほりかっぷ)を救ったものとは?

岩内の大火は記録的な大災害であったが、世間の目は洞爺丸事故の方に集中し、ニュース等での扱いは非常に小さなものに留まったようである。この岩内大火の小さな扱いに憤ったのが小説家・水上勉であった。もっとこの悲惨な大火が知られるべきだ、そう考えた水上はこの災害を題材にして、さらに架空の殺人事件を加えた小説を発想した。これが「飢餓海峡」という小説である。台風、大火、海難、殺人という4つのマルチリスクを扱っている。

この小説のあらすじはこうである(事実とは年や地名が若干異なる)。wikipediaから引用。

戦後まだ間もない昭和22年、北海道岩幌町の質店に強盗が押し入って大金を強奪したうえ、一家を惨殺し、証拠隠滅のため火を放つ事件が発生する。火は市街に延焼し、結果的に街の大半を焼き尽くす大火となった。その夜、北海道地方を襲った猛烈な台風により、青函連絡船・層雲丸が転覆して多数の死傷者が出る。翌日から現場で遺体収容に従事した函館警察は、連絡船の乗船名簿と該当しない、身元不明の2遺体を発見する。(このあたりは洞爺丸事故や北海道の岩内大火を題材にして着想されている)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%A2%E9%A4%93%E6%B5%B7%E5%B3%A1

犯人の男は事件前まで岩内の隣の堀株という土地で鉱山のトロッコを押していたが、戦後の需要減で鉱山も廃れ、ばれいしょ栽培に乗り出していた。そして質屋から奪った金で製粉工場を建て、堀株から製粉用のばれいしょを輸送する航路も作り一財産を築き上げる。ところがその後、かつて犯行からの逃走時に手助けしてもらった娼婦を殺してしまい、それがきっかけで警察に追い詰められてしまう、という話である。

この物語は「飢餓」というタイトルにもあるように、戦後の特に地方の貧しい状況の描写が非常に多い。北海道の戦後というのがこんな感じだったのか、という情景が読中にリアルに浮かび上がった。特に下北半島や堀株は極貧にあえぐ「終わった土地」という描かれ方をしている。堀株周辺はかつてニシン漁で栄えたものの、昭和に入ってほぼ壊滅し、鉱山もその後廃れてしまった。実際には茅沼炭鉱という炭鉱があり、炭鉱から石炭を運ぶ茅沼炭鉱軌道は明治2年に誕生した日本で最初の鉄道といわれている。ちなみにニシン漁が栄えていたころの描写は上記の漫画「ゴールデンカムイ」にも出てくる。

小説では堀株の貧困を救ったものは、犯人の男が推進したばれいしょ栽培(鉱山の金気があると育ちが良いらしい)と舞鶴の製粉工場へ送る航路であった。しかしこれはフィクションであり、現実にはそのような人物はいない。代わりに堀株を救ったものとは原子力発電所である(北電泊原発は泊村堀株に立地する)。小説が執筆された1962年は原発の計画前であり、まさかこのような展開により経済的に救われることになるとは水上も考えられなかったであろう。こういう意味でまさしく事実は小説よりも奇なり、である。

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上は堀株海水浴場の写真(写っているのは娘)。キャンプ客などがちらほらいる。ここで後ろを振り返るとすぐに原発敷地への入り口がそびえる。下は岩内山のふもとから湾越しに臨む泊原発(奥右側)。手前左側に見える建物はピカソ美術館。

積丹半島の歴史から未来へ

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泊の海岸から湾越しに臨む岩内と寿都方面。左側の岩内方面はスキー場があったり海岸近くが開けているのがわかる。右側の寿都方面は険しい山々がそびえるのみである。ちなみに冒頭の写真も泊の断崖絶壁を写したもの。

本ブログでもリスクの動向をウォッチしているが、11月に寿都と神恵内という地元の二つの町村の名前が取りざたされた。この地名が全国ニュースで流れることなどは想像したこともない。おそらくほとんどの人はこの地名を読むこともできないだろうなどと思いながら眺めていた。寿都は「すっつ」、神恵内は「かもえない」と読むが、アイヌ語に無理やり漢字を当てているのでこのような読めない地名が多い。ちなみに岩内と堀株の間には梨野舞納「りやむない」という地名があり、地元の人ですらカタカナ表記の方がなじみがある。

原子力発電の核燃料再利用に伴う高レベル放射性廃棄物の地層処分については、処分施設の建設場所の選定が文献調査、概要調査、精密調査の3段階で進められることになっており、寿都と神恵内が2020年に最初のステップである文献調査に名乗り出た。なお、私はこの件についてあまり詳しく調べてないのでこの是非などを論じられないが、これが新たな歴史の1ページを刻むことになるのかもしれない。

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上は積丹のウニ丼、下は積丹半島先端の神威岬

神恵内も寿都も漁業がメインの街である。特に神恵内などの積丹半島ではウニが有名だ。寿都や神恵内のニュースを見るたびに、未来に積丹を救うものは一体何になるのだろうか?と考えずにはいられない。

放っておけば過疎化が進んでそれこそ飢餓海峡に描かれた「終わった土地」にゆっくりと近づく未来しか見えないし、何もリスクを取らずにひたすら現状維持を望むのは土台無理な話ではないかとも思う。例えばニセコ町は外国人を積極的に受け入れる、というリスクをとって生き延びた。現在コロナで外国人が来られずに苦しんでいるが、これもまたリスクをとった結果である。そして私自身もコロナ禍で帰省をこの1年自粛している中、ここに挙げたような写真を眺めながら故郷の歴史と未来を考えたりするのであった。

おまけ

岩内大火の写真は以下で見ることができる
岩内町ふるさと写真集ブログ

昭和29年・岩内大火・復興の風景
昭和31年の岩内。 火事をのがれた手前の建造物と、白木の新しい建物の違いが見られる写真です。

飢餓海峡(水上勉) 極貧の中を生きる人々の描写がリアル。古い本なので読みにくいかと思ったけど全然そんなことはない。

飢餓海峡(上) (新潮文庫)
飢餓海峡(上) (新潮文庫)

ゴールデンカムイ(野田サトル) アイヌのことちゃんと知りたくなること間違いなし

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