コロナウイルスのリスクガバナンスにおける科学と政治その2:専門家会議(的なもの)の状況や役割の違いを比較してわかったこと

meeting リスクガバナンス

要約

新型コロナウイルス対策において専門家から政府に助言をする組織は専門家会議を含め3つあり、それらのメンバーや役割を整理したところ、それぞれ重複があり「どこからどこまで」を審議するものなのかあいまいなことがわかりました。

本文:専門家会議的なものの比較

新型コロナウイルス対策への科学的助言を行ってきた専門家会議が廃止されるとのニュースがありました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f9e0d742203720ab35485ed93b15576f7f1d932e
(2020年8月9日修正。リンク切れ)

西村氏はこの日の会見で同会議について「位置づけが不安定であった」と述べ、特措法に基づく新たな会議体「新型コロナウイルス感染症対策分科会(仮称)」を設置すると表明。感染防止と社会経済活動の両立を図る必要があるとして、感染症の専門家以外にも、自治体関係者や情報発信の専門家らを加え、「第2波」に備えるとした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f9e0d742203720ab35485ed93b15576f7f1d932e

前回の記事にて、専門家会議(的なもの)が感染症対策を主導するようになったのは1957年のアジアかぜと呼ばれるインフルエンザH2N2パンデミックであることを紹介しました。それから60年以上もこのシステムは続いています。

ところで、新型コロナウイルス対策の専門家会議(的なもの)は一つではなく複数あって一見違いがよくわかりません。ニュースにある専門家会議以外にも、新型インフルエンザ等対策有識者会議やその下部に位置づく基本的対処方針等諮問委員会、厚生科学審議会 の感染症部会などです。位置づけが不安定であった、と西村大臣が述べたようですが、これらの会の位置づけや役割、メンバーなどどのようになっているのか整理してみました。科学と政治の関係、専門家会議のあり方について論じるならまずは整理が必要ではないかと考えたためです。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

新型コロナウイルス感染症対策本部
新型コロナウイルス感染症対策本部

政府の新型コロナウイルス感染症対策本部に位置づきます。事務局は内閣官房新型インフルエンザ等対策室になります。委員12名は基本的に感染症の専門家で構成されています。(委員名簿https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/konkyo.pdf)。ただし、中山氏(弁護士)、武藤氏(東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授)の2名は感染症の専門家ではなさそうです。中山氏は厚生科学審議会感染症部会の委員でもありますので、関連する実績は多そうです。なお、座長は国立感染症研究所長の脇田氏です。また、委員以外にも今回のコロナ対策のキーパーソンである北大の西浦教授等の専門家が座長の依頼により毎回参加していたようです。

専門家会議の役割については以下のように記載されています。非常にあいまいな書き方になっていることがわかります。

1 新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うため、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」という。)を開催する。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/konkyo.pdf

このような組織を「私的諮問機関」と呼びますが、「私的」からうけるイメージとは異なって税金による予算化がされており、ときには法的な根拠に基づいて設置される審議会よりも実質的な影響力が強いことがあります。法的根拠に基づかないのでスピーディーに設置・議論ができる反面、位置づけや影響力があいまいになるという負の側面もありますね。議事録がない、というのもこのあたりの性質が関係しているようです。

新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会

新型インフルエンザ等対策有識者会議|内閣官房ホームページ
新型インフルエンザ等対策の円滑な推進のため、新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下に、新型インフルエンザ等対策有識者会議(以下「有識者会議」といいます。)を開催します。有識者会議の下に、基本的対処方針等諮問委員会を開催します。有識者会議は医療・公衆衛生に関する分科会及び社会機能に関する分科会を開催します。

政府の新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下に位置づきます。専門家会議と同様に事務局は内閣官房新型インフルエンザ等対策室になります。委員は20名で、上記専門家会議の委員12名は全員この委員会の委員にもなっています(委員名簿https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/simon/kousei.pdf)。座長は、専門家会議では副座長であった尾身氏になっています。コロナ対策による経済影響を議論するために経済学者が途中で4名追加されました。ほかは弁護士である田島氏以外は肩書から想像するにほぼ感染症の専門家で構成されているようです。この委員会の役割は以下のように記載されています。

有識者会議の下に、基本的対処方針等諮問委員会(以下「諮問委員会」という。)を開催する。諮問委員会は、次に掲げる意見を、内閣総理大臣又は法第 16 条第 1 項の新型インフルエンザ等対策本部長に対し述べることとする。
① 法第18条第4項に基づく意見。
② ①に掲げるもののほか、新型インフルエンザ等の発生時の対策に関する必要な意見。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi/konkyo.pdf

新型インフルエンザ等対策特別措置法第18条第4項には「政府対策本部長は、基本的対処方針を定めようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。ただし、緊急を要する場合で、あらかじめ、その意見を聴くいとまがないときは、この限りでない。」とあります。

新型インフルエンザ等対策特別措置法 | e-Gov法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

専門家会議に比べると法律上の位置づけははっきりしていますが、内容的にはそれほど「どこからどこまで」というような区切りは見えてきません。「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」 は厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症について」のwebサイトの最初に紹介があります。結構雑多な文章である印象を受けます。

新型コロナウイルス感染症について

ちなみに親会議の新型インフルエンザ等対策有識者会議のほうは諮問委員会のメンバーを含むさらに多くのメンバーで構成されています。そしてこの会議の役割は以下のように記載されています。

有識者会議は、次に掲げる意見を、内閣総理大臣に対し述べることとする。
① 新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成 24 年法律第 31 号。以下「法」という。)第6条第5項の規定に基づく意見。
② ①に掲げるもののほか、新型インフルエンザ等対策の円滑な推進を図るために必要な意見。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi/konkyo.pdf

特措法第6条第5項には「内閣総理大臣は、前項の規定により政府行動計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。」とあります。内容的にはなかなかこの親会議と下部の諮問委員会の役割の違いを理解するのは簡単ではなさそうです。実際、親会議のほうは、新型コロナ発生後一度も開催されていません。緊急事態宣言の発動や解除は本来この親会議の役割のはずですが、諮問委員会のほうで議論がなされています。

厚生科学審議会  感染症部会

厚生科学審議会 (感染症部会)
厚生労働省の厚生科学審議会 (感染症部会)を掲載しています。

厚生労働大臣の下に位置づく会議で、事務局は厚生労働省健康局のなかで対応する課室が担当するようです。委員は20名、部会長は専門家会議座長と同じ脇田氏で、中山氏、釜萢氏など専門家会議ともメンバーは一部重複しているようです(委員名簿https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000598041.pdf)。感染症の専門家メインですが、経済学部の方、自治体の保健所組織の方や読売新聞の方など、専門家会議よりはより幅広い分野から集まっていますね。

感染症部会は結構な頻度で開催されており、新型コロナウイルス発生から7回の会議が開催されています。ただ、基本的には傍聴可能な会議ですが3月以降はリアルな会議形式ではありません。

厚生科学審議会では会議は公開であること、議事録は公開することが運営規定に書いてありますね(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588333.pdf)。ただし、この部会で「どこからどこまで」審議するのかは明記されていません。

新型コロナウイルス発生後に審議されている内容は、指定感染症への指定についてや抗原検出用キットの活用に関するガイドライン等細かい部分もありますが、コロナ対策全般について議論されているように見えます。そうなると役割・位置づけが不明確に感じます。

実務的な面としては、審議会はオープンな会議なので、新型コロナ対策のような不確実性の高いものに対して、まずは専門家の率直な意見を聞きたい、という目的にはあまり向いていないように思います。このような場面では別途クローズドな検討会などが設置されて、ガチンコで意見を言い合うような場ができたりします。そこである程度論点を絞ることで、審議会などでは議論を円滑に回すことができるのですね(しゃんしゃん化することにもなりますが)。

専門家会議の役割

ここからは私の勝手な想像ですが、私的諮問機関である専門家会議が設定されたのは、非公開な場において限定したメンバーで率直な意見のやり取りをすることが目的だったのではないでしょうか。怒鳴り合いの激論が交わされていたといった話もありますね。

コロナ専門家会議では、怒鳴り合いの激論が交わされていた
第1波が終息しつつある新型コロナウイルス。日本の対策や感染症専門医の状況はどうだったのか。政府専門家会議委員の岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長に聞いた。

こういった本音をぶつけあう話し合いは議事録が作成されたり公開されている会議ではやはり難しいです。こうしてある程度議論を深めてから、より正式な会議である諮問委員会等にあげていく、という構図だったのかもしれません。専門家会議が廃止され、本音をぶつけ合う場がなくなってしまうと結局困るので、今後は別の場が非公式でできるだけだと思います。

さて、「次なる波に備えた専門家助言組織のあり方について(記者会見発表内容)」

次なる波に備えた専門家助言組織のあり方について(記者会見発表内容)|コロナ専門家有志の会 | COVID-PAGE
2020年6月24日、日本記者クラブにおいて、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の脇田隆字氏、尾身茂氏、岡部信彦氏が、構成員一同を代表して、これまでの活動を総括するとともに、今後の感染拡大のリスクに備えて、新たな専門家助言組織のあり方を提案するため、記者会見を行いました。 会見した3名は、コロナ専門家有志の会メ...

を見ると、当初は行政から出された案に見解を示すだけであった専門家会議は、感染が拡大するにつれてより積極的に提言をだすようになったとあります。メンバーの危機感や世の中からの期待がどんどん膨らみ、世の中の期待に一生懸命答えようとして本来の目的から逸脱してしまった、のではないでしょうか。この辺の専門性と専門家の役割について次回の記事でもう少し深堀りしてみようと思います。

まとめ:専門家会議的なものの比較

新型コロナウイルス対策において、専門家の立場から政府に科学的な助言をする組織は新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、基本的対処方針等諮問委員会、厚生科学審議会の感染症部会の3つがありました。それぞれのメンバーも会の役割も重複しており、「どこからどこまで」を審議するものなのかあいまいな状態であったと言えます。

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