要約
孤独・孤立は死亡率を高める直接的なリスクや、急激な人口減少など社会的なリスクにつながります。孤独と孤立の違いやそれぞれの測定方法、孤独・孤立の死亡リスクに関する研究事例、コロナ禍のソーシャルディスタンスによる婚姻・出生の減少の状況についてまとめます。
本文:孤立と孤独のリスク
埼玉県は県立高校の男女別がまだ多く残されていますが、最近のニュースによると共学化の検討が進められています。ただし、反対意見が多くどうなるかの見通しは立っていないようです。
産経新聞:埼玉県立高校共学化問題大詰め 別学は差別的か、意見聴取ではほぼ「反対」
高校の共学化とリスクの話と何の関係があるの?
そうツッコみたくなるのも無理はありません。しかし、本ブログの過去記事でも男子校出身者は未婚率が高く短命であるという結果を紹介しています。孤独や孤立というのは大きなリスクとなることが知られており、特に男性は孤独・孤立への耐性が弱いようです。
孤独・孤立は死亡率を高める直接的なリスクとなりますが、もう一つ間接的なリスクもあります。それは未婚化が進んで出生率が下がることです。ゆるやかな人口減少は既定路線ですが、急激な人口減少は特に地方で社会の維持を困難にし、国レベルでも社会保障の維持が困難になるなど、大きな社会的リスクとなります。
さらに、新型コロナウイルスのパンデミックによりソーシャルディスタンス(社会的に距離をとること)が広がり、孤独・孤立に拍車をかけています。人と人との接触を減らせば感染対策になりますが孤独・孤立のリスクが逆に増加します。つまり、これらはトレードオフの関係にあるのです。
ところがコロナのリスクは注目されても孤独・孤立のリスクはこれまであまり注目されてこなかったように思います。
そんな中、新たに制定された孤独・孤立対策推進法は2024年4月1日にひっそりと施行されました。これはほとんどニュースにもなっていないのではないかと思います。ちなみに、孤独・孤立対策担当大臣は加藤鮎子氏です。
内閣府:孤独・孤立対策推進法
そこで本記事では、まず孤独と孤立の違いやそれぞれの測定方法を整理し、次に最近の孤独・孤立の死亡リスクに関する研究事例を紹介し、最後に未婚化が進むことによる間接的なリスクについても整理してみましょう。
孤独と孤立の違いとそれぞれの測定方法
そもそも孤独・孤立とは何か?孤独と孤立の違いは何でしょうか?以下の記事を読むと、世界的に統一された定義はないようですが、おおまかに孤独は主観的なもの(特に苦痛を感じるもの)で、孤立は客観的な状態を指すようです。
つまり、孤立していても孤独を感じない場合もあり、逆に客観的には孤立状態になくてもその人自身は孤独感を持っている場合もあります。安全と安心の違いにも似ているかもしれません。
PWC: 孤独・社会的孤立に係る統計、言葉の定義と社会的影響
では、孤独と孤立はそれぞれどのような指標で測定されるのでしょうか?以下の資料は孤独・孤立対策の現状がよくまとまっている資料です。最後のほうに参考資料として、孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年)の結果が出ています。
第1回孤独・孤立対策推進本部 資料3:孤独・孤立対策重点計画の策定に向けて
孤独は直接質問法(孤独感を直接的に質問)と間接質問法(UCLA孤独感尺度の日本語版を使用)で把握しています。孤独感が高い人の特徴は
・年齢20-30代(男性は30代、女性は20代)
・男性
・未婚で一人暮らし
・学生もしくは失業中
・経済状態が悪い
・心身の健康状態がよくない
になります。このような特徴にあてはまる人がハイリスク群となりますね。
また、孤独感に影響を与えた出来事は
1位:心身の重大なトラブル(病気・怪我等)
2位:一人暮らし
3位:人間関係による重大なトラブル
となっています。
孤立の指標は以下の4種類を見ています。
・家族・友人等とのコミュニケーション頻度(社会的交流)
・社会活動への参加状況(社会参加)
・行政機関・NPO等からの支援の状況(社会的サポート(他者からの支援))
・他者へのサポート意識(社会的サポート(他者への手助け))
以下の記事を見ても、同様に社会的交流、社会参加、他者からの支援、他者への手助け、の4つの項目を測定しています。ただし、この4項目をどのような質問で聞き出し、どこで孤立の線引きをするかはまだ決まった方法がなさそうです。
みずほリサーチ&テクノロジーズ (2021) 社会的孤立の実態とその問題点についての考察
孤立した人の特徴は
・経済的困窮
・気力の低下
・健康状態の悪化
となっており、これが孤立のハイリスク群となりそうです。
孤独と孤立の直接的なリスク:死亡リスク上昇
次に、孤独と孤立の直接的なリスク、すなわち死亡率の上昇について最近の文献を見ていくことにしましょう。2023年に発表された社会的孤立と孤独の影響についての文献を再解析したシステマティックレビュー論文があります。
90の公表されている文献を合わせて200万人以上を対象とした解析の結果、死亡率は孤立によって32%上昇し、孤独によって14%上昇しました。つまり、主観的な孤独よりも孤立の状態のほうがリスクがより高いことを示しています。
Wang et al (2023) A systematic review and meta-analysis of 90 cohort studies of social isolation, loneliness and mortality. Nat Hum Behav 7, 1307-1319
ただし、オープンアクセスではないので本文は見ていません(よって結果の詳細や内容の妥当性などはわかりません)。
そこで、論文の内容を解説した以下の記事を代わりに参照します。孤独・孤立が死亡率を高める原因や研究の限界について述べられていますね。
Medicalpress: Global study shows loneliness can shorten life spans
社会的に孤立している人や孤独な人は、健康的な食事や定期的な運動をする可能性が低く、喫煙や飲酒をする可能性が高くなります。さらに、社会的孤立は炎症や免疫力の低下と関連しています。社会的に孤立している人は、社会的ネットワークが小さいため、 医療を受けられる可能性が低い可能性があります。
(中略)
研究では社会的孤立と孤独の尺度が異なるなど、この研究にはある程度の限界もあった。研究のほとんどは高所得国で行われたため、その結果はそれほど裕福ではない国には一般化できない可能性があります。
(Google翻訳で翻訳)
また、これとは別に以下の資料では日本で孤立がどれくらいの人を死なせているのかの推計がありました。
2024年3月9日 社会学系コンソーシアム・シンポジウム「なぜ、社会的孤立は問題なのか?」 斉藤雅茂:高齢者の社会的孤立の問題の所在と課題~社会福祉学の立場から~
日本では年間1.9~2.0万人程度の高齢者が孤立状態にあることで早期死亡に至っている可能性ありと書かれています。これは自殺と同レベルの死者数となります。リスクとしてはかなり高い数字ですね。
支援サービスを利用しない人、すなわち孤立のハイリスク群の特徴は
・男性
・独身
・移住者(地元ではない)
・他人との交流がない
となっています。これらの人たちは自分から進んでサポートを受けない、もしくはサポートを拒否することが多くなります。本人が拒むと強制介入は難しいのが現状です。
孤立と孤立の間接的なリスク:婚姻・出生の急減
コロナ禍によって婚姻が激減したことは本ブログの過去記事でも紹介しました。これはソーシャルディスタンスによる悪影響と言えます。これは今後の出生数の減少や人口減少に拍車をかけるでしょう。
2022年までの人口動態調査のデータで再度解析してみましょう。以下のグラフは2010~2022年までの婚姻数と出生数の推移を表しています。2010~2019年までのトレンドを2022年まで直線的に外挿したのが点線です。2020~2022年は婚姻数・出生数ともにトレンドの線よりも下方にふれているのがわかります。
本来これくらい婚姻・出生があったであろうという見込みよりも実際は5万人ほど下がっているのです。出生数の減少は婚姻数の減少よりも遅れて響いてくるでしょうから、今後もっとトレンドラインより下がってくると思われます。
少子高齢化が今後さらに急激に進むことによって、医療や社会保障の維持が困難になり、これがさらなる死亡リスクの上昇を招くことになるでしょう。
お隣の韓国では日本よりもさらに急激に少子化が進んでおり、これは経済状況の悪化や男女間の分断などが原因と言われています。SNSでの男女の分断化は日本でも目を覆うような状況となっているように思います。上記で紹介したMedicalpressの記事でも対策の一つとしてSNSから離れることが指摘されていました。
まとめ:孤立と孤独のリスク
孤独(孤独を感じている感情を表す)・孤立(社会から孤立している状態を表す)は死亡率を高めたり、急激な人口減少につながったりなどのリスクがあります。両者のうち、孤独感よりも孤立している状態のほうが死亡リスクが高いようです。推定された死者数は自殺による死者数と同程度となり、リスクとしてはかなり高いほうとなります。
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