要約
クライシスコミュニケーションの失敗によって会社が大きなダメージを負う事例は多数あります。本記事ではそのような失敗事例(ビッグモーターによる保険金不正請求事件、ユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし事件、メディア対応の失敗事例として有名な雪印乳業の食中毒事件)を3つまとめます。
本文:クライシスコミュニケーションの失敗事例
今回は緊急事態におけるクライシスコミュニケーションに関する記事の続編で、失敗事例を詳しくまとめます。
前回の記事では、クライシスコミュニケーションのポイントを事前準備、世論の把握、メディア対応という3つのポイントに絞って整理しました。

この前回の記事の中でもいくつかの失敗事例を紹介しました。
・2006年6月に発生したスイス・シンドラー社のエレベーターによる高校生の死亡事故において、会社側は事故直後から責任は自分たちにないと主張して謝罪せず、批判が高まった。
・2024年1月に名古屋のテーマパーク、レゴランドにて入場ゲートでのスタッフ対応のミスがSNS上で拡散し、レゴランド・ジャパンの社長自らそのアカウントに対して「問題提起、ありがとうございます」で始まるダイレクトメールを送り、さらにその内容を公開したことがきっかけとなって大きな炎上となった。
・2026年1月にプルデンシャル生命が顧客から不正受領を行った事件に対する謝罪会見において、司会者のおしゃれすぎるスーツがSNSで注目され、本来伝えるべき内容よりも会見の作法がニュースになってしまった。
このように、メディア対応のミスによって会社へのダメージがより大きくなる事例は多数あります。本記事ではそのような失敗事例を3つまとめてみました。まず、記憶に新しい事例から、会社自体が無くなってしまった中古車販売のビッグモーターの保険金不正請求事件の事例です。次に海外の事例ですが、ユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし事件の事例です。最後にメディア対応の失敗事例として必ず挙げられる雪印乳業の食中毒事件です。これも雪印食品の牛肉偽装事件と併せて、最終的にグループ解体の結果となりました。それぞれの事例について、注意すべきポイントも併せて整理します。
ビッグモーター
2023年7月25日、中古車販売大手のビッグモーターは、自動車保険の保険金不正請求問題が発覚して以降、初めての記者会見を開きました。調査報告書では、板金塗装部門で、顧客の車を故意に傷つけて修理範囲を広げるなどの不適切な行為が確認されていました。
この会見で兼重宏行社長は謝罪して辞任を表明した一方で、経営陣は不正を知らなかったと説明し、不正は板金塗装部門が単独で行ったと主張したのです。
その中で、ゴルフボールを靴下に入れて車を傷つけた行為について、
「ゴルフボールを靴下に入れて振り回して損傷範囲を広げて水増し請求をするという、もうほんとにこれは許せません。ゴルフボールで傷つける、ゴルフを愛する人に対する冒涜です。」
と発言しました。不正行為を問題と認める発言だったのですが、後半の「ゴルフを愛する人に対する冒涜です」の部分が切り取られてSNS等で拡散し、「焦点がずれている」と批判的に受け取られてしまったのでした。
「ゴルフを愛する人に対する冒涜です」という部分だけをみてしまうと、本来の被害者は「愛車を傷つけられた人」であるにもかかわらず、まるで被害者は「ゴルフを愛する人」であるかのようにみえてしまいます。
さらに会見に同席した和泉専務は「弊社は創業者の兼重宏行のリーダーシップと、その卓越したビジネスモデルにより、いまや業界を代表する企業となりました」などと社長を持ち上げる発言を行い、焦点のずれが大きい印象を与えました。
これに加えて、現場に責任転嫁し、関わった社員を刑事告訴するなどの姿勢も併せてイメージの悪化を増幅させました。さらに、社長の息子である副社長のパワハラLINE(「死刑死刑死刑、、、」などのメッセージが日常的に送られていた)や、街路樹の無断伐採・除草剤散布など、不祥事が次々と発覚し、不正行為による行政処分も重なって一気に会社の存続が危機的状況になったのでした。
最終的に伊藤忠商事の傘下となる新会社WECARSに事業が継承され、ビッグモーターの名前は消えてしまったのです。
この事例からは以下のようなポイントに注意すべきと整理できます:
・会見で、責任を問われている側の感情を前面に出さない
・軽率な発言(ゴルフを愛する人に対する冒涜)を避ける
・経営陣が不正を知らなかったとしても、知らなかったこと自体が問題であると認める
・現場に責任を押し付けるのではなく、組織全体の責任として受け止める
ユナイテッド航空
2017年4月9日、ユナイテッド航空3411便で乗務員を追加で乗せる必要があり、満席の中から4人の乗客を降機させなければならない状況となりました。800ドルの補償金でも他便への振替に応じる乗客がいなかったため、ランダムに4名が選ばれました。3名は降機したものの1名は最後まで拒否し、航空警察によって機内から強制的に降ろされ、その際怪我を負いました。その様子を撮影した動画がSNSで拡散したのです。
翌4月10日、ユナイテッド航空のムニョスCEOは、最初の声明で
「ユナイテッドの全員にとって心を痛める出来事です。このお客様方を再収容(re-accommodate)しなければならなかったことをお詫びします」
と述べましたが、怪我をした乗客への謝罪はありませんでした。
さらに同日、社員向けメールにて乗客について
「disruptive and belligerent(騒ぎを起こし好戦的)」
と表現し、
「当社の従業員は、このような状況に対する既定の手順に従った」
と説明しました。ただしこの社内メールの内容は流出して報道されてしまいました。
SNSで拡散された動画では「騒ぎを起こし好戦的」といった様子はなく、CEOの説明とは矛盾していました。これによって批判が殺到し、CEOは翌4月11日に改めて謝罪することとなったのです。
CEOの最初の会見では会社の都合目線で話が進められており、それが再収容(re-accommodate)という言葉のチョイスにつながりました。そして、会社は手順に従って進めただけで、拒否した乗客側に問題がある、とみなしたのです。批判はこの会社側の姿勢に対して発生しました。さらに、乗客が機内から引きずり出される動画が批判に拍車をかけました。
ビッグモーターが現場に責任転嫁したのと同様に、ユナイテッドの場合も乗客側に責任転嫁したのです。さらに、この乗客がベトナム系アメリカ人であったことから人種差別ではないか、という意見も拡散され、不買運動に発展していきました。
この事例からは以下のようなポイントに注意すべきと整理できます:
・まず乗客が負傷したことについて謝罪すべき
・re-accommodate(再収容)、disruptive(騒ぎを起こす)、belligerent(好戦的)などの会社目線での言葉を使わず、被害者目線での言葉を選択する
・社内向けの発信であっても、外部に流れることを意識する
・既定の手順=適切な手順とは限らないことを認識する
・再発防止策の検討を約束する
雪印乳業
2000年6月、雪印乳業大阪工場が製造した低脂肪乳などを原因とする大規模な食中毒事件が発生し、最終的な被害者は一万人を超え、まれにみる大規模な被害となりました。
食中毒発生後、保健所は商品の回収を求めたものの、微生物検査に異常がみられないことから、雪印は製造工程に問題はないと判断して回収を保留しました。それでも食中毒の報告は続き、発生から2日後にようやく回収の判断をしたのです。
原因がわかるまで1月半かかり、低脂肪乳などの原料となる脱脂粉乳が、黄色ブドウ球菌の作る毒素エンテロトキシンで汚染されていたことがわかりました。この脱脂粉乳を作る工程で停電が発生し、冷却が遅れたことが原因で黄色ブドウ球菌が繁殖したのでした。その後加熱殺菌を行うことで殺菌し、微生物検査をクリアしたためそのまま製品化しましたが、エンテロトキシンは加熱しても失活せず、脱脂粉乳に残留し続けたのです。
雪印乳業は、事故発生後の商品の回収や消費者への告知に時間を要し、その後の説明も二転三転しました。また、回収を決めた会見で石川社長は「この商品は儲かっていない商品で影響はあまりない」などと発言し、被害者よりも経営を重視する姿勢が出てしまいました。
こうした中で爆弾発言が起こります。7月4日の記者会見(専務による「黄色人種は牛乳で下痢する」などと開き直る発言があった)後に、報道陣にもみくちゃにされながら社長が発言した「私は寝てないんだ!」という言葉がテレビで繰り返し報道され、被害者よりも自分の苦労が前面に出てしまったことで批判が殺到しました。
当時まだSNSはなかったものの、「私は寝てないんだ」という言葉と、記者と社長が言い争う映像が全国的に知られるようになりました。現在なら「雪印社長、逆ギレ」などとさらに大きな炎上となっていたことでしょう。なお、石川社長はこの発言の2日後に引責辞任を表明しました。
このとき、まず自社の問題を認めて被害者への謝罪、現在の状況、次のアクションなどを説明すべきであり、「自分がどれだけ苦労しているか」は話すべきではありませんでした。経営者自身の苦労・怒りを語ることが、被害者への共感より前に出てしまう、というビッグモーターの事例との共通点があります。
この後、消費者の不信が急速に拡大して小売店が雪印製品を売り場から撤去し、飲用牛乳だけでなく、チーズやバターなどを含む雪印製品全体に大きな影響が及びました。もちろんこれは失言のみではなく、大規模な食中毒の発生そのものと、その後の対応が後手後手に回ったことも大きな原因となっています。
さらに2002年には同じ雪印グループである雪印食品の牛肉偽装事件も発覚し、雪印グループへの信頼回復を難しくしてしまいました。雪印食品は2002年4月に解散、牛乳・乳製品の事業は新会社である日本ミルクコミュニティに移行され、雪印ブランドは解体されたのです。
この事例からは以下のようなポイントに注意すべきと整理できます:
・会社の事情(経営への影響)よりも被害者のことを優先する
・「自分の苦労」を会見で話さない
・記者を敵とみなさない(マスコミの先に一般の視聴者がいる)
・会見終了後も気を抜かない(今回の発言は会見終了後に発生)
まとめ:クライシスコミュニケーションの失敗事例
クライシスコミュニケーションの失敗事例として、ビッグモーターの保険金不正請求事件、ユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし事件、雪印乳業の食中毒事件の3つの事例をまとめました。共通する原因として、一つは被害者がいることの軽視、もう一つは経営陣の責任否定(もしくは経営者の被害者意識)です。会社のことより被害者への謝罪の姿勢を前面に出すこと、現場に責任を押し付けて経営者はむしろ被害者だというような意識を持たないことが重要です。
補足
本記事は以下の書籍等を参考に書きました。
岡本浩一、今野裕之 (2003) リスクマネジメントの心理学 事件・事故から学ぶ

東洋経済:ビッグモーター「しくじり会見」に見る最大の弱点 強権組織は「負け戦」の正しい戦い方を知らない

ウィキペディア:ユナイテッド・エクスプレス3411便乗客強制排除事件

BBC:なぜこんなことに? 米ユナイテッド航空はなぜ乗客を引きずりおろした(男性を引きずる動画あり)


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