要約
PCR検査は白か黒かをはっきりさせる確実なものではありません。偽陽性や偽陰性の問題がありますが、これを確率で表すととてもわかりにくいものになります。代わりに頻度で示すことによって理解しやすくなります。事例として検査で陽性が出た場合に本当にどれくらいの人が感染しているのか計算してみます。
本文
「自分はコロナなのかコロナじゃないのか、ゼロかイチかはっきりさせてほしい」
こういう確実性の夢をかなえてくれるものには大きな魅力があります。
こんなニュースもそんな夢をかなえてくれそうなものに見えてしまいます:
ヤフーニュース:楽天、PCR検査キット販売開始 法人向け、関東の5都県
ところが、検査には確実なものはありません。重要なポイントは「特定の症状がないものの不安を感じている社員に使うことなどを想定している」という点です。さて、症状がないのに不安な人がだれでも検査を受けられるようになるとどうなるでしょうか?検査の感度や特異度、偽陽性/偽陰性の問題が重要になりますが、これらのことを確率で書くと非常にわかりにくく、多くの人に伝わらないのでやめましょう、ということを書いてみます。これもリスクコミュニケーションの一つのポイントです。
早速ですが、まずはクイズから入ってみます。
クイズ~確率編~
新型コロナウイルス感染症の診断にはPCR検査を実施します。現在国内の有病率は0.01%程度です。受診者がコロナ感染者であれば70%の確率で陽性になります(感度70%)。コロナ感染者では無い場合でも陽性になる(偽陽性になる)確率は0.1%です(特異度99.9%)。
注:この数字は仮の話。まだ真の感染者数がわかっていないため。
無症状でも不安な人はだれでもPCR検査を受けられるようになったとします。
あなたは外国渡航歴もなく感染者の濃厚接触者でもありませんが、テレビのニュースをずっと見ていてとても不安になったので、PCR検査を受けてみたところ、陽性の結果が出たとします。
あなたがコロナ感染者である確率は何%でしょう?
このクイズに正確に答えられる人は実はほとんどいません。70%や99.9%と答える人が多いのですが、正解は9%です。コロナの事例ではありませんが、がん検診を題材にして医師に対してこのような質問をした場合、なんと多くの医師が間違える、ということがわかっています。
それでは全く同じクイズを確率を使わずに出してみます。
クイズ~頻度編~
新型コロナウイルス感染症の診断にはPCR検査を実施します。現在国内で10000人程度の感染者が出ており、これは10000人に1人程度の割合となります。この10000人が検査を受けた場合、1人の感染者はたぶん陽性になります。残りの9999人の非感染者のうち、10人がやはり陽性になりますので、全部で11人が陽性になります。
注:この数字は仮の話。まだ真の感染者数がわかっていないため。
無症状でも不安な人はだれでもPCR検査を受けられるようになったとします。
あなたは外国渡航歴もなく感染者の濃厚接触者でもありませんが、テレビのニュースをずっと見ていてとても不安になったので、PCR検査を受けてみたところ、陽性の結果が出たとします。
本当にコロナ感染者であるのは何人に1人の割合でしょう?
この二つのクイズは、全く同じ内容を確率で書くか頻度で書くか、という違いしかありません。確率で書くのをやめて、このように頻度で説明をすると、多くの人が正しい答えを出せるようになります。下の図のように、枝分かれの図で示すともっとわかりやすくなるでしょう。
検査そのものよりも、感染者数が何人かが重要
上記の例では陽性となっても本当に感染者であるのは10人に1人以下、ということになりました。つまり、検査は完璧ではなく、感度や特異度の問題があります。ここで感度や特異度は検査そのものの問題点です。ところがこれ以外に重要なのが現在の感染者数(有病率)です。ネット上の情報ではこのことに触れていない解説がとても多いと感じます。
人口1億人の国で感染者が1万人とすると、10000人に1人の割合になります。これが、もっと感染者数が低い時で100000人に1人だった場合と、今後感染者数が増えて1000人に1人になった場合で同様に計算してみます。
感染者が低い時で100000人に1人だった場合には、陽性となった場合でも本当に感染している人は101人に1人しかおらず、ほかの100人は偽陽性になります。ほとんどの人が偽陽性になる、という問題があります。
感染者数が増えて1000人に1人になった場合には、陽性となった場合に本当に感染している人は170人中70人となり、かなり割合が上がります。一方で、陰性と判断されたのに本当は感染している人も10万人あたり30人出てきてしまいます。つまり、感染者数が少ない場合は偽陽性が問題となり、感染者が増えてくると偽陽性の問題が減って代わりに偽陰性が問題になってきます。
じゃあどうすれば検査はより有効になるのか?
現在は自分で希望しただけでは検査を受けることはできず、保健所が感染疑いと判断した場合に行うことになっています(医師の判断で行う場合もあります)。
風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や、 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合、などで感染が疑われます。
現在、PCR検査での陽性率は10%程度(10人検査すると1人くらい陽性になる)なので、10000人に1人という国全体の感染者の割合から、症状によって10人に1人の割合まで絞り込めている、ということになります。感染者の割合が10人に1人というところまで絞り込んだ状態で、10000人を検査したらどうなるかを示したのが下の図です。
この状態で陽性が出た場合には709人中700人(99%)が本当の感染者なので、この人達はみな感染者と扱っても偽陽性の問題はほとんど起こりません。これが事前に検査対象を絞り込む意味になります。もちろん、絞り込むのは検査キャパシティの問題でもあります。
ただし、これでも偽陰性が10000人中300人もいて、この問題はまだ大きく残ります。基本的に熱や咳などの症状がある人は検査で陰性と出ても安心せずに2週間は隔離することが重要であるとわかります。検査+実際の症状(これは当然医師の判断)の両輪で判断することが重要です。検査だけでは安全も安心も確保できないことがこの数字からわかります。
まとめ
検査における偽陽性や偽陰性の問題を確率で示してもわかりにくいので、代わりに頻度で示すようにしましょう。検査には確実なものはありませんので、「コロナかどうか白黒はっきりさせて安心したいから検査したい」というのは現時点で夢でしかない、ということも頻度で示すことでわかりやすくなります。
その2ではコロナのリスク比較の記事でも何度も書いた死亡リスクの話でも、確率ではなく頻度で示すべき、ということを書きたいと思います。
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