リスク比較のためのRisktools ver5―食品中残留農薬のリスクのものさし表示ツール

risktools-ver5 リスク比較

要約

リスク比較のためのWEBアプリ「Risktools」を作っています。今回公開した改良版(ver5)では、農薬の食品中残留濃度からリスクの大きさを評価して、リスクのものさしと共に表示する機能を追加しました。

本文:リスク比較のためのRisktools ver5

本ブログの上部メニューにあるRisktoolsは、リスク比較を目的として、死因別もしくはリスク要因(直接の死因となる病気の原因となる要因)別にリスクの大きさをリスクのものさしと共に表示するツールです。

RiskTools

2022年1月に最初のver1を公開し、これまでの最新版である2024年8月に公開したver4では、「死因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータを追加、「リスク要因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータ・性別とリスク指標の選択を追加しました。

この開発の経緯は以下の過去記事に書いています。

リスクのものさし表示ツールの開発~非エンジニアがPythonでWebアプリを作ってみた
リスク比較の手法として有用な「リスクのものさし」を表示するWebアプリケーションをPythonを使って開発しました。私のような非エンジニアでもサクっとWebアプリを作って実装するための、さまざまなツールと学習するための教材(書籍やWeb上の情報)を紹介します。
リスク比較のためのRisktools ver2を公開しました
リスク比較のためのWEBアプリ「Risktools」を作っています。今回公開した改良版(ver2)では、死因、年齢階級、評価する年、性別を選択すると、リスクのものさしに加えて経年変化・性別・年齢別のグラフが表示される機能を追加しています。特に経年変化は興味深い結果がいろいろと得られます。
リスク比較のためのRisktools ver4を公開しました
リスク比較のためのWEBアプリ「Risktools」を作っています。今回公開した改良版(ver4)では、「死因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータを追加、「リスク要因別リスクのものさし表示ツール」に最新版のデータ・性別とリスク指標の選択を追加しました。

本記事では、今回公開したRisktools ver5について紹介します。今回は農薬の食品中残留濃度からリスクの大きさを評価して、リスクのものさしと共に表示する機能を追加しました。今回のバージョンもぜひ自分でいろいろと試して頂ければと思います。

Risktools ver5の改良点:農薬の食品中残留濃度からのリスク評価

今回新たに加えた機能は、以下にリンクした前回の記事にて計算したような、食品中残留農薬のリスクを評価して、リスクのものさしと共に表示するものです。

規制のためのリスク評価とリスクコミュニケーションのためのリスク評価の違い
リスクコミュニケーションのためのリスク評価はマクロなアプローチ(詳細ではないがさまざまな種類のリスクを俯瞰的に眺める)のほうが望ましいと考えます。マクロなアプローチの化学物質のリスクへの適用として、実際の農薬の残留基準値超過事例を用いて計算します。

現在のRisktools ver4は、「がん」や「新型コロナウイルス」などの死因別のリスクを表示したり、がんの原因になるような「たばこ」や「アルコール」などのリスク要因別のリスクを表示できます。

リスク指標としては「人口10万人あたりの年間死者数(死亡率)」、「人口10万人あたりの損失余命」、「人口10万人あたりのDALY」の3つがあります。DALY(disability-adjusted life year:障害調整生命年)については以下の過去記事を参照してください。

コロナ禍における日本と世界のリスクをDALYで俯瞰する―世界疾病負荷2021
リスクを俯瞰する試みとして世界疾病負荷(GBD)研究の2021年度版を紹介します。DALYを指標としてコロナ禍における日本と世界のリスクを比較してみました。新型コロナ関連のリスクは日本では低い(交通事故と火事の間)ものの世界ではがんを上回り非常に高くなりました。

農薬などの化学物質の場合は、このような指標で評価することは一般的ではありません。以下の過去記事のように「曝露マージン(動物実験で得られた無影響量/化学物質の摂取量)」などの指標がよく使われます。

農薬の残留基準値を超過した際に健康影響を判断するための3つのステップ
農薬の残留基準値を超過したニュースを例に、健康影響を判断するステップとして以下の3つを紹介します。1.農薬評価書を活用して農薬の毒性、無影響量などを調べる2.影響が出るまでどの程度その食品を食べる必要があるのかを計算する3.リスクを評価し、そのリスクが受け入れられるかどうかを考える「基準値の〇〇倍!」という数字から判断できることはほとんどないことがわかります。

化学物質のリスクを他のリスクと比較するためには上記の3つのリスク指標で表現することが必要です。そこで、本ブログではそのための手法を検討してきました。

動物実験の結果から化学物質の死亡リスク、損失余命、DALYを求める方法の一案~PFOS・PFOAを例に~
リスク比較ではさまざまなリスクを統一指標で評価する必要がありますが、化学物質のリスクは動物実験から評価することが多いため、死亡率や損失余命、DALYなどの指標で表現することが困難です。そこで、動物実験の結果のみを用いて死亡率、損失余命、DALYを求める簡易な方法を提案します。

これを食品中残留農薬のリスクを評価に応用したものが今回ツールに実装する機能です。必要な情報は農薬のADI(許容一日摂取量)、残留濃度、残留している食品の種類、の3つです。

ADIから死亡に関する無毒性量を推定し、残留している食品の種類からその食品を1日にどれくらい食べるかを決めます。そうすると、体重50kgの人が毎日その農薬が残留した食品を食べた場合にどの程度の死亡率、損失余命、DALYになるかを計算できます。

この計算をWEBアプリケーション上で計算できるようにしたものが「食品中残留農薬のリスクのものさし表示ツール」です。

以下、実際の結果を例示していきます。

農薬の食品中残留濃度からのリスク評価事例

Rikstoolsの一番下に、以下のような「食品中残留農薬のリスクのものさし表示ツール」があります。

input

ここで、農薬の種類と食品、残留濃度を入力します。上記で紹介した残留農薬超過事例を元に入力してみましょう。この例では、イソキサチオンが春菊に8.4ppm(mg/kg)残留していたというものです。

農薬の種類を入力するプルダウンメニューは検索が可能ですので、「イソ」などと入力すると「イソキサチオン」が出てきますので、それを選択します。

次に、食品の種類を選択しますが、春菊はこのリスクにはありませんので、代わりに「その他の緑黄色野菜」を選択します。二段階プルダウンメニューになっていますので、最初に食品分類として「野菜」を選択すると、その下にいろいろな野菜が出てきますので、「その他の緑黄色野菜」を選択してください。

最後に残留濃度を入力します。これは数字で「8.4」と入力すれば大丈夫です。

最後に「決定」ボタンを押しましょう。そうすると以下の結果が表示されます。

output-1

「その他の緑黄色野菜」は平均的に一日あたり31.7g食べられているので、その場合のリスクが計算されます。

最初に、どのくらい食べ続ければADIを超えるか、曝露マージンの計算結果が出され、その下にリスクのものさしが表示されています。

別の事例として、以下の過去記事で取り上げたシアントラニリプロールがいちごから0.14mg/kg検出された場合も計算してみましょう。

残留農薬基準値の決め方その4:「ADIを超えないように」決めた目安残留濃度の一覧(587農薬)を作りました
残留農薬基準は「農薬を正しく使用しているかどうか」という農業規範としての基準であり、健康影響に関係する基準ではないため複雑怪奇になっています。そこで「ADI(許容一日摂取量)を超えないように」計算した健康影響に関する目安残留濃度の一覧(587農薬)を紹介します。
output-2

とっても簡単ですね。これを自分で計算しようとするとかなり大変ですが、自動で計算してくれるので非常に便利だと思います。

開発裏話

最後に今回の開発について書いておきます。データ分析は本職なのでサーバーサイド(pythonを用いた計算の部分)の開発は問題ないのですが、私が苦手なのがWEBページを作るフロントサイド、特にjavascriptです。

今回のツールでも、二段階プルダウンメニュー(最初に食品分類を選択すると、その分類に属する食品が選択できるようになる機能)や検索付きプルダウンメニュー(農薬の選択の際に検索が可能)の部分でjavascriptを使っています。

私はjavascriptはまったくできません。これはpythonなどのサーバーサイド言語とあまりに違い過ぎるので読んでもまったく何をやっているのかわからず、勉強する気にもなかなかならないのですね。

便利なもので、最近はchatGPTなどにやりたいことを入力すればすぐにそのためのコードが出てきますので、ますます勉強する気がなくなってしまいました。

特に、今回検索付きプルダウンメニューはjQueryのselect2というプラグインを使ったのですが、最初なかなかうまく動きませんでした。chatGPTにトラブルシューティングをお願いすると、懇切丁寧にアドバイスしてくれるので、それをひとつずつ試して原因を探ることでうまく動かすことができました。

さらに、今回はAIにわからない部分を聞く、というサポート役として活用しましたが、最近ではもうAIがアプリケーション丸ごと作ってしまう、というレベルまできています。

「Build apps with Gemini」は、「○○するアプリを作ってください」などとプロンプトを入力するだけで、アプリに必要なコードを自動で生成して、アプリが完成します。また、その場ですぐに動作確認ができるので、動きを確認しながら修正指示を出すことができます。さらに、クリック一つでデプロイ(アプリをWEB上に公開すること)もできてしまいます。

まだこういうのを使ってアプリ開発をしたことはないのですが、開発のプロセス自体が変わり、非エンジニアにとってもアプリケーションの開発がどんどん容易になりつつあることを実感しますね。

まとめ:リスク比較のためのRisktools ver5

Risktoolsの改良版(ver5)では、「食品中残留農薬のリスクのものさし表示ツール」を実装しました。農薬の種類と食品、残留濃度を入力することで、死亡率、損失余命、DALYという3つのリスク指標をリスクのものさしと共に表示できるツールとなっています。

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