要約
コロナ禍終盤となった2023年の人口動態統計による死因別死者数や死因別超過死亡のデータを分析しました。新型コロナウイルスは減少しインフルエンザは大きく増加しました。年代別では10-20代女性と30代男性の死亡率の増加が特徴的となりました。
本文:2022~2023年にかけての日本の死亡リスクのトレンド
新型コロナウイルス感染症による統計上の死者数は
2020年に3466人
2021年に16784人
2022年に47657人
2023年に38080人
となりました。
2023年5月8日にコロナは感染症の分類として5類となり、日々の感染者数や死者数の公表はなくなりましたが、人口動態統計では死因別の死亡数が公表されています。2023年のコロナによる死者数は、発生後はじめて前年度を下回る結果となりました。
本ブログではこれまでに、2020、2021、2022年における日本の死亡リスクのトレンドについてまとめた記事をそれぞれ書いています。今回はこれと同様に2022年と2023年でどのように変化したかに注目してみます。
まずはおなじみの人口動態統計を整理し、次に超過死亡について整理します。最後に、年代別死亡率の経年推移がコロナ禍で特徴的な変化を示しているので、それを紹介していきます。
死因別死亡率
使用するデータはおなじみの人口動態統計です。死因別死亡数は以下のページの第6表にあります。
厚生労働省:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況
これは死因の中でも簡単分類別というものですが、それでも100種類以上の死因が出てきます。そして2023年度から新たに加わった死因が「新型コロナウイルス感染症ワクチン」です。コロナワクチンが原因で亡くなったと医師が判断した事例が2023年度は37人となりました(2022年は23人となっており、実は前年度からこういうデータがあったのかもしれません)。
これらの死因を全部並べるとごちゃごちゃするので、昨年と同様に26種類をピックアップして死亡リスク(人口10万人あたりの年間死者数)をグラフに表します。比較のために2022年の死亡リスクも同時に掲載します。死亡リスクの高いものから低いものまで一つのグラフに載せるため、軸は対数にします。
2022年度と比較した場合の増減比が最も大きいのはインフルエンザであることがわかりますね。コロナ対策によりインフルエンザはほぼ抑えられてきたのですが、対策の緩和によってまた死者数が増えてきました。とはいってもコロナ禍以前と比べるとまだ少ないほうです。
また、2022年に比べて死者数の減少率が10%以上であった死因(年間100人以上の死者がいる死因に限定)は
・新型コロナウイルス感染症 20%減
・C型ウイルス性肝炎 13%減
・その他の循環器系の先天奇形 12%減
・周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害 11%減
の4つでした。
逆に死者数が10%以上増加したのはインフルエンザ(5700%増!)のみでした。
2021年から2022年にかけては死亡率の増減が大きいものが多数あったので、コロナ禍にはコロナ以外の死因に対しても大きな影響を与えてしまうことがわかります。コロナが落ち着いてきたことに連動して、死亡率の増減も落ち着いてきたと言えるでしょう
超過死亡ダッシュボード
上記の統計上の数字とは別に、超過死亡数(平年から予想される死者数を上回る死者の数)も見ていきましょう。インフルエンザと同様にコロナにおいても超過死亡による死者数の推定が行われています。ただし、コロナ対策が社会経済を大きく変えてしまったので、超過死亡とコロナ死亡との関連付けは単純ではありません。
超過死亡を見るには「日本の超過および過少死亡数ダッシュボード」というサイトが非常に便利です。都道府県別に期間を限定して、超過死亡数の週ごとの推移を知ことができます。いくつかの死因については死因別のデータもあります。
まずは2020~2023年にかけての週ごとの超過死亡(すべての死因)を見てみましょう。
赤の点線が平年から予想される死亡数で、その上下に「このくらいの変動は想定内」というラインが引かれています。青の縦棒グラフが実際の死亡数です。赤の点線よりも下回ると平年よりも少なく、さらにその下のラインを下回ると「統計的有意に」低い(マイナスマークが付される)という意味になります。上側についても同様で、緑のラインを上回ると「統計的有意に」高い(プラスマークが付される)という意味になります。
2020年の前半はおおむね平年よりも低く推移していましたが、2021年になりコロナ第4波と第5波の時期にプラスマークが目立つようになります。2022年に入りオミクロン株が登場し、第6波、第7波、第8波の時期にプラスマークが増え、棒グラフは緑の線を大きく飛び越えている様子がわかります。
その後、2023年に入り第8波が終わるとその後は死亡数が平年よりも低い状態が続いています。年末になるとマイナスのマークまで出てきますね。コロナの感染者自体は多数出ていたにもかかわらず、超過死亡は見られなくなったのです。
これを見ると、第8波の終息をもってコロナを5類に切り替えて社会を平常時に戻したのは結果的に正しい判断であったことがわかります。
次に死因別の超過死亡として、呼吸器系疾患と循環器疾患の推移も掲載します。
2020-2022年までは全体の死亡率と同様の推移をたどっていますが、2023年になるとそのトレンドが変わってきます。循環器疾患のほうは全体の死亡率と同様に超過死亡が見られませんが、呼吸器系疾患のほうは2023年後半に多数のプラスマークがついています。2023年はインフルエンザのほかにも誤嚥性肺炎も増えていました。
がんについても以下に示しますが、コロナや全体の死亡率の増減とあまり関係がありません。これは2023年になっても同様です。ただし2023年はマイナスが多くついており、医療のひっ迫状況が改善した効果かもしれません。
老衰については高齢化により数自体がどんどん増えており、その中でもコロナの波と同時に超過死亡が増えています。2023年はコロナの終息とともに超過死亡が見られなくなりました。これも医療のひっ迫状況と関係があるのかもしれません。
最後に自殺についても以下に示します。2020年後半から2021年前半まではプラスマークが多く、景気悪化や雇用悪化、家庭環境の悪化、有名人の自殺などの影響が見られました。2023年には有名人の自殺の大きなニュースもなく、超過死亡が目立ちませんでした。
年代別の死亡率の経年変化
最後に死亡率の経年変化のトピックとして、年代別・男女別死亡率の経年変化を見ていきましょう。このデータは上記の人口動態統計のページの第7表にあります。2023年にも変化が見られています。
まず0-4歳については、死亡率が経年的に減少し続けてきたのですが、2023年に男女ともに死亡率の上昇が見られました。また、女子のほうが上昇度合いが高いように見えます。医療ひっ迫も改善してきた2023年に死亡率が上昇する理由が思い浮かびませんが、年齢別・死因別のデータを細かく見ていく必要がありそうです。
次に15-19歳については、男性は減少し続けて2020年以降は横ばい、女性は2015年に最も下がりましたがその後は上昇を続け、2023年では1995年ころの死亡率まで後戻りしてしまいました。20-24歳についても同様の傾向です。死因の1位である自殺率の上昇が原因と考えられます。
反対に35-39歳(30-34歳も同様)については、2023年に男性のほうの死亡率の上昇が目立ちます。これも死因の1位である自殺率の上昇が原因と考えられますが、男女で死亡率があがる年齢層がずれているところは注目に値するでしょう。コロナ禍による社会経済構造の変化が原因となっている可能性があります。
40代以降(80-84歳を例示)はだいたい傾向が同じで、2020年までは減少傾向が続いていましたが、2022年に少し上昇し、2023年は少し落ち着いた状況となっています。コロナによる死亡率上昇が落ち着いた影響と見られます。
まとめ:2022~2023年にかけての日本の死亡リスクのトレンド
2023年の人口動態統計の死因別死者数によると、新型コロナウイルスによる死亡率は減少し、一方でインフルエンザの死亡率は大きく増加しました。超過死亡については呼吸器疾患以外は全体的に少なくなりました。年代別では10-20代女性と30代男性の死亡率の増加が特徴的となりました。このようなデータからもコロナ禍の終わりが見えてきます。
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