要約
台風の基準はビューフォート風力階級という風力の12段階の尺度の8(小枝が折れ、風に向かうと歩けない。)以上となっています。これに相当する風速が17.2m/sなので中途半端な数字になっているわけです。また、typhoon、ハリケーン、サイクロンは日本の強い台風、つまり風力階級12以上に相当し、地域によって呼び名が変わります。
本文:台風の基準値
2020年9月7日に九州に接近した台風10号は、その接近前から非常に強い警戒がなされていました。予想よりも若干勢力が落ちたようですが、人的・物的被害の詳細はこれから判明してくるでしょう。ウェザーニュースは停電リスクの予想を事前に発表し、実際に広い範囲で停電が起こりました。停電から熱中症のリスクが懸念されることは以前の記事でも書いたところです。
さて、日本は毎年のように台風に見舞われるわけですが、台風とは何か、その定義などは意外によく知りません。台風は、熱帯性の低気圧で中心付近の最大風速が17.2m/s以上のものを指すのですが、なぜ17.2m/sなどと半端な数字なのか、やはり基準値オタクとしては興味をそそられます。
そもそも日本で「台風」という呼称が定まったのは1956年とそれほど古くないのですね。それまでは中国にならって颶風(ぐふう)と呼んだりタイフーン、大風などと表していたようです。海外ではtyphoonやハリケーン、サイクロンなどと呼ばれていますが、定義がどのように違うのか、という疑問もわいてきます。
そこで本記事では、台風の定義や台風の強さの分類の定義、typhoon・ハリケーン・サイクロンとの違いについて調べてみたことを書いていきます。
台風の基準値17.2m/sの理由
台風の定義はまず「ビューフォート風力階級」というものに遡ります。イギリス海軍提督のFrancis Beaufortが1805年に提唱したもので、それまで風力の標準的な尺度がなかったことから、風の強さを表現するために海上の様子を0~12の13段階に区分しました。その後いろいろと改良され、陸上の様子が加わったり、風速との関係が加わったりしました。そして1964年に世界気象機関(WMO)が採択したものを日本の気象庁が取り入れて現在まで使われています。
風力階級6:大枝が動き、電線が鳴る。傘の使用困難となる。
風力階級7:樹木全体がゆれる。風に向かうと歩きにくい。
風力階級8:小枝が折れ、風に向かうと歩けない。
・・・
風力階級11:めったに起こらないような広い範囲の大損害が起こる。
風力階級12:被害甚大。記録的な損害が起こる。
などとなっています。これが今でも台風の線引きに使われているのです。
一方、日本では戦後のアメリカ軍占領下において気象事業もアメリカ式に従いました。アメリカでは当時熱帯低気圧を風力階級により3つに分類していました。
弱い熱帯低気圧:風力階級6
熱帯低気圧:風力階級7~11
台風:風力階級12~
当初は風力階級7くらいから被害が出始めるのでこのような線引きでしたが、途中からは風力階級8~11が熱帯低気圧になりました。また、風力階級による線引き自体はそのままでしたが、風速の測定が一般的になったことから、対応する風速(アメリカ式なのでm/sではなくノット)で表現されるようになりました。
1953年からは日本の中央気象台が気象予報を出すようになり、熱帯低気圧と台風がまとめて「台風」と定義しなおされ、さらにアメリカ式のノットからm/sに単位が変更されました。その際、風力階級8に相当する33.5ノットが17.2m/sであることから、「台風」の線引きは中心付近の最大風速17.2m/sになりました。一言でいうとビューフォート提督の功績マジパネェっす、という感じですね。
YAHOOニュース:台風の定義が17.2メートルと端数の理由
台風の強さの基準
台風の基準は風力階級8「小枝が折れ、風に向かうと歩けない。」を風速に換算したものでした。次に台風の強さの定義を見てみます。現在台風は以下のように4つ階級がわかれています。
台風:17.2m/s~32.6m/s
強い台風:32.6m/s~43.7m/s
非常に強い台風:43.7m/s~54.0m/s
猛烈な台風:54.0m/s~
台風は風力階級8~11に相当し、強い台風は風力階級12「被害甚大。記録的な損害が起こる。」に相当します。非常に強い、猛烈になるともはや風力階級とは対応しません。ここの線引きの根拠も知りたかったのですが見つかりませんでした。ハリケーンのカテゴリの線引きとも異なるようです。
なお、台風の強さの分類が定められたのは1962年のことです。その当時は風力階級が8~9ものは「弱い台風」、10~11のものは「並の台風」と呼ばれていたのです。その後2000年に「弱い」と「並」という表現は削除され、風力階級8~11は単に「台風」となりました。防災を考える際に「弱い」という表現が油断させるというのが理由のようです。
さらに、台風未満である風力階級6~7の熱帯低気圧は戦後から「弱い熱帯低気圧」と呼ばれてきましたが、これも「弱い」の文字が2000年に消えました。これは前年(1999年)に起こった玄倉川の中州でキャンプをしていた13人が流され死亡するという水難事故が契機になったようです。当時、増水から流されるまでの一部始終が撮影されてTVで放映され、大変にショッキングでした。もう20年も経っていたのですね。「弱い」の文字が消えたのはこの有名な水難事故が契機になっていたとは知らなかったので非常に驚きました。
ウェザーニュース:平成12年「弱い熱帯低気圧」の表現廃止
台風、typhoon、ハリケーン、サイクロンの違い
日本語の「台風」と英語の「typhoon」は似ているようですが少し違います。現在日本語の「台風」は風力階級8以上のものを指しますが、戦後のアメリカ式では風力階級12~のものが台風でしたので、これがそのまま現在英語の「typhoon」の定義になっています。
ハリケーンは定義としてはtyphoonと同じく風力階級12~の熱帯低気圧を指しますが、日付変更線より東側の北部大西洋・北東太平洋・南東太平洋にあるものが「ハリケーン」と呼ばれます。さらにインド洋や南半球のものは「サイクロン」と呼ばれるようになり、地域によって呼称が変わるのです。地域によって呼び名が違うだけで、自然現象としては台風もtyphoonもハリケーンもサイクロンも同じものです。ただし、日本の風速は10分間平均で測定するのに対し、国際的には1分間平均で測定するなどの違いもあります。そして、地理的な境界線を越えた場合は呼び方も変わってしまうのです。例えば、2019年の1月1日(元日の発生は統計開始以来初!)に南シナ海で発生した台風1号は、インド洋に移動して「サイクロン」になりました。
まとめ:台風の基準値
台風の基準はビューフォート風力階級8(小枝が折れ、風に向かうと歩けない。)以上となっています。これに相当する風速が17.2m/s(33.5ノット)なので、中途半端な数字になっているわけです。風力階級8~9はかつて「弱い台風」と呼ばれていましたが防災上不適切ということで弱いという表現が削除されました。typhoon、ハリケーン、サイクロンは日本の強い台風、つまり風力階級12以上に相当し、地域によって呼び名が変わります。
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