要約
結婚は選択によって人生が大きく変わるリスクがあるという意味で「人生選択リスク」とくくることができます。男女ともに既婚者に比べて未婚のほうが幸福度が下がり、死亡率も増加します。また、より良い結婚相手を追及しても幸福になれるとは言えず、そこそこで満足する姿勢が求められるようです。
本文:結婚とリスク・幸福
この一ヵ月あたりはコロナが収束したことで、ニュースと言えば皇族である眞子さまの結婚相手のことばかりがひたすら流れました。これにはさすがにうんざりしていたのですが、それだけ国民の関心が高いネタである、ということになります。「結婚とはこうあるべき」という規範意識が強く、それを他人に押し付けるのが大好きなようですね。
ここまで騒ぎが大きくなると「結婚=リスク」と考えた人も多かったのではないでしょうか。実は本ブログで行っているsns定点観測を見ていると、特にYAHOO知恵袋で結婚とリスクに絡む話が結構たくさん出てきます。結婚は受験、就職、恋愛、育児、起業、マネープラン(住宅購入など)などと並んで「人生選択リスク」というカテゴリーでくくることができます。選択によって人生が大きく変わるリスクがある、という意味です。
YAHOO知恵袋で結婚リスクに関するものを少し引っぱってきただけで、以下のように実にバラエティに富んだリスクが洗い出されます:
- 結婚を親に反対されている
- 働く気のない彼女との結婚に悩んでいる
- 婚約者の父が反ワクチン
- 夫の風俗通いで病気が怖い
- 職場結婚は失敗のリスクがある(うわさになる)
- 結婚詐欺に引っかかった
- 妊娠したのに結婚できないと言われた
- 年の差婚のリスク
- 旦那の突然死のリスク
- シングルマザーの再婚は子供虐待のリスクがある
- 結婚で退職すると再就職が難しい
- 結婚生活に後悔している
- 不妊のため離婚を切り出された
- ヤクザと結婚するリスク
また、結婚するかしないかが文字通り「リスク」となることも知られています。「友だちの数で寿命はきまる」というキャッチーなタイトルの本(書誌情報は補足参照)によると、アメリカで行われた研究の結果、結婚しているかどうかなどの社会的つながりが死亡率に大きく影響することが示されました。同様に、男子校出身者は未婚率が高く短命であるという結果も示されています。
このような結婚リスクに関して、私の興味は以下の3つになります。
(1)結婚によって死亡リスクは低減するのか?
(2)結婚すると幸福になれるのか?
(3)人生選択に対する姿勢(積極的にリスクをとりにいけるか)の影響
そこで本記事では、この3つにトピックを絞って調べたことをまとめていきます。
結婚によって死亡リスクは低減するのか?
結婚していると寿命がどうなるか、という話でよく出てくるのが以下の記事のように、死亡時年齢の差を見る手法です。死亡時年齢の中央値を比較すると、男性の場合は未婚で66歳・有配偶で81歳、女性の場合は未婚で82歳・有配偶で78歳となっています。
東洋経済オンライン:独身か有配偶かで異なる男女の「人生」の長さ
配偶関係別の死亡状況全体の傾向をまとめると、男性の場合、有配偶より独身のほうが短命で、女性の場合は、独身のほうが有配偶より長生きという、男女で正反対の構造になっています。「一人になってしまうと生きていけない男、一人のほうが長生きできる女」と言っても過言ではないかもしれません。
ただし、そもそも「未婚」グループと「有配偶」グループでは年齢構成やらさまざまな条件が違うので、単純に女性は既婚者よりも未婚のほうが長生きとかの解釈はできません。一方で男女差はかなり大きいので、男性のほうが未婚への耐性が低い、ということは言えるでしょう。
「死別」のグループが一番長生きという結果になっていますが、これは、長生きしたから死別した(=パートナーより長く生きた)のであって、死別したから長生きしたわけではありません。これは因果の向きが逆ですね。
同様に、男性の未婚=短命という結果もさまざまな解釈が可能です。そもそも重い持病があったことが原因で結婚できず、その持病のため短命になったのかもしれません。また、すごく太っている人はその外見のため結婚できず、肥満の影響で短命になったのかもしれません。これは結婚しているかどうかではなく、持病や肥満という交絡因子の影響を見ているだけになります。
次に、このあたりの交絡因子を調整して死亡率を比較した研究を見てみましょう。
婚姻状況と死亡リスクとの関連-JACC Studyの結果から-
この研究では年齢のほか、体形(BMI)、タバコ・酒などの生活習慣、教育、雇用、運動習慣、持病などのさまざまな交絡因子を調整した後に、全死亡率などを比較しています(補足に元論文の情報を記載)。
男性の場合、既婚者の死亡率を1としたときに死別者は1.3、離婚者は1.5、未婚者は1.9になりました。既婚<死別<離婚<未婚の順に死亡率が高くなります。この傾向は65-79歳に限定してもそれほど大きく変わりません。
同様に女性の場合、既婚者の死亡率を1としたときに死別者は1.0、離婚者は1.0、未婚者は1.5になりました。既婚≒死別≒離婚<未婚の順に死亡率が高くなります。さらに、65-79歳に限定するとなんと未婚者と既婚者の死亡率が同じになりました。
男女ともに未婚のほうが死亡率が高くなるという結果になり、先ほど紹介した「女性は未婚のほうが長生き」という結果と逆転しました。やはり交絡因子の調整は重要ですね。また、女性の場合死別や離婚の影響がなく、未婚であっても男性よりも死亡率への影響が低くなりました。女性のほうが家庭以外に社会的つながりを作るのが上手いからだと考えられています。
結婚すると幸福になれるのか?
幸福度の統計と言えば、内閣府の「満足度・生活の質に関する調査」です。以前にもこの統計の内容を紹介しています。
2020年に公表された「満足度・生活の質に関する調査」に関する第4次報告書を見てみましょう。
p118からの「Ⅲ 人々を取り巻く様々な環境や属性と生活満足度との関係」に家族構成と主観的満足度が低い人の割合との関係が示されています。単身が最も満足度の低い人が多く、二世代や三世代が続き、夫婦のみが最も満足度の低い人が少ない(=満足度が高い)結果となりました。
配偶者がいる・いないの比較では、配偶者がいるほうが満足度の低い人が少なくなりました(=満足度が高い)。さらに、配偶者がいない場合、各年代で男性のほうが女性よりも満足度が低くなり、40-50代男性で顕著に低い結果となりました。
ほかにもインターネットで検索するといろんなデータが出てきますが、ほぼほぼ同じ結果を示していますので、かなり強い証拠があると言えますね。
もちろんこれは集団としての比較ですので、全員が結婚で幸福になるとは限りません。佐藤一磨氏による研究(論文情報は補足に記載)では、既婚者を夫婦関係に「満足」「普通」「不満」という3つのグループに分けると、「不満」のグループは未婚や離婚のグループよりも幸福度が低くなりました。やはり結婚相手の選択が幸福度に大きく影響しそうです。
人生選択に対する姿勢(積極的にリスクをとりにいけるか)の影響
次に、より良い結婚相手を追及することでより幸福になれるのか?を考えてみます。結婚相手の選択が幸福度に大きく影響するとなると、満足するまで結婚相手を吟味したほうが幸福になれるということなのでしょうか。大石繁宏氏による「幸せを科学する」という本を見ると(宗教の本ではありません)、逆に選択肢の過剰がもたらす副作用について書かれています。
何かを購入する際にあらゆる情報を吟味する人と適度でオーケー派がいますが、後者のほうが幸福度が高いようです。前者は比較が好きで、自分と他人を比較する傾向も強いからというのが理由として挙げられています。さらに前者はその決断に後悔することが多く、もし別の選択をしていたらということが気になってしまうようです。
しかも、これは就職や結婚についても同様のことが言えるようです。人生選択リスクにおいては、リスクをとらないように(満足する相手を選べるように)選択肢を増やすことが必ずしもプラスになるとは限らないようです。
ところで選択肢と言えば、お見合い結婚のほうが恋愛結婚よりも離婚率が低いというデータもあります。
結婚相談所探しのプロに聞く:お見合いのほうが恋愛より離婚率が低い理由
ここでは「恋愛結婚のほうが3倍以上も離婚しやすい!」などと書かれています。この理由として、①恋愛結婚は婚姻時が愛情のピーク、②お見合い結婚の場合は条件が明確という二つの理由が書かれています。ただし、これは以下のように単に結婚年齢の違いを見ているだけかもしれません。
厚労省の出生動向基本調査の夫婦調査によれば、恋愛結婚の場合ですと、男性は平均25.4歳、女性は24.1歳の段階で出会った相手と結婚しています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/54867bd663e58dd838325650960fbf8ce7cd6cad?page=2
(中略)
恋愛結婚でない見合い結婚(結婚相談所含む)場合の出会い年齢はそれよりも当然遅くなります。平均値で、男35.6歳、女32.3歳となります。
厚生労働省の平成21年度「離婚に関する統計」の概況には「年齢階級別有配偶離婚率」が示されています。これを見ると、年齢が高くなるほど離婚率が低くなることがハッキリと出ています。
お見合いのほうが離婚率が低いのは単に年齢が高いという理由も考えられます。逆に、「お見合い」に分類される婚活は普段の生活よりもはるかに選択肢が多く、これが幸福度を下げてしまうかもしれません。
44歳・大学准教授が「婚活」にハマってわかった、婚活市場の「見えない歪み」
婚活市場では、人間関係のしがらみが一切ない状態で、時間とお金と精神力が許す限り、何度でも、短期間で出会う事が可能です。なので、可視化されたスペックをもとに異性を非人格化した商品として扱い、自分が求める理想の結婚の条件にもとづいて徹底的に比較し、瞬時に配偶者として適・不適を判断していくということも可能になります。
ということで、かつてのお見合いと現代の婚活を同じに考えないほうがよさそうです。人生選択リスクは積極的にリスクをとりにいけるかどうか(ほどほどのところでよしという決断できるかどうか)が重要になるのでしょう。
まとめ:結婚とリスク・幸福
結婚は選択によって人生が大きく変わるリスクがあるという意味で「人生選択リスク」とくくることができます。男女ともに既婚者に比べて未婚のほうが死亡率が上昇します。ただし、男性の場合は離婚や死別によっても死亡率が高くなるのに対して女性は既婚者と同じであり、男性のほうが孤独への耐性が低いようです。また、結婚したほうが幸福度は高くなりますが、夫婦関係に不満があると未婚よりも幸福度が下がります。だからといって、より良い結婚相手を追及しても幸福になれるとは言えず、そこそこで満足する姿勢が求められるようです。
補足
本記事で取り上げた論文や書誌情報は以下の通りです。
石川 善樹 (2014) 友だちの数で寿命はきまる 人との「つながり」が最高の健康法, マガジンハウス
Ikeda et al. (2007) Marital status and mortality among Japanese men and women: the Japan Collaborative Cohort Study. BMC Public Health 7, 73
佐藤一磨 (2021) 夫婦関係満足度と幸福度―夫婦仲が悪い結婚と離婚、幸福度をより下げるのはどちらなのか―. 慶応義塾大学パネルデータ設計・解析センターディスカッションペーパー, DP2021-008
大石繁宏 (2009) 幸せを科学する―心理学からわかったこと, 新曜社
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