新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを比較したいときに押さえおきたいポイント4つ。その4:全体でみるか細かい集団に分けるか

by age リスク比較

要約

コロナウイルスのリスクは性別や年代、地域によって違うことがわかっています。集団を分けると全体のリスクと異なってくることが今回のポイントです。この記事では東京都に住む60代男性のリスクはどの程度か?日本全体のリスクと比べてどのくらい違うか?などの計算をしてみます。

本文

以下の記事にあるように、新型コロナウイルス感染症の死亡率は全世界的に男性のほうが高いということが報告されてきました。

「コロナ死亡率」男性は女性の2倍という衝撃
アメリカ・ニューヨーク市全域で猛威を振るう新型コロナウイルスで、男性は女性よりも大きな犠牲を強いられている。男性は感染者数が女性を上回るだけでなく、死亡率も女性の2倍近くになることが新たなデータから…

このほか、特に高齢者の死亡率が高いということもよく知られています。これまでの記事で日本全体でのリスクを計算してきましたが、コロナウイルスによるリスクといっても、性別や年代で分けていくとまた違った景色が見えてくるようです。4月14日現在の日本における死者数を(計算しやすいように)124名とすると、そのリスクは「10万人あたりの死者数0.1人」となります。これを基準として集団で分けることでどのように異なるかを見ていくことにします。あくまでシナリオを用いた仮想的な計算です。

性別

まず性別によるリスクの違いを見ていきます。日本のコロナによる死者の性別年代は各都道府県や自治体の発表を1件ずつ全て調べていくとわかると思いますが、全国の統計表にはなっていません。かわりに中国のCDC(疾病管理予防センター)によるデータを使います:
The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) – China, 2020
http://weekly.chinacdc.cn/fileCCDCW/journal/article/ccdcw/2020/8/PDF/COVID-19.pdf
死者1023名のうちの男性の割合は63.8%、女性の割合は36.2となっており、やはり男性のほうがハイリスクとなっています。この割合をそのまま日本に割り当てようとすると以下の表になります。上記のニュース記事でも喫煙などの生活習慣などの男性側の原因が考察されていますがどれも当てはまりそうな感じではあります。

シナリオ死者数H30年人口10万人あたり死者数基準を100とした場合
基準(4/14日現在の日本)1241242182850.10100
79604548980.13131
45637633870.0770

年代

次に年代によるリスクの違いを見ていきます。同様に中国CDCのデータを用いて年代別の死者数割合を日本に割り当てると以下の表になります。60代以上は70代でも80代でも大体同じ程度にハイリスクになります。それに比べて、10代・20代の低リスクは顕著です。「若くても重篤化することがある」ということは事実ではありますが、リスクの大きさで比べると「圧倒的な」差が出てきます。若い人に危機感が足りないのもこの数字を見ればうなずけます。彼らに対してどのように社会全体のリスクを減らすために協力を求めるか、ということが重要になるでしょう。「若くても重篤化するから外に出るな」という説明では説得力が弱いと思います。

シナリオ死者数H30年人口10万人あたり死者数基準を100とした場合
基準(4/14日現在の日本)1241242182850.10100
10代0.1111414310.0011
20代1118564690.017
30代2141735320.0217
40代5184316570.0327
50代16157833470.10102
60代37168358240.22221
70代37150992880.25246
80代以上25109457270.23227

地域

次に、国全体でみるかもっと細かい地域に分けてみるか、という違いを見ていきます。都道府県ごとの死者数をまとめた時事通信のサイト:
https://www.jiji.com/jc/tokushu?g=cov
を見てみると、東京が一番多いということと、半数以上の都道府県でゼロであることがわかります。この数をもとにリスクを計算すると以下の表になります。東京都では日本全体の3.5倍のリスクになります。

シナリオ死者数H30年人口10万人あたり死者数基準を100とした場合
基準(4/14日現在の日本)1241242182850.10100
東京都47133400000.35352
北海道1352530000.25247
大阪府786390000.0881
福岡県450470000.0879
半分以上の都道府県000

さらに細かく

このように、性別、年代、地域毎のリスクを計算してみました。ではこれらを重ねてみるとどうなるでしょうか。つまり、東京都に住む60代男性のリスクはどうなるか?ということです。死者数に占める東京都、60代、男性のそれぞれの割合を掛けて(それぞれ独立に起こると仮定する)計算していくと以下の表になります。なんと日本全体のリスクに比べて12倍程度に跳ね上がったのです。

シナリオ死者数H30年人口10万人あたり死者数基準を100とした場合
基準(4/14日現在の日本)1241242182850.10100
東京都に住む60代男性97380001.221219

中国のデータに戻ると、基礎疾患と死者の関係も示されており、このデータと、日本における糖尿病や高血圧の数を基に計算すると以下の表になります。

シナリオ死者数H30年人口10万人あたり死者数基準を100とした場合
基準(4/14日現在の日本)1241242182850.10100
糖尿病24173905600.14140
高血圧49188014730.26262

男性ほど、高齢者ほど基礎疾患率が高いので、どちらが因果かは今のところよくわかりません。つまり、高齢の男性であることが真の高死亡率の原因でそういう集団ほど基礎疾患が高いというだけなのか、基礎疾患が真の高死亡率の原因でありそういう集団ほど男性の高齢者が多いというだけなのか、わからないという意味です。

これに加えて、喫煙などの生活習慣や、アメリカでは人種による違いなども報告されています。このように、集団をどんどん細かく分けてリスクを見ていくと、どんどん全体のリスクと異なる結果となります。そうすると、自分の立場でのリスクはどれくらいか?という個人のリスクに近づいていきます(個人のリスクは頻度では示せないのであくまで小さい集団のリスクなのですが)。

まとめ

死亡率というのは単純な計算のように見えますが、多面的な要素を持っていることがわかります。交通事故のリスクを見ても、乗用車とバイクで分ければリスクが異なるように、いろいろな見かたができるのです。つまり、どのようなフレームから評価するかによってリスクは大きく変わり、そしてどのようにフレームを設定するかはリスクを比較する目的に依存します。また、一つのリスクを複数のフレームから評価することは、データの見方やリスク情報の受け止め方(リスクリテラシー)を養うのにも有効と考えられます。

参考

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