PFOS・PFOA問題とPFAS問題は全く違うがちゃんと区別されていない

PFAS 化学物質

要約

「PFAS」がタイトルに入ったニュースが多数報道されていますが、そのほとんどはPFOS・PFOAの2物質に限定した内容であり、10000種類以上もあるPFAS全体の問題ではありません。PFOS・PFOA問題とPFAS全体の問題とはまったく別の問題であり、これらをごっちゃにすることで別の問題も発生します。

本文:PFOS・PFOA問題とPFAS問題の違い

今回は有機フッ素化合物であるPFASについてのシリーズ記事で、PFOS・PFOA問題とPFAS問題の違いについてまとめます。これまでの記事については以下のまとめ記事を参照してください。

PFASをめぐる科学と社会~まとめ記事~
有機フッ素化合物「PFAS」に関する基礎知識、リスク評価、基準値問題、規制動向などについての「まとめ記事」。

ここ最近もPFASがタイトルに入ったニュースが多数報道されています。最近の動向としては、水道水中のPFOSとPFOAの基準値(あわせて50ng/L)について、これまでの暫定目標値から水道水質基準へ格上げすることになった、というものがあります。

水道水のPFAS濃度、26年から検査義務へ 基準超で原因を特定 | 毎日新聞
環境省は24日、水道水に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)の濃度を従来の暫定目標値から、水道法に定める「水質基準」に格上げする方針を決めた。2026年4月から水道事業者などに検査を義務づける案を有識者検討会に示し、了承された。来春にも正式決定する。

この毎日新聞の記事にも見出しには「PFAS」と書かれていますが、その内容はPFOS・PFOAの2物質のことです。本来「PFAS」とは1万種類を超える有機フッ素化合物の総称であるにもかかわらず、PFOS・PFOAの2物質以外のことはまったく扱われていません。

このように、PFAS問題を扱っているように見えて実際にはPFOS・PFOA問題を扱っているニュース記事が非常に多くなっています。実際にGoogleニュース(https://news.google.com/)で「PFAS」と検索して出てくる日本語の記事を50記事分確認してみたところ、大半はPFOS・PFOA問題を扱った記事で、PFOS・PFOA以外のPFASを扱った記事はわずかに以下の二つしかありませんでした。

【繊研新聞社主催】先進企業に学ぶ「PFAS規制の現在地」~繊維・ファッション業界への影響と課題・対策~ | 繊研新聞
繊研新聞社は、業界の健全な発展に寄与するために「繊研サステイナブルコミュニティ―」を運営し、約1カ月に1回の頻度でセミナーやイベントを開催しています。 繊維ファッション業界で長年、撥水撥油剤として重宝されてきたP...
脂肪族フッ化物を用いたクロスカップリング反応 ―PFAS分解に向けた新たな道を開拓―|国立大学法人名古屋工業大学
国立大学法人名古屋工業大学の公式ウェブサイトです。

PFAS問題とPFOS・PFOA問題の違いがわかっていないのか、トレンドに乗ってPVを稼ぐためにPFOS・PFOA問題をあえてPFAS問題として扱っているかのどちらかでしょう(多分後者)。実際にGoogle trends(https://trends.google.co.jp/trends/)で2024年の検索数を調べてみると、以下のように世の中の注目キーワードはPFOSやPFOAではなくPFASなのです。

ところが、上記のとおりPFAS問題とPFOS・PFOA問題はまったく別の問題であり、これらをごっちゃにしてしまうと問題の認識やその対策を間違えてしまう可能性があります。

そこで本記事では、PFOS・PFOA問題と特定PFASについて解説し、特定PFAS以外のPFAS問題とはまったく別の問題であることを解説します。最後にこれらの違いを明示しないニュース記事がどのような問題を引き起こすかについてまとめます。

PFOS・PFOA問題と特定PFAS

さて、PFASとは「ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物」のことを指していますが、OECDによる定義としては「少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチル又はメチレン基(フッ素が結合している炭素原子に H、Cl、Br、I 原子が結合していないもの)を含むフッ素化物質」となっています。これに該当するものは1万種類を超えると言われていますが、すべてがリスト化されているわけではなく、総物質数は明確ではありません。

このうち、有害性や蓄積性、長期残留性が明らかとなって日本(化審法)や世界(POPs条約)で使用が規制されているものはPFOS・PFOA・PFHxSの3種類です。これらはリスクの問題であって、水中の基準値なども設定されています。そしてその基準値を超過する事例が相次いていることが問題になっています。

日本ではPFOS・POFAは基準値が設定されていますが、PFHxSは未設定です。なので日本ではPFOS・PFOA問題と言えるでしょう。

また、リスクの問題であるPFOS・PFOA・PFHxSの3種類を他のPFAS(リスクがまだよくわからない)と区別するために、この3種類を特定PFASと呼ぶことが提案されています。

日本フルオロケミカルプロダクト協議会:特定PFASとは

特定PFASとは <日本フルオロケミカルプロダクト協議会>
日本フルオロケミカルプロダクト協議会 環境規制について

PFASは一般に有機フッ素化合物の総称ですが、規制や訴訟で昨今話題に上っているのは、10,000種類を超える種類があり、その種類によって性質が違います。PFASの中でも特に、規制や訴訟で昨今話題に上っている、PFOSやPFOAなどいくつかの物質については、難分解であり生体蓄積性、毒性があることが近年明らかになっています。それらに関する水質基準の設定などについては賛同しており、すみやかに行われるべきと考えます。

一方で、PFAS全体が有害物質で規制対象と捉えるのは科学的な根拠に欠けていると考えます。その中には、性質上安全性の極めて高いものや、法令で管理され安全性が確認されたものもあることから、こうした化合物について科学的な根拠なく規制がかけられることのないようにするべきと考えます。

特定PFASとは、まさにPFAS問題とPFOS・PFOA問題を分けるための用語ですね。ただ、「特定」という言葉からそのことをイメージすることが難しいのであまり普及しないかもしれません。また、PFASという用語を含めないほうがよいと思います。

特定PFAS以外のPFAS問題

次に「PFAS問題」に移ります。PFOS・PFOA問題はリスクの問題でしたが、PFAS問題とは、リスクがあるかどうかも不明な有用物質を丸ごと規制しようとしている問題です。このことについては本ブログの過去記事にすでに詳しく書いています。

有機フッ素化合物PFASのリスクその2:フッ素樹脂が巻き添えで欧州のPFAS規制対象になった
PFAS問題の解説として、PFOS・PFOAからPFASへ世間の注目が変化したことをGoogle trendsを用いて示します。次に、PFASとは何か?についてリスクの観点から大きく3つに分けて解説します。そして欧州で進んでいるリスク評価を伴わないPFAS一律禁止措置の動向について紹介します。

欧州ではPFASの規制が検討されており、2023年2月にその原案が出されました。OECDの新しい定義を満たす10000種類以上のPFASについて原則一律に製造、使用、販売を禁止する、という衝撃的な内容でした。

用途別に規制開始から最長12年の猶予期間があり、この期間内でPFASをほかの物質に代替することが求められます。

通常は、まずはPFASの各物質のリスク評価を行い、リスクの懸念のある場合にその物質を規制する、というプロセスが採用されます。しかしながら、PFASの場合はリスク評価のプロセスが省かれ、しかも10000種類を超える物質群として例外なく禁止措置がとられるのです。これがいかに異常な状況かわかるでしょうか。

特定PFASについては難分解性、生物蓄積性、強い毒性というリスクに関する特性が知られているわけですが、大部分のPFASについてはこのような特性を持つのかどうかはよくわかっていません。

特に、フライパンなどのコーティングに使われているフッ素樹脂については、PFOSやPFOAとはまったく別の物質で、基本的に体内に入っても毒性もなくそのまま排出され、悪さをすることはありません。ところがこれもPFASにくくられてしまい、一括規制の対象となっています。これが一体どんな問題を引き起こすのでしょうか?

PFOS・PFOA問題とPFAS問題の違い

フッ素樹脂の用途と言えばフライパンくらいしか思い浮かばないかもしれませんが、実際には非常に幅拾い用途があり、特に気候変動対策にも有用な用途が多く、これらが使えなくなると大きな影響があります。詳細は本ブログの過去記事に書いています。

有機フッ素化合物PFASのリスクその3:PFASがなくなると我々の生活はどう変わるか?
PFAS問題の解説その3として、PFASがなくなると我々の生活はどう変わるかについてまとめます。PFAS使用禁止によって使用エネルギーは増大し(温暖化対策は後退し)、モノ全体の寿命は縮み、安全性が損なわれます。また、PFAS代替物質のリスクがPFASのリスクを上回るリスクトレードオフも懸念されます。

自動車の燃費は悪くなり、バッテリーも非効率になります。建築資材、屋根、太陽光パネルの寿命は短くなり、より多くの材料を頻繁に交換して使用することになります。どう考えても温暖化対策に逆行することになります。

モノ全般の寿命が短くなれば、例えば建物の劣化が進むなどして安全性が損なわれます。表面コーティングの性能が落ちれば摩耗が早まり、マイクロプラスチックの排出が増加するなどの別のリスクを上昇させるかもしれません。また、医療現場での安全性も大きく損なわれ、薬は変質しやすくなり、消防活動のリスクも上昇します。すなわちリスクを考えてもPFASをやめることで(PFASのリスクはなくなっても)全体のリスクが改善するとは限りません。

これ以外にもフッ素系の冷媒もPFASなので代替の必要があります。かつてオゾン層を破壊したフロンガスは現在使われていませんが、その代替フロンも大気中に放出された場合に温暖化係数が高いなどの問題もあります。ところが、フッ素を含まない冷媒はいくつもあるものの、効率が劣っていたり燃焼性・毒性があったりするためあまり普及が進んでいません。PFASをやめると火災のリスクが増え、使用エネルギーが増大し、温暖化にはむしろマイナスになる可能性もあります。

これがPFAS問題の本質なのです。PFOS・PFOA問題とはまったく別の問題であることがわかります。どちらかと言えばPFAS問題のほうがより深刻な問題であることがわかるでしょう。PFOS・PFOAは規制措置がすでに終了しており、私たちの摂取量もどんどん下がってきており、しょせんあとは残留している分の後片付けの話です。PFOS・PFOA問題は過去の問題ですが、PFAS問題は未来の問題です。

ところが日本のニュースでは、タイトルでは「PFAS」とくくりながらも内容はPFOS・PFOA問題ばかりを取り上げ、より重要なPFAS問題はほとんど取り上げません。このように、PFOS・PFOA問題とPFAS問題をごっちゃにすることで本質的な問題が見えにくくなってしまっています。

中身はPFOS・PFOAの問題であるのに、タイトルにPFASとつけてしまうと、「すべてのPFAS=キケン」というイメージがしみついてしまい、問題のないものも含めてすべてのPFASを禁止しようという世論が誘導されてしまいます。これはまったく世の中のためになりません。

PFOS・PFOAの問題を取り上げるならばタイトルにもPFOS・PFOAときちんと書くか、特定PFASという名称を用いて、PFAS全体の問題とは異なることを明示するべきでしょう。

まとめ:PFOS・PFOA問題とPFAS問題の違い

「PFAS」がタイトルに入ったニュースが多数報道されていますが、そのほとんどはPFOS・PFOAの2物質のリスクに関する問題であり、10000種類以上もあるPFAS全体の問題(リスクがあるかどうかも不明な有用物質を丸ごと規制しようとしている問題)を扱ったものではありません。これらを分けて考えなければ本質的な問題がどんどん見えにくくなってしまいます。

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