要約
2020年の人口動態統計の死因別死者数が公開されました。インフルエンザや肺炎などの呼吸器系疾患が大きく減少し、交通事故や火災などの不慮の事故も目立って減少しました。時期的には、2020年の前半が特に平年よりも死者数が減少しています。超過死亡数の国際比較についても解説します。
本文:2020年コロナ禍の日本の死亡リスクトレンド
本ブログでは、2月に人口動態統計の2020年の速報値から年間死亡数が11年ぶりに減少したことについて書きました。それと同時に幸福度は減少・自殺者数は増加し、メンタル面への悪影響が指摘されています。
2月の記事でも、2020年9月までのデータを用いて死因の増減の解析を行いました。今回2020年12月までの死因別死者数のデータが出そろいましたので、改めてコロナ禍における日本の死亡リスクのトレンドをみていきたいと思います。
また、新型コロナウイルス感染症による2020年の死者数は統計上は3466人となりました。ただし、統計上の数字とは別に超過死亡数(平年から予想される死者数を上回る死者の数)についてもみていくことが必要になります。以下の記事にあるように、多くの国で統計上の死者数よりも超過死亡数が大きくなっています。
CareNet:コロナパンデミックの2020年、各国の超過死亡は?/BMJ
そこで、日本における超過死亡のトレンドや国際比較なども紹介したいと思います。
人口動態統計の結果
使用するデータはおなじみの人口動態統計です。死因別死亡数は第6表というやつです。
厚生労働省:令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況
これは死因の中でも簡単分類別というものなのですが、それでも100種類以上の死因が出てきます。全部みていくとごちゃごちゃするので、26種類をピックアップして死亡リスク(人口10万人あたりの年間死者数)をグラフに表します。比較のために2019年の死亡リスクも同時に掲載します。死亡リスクの高いものから低いものまで一つのグラフに乗せるため、軸は対数にします。
2019年にはなかった「その他の特殊目的用コード」という死因があります。これが新型コロナウイルスによる死亡を意味します。ネットなどでは「コロナが出ていない!」などという人もいますがちゃんと出ています(しかしわかりにくい!)。同じくコロナウイルスを原因とするSARSが「特殊目的用コード」の中に従来から入っていることを知っている人ならすぐに見つけられます。
2019年に比べて死者数の減少率が最も高いのはインフルエンザで、73%減(!)となっています。次には喘息(22%減)、その次に肺炎(18%減)の順です。これらはすべて呼吸器系の病気ですね。マスクなどのコロナ対策が大きく効いたものと考えられます。呼吸器系の疾患合計で死者数2万人程度の減少ですから、非常に大きい効果です。
呼吸器系以外で2019年に比べて10%以上減少した死因は、ウイルス性肝炎(17%減)、交通事故(13%減)、火災(10%減)、有害物質による不慮の中毒(13%減)、他殺(16%減)です。グラフだと小数点2桁以下が四捨五入されているので低いところの差はみえにくくなっています。不慮の事故関係が目立って減少しています。人流やさまざまな活動そのものが減少した影響が考えられます。人と人との接点が減ったことで他殺も減少したのでしょう。
逆に10%以上増加した死因この中にはありませんが、最も増加率が高かったのは老衰(9%増)です。自殺は4%増になりました。
より詳しいデータは9月ころ公開されますので、損失余命などはその際にまた計算してみたいと思います。
超過死亡
インフルエンザでは統計値とは別に超過死亡によって死者数を推定することが従来から行われてきました。詳しくは過去の記事をご覧ください(コロナに関する情報としてはかなり古いものになってしまいましたが、考え方は今でも全く変わりません)。
国立感染症研究所は超過死亡を毎月推定して報告しており、執筆時点で最新のは2021年3月までのデータが公開されています。
「日本の超過および過少死亡数ダッシュボード」というサイトが非常に便利で面白いです。都道府県別に期間を限定して、超過死亡数の週ごとの推移をみることができます。いくつかの死因については死因別のデータもあります。
まずは2020年の間の週ごとの超過死亡(すべての死因)をみてみましょう。
赤の点線が平年から予想される死亡数で、その上下に「このくらいの変動は想定内」というラインが引かれています。青の縦棒グラフが実際の死亡数です。赤の点線よりも下回ると平年よりも少なく、さらにその下のラインを下回ると「統計的有意に」低い(マイナスマークが付される)という意味になります。
2020年の前半はおおむね平年よりも低く、後半はおおむね平年並みとなっていることがわかります。つまり、2020年に死者数が減った原因は前半にみんなが活動を自粛した影響が大きく、後半になるとコロナ慣れを起こして平年並みになった、と考えられます。
ただしよくみると、4月後半あたり、8月、12月後半あたりで平年を上回る死者数がみられます。これはコロナの第1波、第2波、第3波の死者数ピークと重なっており、これが全体の死者数を押し上げたこともわかります。
以下に、死因別の超過死亡として、呼吸器系疾患と自殺の推移も掲載します。呼吸器系疾患はすべての死因とほぼ同様の推移をして、2020年前半は低く、後半は平年並みになります。自殺のほうも2020年前半は低いのですが、後半から増えてきます。特に有名俳優・女優の自殺報道後(7月後半と10月前半)にどんと伸びています。
2020年後半には平年並みに戻っていたことを考えると、2021年は2020年ほどに死者数が低くなることはなさそうです。コロナ死者数も2021年は6月までの時点ですでに1万人を超えていますので、超過死亡として明確に出てきそうです。
国際比較
コロナの人口あたり感染者数や死者数を比較するには以下のサイトが適しています。人口あたりの死者数で比較すると、日本は222か国中130位となっています(2021年6月29日現在)。真ん中よりも少しよいほうに位置しています。
ただし、ここで比較しているのは上記でいう超過死亡ではなく統計情報のほうです。日本の都道府県別の比較であれば統計情報でもよいのですが、外国との比較の場合は注意が必要です。国によって統計情報の取り方が大きく違うからです。何をもってコロナによる死亡とするか、という定義もだいぶ違うようです。また、きちんとコロナ感染者数を把握できていない国では統計情報も怪しくなります。
そこで、超過死亡の国際比較を行ってみたい場合には以下のサイトを参照します。
Coronavirus tracker: the latest figures as countries fight the Covid-19 resurgence
データが日々更新されているので、2021年6月29日時点のグラフを貼っておきます。サイト内には3つのグラフがありますが、そのうちの平年を100とした場合の比率で示した一番左のグラフをみます。
ここでは48か国日本は44位となっており、日本よりも超過死亡率が少ない国はフィリピン、シンガポール、台湾、オーストラリアです。いずれも厳しいコロナ対策をとって抑え込みに成功している国だけです。また、日本を加えた5か国だけが超過死亡がマイナスになっています(平年よりも死者が少ない)。韓国は日本より一つ違いで43位です。
2020年のコロナ禍において日本のように死者数を減らした国はほとんどないということですね。統計上の死者数比較よりもだいぶ違った景色がみえてきます。アメリカや西ヨーロッパでは高い死亡数が報道されていますが、それでも南米や東ヨーロッパに比べると相当マシのようです。ヨーロッパの中では、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの北欧国(スウェーデンを除く)は超過死亡がほとんどみられません。
まとめ:2020年コロナ禍の日本の死亡リスクトレンド
2020年の人口動態統計の死因別死者数によると、インフルエンザ(73%減)、喘息(22%減)、肺炎(18%減)など、呼吸器系疾患が大きく減少しました。それ以外にも、ウイルス性肝炎(17%減)、交通事故(13%減)、火災(10%減)、有害物質による不慮の中毒(13%減)、他殺(16%減)などが目立って減少しています。週別にみていくと、2020年の前半が特に平年よりも死者数が減少していますが、後半は平年並みに戻りました。日本は超過死亡がマイナスになりましたが、海外で超過死亡がマイナスになっているのはいずれも厳しくコロナを抑え込んでいる国に限られます。
(2022年7月10日追記)
2021年版の記事を追加しました。
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