要約
コロナ禍終了後の2024年の人口動態統計による死因別死者数や死因別超過死亡のデータを分析しました。新型コロナウイルスは減少しインフルエンザは増加しました。年代別では若い年代で男女差が縮む傾向が進み、出生率は減少し続けています。
本文:2023~2024年にかけての日本の死亡リスクのトレンド
新型コロナウイルス感染症による統計上の死者数は
2020年に3466人
2021年に16784人
2022年に47657人
2023年に38086人
2024年に35865人
となりました。
2023年5月8日にコロナは感染症の分類として5類となり、日々の感染者数や死者数の公表はなくなりましたが、人口動態統計では死因別の死亡数が公表されています。コロナによる年間死者数は2022年をピークとして下がりつつあります。それでも2024年になっても年間3万人以上が亡くなっているのでまだまだ注意すべきです。
本ブログではこれまでに、2020、2021、2022、2023年における日本の死亡リスクのトレンドについてまとめた記事をそれぞれ書いています。今回はこれと同様に2022年と2023年でどのように変化したかに注目してみます。




まずはおなじみの人口動態統計から死因別死亡率を整理し、次に超過死亡について整理します。最後に、年代別死亡率の経年推移と出生率の変化を紹介していきます。
死因別死亡率
使用するデータはおなじみの人口動態統計です。死因別死亡数は以下のページの第6表にあります。
厚生労働省:令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況
これは死因の中でも簡単分類別というものですが、それでも100種類以上の死因が出てきます。2023年度から新たに加わった死因が「新型コロナウイルス感染症ワクチン」です。コロナワクチンが原因で亡くなったと医師が判断した事例が2023年度は34人、2024年度は8人でした。
死因をすべて並べるとごちゃごちゃするので、例年と同様に26種類をピックアップして死亡リスク(人口10万人あたりの年間死者数)をグラフに表します。比較のために2023年の死亡リスクも同時に掲載します。死亡リスクの高いものから低いものまで一つのグラフに載せるため、軸は対数にします。

2023年度との差が最も大きいのはインフルエンザであることがわかります。2022-2023年でも最も差が大きかったのはやはりインフルエンザでした。そしてインフルエンザの死亡リスクはコロナ禍以前のレベルに戻っています。
また、2023年に比べて死者数の減少率が10%以上であった死因(年間100人以上の死者がいる死因に限定)は
・染色体異常,他に分類されないもの 13%減
・ウイルス性肝炎 12減
・心臓の先天奇形 11%減
の3つでした。
逆に死者数が10%以上増加したのは
・インフルエンザ 106%増!
・周産期に発生した病態 27%増
・その他の症状,徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの 15%増
・髄膜炎 12%増
・不慮の溺死及び溺水 10%増
の5つでした。
超過死亡ダッシュボード
上記の統計上の数字とは別に、超過死亡数(平年から予想される死者数を上回る死者の数)も見ていきましょう。超過死亡を見るには「日本の超過および過少死亡数ダッシュボード」というサイトが非常に便利です。都道府県別に期間を限定して、超過死亡数の週ごとの推移を知ことができます。いくつかの死因については死因別のデータもあります。

まずは2020~2024年にかけての週ごとの超過死亡(すべての死因)を見てみましょう。

赤の点線が平年から予想される死亡数で、その上下に「このくらいの変動は想定内」というラインが引かれています。青の縦棒グラフが実際の死亡数です。赤の点線よりも下回ると平年よりも少なく、さらにその下のラインを下回ると「統計的有意に」低い(マイナスマークが付される)という意味になります。上側についても同様で、緑のラインを上回ると「統計的有意に」高い(プラスマークが付される)という意味になります。
2020年は平年よりも低く推移しましたが、2021年~2023年頭まではコロナの感染ピークに合わせてプラスマークが目立ちます。その後は平年レベルに戻り、2024年になるとマイナスマークが目立つようになりました。
2024年でもコロナによる死者数はそこまで減っていないにもかかわらず、超過死亡が見られなくなり、平常時に戻ったことがわかりますね。
次に死因別の超過死亡として、呼吸器系疾患と循環器疾患の推移も掲載します。


2020-2022年までは全体の死亡率と同様の推移をたどっていますが、2023年以降はそのトレンドが変わってきます。循環器疾患のほうは全体の死亡率と同様にマイナスマークが目立つようになりますが、呼吸器系疾患のほうは2023-2024年の冬に多数のプラスマークがついています。
がんについても以下に示します。冬に多いなどの季節性が少なく、全体の死亡率の増減とあまり関係がありません。ただし、2023年以降はマイナスマークが目立つようになります。医療のひっ迫状況が改善した効果かもしれません。

老衰については高齢化により数自体がどんどん増えており、その中でもコロナの波と同時に超過死亡が増えています。2023年以降はコロナの終息とともにマイナスマークが目立つようになりました。これも医療のひっ迫状況と関係があるのかもしれません。

最後に自殺についても以下に示します。2020年後半から2021年前半まではプラスマークが多く、景気悪化や雇用悪化、家庭環境の悪化、有名人の自殺などの影響が見られました。2023年以降は有名人の自殺の大きなニュースもなく、超過死亡が目立ちませんでした。

年代別の死亡率の経年変化
最後に死亡率の経年変化のトピックとして、年代別・男女別死亡率の経年変化を見ていきましょう。

まず0-4歳については、死亡率が経年的に減少し続けてきたのと同時に男女差が徐々に縮まり、ついに2024年には男のほうが低い死亡率となりました。
男女差がなくなる傾向は15-19歳でも顕著に見られ、男は減少し続けて2020年以降は横ばいである一方、女は2015年に最も低くなった後は上昇を続けています。死因の1位である自殺率の上昇が原因と考えられます。
反対に30代以降については(35-39歳、80-84歳を例示)だいたい同じで、2020年以降は横ばいで、男女差もあまり変化がありません。
ところで、死亡率がこのように過去に比べて下がってきたのは良いことなのですが、それだけで本当に良いのか?と疑問に思うこともあります。それが出生数の減少です。
最近はネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止めて、さらに回復傾向に反転させること)のように、マイナスな要素を少なくするのではなく、プラスな要素を増やす、という方向性が流行ってきています。

人間社会についても、マイナスな要素(死亡率)を少なくするだけでなく、プラスの要素(出生率)を増やすことも同時に必要かもしれません。どうもマイナス要素を減らすだけではプラスに進んでいかないようです。ネイチャーポジティブならぬポピュレーションポジティブなる用語も必要でしょうか?
以下は人口動態統計に示されている人口1000人あたりの出生率です。よくニュースなどで取り上げられる合計特殊出生率(一人の女性が生涯で産む子供の平均数を示す指標)とは異なるものです。

ある程度緩やかに人口を減らして持続可能なレベルに軟着陸することが必要ですが、2015年以降あたりから減り方が急激すぎるように思えます。イーロン・マスク氏もこれを「リスク」と表現していますが、この先このリスクはどんどん大きくなっていきそうです。
Bloomberg:「日本はいずれ消滅する」とマスク氏警鐘-出生率低下でツイート

まとめ:2023~2024年にかけての日本の死亡リスクのトレンド
2024年の人口動態統計の死因別死者数によると、新型コロナウイルスによる死亡率は減少し、一方でインフルエンザの死亡率は増加しました。超過死亡については全体的に少なくなり、年代別では若い年代で男女差が縮む傾向が進みました。一方で出生率の減少は歯止めがかからない状況が続いています。
コメント