BMIの基準値のからくりその2:BMIと死亡率の関係

obesity3 基準値問題

要約

BMIと死亡率の関係はU字型のカーブとなり、やせでも肥満でも死亡率が高くなりますが、標準体重(BMI22)よりも多少肥満のところで死亡率が低くなります。肥満の死亡率が低くなる「肥満のパラドックス」とやせの死亡率が高いことについて、いくつかの研究を紹介しながら深掘りしてみます。

本文:BMIと死亡率の関係

肥満の指標となるBMI(Body Mass Index)をめぐる基準値問題に着目する記事のその2です。その1では、BMIの起源や問題点、標準体重の決め方、BMIに代わる指標やメタボ診断の基準などについて整理しました。BMIの使用には人種・性別・年代・筋肉量・皮下脂肪と内臓脂肪の区別などの考慮に課題や問題がありました。

BMIの基準値のからくりその1:BMIの起源と標準体重の決め方
線引き問題の一つとして、肥満の指標となるBMI(Body Mass Index)をめぐる基準値問題に着目します。BMIの起源や問題点、肥満の線引き、BMIに代わる指標やメタボ診断の基準などについて整理していきます。BMIの使用には人種・性別・年代・筋肉量・皮下脂肪と内臓脂肪の区別などの考慮に課題や問題があります。

理想的なBMIは22で、25以上だと肥満と判定されています。BMIと死亡率の関係はU字型のカーブとなり、25を少し超えるくらいのいわゆるちょいポチャ体型の人が実は最も死亡率が低いことはよく知られるようになりました。

さらに、肥満の人よりもやせのほうで死亡率が高いということも知られており、肥満はあまり気にする必要がないなどと考える人もいるでしょう。

肥満は本当に気にする必要がないのか?肥満よりもやせのほうが危険なのか?これは「肥満のパラドックス」などと呼ばれてきましたが、様々な研究によりこのパラドックスの謎が解明されつつあります。

本記事では、最も死亡率の低いBMIを示す研究の代表例を紹介し、そのあとに様々な研究を紹介しながら、肥満のほうで死亡率が低くてやせのほうで死亡率が高く見える理由について深掘りしていきます。

最も死亡率の低いBMI

日本人のBMIと死亡率の関係に関する7つの研究例(合わせて35万人以上のデータ!)を国立がんセンターが取りまとめた結果、最も死亡率が低いのは男性でBMI25~27、女性でBMI23~25の範囲でした。

肥満指数(BMI)と死亡リスク | 現在までの成果 | 科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 | 国立がん研究センター がん対策研究所

ただし、その範囲を超えるとやはり死亡率は高くなります。BMI23~25の死亡率を1とすると、BMI27~30の範囲では男性で1.07、女性で1.08になり、BM30以上となると男性で1.36、女性で1.37になります。

結果として、肥満による死亡リスクは10万人あたり年間死者数で40.6人となり、かなり高いリスクとなるわけです。
(この結果は本ブログのリスクのものさし表示ツールRiskToolsで確認できます)

obesity-risk
http://risktools.nagaitakashi.net/

「死亡率」で見た場合にはたしかにBMI23~27の範囲で小さくなっていますが、高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病のリスクはBMI22以上で高くなるため、将来にわたって健康に過ごしたいならやはり標準体型を目指したほうがよさそうです。

ではやせの場合はどうでしょうか?BMI23~25の死亡率を1としたとき、BMI19~21の範囲では男性で1.27、女性で1.17になり、BM19未満となると男性で1.78、女性で1.61となります。BMI19未満のやせの人はBMI30を超える肥満の人よりもむしろ死亡リスクが高かったのです。

肥満よりもやせのほうで死亡率が高いというのは大変興味深い結果です。この現象はアジアの国々でよく見られますが、欧米の国々ではあまり見られないそうです。

肥満よりもやせ型のほうが危険であるならば、巷にあふれるダイエット本よりも「もっと太るための本」もたくさん出版されるべきだと思いますがいかがでしょう?
(みんな健康よりも見た目しか気にしていないということでしょうか?)

肥満のパラドックスはどのように説明できるか?

ここからは、ちょいポチャのほうが死亡率が低いという結果について、どのように説明できるのかさらに深掘りしていきます。

以下の論文を見ると、BMIが25-30の範囲で男女とも最も余命が長いのですが、逆に生涯医療費は男性でBMI 25-30、女性でBMI 30以上のところで最も高くなります。

文献1:Nagai et al (2012) Impact of obesity, overweight and underweight on life expectancy and lifetime medical expenditures: the Ohsaki Cohort Study. BMJ Open, 2, e000940

Impact of obesity, overweight and underweight on life expectancy and lifetime medical expenditures: the Ohsaki Cohort Study
Objectives People who are obese have higher demands for medical care than those of the normal weight people. However, in view of their short...

「肥満は健康を悪化させるのに死ににくくなる」ということになってしまうのですが、普通に考えるとおかしいはずで、まさに「パラドックス」です。これについて、統計学者はデータに基づいた事実であると言い、疫学者はバイアスによるものであって事実ではないと言うようです(以下参考)。

文献2:Hughes (2013) The big fat truth. Nature, 497, 428-430

The big fat truth - Nature
More and more studies show that being overweight does not always shorten life — but some public-health researchers would rather not talk abo...

年齢の影響や喫煙の影響、基礎疾患の影響、体重の増減の影響など、いろいろなバイアスがかかった結果として肥満のパラドックスが見えているだけだというのが最近の考え方になってきています。

以下の論文では、宮城県の約4万人を12年追跡した研究で、集団全体で解析するとBMI 23-35で死亡率が最も低くなり、肥満とやせで死亡率が高くなります。これは上記の国立がんセンターの結果と同じですね。ただし、40-64歳と65-79歳で分けた場合、40-64歳ではやせの男性で有意な死亡率増加がみられず、肥満では死亡率が増加しました。また、65-79歳では逆に肥満で死亡率増加がみられず、やせで死亡率が増加していました。

文献3:Nagai et al (2010) Effect of Age on the Association between Body Mass Index and All-Cause Mortality: The Ohsaki Cohort Study. Journal of Epidemiology 20(5), 398-407

Effect of Age on the Association between Body Mass Index and All-Cause Mortality: The Ohsaki Cohort Study
Access full-text academic articles: J-STAGE is an online platform for Japanese academic journals.

体重は年齢とともに徐々に増加し、男性では50代前半・女性では50代後半で最大となり、その後は減少に向かいます。50代くらいまでは体重増加を抑えたほうが死亡率が下がり、60代以上では逆に体重減少を防いだほうが死亡率を減らせるようです。逆に高齢者でたくさん食べる人は「元気=死亡率低い」ということですね。

ただし、死亡率を表す際に、実際の死亡率の数字ではなく標準体重の人を1として相対値で表すことによるバイアスもあるようです。中年(40-64歳)と高齢者(65-79歳)では、標準体重の死亡率を1としても、その死亡率の絶対値がまったく違います。

中年の死亡率が標準体重で10万人あたりの年間死者数1人で、肥満の場合その1.5倍となると仮定すると、肥満の人の死亡率は10万人あたりの年間死者数1.5人です。肥満による死亡率の増加は10万人あたりの年間死者数0.5人ですね。

高齢者の死亡率が標準体重で10万人あたりの年間死者数10人で、肥満の場合その1.2倍となると仮定すると、肥満の人の死亡率は10万人あたりの年間死者数12人です。増加による死亡率の増加は10万人あたりの年間死者数2人となります。

この場合、肥満の人の死亡率を相対値だけで見ると中年(1.5倍)のほうが高齢者(1.2倍)よりも影響が大きいように見えますが、絶対値としてはむしろ高齢者のほうが大きいのです。高齢者でも適切な体重を超えるとやはりリスクは大きいのです。

やせの高死亡率は原因か結果か?

上記で紹介した文献1では、男女ともにBMI 18.5未満のやせ型で余命が最も短いのですが、生涯医療費は最も低いのです。これも「やせパラドックス」とでも呼べそうです。これも統計的真実なのか、バイアスによるものなのか、どちらなのでしょうか?

文献2によると、喫煙者や慢性疾患を患っている人の多くは、健康な非喫煙者よりもやせて早死にする傾向があります。これらの影響により、やせていること自体がリスクであるように見えてしまいます。

ところが、これまで喫煙したことのある女性と、調査開始後早期に死亡した女性(病気で体重が減少した可能性がある)を除外したところ、BMIが高くなるほど死亡率が高くなり、やせ(BMI 19未満)の死亡率が最も低くなったとのことです。

また、文献3では高齢者では肥満で死亡率増加がみられず、やせで死亡率が増加していました。高齢者のやせは低栄養状態を示していると考えられ、これが高い死亡率につながりそうです。つまり、やせていることが原因で死亡率が高くなるというよりは、死にそうな人はやせる、という結果を示しているのでしょう。

さらに、フランスの女性を対象とした以下の研究によると、糖尿病の発症者ではBMI 30以上(肥満)の人が最も死亡率が低くなり、逆に糖尿病の非発症者はBMI 18.5-22.5(やせ~標準)の人が最も死亡率が低くなりました。いろいろな要因が絡むようです。

文献4:Lajous M (2014) Brief Report: Body Mass Index, Diabetes, and Mortality in French Women: Explaining Away a “Paradox”. Epidemiology, 25, 10-14

http://www.jstor.org/stable/24759017.

他にも、BMIでグルーピング後に筋力と死亡率の影響を見ると、筋力が高いほど死亡率が低くなったという研究もあります。

文献5:Ortega et al (2012) Muscular strength in male adolescents and premature death: cohort study of one million participants. BMJ, 345, e7279

Muscular strength in male adolescents and premature death: cohort study of one million participants
Objectives To explore the extent to which muscular strength in adolescence is associated with all cause and cause specific premature mortali...

高齢者のやせは筋力が下がった状態と見なすと高い死亡率を説明できそうです。BMIは体重が脂肪なのか筋肉なのかを無視しているため、BMIだけでの判断はいろいろ問題があるわけです。

まとめ:BMIと死亡率の関係

BMIと死亡率の関係はU字型のカーブとなり、やせでも肥満でも死亡率が高くなりますが、標準体重(BMI22)よりも多少肥満のほうで死亡率が低くなります。ただし、これには多様な要因が絡んでおり、「多少肥満であるほうがよい」などとシンプルな判断はできません。病気をしないのはやはり標準体重であり、やせているほうが医療費も少なくて済みます。一般的には、若者~中年までは太らないように気をつけたほうがよく、高齢者はBMIをあまり気にせずたくさん食べて運動して筋肉をつけたほうがよさそうです。

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