リスコミでは中学生でもわかるように説明しろと言われたけど、どうしたらいいかわからない人のためのツールを紹介2:情報全体の評価方法

communication_index リスクコミュニケーション

要約

リスクコミュニケーションにおいてはわかりやすい説明が重要です。資料等の情報全体のわかりやすさの評価方法3つ:マーカー法、Clear Communication Index(CCI)、Suitability Assessment of Materials(SAM)と、数値・図表・リスクなどの表現方法の注意点を紹介します。

本文:リスクコミュニケーションにおける情報全体のわかりやすさの評価方法

リスクコミュニケーションにおける「わかりやすい説明」をどのように評価するか、という記事の第2回目です。前回は文章の難易度を判定するWEBツール「チュウ太」と「帯3」を紹介しました。このツールを使うと文字通り「中学生にもわかるかどうか」を判定できます。

リスコミでは中学生でもわかるように説明しろと言われたけど、どうしたらいいかわからない人のためのツールを紹介1:文章の難易度レベル判定
リスクコミュニケーションにおいてはわかりやすい説明が重要です。そこで、文章の難易度を判定するWEBツール「チュウ太」と「帯3」を紹介します。このツールを使うと文字通り「中学生にもわかるかどうか」を判定できます。

本記事では、文章レベルだけではなく、全体の構成、数字や図表、リスクの表現方法など、全体的な資料の評価方法について解説します。なお、前回と今回の記事は福島県立医科大学教授の後藤あや氏による「ヘルスリテラシー」のワークショップに参加して得た情報を元にしています。リスクコミュニケーションの中でも医療従事者と患者とのコミュニケーションを念頭に置いたものです。

資料全体の評価方法1:マーカー法

ターゲットとする情報の受け手(数人程度)に協力してもらい、資料のわかりやすさを評価してもらう方法です。資料を読んで、わかりにくい単語・文章・部分にマーカーで色をつけてもらいます。情報の提供側があたり前に書いてあることが案外難しかったりするので、実際の情報の受け手にテストしてもらうということは非常に重要です。

資料全体の評価方法2:Clear Communication Index

米国疾病予防管理センターいわゆるCDCの名前はコロナ禍でよく聞くようになりました。日本でも東京版CDCの設立などが議論されています。このCDC(本家のほう)が開発した資料のわかりやすさの評価指標がClear Communication Index(CCI)です。オバマ政権が2010年にたてたThe Plain Writing Act of 2010に基づくものとなっています(こういう名前の法律いいですね)。

The CDC Clear Communication Index
A research-based tool to help you develop and assess public communication materials.

CCIは以下の7つの観点からの20個の質問にYesかNoで答えることによって100点満点のスコアがつけられます。90点以上で合格となります。

1.メインメッセージと行動を促すフレーズ
2.言語
3.情報デザイン
4.最新の科学
5.行動に関する推奨事項
6.数字
7.リスク

CCIでは最初のクイックチェックとして以下の5つの項目が挙げられており、これだけでも参考になるかと思います。
1.ターゲットとなる情報の受け手を特定したか?受け手が何を必要とし、何を望んでいるかを考慮しなさい。
2.受け手の調査はしたか?推測や推測ではなく、受け手のことをよく知るようにしなさい。
3.行動をとる目的とキーメッセージを特定したか?受け手に何をしてもらいたいのか?
4.資料が確実に受け手に届くように、どのように配布されるかを決定したか?受け手が資料をどのように見つけ、どのように受け取り、どのように使用するかを検討しなさい。メッセージに最適な形式(書面、視覚、音声、ビデオ)を選択しなさい。ソーシャルメディア、コミュニティ、ウェブサイトなど受け手にあった普及チャネルを特定する。
5.受け手との事前テストを行い、フィードバックに基づいて修正するための時間とリソースを確保したか?

CCIの日本語版が上記の後藤氏のグループによって作成されました。後藤氏によるワークショップに参加した際にもらった「ヘルスリテラシーのツール 用語の言い換え&健康情報の評価」という小冊子に評価方法が記載されています(ネット上にあるかどうか探しましたが見あたりませんでした)。この冊子の内容全部は紹介できませんが、以下に質問項目だけを列挙します。冊子にはそれぞれどんな場合にYesでどんな場合はNoかなどの説明がつけられています。

全ての資料に使える指標
1.資料が伝えたい主なメッセージは一つですか?
2.一番伝えたいメッセージが資料の上の方、はじめ、または表紙に書いてありますか?
3.一番伝えたいメッセージが視覚的に強調して書いてありますか?
4.一番伝えたいメッセージについての視覚資料が使われていますか?
5.対象者にしてほしい行動を促すことが書いてありますか?
6.対象者にとってなじみのある言葉を一貫して使っていますか?
7.箇条書きや段落番号を用いてますか?
8.内容的にまとまっている部分ごとに見出しをつけて分けていますか?
9.重要な情報のまとめが、資料のはじめにまとめて書いてありますか?
10.情報源となる専門家や関係機関が、何をわかっていて何をわかっていないのか両方を説明していますか?

対象者の行動変容につながることが書いてある資料に使える指標
11.どのように行動すればよいかが書いてありますか
12.なぜその行動が重要なのか説明してありますか?
13.その行動を実行するにはどうすればいいかが書いてありますか?

・数値が用いられている資料に使える指標
14.対象者が慣れている数値を必ず使っていますか?
15.数値の意味を必ず言葉で説明していますか?
16.読者は計算をしなければいけないですか?(ここだけNoの場合に合格)

・リスクに関することが書いてある資料に使える指標
17.危険性の性質について説明していますか?
18.(行動の推奨が書いてある場合)行動の利点と欠点の両方について説明していますか?
19.(確率が示してある場合)その確率の意味を言葉か視覚的に説明していますか?

対象となる項目で9割以上合格しないといけないので、実際かなり難しいです。なるべくこういう項目に気をつけることが重要になります。

資料全体の評価方法3:Suitability Assessment of Materials

Suitability Assessment of Materials(SAM)は、内容、わかりやすさ、見やすさ、読み手の認知感情面への配慮などを評価する指標となっています。もともとのSAMの出典は以下のURLで見ることができます。
http://aspiruslibrary.org/literacy/SAM.pdf

SAMの日本語版が東京慈恵会医科大学教授の野呂幾久子氏によって作成されました。上記のワークショップに参加した際に日本語版SAMの資料をもらいましたが、これも現状ネット上では手に入りません。概要は以下の解説文に書かれています。23の質問項目があり、それぞれ2, 1, 0点の3段階で評価します。

後藤あや (2015) ヘルスリテラシー ―健康に関する情報を使う力―. Isotope News 732, 24-28
https://www.jrias.or.jp/books/pdf/201504_RIJYUKU_GOTO.pdf

以下に項目のみを紹介しておきます。これも元の資料にはどのような場合に2, 1, 0点がつくかなどの詳しい内容が書かれています。

1.内容
(a) 題名または緒言に文書の目的が書かれているか
(b) 問題解決のために取るべき行動・活動が書かれているか
(c) 不要な情報がないか/情報が多すぎないか
(d) 知りたい情報が書かれているか
(e) 文書の最後にまとめが書かれているか

2.わかりやすさ
(a) 文書が読みやすいか
(b) 語り口調・能動態で書かれているか
(c) 語彙が難しすぎないか
(d) 新しい情報の前に内容が提示されているか
(e) 見出しやこれから書かれる内容の大枠について簡単な説明(先行オーガナイザー)があるか

3.見やすさ
A 図表やイラスト
(a) 表現が親しみやすく、関心を引き、目的が明確か
(b) 簡潔で読み手になじみがあるか
(c) 重要なポイントだけを視覚的に表現しているか
(d) 図表やイラストの意味や見方についての説明があるか
(e) 図表やイラストの内容を示すタイトルがあるか
B レイアウトと活字
(a) レイアウト(一貫性、適度なスペース、ポイントの明示、色使い、図表やイラストと説明の位置、印刷の質)が適切か
(b) 活字の大きさや種類が適切か
(c) 情報が小さく分けられそれに見出しがついているか

4.読み手の認知感情面への配慮
(a) 情報が一方的に伝えられるのではなく、読み手が問題を解いたり答えたりすることが求められているか
(b) 望ましい行動パターン・モデルが示されているか
(c) 読んで理解できる気、また、望ましい行動や活動が自分にできる気がするか
(d) 読み手の不安を過度に増していないか
(e) 読み手を一人の人間として尊重する姿勢が感じられる表現か

感情面への配慮という項目があるところがユニークですね。見やすさの項目もCCIよりも具体的です。一方で、CCIの方は数値やリスクに関する説明の項目に特徴があります。CCIとSAMでどちらがよいかというよりは、どういう点に気をつければよいかという目安として考えればよいかと思います。

数値、図表、リスクなどの表現方法

数字の理解の難易度が以下のように示されています。これはニューメラシー(numeracy, numerical literacyからでてきた造語)という数的能力の測定結果に基づく順位です。なるべく難易度の低い方法で示すとわかりやすい説明となります。

1.数を数える
2.計算する
3.傾向を推測する
4.頻度の理解
5.割合の理解
6.算出方法を見つける
7.集合の概念
8.表を読む
9.グラフを読む
10.地図を読む
11.ばらつきの理解
12.絶対と相対の理解
13.リスクの理解

Apter et al (2008) Numeracy and Communication with Patients: They Are Counting on Us. Journal of General Internal Medicine 23, 2117-2124

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表やグラフを読むというのは案外高いレベルにあることがわかります。表やグラフを読むのは小学4,5年生レベルの難易度であり、表なら行と列、グラフなら縦軸と横軸の意味を理解してデータの解釈をする必要がでてきます。情報の伝え手がわかりやすいだろうと思って作成した図表も伝わっていないかもしれません。また、地図上に示すという可視化方法もわかりやすい例と言われていますが、そうでもないかもしれません。

最近ではインフォグラフィックが流行っていますが、一般的な図表よりもピクトグラフの利用が進んでいます(わかりやすいと誤解しやすいが紙一重ですが。。)。そこでSAMの評価項目にもある「図表やイラストの意味や見方についての説明があるか」というのは案外重要だったりするのです。

そして、リスクの理解は最上級に難しいのです。当ブログではリスクの数字を示す際は10万人あたりの年間死者数で示すことが多いですが、確率よりも分母(人口10万人あたり)と分子(死者数)を両方示す、時間軸を示す(生涯なのか年間なのか)ことが重要です。さらにリスクのものさしのように比較対象を適切に示すことも重要です。当ブログでも確率で示すのをやめようという記事をいくつか書いています。

確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その1:コロナウイルスのPCR検査で陽性がでたら感染している可能性は〇%か?
PCR検査は白か黒かをはっきりさせる確実なものではありません。偽陽性や偽陰性の問題がありますが、これを確率で表すととてもわかりにくいものになります。代わりに頻度で示すことによって理解しやすくなります。事例として検査で陽性が出た場合に本当にどれくらいの人が感染しているのか計算してみます。
確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その2:死亡率0.001%と言われても、自分が死んだらならそれは100%ではないのか?
これまで新型コロナウイルス感染症のリスクを比較してきましたが、リスクは10万人あたりの死者数、つまりある一定の集団の中の死者の頻度として表現しました。これを確率で表現するといろいろとややこしい問題が出てきますので、リスクコミュニケーションでは確率ではなく頻度で表現したほうがベターです。
確率で書くとわかりにくいのでやめよう!その3:コロナウイルスの致死率、陽性率、病床稼働率もわかりにくい
コロナウイルスの情勢でよく出てくる致死率、陽性率、病床稼働率という3つの確率について考えてみました。致死率なら人口と感染者数と死者数の関係、陽性率なら検査数とその意味(検査数の中には何が含まれているのか)、病床稼働率なら重症病床と通常病床のキャパシティ等、分母と分子を明示したほうがよいでしょう。

まとめ:リスクコミュニケーションにおける情報全体のわかりやすさの評価方法

資料等の情報全体のわかりやすさの評価方法として、
(1)情報の受け手に評価してもらうマーカー法
(2)評価項目の質問に答えて評価するClear Communication Index(CCI)
(3)同じく評価項目の質問に答えて評価するSuitability Assessment of Materials(SAM)
を紹介しました。
また、数値、図表、リスクなどの表現方法の注意点をまとめました。これらは知識として知ったうえで何度も実践して練習する必要があります。

補足

本ブログも立ち上げにあたり、本やWEBでブログの書き方的なことをいろいろ勉強しましたが、そこに書いてあることは本記事で書いてあることと実はほとんど同じなのです。特にCCIのクイックチェックとして書かれている項目はマーケティングの手法とも同じです。商品ではなく情報を多くの人に届ける、という意味では考え方も同じなのですね。

Google先生がサイトの質を評価して検索順位に反映させる指標もまさに同じものです。ブログサイトでは、読み手が求める情報を提供できているか、問題解決に役立っているか、が重要な項目になります。本ブログの運営でも、アクセス解析によって読み手の分析を行ったり、ツイッターの分析によりどんな情報がトレンドかを調べたり、YAHOO知恵袋やグーグル検索の解析をしています。知恵袋ではリスクに関する悩みが見つかりますし、Googleでは探したい情報をキーワードとして検索窓に打ち込むので、検索履歴の解析をすると今どんな情報が求められているかがわかります。

リスクの表現にはだいぶ気を使ってはいますが、平易に書くことはまだまだできていませんね。読み手の問題解決に資するかどうかもまだ不十分で、今はまだ自分の書きたいことを書いている状態です。今後もブログを書くことで内容を磨いていきたいと思います。

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