「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は「南海トラフ地震臨時情報」と違って事前避難の呼びかけがない

hokkaido-sanrikuoki 基準値問題

要約

最近北海道や東北沖で強い地震が複数発生しており、2025年12月8日と2026年4月20日の地震後には「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表されました。これはどのようなもので、「南海トラフ地震臨時情報」とはどう違うのかについて、特に寒冷地域のリスクの観点から解説します。

本文:北海道・三陸沖後発地震注意情報における避難

最近北海道や東北沖で強い地震が複数発生しています。北海道や東北地方においてここ1年で震度5以上を記録した地震を抽出すると、以下の7件が該当しました。

日時震源地マグニチュード
(速報値)
最大震度
2025年10月25日根室半島南東沖5.9北海道で5強
2025年12月8日青森県東方沖7.6青森県で6強
2026年4月20日三陸沖7.5青森県で5強
2026年4月27日十勝地方南部6.1北海道で5強
2026年5月15日宮城県沖6.3宮城県で5強
2026年6月25日岩手県沖6.9青森県で6強
2026年6月28日岩手県沖6.1青森県で5弱
YAHOO Japan:地震の履歴一覧
https://typhoon.yahoo.co.jp/weather/jp/earthquake/list/

最近では2026年6月25日に岩手県沖でマグニチュード7.2の地震が発生し、青森県などで最大震度6強を記録しました。

日本経済新聞:青森県で震度6強の地震、M7.2 気象庁「後発地震情報は発表至らず」

青森県で震度6強の地震、M7.2 気象庁「後発地震情報は発表至らず」 – 日本経済新聞
25日午前7時30分ごろ、青森県で最大震度6強を観測する地震が起きた。気象庁によると、震源は岩手県沖、震源の深さは44キロメートル、地震の規模を示すマグニチュード(M)は7.2と推定される。この地震で日本沿岸で若干の海面変動の恐れはあるものの、津波被害の心配はないという。気象庁は…

気象庁は同日午前に記者会見し、平常時と比べ大きな地震が起きる可能性が高まった際に発表する「北海道・三陸沖後発地震注意情報」について「発表基準に至らない」としたが、今後約1週間は最大震度6強程度の地震に注意するよう呼びかけた。
(中略)
気象庁によると、地震の規模を精査した結果、同情報を出すかどうかの判断に用いる「モーメントマグニチュード」は6.8で、情報の発表基準である7.0以上を満たさなかった。

この地震では「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は出ませんでしたが、2025年12月8日と2026年4月20日の地震後には「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表されたのです。津波は2025年12月8日の地震で最大0.64m、2026年4月20日の地震で最大0.8mでした。

気象庁:北海道・三陸沖後発地震注意情報について

北海道・三陸沖後発地震注意情報について | 気象庁
description
北海道・三陸沖後発地震注意情報について | 気象庁
description

この「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は2025年12月8日に初めて発表されましたが、そもそもこのような注意情報があることはあまり知られていなかったと思います(私も知らなかった)。

なお、静岡県沖から宮崎県沖までの太平洋に関する「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」については、2024年8月8日に初めて発表され、この内容について本ブログでも解説を行いました。このときの臨時情報は1週間後に解除されましたが、「1週間」という期間は地震発生確率と社会経済の受忍限度のバランスで決まっています。

南海トラフ地震臨時情報「1週間」のほんとうの意味:自治体の半分で受忍の限度を超えている
2024年8月に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されましたが、「1週間は巨大地震の確率が数倍高まる」の意味について解説します。また、1週間という期間は地震発生確率と社会経済の受忍限度のバランスで決まりましたが、実は1週間だと自治体の半分で受忍の限度を超えています。

本記事では、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」とはどのようなものかについて解説し、「南海トラフ地震臨時情報」との違いについて比較します。特に注目すべき違いとして自主避難の有無について、北海道・東北という地域の特徴から考察していきます。

北海道・三陸沖後発地震注意情報の解説

まずは「北海道・三陸沖後発地震注意情報」がどのようなものかについて、以下のガイドラインに基づいて解説します。

内閣府:北海道・三陸沖後発地震注意情報防災対応ガイドライン
https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/hokkaido/pdf/guideline_honbun.pdf

これは、南海トラフ地震臨時情報と同様に、大きな地震が発生した後に、それよりもさらに大きな地震(これを「後発地震」という)が発生することがあるため、ある基準を満たした地震が発生した後に後発地震への注意喚起として出される情報です。

ある基準とは、以下の図の赤で示された地域でモーメントマグニチュード(震源断層のずれの規模を精査して評価される値)が「7.0以上」の場合です。
(その外側で起きた場合でも内側への影響を考慮して情報が出される場合もあります)

fig8
内閣府:北海道・三陸沖後発地震注意情報防災対応ガイドライン p20より

この図にも書かれているように、1963年の択捉島南東沖地震や2011年の東日本大震災では、マグニチュード7レベルの地震の後に、さらに大きな後発地震が発生しています。

このような大きな地震が発生した場合の被害が推計されており、日本海溝沿いの地震では最大約19万9千人、千島海溝沿いの地震では最大約10万人の死者が発生すると想定されています。死者の大半は津波によるもので、冬の深夜に発生したときに最大となります。これは夏場よりも冬場で、昼間よりも夜間で避難が遅れるからです。

防災対応を呼びかける期間は1週間とされています。この間に何も起こらなければ注意情報は終了します。この1週間という期間は、南海トラフ地震臨時情報と同様に社会の受忍限度などを踏まえて決められたものです。

南海トラフ地震臨時情報のときは、受忍限度について各自治体にアンケート調査が行われました。北海道・三陸沖後発地震注意情報では、そのようなアンケート調査が行われたという情報は見つけられなかったため、おそらく南海トラフ地震臨時情報の数字を使いまわしたと考えられます。
(実際のアンケート調査では、1週間だと自治体の半分で受忍の限度を超えていることがわかります。これについては冒頭で紹介した本ブログの過去記事をご覧ください。)

これまでの地震の記録からは、マグニチュード7以上の地震発生後7日以内にマグニチュード8以上の後発地震が発生する確率は17/1477(=1.2%)で、100回に1回程度のようです。なので、注意情報が出ても後発地震が起こる確率はなおも低く、防災対策を見直すきっかけにしてもらう、という意味合いが強そうです。

北海道三陸沖地震注意情報と南海トラフ地震臨時情報の違い

ここからは、北海道三陸沖地震注意情報と南海トラフ地震臨時情報の違いについて整理していきます。内閣府のガイドラインには大きな違いとして2点記されています。

1つ目は、事前避難の取り扱いです。「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合には、後発地震発生直後の行動開始では津波からの避難が間に合わない地域に対し、国や自治体から事前避難を呼びかけることとしています。一方、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」では事前避難は呼びかけません。
(中略)
2つ目は、発表される情報の種類です。日本海溝・千島海溝沿いでは、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」に相当する情報が発表されません。先発地震の震源の位置とMwが計算され、これらが精度良く求められた時点で速やかに「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表され、防災対応の呼びかけが行われます。

事前避難の呼びかけはしない、という部分が一番の違いと言えるでしょう。北海道・三陸沖地震は南海トラフ地震よりも発生パターンが複雑で将来が読みにくい、ということが理由になっています。後発地震の発生確率は低い(1.2%)のですが、2011年の東日本大震災のようなこともあるので念のために注意しましょう、という感じでしょうか。

ここで、マグニチュード7の地震後の後発地震の発生確率(1.2%)は平時と比べてどの程度大きいのか、について試算してみましょう。このような計算は南海トラフ地震臨時情報の検討でも行われています(詳しくは冒頭に紹介した過去記事参照)。

まず、内閣府ガイドラインにある「千島海溝においてマグニチュード9クラスの巨大な地震が今後30年以内に発生する可能性は、約7~40%」という数字をベースとします。30年は10950日で、1週間(=7日)が1564回あります。この1564回の1週間の間に0.25回(0.07~0.40のおよそ中間値)の巨大地震が発生するとした場合、0.25/1564=0.00016で、約0.016%です。マグニチュード7の地震後の後発地震の発生確率である1.2%は、通常時に比べると100倍くらいになっていると計算されます。

ということで、100回に1回しか起こらないといいつつも、平常時と比べると明らかに高い状態になっているので、改めて防災対策を見直す機会とする、というのはおおむね合理的であろうと思われます。

事前の避難の呼びかけをしない、という点についてはもう一つの理由があります。後発地震が発生した際の被害として最大10~20万人の死者が想定されていますが、さらに2万人から4万人という「低体温症要対処者数」が発生すると想定されています。真冬に暖房もないところに避難をすると、多くの人が低体温症になると考えられます。

このようなリスクを踏まえると、むやみに事前避難を呼びかけられないという事情が見えてきます。

寒い中で避難するリスク

避難によって低温にさらされるリスクについてさらに詳しく整理してみます。本ブログでも暑さよりも寒さのほうがはるかにリスクが高いことを書いています。

冬のリスクその4:暑さと寒さはどっちがキケン?
能登半島地震により真冬の避難生活が続いていますが、寒い室内での生活には高い死亡リスクがあります。ただし、夏の熱中症ほどには冬の寒さのリスクはあまりニュースになりません。本記事では熱中症と低体温症のリスクを比較したり、心筋梗塞などの寒さによる間接的な死亡リスクの大きさを整理します。

この記事を要約すると以下のようになります:
・低体温症で亡くなる人は熱中症で亡くなる人と同程度に多い
・冬にはインフルエンザ、心疾患、溺死(お風呂でのヒートショック)などの死因で死亡率が上昇し、月に2万人程度多くの人が死ぬ
真冬に発生した能登半島地震により寒い場所での避難を強いられ、災害関連死が増えている

2024年1月1日に発生した能登半島地震において、地震後の避難生活での体調悪化などによる災害関連死は516人(この記事を書いている時点で)となり、地震による直接の死者数228人を大きく上回ります。

NHK: 能登半島地震 災害関連死1人認定 死者744人に

能登半島地震 災害関連死1人認定 死者744人に | NHKニュース
【NHK】能登半島地震のあとに亡くなった石川県内の1人が新たに災害関連死と認定されました。能登半島地震の災害関連死は516人となり、地震の死者は直接死とあわせて744人となりました。新たに災害関連死と認定

北海道は能登半島よりもさらに寒い地域なので、真冬の避難には大きなリスクを伴うわけです。最初に北海道・三陸沖後発地震注意情報が発表されたのも12月という冬季であり、事前避難を呼びかければ避難による死者が出たかもしれません。以下の記事でも同様のことが指摘されています。

現代ビジネス:「南海トラフ地震臨時情報」と違って、政府はなぜ厳冬期の八戸で「事前避難」を求めなかったのか…じつは恐ろしい寒冷地特有の「命のリスク」

南海トラフとは違う「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の正体
2025年12月8日に青森県東方沖で発生したM7.5の地震を受け、気象庁は初の「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表した。この情報は、先発地震後の巨大地震発生確率を示すもので、事前避難を促さない一方、社会の備えの重要性を強調している。また、寒冷地特有のリスクや八戸市の地盤状況か…

ただし、本当に大地震が来たときは真冬であっても避難をためらえば津波による死者数を増やすことになります。内閣府のガイドラインでは、以下の対策によって避難時における低体温症の発生を防ぐことができるとあります:
・既存施設の避難場所としての有効活用
・避難所への二次避難路の整備
・備蓄倉庫における防寒備品の整備
・国民一人ひとりの防寒備品の準備・装着などを行うこと

能登半島地震ではビニールハウスなど非常に寒い環境での避難生活が見られましたが、冬場の避難生活における寒冷対策を平時から準備しておく必要がありそうです。

まとめ:北海道・三陸沖後発地震注意情報における避難

2025年12月8日と2026年4月20日に「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表されました。これは、大きな地震が発生した後の後発地震への注意喚起として出される情報です。「南海トラフ地震臨時情報」との違いは事前避難の呼びかけはしないという点です。南海トラフよりも不確実であるということと、寒冷地域での真冬の事前避難は寒さによる別のリスクを高めることが理由です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました