要約
コオロギ食についてネット上での炎上が続いていますが、Google Trends, Yahoo!知恵袋、Twitterを用いたソーシャルリスニングを行って、ネット上の反応を分析しました。コオロギ食は危険、コオロギ食推進は社会的不正がある、という二種類の反応が示されましたが、ネット上の情報の多くは不正確でした。
本文:コオロギ食に関するネットの反応を分析
昆虫食ブームが起きている中、コオロギ食についての炎上騒ぎが大きくなっています。
昆虫食ブームはFAOの報告書「Edible insects: Future prospects for food and feed security(2013)」から始まったとされています。欧州ではこの新たな食品としてのリスク評価などが進んでいます。
FAOの報告書は昆虫食が将来の持続可能な食糧生産の選択肢となる可能性を示しているものです。昆虫食は栄養価が高く、環境負荷が低く、持続可能な食糧生産に貢献できると述べられています。しかし、昆虫食が普及するには、生産の拡大や法的な基準などの課題があり、これらを解決するための取り組みが必要とされています。
最も重要な課題は社会が食文化的に昆虫食を受け入れることでしょう。私はもともと生き物好きなのでそれほど嫌悪もなく、蜂の子、ざざむし、イナゴなども食べたことがあります(コオロギは未経験)。ただし、一般的に昆虫は嫌悪の対象であり、見るのもイヤなのに食べるなんてゼッタイムリ!という人が多いでしょう。
それにしても、2023年に入ってからここ最近のコオロギ食に対するネットでの炎上騒ぎは尋常ではないと感じます。そこで今回は、ネット社会調査としてのソーシャルリスニングをコオロギ食に関して行った結果を報告します。
本ブログではこれまでに、Google検索履歴やYahoo!知恵袋、Twitterなどを対象としてソーシャルリスニングを行い、人々がいまどんなリスクに注目していたり不安を持っていたりするかを調査しています。方法については2020年3月の調査結果をご覧ください。
本記事ではGoogle Trends、Yahoo!知恵袋、Twitterの調査結果を報告し、最後に調査結果から問題点を整理していきます。
Google Trends
この5年間における「コオロギ」の検索数の推移を調べました。以下に推移を示しますが、毎年9月上旬にピークがあることがわかります。この9月のピークでは「鳴き声」とか「飼い方」などの検索ワードと同時に検索されており、コオロギが鳴く時期に検索数が増えるのですね。さらに2023年の3月に突出したピークがあります。
この突出したピーク時を調べるため、2023年1月1日以降の期間でさらに調べました。ピークは3月1日にあり、この期間に何か大きな出来事があったと思われます。また、この炎上期間に「コオロギ」とともにどんなキーワードが検索されているかを調べ、関連キーワードの注目度(検索数が増えたもの)トップ20を抜き出しました。
順位 | キーワード | 順位 | キーワード |
1 | コオロギ パン | 11 | パスコ パン |
2 | パスコ コオロギ | 12 | コオロギ 炎上 |
3 | パスコ | 13 | コオロギ 食用 危険 |
4 | pasco コオロギ | 14 | コオロギ食 なぜ |
5 | コオロギ 補助金 | 15 | コオロギ 利権 |
6 | プリン体 | 16 | 敷島製パン コオロギ |
7 | コオロギ プリン体 | 17 | 河野太郎 |
8 | 敷島 パン | 18 | 河野太郎 コオロギ |
9 | 敷島 パン コオロギ | 19 | pasco コオロギ パン |
10 | イナゴ | 20 | コオロギ なんj |
パンのブランド「パスコ」とそれを製造する敷島製パンに関する検索が多いことがわかります。敷島製パンは大学ベンチャー「FUTURENAUT」と共同でコオロギパウダーが入ったパンなどを製造しています。
以下のページでは2023年2月21日付けで「なお、科学的根拠のない風評の流布に対しては、顧問弁護士と相談の上厳正に対処いたします。」と書かれていますが、この対応が炎上の燃料投下になったようです。
パスコ関連以外では、プリン体、補助金&利権、危険、河野太郎などのワードがありました。
Yahoo!知恵袋
2023年1月1日以降で「コオロギ」を含む質問のうち、閲覧数が多かったトップ10を抽出しました。
順位 | カテゴリ | 要約 |
1 | 昆虫 | コオロギにボツリヌス菌が含まれている |
2 | 菓子、スイーツ | pascoのコオロギパンは人気なのか? |
3 | 料理、食材 | コオロギを食べるなら死んだ方がマシ |
4 | 菓子、スイーツ | 敷島製パンはなぜコオロギパンを売るのか? |
5 | 爬虫類、両生類 | トカゲの餌としてコオロギを上げるのは大変なので人工飼料で育てたい |
6 | 政治、社会問題 | コオロギを食べるか? |
7 | 料理、食材 | なぜコオロギが給食などでごり押しされているのか? |
8 | 政治、社会問題 | コオロギ界隈は陰謀論者が多い |
9 | 昆虫 | 食糧危機は起きているか?、虫を食べるメリットはあるか?、コオロギ食は危険か?、子供に食べさせることは洗脳か? |
10 | 料理、食材 | なぜpascoがコオロギ関連のデマに法的措置をするのか? |
微生物汚染がある、とにかくイヤ、パスコ(敷島製パン)はコオロギパン作るのやめてほしい、給食で出すな、陰謀論が多い、食糧危機ってホント?などの話がありました。やはりパスコ関連がトップ10の中に3つ入っており、注目されていることがわかります。
9位の質問&ベストアンサーがよいやり取りだったので記事最後の補足で紹介しておきます。
2023年3月8日~16日あたりにつぶやかれた「コオロギ」を含むツイートを約2万ツイート収集しました。そこから「いいね」の数でランク付けしてトップ10ツイートを抽出しました。
順位 | 要約 |
1 | 米は作るな、牛乳は捨てて子牛は殺せ、そしてコオロギを食えというのはバカすぎる |
2 | 米は作るな、牛乳は捨てて子牛は殺せ、そしてコオロギを食えというのはバカすぎる |
3 | コオロギ食を推進しているのが河野太郎 |
4 | コオロギはプリン体が多く痛風のリスクがあるが、推進派は隠している |
5 | 米は作るな、牛乳は捨てて子牛は殺せ、そしてコオロギを食えというのはバカすぎる |
6 | コオロギは細菌が多く、加熱処理しても芽胞形成菌の生存があり、アレルギーや重金属を含む問題がある。 |
7 | 日韓トンネルはコオロギより不要 |
8 | コオロギ食には税金がたくさん投入されており、公金目当ての人たちが推進している |
9 | コオロギの次は便所バチ |
10 | コオロギ食には税金がたくさん投入されており、公金目当ての人たちが推進している |
テキストマイニングもやってみましたが、あまり面白い結果は得られなかったのでここでは出しません。ここでもだいだいYahoo!知恵袋と似たような話が出ています。
特に目立つのが「米は作るな、牛乳は捨てて子牛は殺せ、そしてコオロギを食えというのはバカすぎる」という話です。コオロギは将来のための研究開発段階であり、もちろん米や酪農の話とは全く無関係です。これらをむりやり絡めることで怒りの感情を引き出そうとしています。
プリン体が多く含まれるので危険という話(実際にはそれほど変わらない)、河野太郎氏がコオロギをごり押ししているという話(単にコオロギ入り食品を試食した際の画像があるというだけ)、税金がたくさん投入されており(6兆円などというデマもあり)それに群がる人たちの利権になっている(根拠なし)、微生物汚染の話(コオロギに限らない)などがありました。
コオロギ食をめぐる問題点のまとめ
Google Trends, Yahoo!知恵袋、Twitterの調査から得られた結果をまとめてみます。
危険という話題には以下のことが挙げられています:
・プリン体が多いので危険
・微生物汚染があるので危険
それ以外は主に社会的不正に関する話題で、以下のようにまとめられます:
・補助金として多額の税金が投入され、利権の温床となっている
・敷島製パンが法的措置をチラつかせている
・給食で強制的に食べさせるなんてとんでもない
・コオロギを食べさせる前に農業をもっと手厚く保護しろ
プリン体も尿酸を含んだ数値が比較に使用されており正しくないようですし、そもそもコオロギパウダーをちょっと入れただけで摂取量は微量です。微生物汚染にしても加熱してパウダーにする時点でかなりの部分殺菌されるでしょう。完全に無菌になるわけではないですが、それはコオロギに限りません。また、最も注意すべきなのはアレルギーですが、あまりその辺の話は出てきませんね。
また、コオロギに6兆円の税金が投入された、などのデマが流れていますがこんな金額はありえませんね。給食ではなく調理実習であり食べるかどうかは任意だったそうです。また、コオロギを推進するために農業保護を減らしているわけではありません。
この辺は以下のサイトによくまとめられています。
note: 【時事】コオロギ食の情報整理
コオロギ食をめぐる問題に対する私の感想は、この問題は「一見リスクの話をしているようで実はそうではない例」の典型例ではないかというものです。例えば、マスク生活にうんざりしている人たちが、熱中症のリスクみたいな(都合のよい)情報に「これだっ!」と飛びついて「マスクは(うんざりしているからじゃなくて)危険だから外すべき」と主張してしまうことを、本ブログでは認知的不協和理論を用いて解説しています。
コオロギ食についても、「とにかく虫を食べるのはイヤ」という感情が先にあり、あとはその感情に都合のよい情報に飛びついているだけだと思います。「とにかくイヤ」という好き嫌いを言うのはワガママな子供のようだし、知的な大人のすることではないという感覚も持っているため、「とにかく虫を食べるのはイヤ」という感情と矛盾して認知的不協和が生じます。
ここで問題をすり替えて「危険だから食べないのだ」「社会的な不正が行われているから反対だ」ということにすれば自分の感情と矛盾しなくなります。本音ではリスクを心配しているわけではありません。
なので、デマ情報を修正したり、リスクコミュニケーションを進めても「とにかくイヤ」という嫌悪の感情がベースにある限りはあまり意味がなさそうです(別の情報に飛びつくだけ)。
ちなみに昆虫が嫌われる理由については、心理学や進化生物学などの分野から研究が行われているようです。人類は生存のために昆虫などの小動物による危険を避けることが求められ、昆虫を見るだけで不快感を感じるように進化してきたとする説があるようです。
まとめ:コオロギ食に関するネットの反応を分析
Google Trends, Yahoo!知恵袋、Twitterを用いたソーシャルリスニングを用いて、コオロギ食に対するネットの反応を調査した結果、大きく分けてコオロギ食は危険(プリン体が多い、微生物汚染がある)という話と社会的不正(税金投入&利権、企業による法的措置、給食による強制、他にやるべきことがある)という話の二つに分かれることが示されました。ただし、ネットで拡散されている情報の多くは不正確で、炎上を狙ったものが多いと思われます。
補足
Yahoo!知恵袋の質問とそのやり取りの中から一つ紹介します。
質問
ツイッターで昆虫食(コオロギ)に関する話題を見つけました。
どうやら長野の学校で子供たちがコオロギパウダーを使って調理実習のような事をしている映像(テレビの切り抜き)でした。
私は微笑ましいと思っていたのですが、リプ欄や引用リツイートを見ると激しく非難されていました。
他の学校などでも、昆虫を使った給食などのようなものもあるそうですね。
そこで専門的な知識を身につけており、理性的である方にいくつか質問します。
・いま、本当に食糧危機というのは起きていると思いますか?
・また食料危機だとして、代替食が虫である理由・メリットは何かありますか?
・この映像が非難されているのはNHKだったからですか?
・リプ欄にはコオロギには危険性があると多くの方が危惧していましたが、それは本当ですか?
・遺伝子組み換え食品を食べることに問題があるのですか?
・こういった昆虫食を子供に体験させることを洗脳だと思いますか?
正確で、感情的ではない回答を求めています。
よろしくお願いします。
ベストアンサー
・いま、本当に食糧危機というのは起きていると思いますか?
・この映像が非難されているのはNHKだったからですか?
>知識が無いのでコメントできません。・代替食が虫である理由、メリットは何かありますか?
>可食部が多く部位の廃棄が少ないこと、一定の可食量を得るために必要な餌量や水の量が牛豚などに比べて低いなどなどがアピールされていますこちらの文章が日本語で比較的わかりやすくまとまっているかと思います。PDF注意
https://gakkai.sfc.keio.ac.jp/journal/.assets/SFCJ17-1-09.pdf・リプ欄にはコオロギには危険性があると多くの方が危惧していましたが、それは本当ですか?
>コオロギ食の危険性に対するコメントはこちらのツイートが参考になると思います。私も全面的に同意です。大半のコメントはデマと呼べるような内容です。
https://twitter.com/takeo_tokyo/status/1625813242386980864?s=20
(※私はTAKEOさんの関係者ではありません、念のため。)・遺伝子組み換え食品を食べることに問題があるのですか?
>直接のゲノム操作に限らず、従来から為されてきた品種改良は遺伝子組み換えの範疇です。慎重に見てリスク評価は必要だと思いますが、問題は無いでしょう。・こういった昆虫食を子供に体験させることを洗脳だと思いますか?
>身体的、精神的な圧力の存在があれば洗脳の定義に当てはまると思います。給食という機会は、意思で回避することは可能と思いますが狭い学校、教室という中では半強制的だと言われてしまうだろうとも思います。個人的にはアレルギー性と品質安定性という側面をもう少ししっかりとした上で採用されるべきと考えています。実際タイなどでは昆虫食の品質管理に向けたHACCP様の基準整備が進んでいると聞いたことがあります。自分としては昆虫食は押し付けるものではなく、食の選択肢を広げる手段の一つととらえて楽しんでいます。
ちなみにこの質問に対してchatGPTに回答してもらうと以下のようになります。
・いま、本当に食糧危機というのは起きていると思いますか?
世界的な食料危機が起きているという意見もありますが、その根拠となるデータや見解には議論の余地があります。現在、世界中で飢餓や栄養不足に苦しむ人が多数存在しており、これは重大な社会問題です。しかし、単純に食料の不足だけが原因ではなく、食料生産や配給の問題など、様々な要因が関係しています。・また食料危機だとして、代替食が虫である理由・メリットは何かありますか?
虫食には、食糧資源の節約や環境保護、栄養価の高さ、蛋白質源としての利用など、様々なメリットがあります。虫食をすることで、従来の食肉生産に比べて温室効果ガスの排出が少なくなり、水や飼料の消費量も減少するため、環境に優しい食料として注目されています。また、コオロギなどの昆虫は、栄養価が高く、必須アミノ酸のバランスが良いため、栄養価の高い代替食として期待されています。・この映像が非難されているのはNHKだったからですか?
その映像が放送された媒体が非難されたわけではありません。虫食に対する一般的な偏見や、文化的な背景、食のタブーなど、様々な要因が影響している可能性があります。・リプ欄にはコオロギには危険性があると多くの方が危惧していましたが、それは本当ですか?
コオロギには、食物アレルギーのある人にはアレルゲンとなるタンパク質が含まれている可能性があります。また、コオロギが食べたものによっては、農薬や化学物質が含まれる可能性もあります。これらの問題に対しては、適切な管理や処理を行うことで対処可能です。ただし、コオロギを食べることに対する健康上の危険性については、特に報告されていません。・遺伝子組み換え食品を食べることに問題があるのですか?
遺伝子組み換え食品については、安全性に関する研究や評価が行われていますが、その結果は論争があります。一部の研究では、遺伝子組み換え食品が安全であるとの結論を出していますが、他の研究では、健康に悪影響を及ぼす可能性があるとの指摘もあります。そのため、現在でも遺伝子組み換え食品に対して懸念する人々がいます。・こういった昆虫食を子供に体験させることを洗脳だと思いますか?
昆虫食を子供に体験させること自体は、洗脳ではありません。しかし、昆虫食が必ずしも良いものであるということを強制的に教え込むことは、洗脳に近いものになる可能性があります。子供たちが自分で昆虫食を試して、自分で判断することが望ましいです。
もうchatGPTが自動で返信すればよいのでは、という気もしてきました。
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