新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを比較したいときに押さえおきたいポイント4つ。その1:リスク指標の計算

corona リスク比較

要約

新型コロナウイルス感染症がどれくらい怖いものなのかを知るにはそのリスクをほかのリスクと比較することが大切です。リスクを比較する際に重要なポイントはリスクの指標(大きさ)を揃えることです。人口10万人あたりの年間死者数で表現することで、日本と諸外国のコロナウイルスのリスクを比較したり、コロナウイルス以外のリスクと比較できるようになります。

本文

新型コロナウイルス感染症っていったいどれくらい怖いものなのでしょうか?もうすでに政府や感染症の専門家、現場の医師などがたくさんの情報提供をしてきています。私は感染症の専門家ではありませんから、臨床的な話や公衆衛生的な対策などの話はしません。その代わりに、リスク学の専門家としてコロナウイルスのリスクを比較する際に押さえておきたいポイント等を書いてみたいと思います。

タイトルにいきなりポイントが4つあると書いてしまいましたが、まずはリスク指標の話からです。そもそもリスク比較って何なのでしょうか?いきなりこう書いても何のことやらイメージが付きにくいと思いますので、身近な例から上げていきたいと思います。

地震、雷、火事、親父

「地震、雷、火事、親父」とは世の中で怖いものを「順」に並べたもの、とされています。本当にどれくらい「怖い」のか、を実際の日本における死亡率で見てみることにします。

令和元年度版防災白書
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r1.html
によると、
2009~2018年の10年間の地震・津波による年間平均死者数は2257人
日本の人口は2020年3月1日の概算値で1億2595万人
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
ということですので、人口で割って人口10万人あたりで計算しなおすと、10万人あたりの年間死者数1.8人となります。

同じように、警察白書
https://www.npa.go.jp/publications/whitepaper/index_keisatsu.html
によると、2000~2009年の落雷による年間平均死者数は3.0人なので、10万人あたりの年間死者数は0.0024人となります。

次に、厚生労働省による人口動態調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/index.html
によると、2018年の火災による死者数は年平均で1017人なので、10万人あたりの年間死者数0.18人となります。

さらに、警察庁の統計
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jousei.html
によると、2018年の親(父親とは限らないが)による殺人は45件あったので(=被害者が45人と仮定して)、10万人あたりの年間死者数は0.036人となります。

こうすると死亡率を横並びで比較することができます。結果として、死亡率の高い順番に並べると「地震、火事、親父、雷」の順となるわけです。

ちなみに以下のサイト:
地震・雷・火事・親父のうち一番死亡確率の高い物はどれか
https://gigazine.net/news/20070213_dieodds/
では、米国の例(多分年間ではなく生涯の死亡率だと思います)を挙げて、火事、地震、雷の順だと書かれています。

リスクを比較する、って聞くとなんだか難しそうに感じますが、要するにこんな計算をやっているわけです。もちろんリスク比較の方法はほかにもたくさんありますが、ここでは単純に人命を守ることは最も重要な目標でありわかりやすいリスク指標と考えて、この人口10万人あたりの年間死者数で表現することにします。

コロナウイルスのリスク

さて、前置きが大分長くなってしまいましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを考えてみます。厚生労働省による発表では、4月2日公表分では累積感染者数は2617人、死者数は63人とされています。ただし、まだこの感染症の発生から3か月ほどであり、日本をはじめ世界各国で日々感染者・死者数が増加していますので、年間死者数がどのくらいまで増えるかは予想が難しい状況です。とりあえず現時点の数字で計算してみましょう。
63 / 125900000 * 100000 = 0.05
ですので10万人あたりの死者数は0.05人となります。もしも年間で死者数がこの10倍に増えた場合は10万人あたりの死者数は0.5人、100倍に増えた場合は10万人あたりの死者数は5人となります。

中国では収束に向かっているようですが、WHOの4月2日のレポートではこれまでの死者数3327人となっています。
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports
中国の人口をおおざっぱに14億人として同様に計算すると
3327 / 140000000 * 100000 = 0.23
ですので10万人あたりの死者数は0.05人となります。こういう場合に死者数を比較するよりも人口10万人あたりで揃えることで比較しやすくなります。

例えばルクセンブルクでは同様に4/2までに死者数29人と報告されており、日本よりも少なく見えますが、人口は約60万人ですから、10万人あたりの死者数は4.8人となります。つまり、日本の死者数が100倍になった場合と同じくらいのリスクの大きさに現時点ですでになっている、ということになります。

このように国ごとにリスクを比較することもできますし、「地震、雷、火事、親父」で数字を挙げたように、コロナウイルスのリスクを他のリスクと比較することもできるようになります。

どうしてコロナウイルスのリスクをほかのリスクと比較する必要があるのでしょうか?まず一つとして、リスクの大きさを理解するには比較対象がないとわかりにくいということが挙げられます。もう一つの理由として、コロナウイルスのリスクを下げようとする対策によって、別のリスクが増える可能性があるからです。このような現象をリスクトレードオフといいます。

例えば、電車に乗ることによる感染のリスクを避けるために自家用車での移動に切り替えれば交通事故のリスクが増える可能性があります。火災による死者数を調べたのと同じ人口動態調査によると2018年の交通事故による死者数は4595人になりますので、10万人あたりの死者数は3.6人となります。

ほかにも、コロナウイルスの感染拡大の防止のために、不要不急の外出自粛など経済活動を縮小させる対策が行われています。これにより、観光やレジャー、飲食店などが打撃を受け、経済的に困窮して自殺などの死者数を増やす可能性もあります。上記と同様に、2018年の自殺者数は20031人になりますので、10万人あたりの死者数は15.9人となります。この記事に挙げたリスクの中で最も高い数字ですね。なので各種の経済対策も同時に打ち出されているわけです。

まとめ

この記事ではリスク比較の基本の基本を書きました。リスクを比較する際にリスクの指標をそろえることが重要です。ここでは人口あたり年間死者数で簡易にリスクを比較する例を紹介しました。ポイントの二つめでは、リスク比較に欠かせない「リスクのものさし」の話を書きます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを比較したいときに押さえおきたいポイント4つ。その2:リスクのものさし
リスク比較をする際には、比較対象を都合よく選んで「○○よりも小さいから気にするな」という類のメッセージを出してはいけません。それを避けるために、常に一定のリスク比較のセット(リスクのものさし)を使って新型コロナウイルス感染症のリスクを比較してみます。

補足(より良く知りたい人向け)

なお、様々なリスクの大きさを比較することについては否定的な議論も多いのです。

最も大きな問題となるのは、○○(放射線や化学物質などなんでもよいのですが)のリスクはたばこや酒のリスクよりも低いのだから許容するべきである、という論調で使われるケースになります。特に異なるタイプのリスク比較は受け入れられない傾向があります。Covelloらによるリスクの比較のための指針は農林水産省のサイトで読めます:
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/r_risk_comm/

ただし、問題となるのは上記のような特定のリスクの許容を目的としたリスク比較であり、リスク比較そのものに問題があるわけではありません。何かのリスクを減らすための対策を考える際には、その対策自体が引き起こす別のリスクの大きさも常に考える必要があるのです。

リスクトレードオフの例として、2001年のアメリカ同時多発テロの後、人々が飛行機に乗るのを恐れて自動車での移動に切り替えた結果、自動車事故による死者が推定で1600人程度増加してしまった、などの事例があります:
Gerd Gigerenzer (2006) Out of the Frying Pan into the Fire: Behavioral Reactions to Terrorist Attacks. Risk Analysis, 26, 347-351.

さらに,アメリカ同時多発テロの後では、人々が飛行機による移動を敬遠した結果、インフルエンザの流行速度が遅くなった、という結果も報告されています:
Brownstein, J.S., Wolfe, C.J., and Mandl, K.D. (2006) Empirical Evidence for the Effect of Airline Travel on Inter-Regional Influenza Spread in the United States, PLOS Medicine, 3(10), e401.

移動制限はコロナウイルス対策にも効果があるものと考えられます。

なお、リスクトレードオフを考える際にはリスクの受け手が異なることにも注意が必要です。例えば飛行機の敬遠によって、交通事故による追加のリスクを受けた人と、インフルエンザの流行遅延の恩恵を受けた人は違う人になります。

参考

リスク学事典の3章に「リスク比較」という項があります:
http://www.maruzen-publishing.co.jp/item/?book_no=303332

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