要約
2021年の人口動態統計の死因別死者数によると、インフルエンザなどの呼吸器系疾患は2020年に引き続いて減少が目立ちました。自殺の超過死亡は損失余命で比べるとコロナによる損失余命と同等ですが、年代別に見るとその特徴が大きく異なり、若者ほど自殺の損失余命が大きくなります。
本文:2020~2021年にかけての日本の死亡リスクのトレンド
新型コロナウイルス感染症による統計上の死者数は2020年に3466人、2021年に16771人となりました。2年間の合計は20237人です。また、2022年は約半分過ぎた現時点で12000人くらいでしょうか。
最近のニュースによると、日本のコロナ死亡率はOECD加盟38か国のうち最も低いそうです。かつてゼロコロナ政策をとってきたニュージーランドでは、規制緩和後に一気に死者数が増えて日本を追い越しました。以下の記事にはアジアの国で死者数が低いのは肥満の人が少ないからだというコメントが掲載されています。
ウォールストリートジャーナル日本版:日本のコロナ死亡率が低い訳は? OECDで最低
また、一方で以下の記事ではマスク着用率やワクチン接種率が高いのが原因だと書かれています。いろんな人がいろんなことを言っていますね。
ブルームバーグ:新型コロナ致死率の低さで日本がOECD首位、基本はやはりマスクか
結局のところ、リスクをとらない(思い切ったことをしない)、みんなと同じことをする(マスク、ワクチン、外出自粛など)、という国民性に起因するように思います。
本ブログでは約1年前に「2020年コロナ禍は日本の死亡リスクのトレンドにどのような影響を与えたか?」という記事を書きました。今回はこれと同様に2020年と2021年でどのように変化したかに注目してみます。
まずはおなじみの人口動態統計を整理し、次に超過死亡について整理します。最後にコロナ禍における自殺増、婚姻・出生減などのトピックについて見ていきましょう。
人口動態統計
使用するデータはおなじみの人口動態統計です。死因別死亡数は以下のページの第6表にあります。
厚生労働省:令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況
これは死因の中でも簡単分類別というものですが、それでも100種類以上の死因が出てきます。全部並べるとごちゃごちゃするので、昨年と同様に26種類をピックアップして死亡リスク(人口10万人あたりの年間死者数)をグラフに表します。比較のために2020年の死亡リスクも同時に掲載します。死亡リスクの高いものから低いものまで一つのグラフに載せるため、軸は対数にします。
わかりにくいのですが、「その他の特殊目的用コード」という死因が新型コロナウイルスによる死亡を意味します。
2020年に比べて死者数の減少率が最も高いのはインフルエンザで、98%減(!)となっています(グラフでは2021年は0.1以下になっているので見えない)。2019->2020年にかけてもインフルエンザは激減しましたが、そのときでも73%減です。
ウイルス性肝炎や喘息も、2019->2020年のときと同様に10%以上の減少が見られました。肺炎も6.3%減となっています。コロナ対策がこれらの病気にも効果があったものと考えられます。
2019->2020年にかけては交通事故、火災、有害物質による不慮の中毒、他殺も10%以上減少しており、 人流やさまざまな活動そのものが減少した影響が見られました。ところが、2020->2021年にかけてはそのような傾向は見られず、逆に火災は10%以上の増加になりました。
増加したもので目立つのはダントツで新型コロナになります(390%増!)、次に老衰(15%増)です。2019->2020年にかけて増加した自殺は2020->2021年ではほぼ同様でした。
超過死亡ダッシュボード
上記の統計上の数字とは別に、超過死亡数(平年から予想される死者数を上回る死者の数)も見ていく必要があります。インフルエンザと同様にコロナにおいても超過死亡による死者数の推定が行われています。ただし、コロナ対策が社会経済を大きく変えてしまったので、超過死亡とコロナ死亡との関連付けは単純ではありません。
超過死亡を見るには「日本の超過および過少死亡数ダッシュボード」というサイトが非常に便利です。都道府県別に期間を限定して、超過死亡数の週ごとの推移を知ことができます。いくつかの死因については死因別のデータもあります。
まずは2020~2021年にかけての週ごとの超過死亡(すべての死因)を見てみましょう。
赤の点線が平年から予想される死亡数で、その上下に「このくらいの変動は想定内」というラインが引かれています。青の縦棒グラフが実際の死亡数です。赤の点線よりも下回ると平年よりも少なく、さらにその下のラインを下回ると「統計的有意に」低い(マイナスマークが付される)という意味になります。上側についても同様で、緑のラインを上回ると「統計的有意に」高い(プラスマークが付される)という意味になります。
2020年の前半はおおむね平年よりも低く、その後は平年と同じかあるいはコロナ感染拡大の波に応じて平年よりも高くなっています。プラスマークがついているところはコロナ第2波、第3波、第4波、第5波と対応しています。
以下に、死因別の超過死亡として、呼吸器系疾患と自殺の推移も掲載します。
呼吸器系疾患は2020年では平年より低くなり、2021年の4月あたりから平年を上回るようになります。プラスマークはコロナ第4波、第5波と対応しています。
自殺のほうも2020年前半は低いのですが、後半からプラスマークが2021年前半までずっと続きます。2021年後半になってようやく平年並みに落ち着いてきました。このようにコロナ対策の副作用として、景気悪化や雇用悪化、家庭環境の悪化など自殺につながる要因が増えてしまいました。芸能人の自殺もきっかけになっています。
コロナ禍での自殺増、婚姻・出生減
上記のダッシュボードでは、2020年1月から2021年11月までの間における自殺者数について、予測死亡数を上回る死亡数が5845人となっており、これが超過死亡者数(の上限値)となります。
(2022年7月27日追記) この5845人という数字の導出方法を確認していませんが、予測死亡者数を下回る過小死亡を引き算していないのでは?という指摘をいただきました。そこで上記の週ごとの「死亡者数-予測死亡者数(過小死亡の週はマイナスになる)」を積算していくと、2020年1月から2021年11月までの間で2497人になります。超過が目立つ2020年7月から2021年6月までの1年間だと3335人になります。
超過死亡数の計算方法もいろいろあるようで、東京大学の仲田泰祐氏らのグループによる「Covid-19と経済活動」の参考資料の中にも超過死亡の解析があります(2022年6月13日 コロナ禍における超過自殺を参照)。
これは年齢や性別を考慮した推定方法で、6995人と推定されています。20代・女性の自殺が特に増えており、損失余命で見ると非常に大きくなります(25歳の女性の平均余命は約63年)。
本ブログの過去記事で損失余命を計算した結果を見ると、死者1人あたり損失余命(年)は、コロナの場合11.6年、自殺の場合33年となり、自殺のほうが約3倍高くなっています。つまり、コロナ死者数が自殺の3倍あった場合に損失余命の比較だと同じくらいになるわけです。
2年間のコロナ死者数の合計が20237人で、自殺の超過死亡が6995人なので、死亡リスクの比較だとコロナのほうが高くなりますが、損失余命比較ではコロナ234749年vs自殺230835年となり、ほぼ同じになります。
さらに、年代別に見るともっとショッキングな図になります。以下の図は上記の「コロナ禍における超過自殺」の資料にあります。コロナと自殺は損失余命の合計で見るとほぼ同じ数字になりますが、若い人ほど自殺による損失余命が多く、高齢者ほどコロナによる損失余命が多くなります。これがコロナ禍における世代間の分断というやつですね。コロナ対策をすればするほど高齢者は助かりますが若者の命は失われます。
次に婚姻や出生の減少についても見てみましょう。同じ仲田泰祐氏らのグループによる「Covid-19と経済活動」の参考資料の中の2022年4月12日 「コロナ禍における社会経済活動(with 千葉安佐子・大竹文雄、砂川武貴」の資料を参照します。超過死亡とは逆にトレンドラインから予想される婚姻数から下方への減少分はざっと見た感じで2年間で10万件ほどになります。
これもすさまじい数ですね。人との接触が制限されることでこのくらい減ってしまうのです。出生数も同じように減少が見られていますが、婚姻数減少の影響が出るのはおそらくこれからではないかと思われます。死者数も重要ですが、生まれてくる命の減少もまた大きな問題になるでしょう。
また、本ブログの過去記事に書いたように、結婚によって(特に男性で)余命を伸ばし、幸福度も上昇します。婚姻の減少はそれ自体が(将来の)リスク要因になるということも頭に入れておきたいものです。
まとめ:2020~2021年にかけての日本の死亡リスクのトレンド
2021年の人口動態統計の死因別死者数によると、インフルエンザ(98%減!)、喘息(11%減)、肺炎(6%減)など、呼吸器系疾患の減少が目立ちました。不慮の事故は2019->2020年には顕著に減少しましたが、2020->2021年ではそのような傾向が見られませんでした。超過死亡についてはコロナ感染拡大の波にあわせて増加しており、自殺は2020年後半から2021年前半まで増加が目立ちました。自殺の超過死亡は損失余命で見るとコロナによる損失余命と同等で、年代別に見るとその特徴が大きく異なりました。婚姻や出生も減少しており、コロナ対策の影響の爪痕が大きいことがわかります。
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