オリンピック賛成・反対の世論の変化はその時点の感染状況の推移と関係している

olympic SNS定点観測

要約

Google Trends、YAHOO知恵袋、ツイッターの3つのツールを用いて、オリンピック中止か開催かの人々の気持ちの変化を探ってみました。人々はオリンピック開催に伴うリスクを判断しているというよりも、その時の感染状況をオリンピックのリスクに置き換えて判断している、という傾向がわかりました。

本文:オリンピック賛成・反対の世論の変化

新型コロナウイルスについては、現在としてはもうワクチンを打つ以外に収束させる方法はなく、どれだけワクチンを早く多くの人が打てるか、というところの勝負となっています。そのワクチン普及と重なる最後の山場が東京オリンピックということになるでしょう。

さて、そのオリンピックですが中止あるいは延期を求める声が大きくなってきています。以下の朝日新聞の調査では、「今夏の開催に反対している人が8割を超える」という結果になっています。

AFP:今夏の五輪開催、反対が8割超 最新世論調査

今夏の五輪開催、反対が8割超 最新世論調査
【5月17日 AFP】(写真追加)東京五輪開幕まで10週間を切る中、17日に発表された最新の世論調査で、今夏の開催に反対している人が8割を超えることが明らかになった。

ただ、以下の記事では開催が中止を上回っているようです。6月に入ってから逆転したとのこと。

東京五輪「開催」が「中止」を上回る 世論調査で「風向き」変わる?海外ではなお懸念も

Yahoo!ニュース
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調査対象や調査時期(直前の感染状況やどんなニュースがあったかなど)、質問の仕方などでも結構変わることが考えられるので、同じ方法で定点観測して時系列の変化を見ないとなんだかよくわかりませんね。上の記事でも肝心の時系列の変化がわかりにくいのです

そこで、本ブログおなじみのソーシャルリスニングの手法を使ってみたいと思います。ツイッターを使ったオリンピックの賛成・反対の解析については、すでに東大の鳥海さんが5月に行った結果が出ています。

YAHOOニュース:ツイッター上で拡散した「#東京五輪は中止します」と「#東京五輪の開催を支持します」を比較してみた

ツイッター上で拡散した「#東京五輪は中止します」と「#東京五輪の開催を支持します」を比較してみた(鳥海不二夫) - エキスパート - Yahoo!ニュース
新型コロナの影響で東京オリンピックの開催については議論が尽きない状況です.世論調査を見る限り開催に反対の人の方が多いわけですが,ツイッター上では意見が分断している様子が見て取れます.データを見る限りで

鳥海さんは私のようなアマチュアと違ってこの手の解析のプロです。解析の結果、基本的には政権不支持派(おおざっぱにはリベラル系)がオリンピック開催を強く反対しており,政権支持派(おおざっぱに保守系)がオリンピック開催に賛成している、ということのようです。さらに少数の党派性が強いアカウントの影響力が強く、社会の意見を反映しているとは言えないとのことです。

政権側は、「世論は変わりやすい。オリンピックが始まってしまえば皆熱狂する」などと楽観的な見方をしているようですが、実際はどうなるでしょうか?

本記事では、これまでのソーシャルリスニングの手法を用いて、オリンピックの中止あるいは開催支持の時系列変化のパターンを追いかけてみたいと思います。本ブログでこれまでに解析してきた結果は以下のページからご覧ください。

SNS定点観測
「SNS定点観測」の記事一覧です。

Google Trends

Google トレンド

これまでGoogle Trendsを用いて、「リスク」とともにどんなキーワードが検索されているかを調べてきました。今回は「オリンピック」とともに検索されている人気キーワードを見ていきます。その中で「オリンピック 中止」という検索と「オリンピック 開催」という検索の人気度の比率を中止・開催比として計算しました。もちろんこの検索数の比率が中止派・賛成派の比率を示すものではありませんが、人々の興味がどのように変化しているかの一つの指標にはなるかと思います。この比の値が高いほど「中止」に気持ちが傾いていることを示唆します。これを2021年に入ってからの毎月期間を指定して行い、その月毎の変化を下のグラフに示します(6月は1~8日までの数字です)。

google

中止・開催比は3月に一旦下がり、その後は4月5月に掛けて上昇、6月に入るとまた下がってきます。6月8日だけで調べるとさらに下がって3月の水準に近くなります。これが一体何に連動しているのでしょうか?もうおわかりのことと思います。日々の新規コロナ感染者数の推移とほぼ似たような推移をたどっているのです。

以下に厚生労働省のオープンデータを用いてグラフ化した新規コロナ感染者数の推移を示します(曜日による検査数の違いを補正するために7日間移動平均をとっています)。ということで、中止か開催かの気持ちはその時の感染拡大状況に左右されるのではないか、ということが想像されます。

corona-positive

YAHOO知恵袋

Yahoo!知恵袋 - みんなの知恵共有サービス
Yahoo!知恵袋はみんなでつくる便利でうれしい知恵の共有サービス。参加している方がお互いに知恵や知識をQ&Aで共有できるサイトです。

これまでYAHOO知恵袋を用いて、「リスク」を含む質問のうち閲覧数が多かったトップ10を抽出して、その傾向を探ってきました。今回は「オリンピック」を含む質問を同様に抽出して、閲覧数の多いトップ10のうち、中止をにしてほしいという意見を出している質問の数を人力で数えてみました。かなりおおざっぱな解析ですが、これも下のグラフに示します。

YAHOO

これは本当に驚くべき結果です。こんなおおざっぱな解析でも、Google Trendsから計算した中止・開催比とほとんど同じような推移が得られました。3月にはゼロになってしまってたのですね。コチラの数字の方が、Google Trendsよりも「オリンピック中止に気持ちが傾いている度合い」の指標としては直接的だと思います(本当はトップ10だけじゃなくてもっと数えるべきですが)。

また、質問内容を読んでいて気が付いたのですが、中止と延期の区別がついていない人が結構います。中止しろと言っている人の中には「完全に中止(延期もなし)」、「今年は中止で来年に延期」の人が混ざっていると思われます。

Twitter

https://twitter.com/

最後はツイッターの解析です。これまで「リスク」を含むツイートを毎週1万ツイートずつ収集して、そこに含まれるワードの傾向を解析してきました。

今回はこれまで収集した「リスク」を含むツイートを再解析します。まず毎月のツイートの中から「オリンピック」を含むツイートを再抽出し、その中に含まれる「中止」と「開催」の全名詞中の登場頻度の比率を中止・開催比として表します。その比率の毎月の変化を下のグラフに示します。

twitter

Google TrendsやYAHOO知恵袋とは時期が少しずれているように見えますが、2月と5月にピークがくるという形状はおおむね似ていますね。それと変化の度合いはあまり大きくないようにも見えます。これはもともとが「リスク」を含むツイートを再解析しているので、そもそも「リスク」を含んでいる時点でオリンピックのリスクを気にしているツイートが母集団になっているわけです。ツイッターの場合は無料でのAPI利用は一週間より過去にはさかのぼれないので、これ以上の時系列変化の解析は無理そうです。

注意としては、「オリンピック」と「開催」を含むツイートが開催に賛成しているとは限りませんよね。「開催はやめてください」というツイートかもしれません。反対に「中止なんてとんでもない」という内容であれば、「中止」を含んでいても開催賛成派になります。なのでワードの絶対数を議論することはあまり意味がありませんが、「中止」と「開催」の比率の時系列変化は何らかの意味を持っているはず、と考えられます。

まとめ:オリンピック賛成・反対の世論の変化

Google Trends、YAHOO知恵袋、ツイッターの3つのツールを用いて、オリンピック中止か開催かの人々の気持ちの変化を探ってみました。どのツールを使っても時系列変化のパターンはよく似ており、日々の新規コロナ感染者数が増えると「中止」に傾き、下がると「開催」方向に傾く、ということがわかりました。ただし、絶対数として賛成・反対のどちらが多いかはわからないことに注意が必要です。中止の声は5月がピークであり6月に入ってからは弱まっているようで、今後どうなるかが注目されます。

この解析から、人々はオリンピック開催に伴うリスクを判断しているというよりも、その時の感染状況をオリンピックのリスクに置き換えて判断している、ということが考えられます。オリンピックが開催されると浮かれ気分になりリスクが高まるという見解もありますが、その時点での新規感染者数で浮かれ気分が決まりそうにも思います。

今回は世論の話を書きましたが、オリンピック開催の是非の主戦場はやはり政治と科学の関係のところではないでしょうか。次回はその関係について書いていきたいと思います。

コロナウイルスのリスクガバナンスにおける科学と政治その7:オリンピックの開催是非は専門家が判断することなのか?
オリンピックの開催などをめぐって科学vs政治の対立構造があおられていますが、科学と政治の間に位置づくレギュラトリーサイエンスの観点が重要です。専門家がリスク管理に踏み込むのは緊急事態であることを考えれば仕方ありませんが、これが標準的なやり方ではありません。リスク評価の限界やリスクが許容可能かどうかの議論の必要性などの論点を整理します。

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