要約
GRI(Global Reporting Initiative)スタンダードはTNFDのような情報開示基準のうちの一つであり、生物多様性評価についても実践的な形でまとめられています。GRIスタンダードとはなにかについて整理し、GRIスタンダードにおける生物多様性評価についてまとめ、TNFDとの関係について解説します。
本文:GRIスタンダードにおける生物多様性評価

社長、大事なお話があります!

またお前か、生物多様性に予算はやらんぞ!以前のTNFDで懲りただろう!

たしかにTNFDではちょっと懲りました。TNFDでは生物多様性評価にがっつりと取り組んでいるものと思っていたのですが、そうではなかったので結局もやもやが残りました。

ほーらみたことか!TNFDは「自然保護しよう!」じゃなくて「自社が自然環境から受けるリスクの情報を開示しよう!」なのじゃよ。

今日はTNFDとは別の話です。TNFDのようなサステナビリティ関連の情報開示基準の中に、「GRIスタンダード」というのがありまして、その中では生物多様性評価がちゃんと組み込まれているようなのです。

ほーん、で?具体的になにをしたいの?

それが、、、なにをやるかはまだまだこれから検討です。まずはちゃんと勉強しなきゃ、っていう段階です。

またそれか、、、しゃあないのお。またワシがレクチャーしてやろうじゃないか。さっさとメンバーを連れてくるのじゃ!
こんな会社があるのかどうかわかりませんが、企業が生物多様性に取り組まねばならない時代の流れはさらに加速しています。
本ブログでは、企業の自然に関する情報開示基準としての「TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、自然関連財務情報開示タスクフォース)」について、「ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止めて、さらに回復傾向に反転させること)」との関係に注目しながら、2回にわたって解説しました。


TNFDのような情報開示基準は国際的にさまざまなものが乱立している状況で、統一した基準を作る動きが国際サステナビリティ基準審議会(ISSB:International Sustainability Standards Board)です。さらにその日本における基準の開発を担うのがサステナビリティ基準委員会(SSBJ:Sustainability Standards Board of Japan)です。現在、ISSBは生物多様性、生態系、及び生態系サービス(Biodiversity, Ecosystems and Ecosystem Services: BEES)の国際基準の開発を進めています。
GRI(Global Reporting Initiative)スタンダードもそのような情報開示基準のうちの一つです。生物多様性評価に注目した場合に、GRIはかなり進んだ動きをしているようです。
そこで本記事では、まずGRIスタンダードとはなにかについて整理し、次にGRIスタンダードにおける生物多様性評価についてまとめます。最後に、TNFDとの関係について解説します。
GRIスタンダードとは?
GRIは1997年に設立された独立した国際的非営利団体です。企業の環境破壊に対する説明責任を求める社会的な要請を受けて、報告基準を提供しています。この報告基準がGRIスタンダードで、テーマごとに独立したパーツを構成するモジュール形式となっています。
GRIが設立された1990年代には、大企業を中心に自主的な取り組みとして「環境報告書」を毎年公表するようになりました。このころから企業は環境問題に取り組んでそれを企業広報としてアピールするようになってきます。
2000年代に入ると環境からさらに経済、社会(人権)、ガバナンスなどへ取り組みが広がってCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)になり、企業はCSR報告書を公表するようになります。ここまではまだ企業広報の範囲内(イメージアップのための良いことしてますよアピール)です。
そして2020年代になってTNFDが出てきた背景には、企業広報としてのCSRからリスクマネジメントの一部になり、経営改善のために「自社が自然環境から受けるリスク」への対策を迫られるようになります。
ということで、GRIはTNFDよりも歴史が古いため、基本的にCSRを念頭に置いたものになります。つまり、「自社が自然環境から受けるリスクの情報を開示しよう!」ではなく、「自社が環境へ与える影響を評価して、適切に管理しよう!」のほうがむしろ主目的になっています。
(こういうことを「インパクト・マテリアリティ」と呼びます。自社の経営が自然環境から受けるリスクの話は財務マテリアリティ、両方を扱う話はダブル・マテリアリティ。この用語を知らないと結構チンプンカンプンになりがち)
このような情報開示によって、都合の悪い情報も含めた企業の説明責任を果たし、管理能力をステークホルダーに証明する、ということにつながるわけです。
次にGRIスタンダードの中身に移りましょう。このスタンダードは相互に関連する3つのシリーズで構成される体系的な構造を持ちます:
1.共通スタンダード:報告を行うすべての組織が利用するもので、報告方法の規定、組織のプロフィールや活動を報告する一般開示事項、重要な項目を特定するプロセスを提示
2.セクター別スタンダード:農業・養殖業・漁業や石油・ガスなど、特定の業種においてそれぞれ重要な開示項目を提示
3.項目別スタンダード:エネルギー、生物多様性、大気への排出、労働安全衛生、多様性と機会均等など、特定の項目に関する詳細な開示事項を提示
本記事では特に項目別スタンダードの「GRI 101:生物多様性2024」に注目し、以下で生物多様性評価について解説を続けます。
GRIスタンダードにおける生物多様性評価
GRIスタンダードにおける生物多様性関連の開示項目は以下の通りです。マネジメントに関する事項が3つ(101-1~101-3)、項目別の開示事項が5つ(101-4~101-8)あります。
・方針と目標 (101-1): 生物多様性の損失を止め、反転させる(ネイチャーポジティブ)ための組織の方針や科学的根拠に基づく目標を記載
・生物多様性へのインパクトの管理 (101-2): インパクトの管理の優先順位(ミティゲーションヒエラルキー)として「回避 → 最小化 → 復元・回復 → オフセット」の適用方針、復元・回復の面積、オフセットの方法、管理計画がある拠点、管理措置に伴う相乗効果やトレードオフ、について記載
・アクセスと利益配分 (101-3): 遺伝資源の利用から生じる利益の公正な分配に関する規制(名古屋議定書など)の遵守のプロセスや措置について記載
・生物多様性へのインパクトの特定 (101-4): 生物多様性に最も著しいインパクトを与える自社拠点やサプライチェーン上の製品・サービスを特定する方法(可能であれば一時データを用いる)を記載
・生物多様性へのインパクトを伴う場所 (101-5): 生物多様性に最も著しいインパクトを与える拠点の情報(面積など)、影響を受けやすい地域までの距離、その拠点で実施する活動について記載
・生物多様性の損失の直接的な要因 (101-6): 101-5で特定された拠点について、生物多様性損失の5大要因のうち、気候変動を除く4つ(土地・海域の利用変化、自然資源の採取、汚染物質の排出、侵略的外来種の導入)について、具体的な指標(面積や量)を用いて報告
・生物多様性の状態の変化 (101-7): 101-5で特定された拠点について、生態系の種類(生態系分類を使用)・面積・状態(種の多様性や一次生産力、絶滅リスクなど)を記載
・生態系サービス (101-8): 101-5で特定された拠点について、地域の人々(先住民族や地域コミュニティなど)が受ける生態系サービス(供給サービス、調整・維持サービス、文化的サービス)、組織の活動が生態系サービスに与える影響について記載
GRIにおける生物多様性評価の特徴は101-2にある「ミティゲーション・ヒエラルキー」の適用にあります。単にリスクのあることをやめたり縮小するだけではなく、一度与えた影響から回復や、他の場所でのオフセットも選択肢として活用できるわけです。
・回避: 自然へのマイナス影響そのものを避ける(例:新工場の建設をやめる)
・最小化: 回避不可能な影響をできるだけ小さくする
・復元・回復: 損傷した生態系を元の状態や健全な状態に戻す(影響が一時的である場合)
・オフセット: どうしても避けられない悪影響に対し、他地点での保全活動などで相殺する
生物多様性の評価にあたっては、可能な限り一次データ(実地調査、環境DNA、衛星画像など)を使用することが推奨されていますが、入手困難な場合は二次データやモデルデータ(ライフサイクル影響評価など)を用いた推定も認められています。
生物多様性へのインパクトの深刻度を評価する際は、規模(重大さ)、範囲(広がり)、修復不能性(回復の困難さ)の3つの特徴から判断します。
このように、GRIスタンダードにおける生物多様性評価はかなり実践的な形で作られているように思います。
GRIスタンダードとTNFDとの関係性

だいぶわかってきました。GRIスタンダードのほうがTNFDよりも生物多様性評価のイメージにだいぶ近いと思います。でも企業はこれからTNFDもGRIも両方やらなきゃいけないんでしょうか?実際に両方やるとなるとかなり大変そうです。

心配するな、最後までワシの話を聞けい!
「GRI 101:生物多様性2024」とTNFDは密接に連携しています。事業者が両方の対応関係をよりよく理解できるように、GRIとTNFDは相互運用性に関する資料を2024年7月に公開しました。
この資料は、GRIスタンダードとTNFDの開示推奨事項、指標、およびセクター別ガイダンスとの対応表が含まれており、企業が二重の報告作業を軽減し、効率的に開示できるような内容になっています。
GRI 101のすべての開示事項はTNFDの推奨事項に反映されています。また、GRI 101の項目別開示事項(101-4~101-8)は、TNFDが推奨する自然関連インパクトの特定・評価プロセスであるLEAPアプローチの「発見(Locate)」および「評価(Evaluate)」と整合的です。
ただし、GRIが「インパクト・マテリアリティ」を扱うシングル・マテリアリティであるのに対して、TNFDはダブル・マテリアリティです。TNFDにおける生物多様性評価はまだ進んでいませんが。
この違いが対象とする地域の違いに関係します、GRIは環境面で重要な地域(インパクト・マテリアリティ)を対象としますが、TNFDでは環境面で重要な地域と事業として重要な地域(財務マテリアリティ)の両方を対象にします。

では次に実際の企業の取り組み例を話すとしよう。
と思ったが、次の大事な会議の時間になったようじゃ。続きはまだ次の機会としよう。
次回に続く!
まとめ:GRIスタンダードにおける生物多様性評価
GRIスタンダードはCSRを念頭に置き、「自社が環境へ与える影響を評価して、適切に管理しよう!」を主目的とする「インパクト・マテリアリティ」です。その中の生物多様性に関する開示項目は実践的な形でまとめられています。さらに、TNFDとの連携も密接であり、相互運用に関する資料も公表されています。
付録
本記事を書くにあたり主に以下の情報を参考にしています。
GRIスタンダード「GRI 101:生物多様性2024」(日本語版あり!)
TNFDとGRIの連携に関するガイダンス文書
上野雄史 (2026) 国際的な財務報告フレームワークからTNFDの挑戦と課題. リスク学研究 36, 49-56
https://doi.org/10.11447/jjra.T-25-034
ニュートンコンサルティング:GRIスタンダード導入・活用ガイド~社会・環境インパクトをERMに統合し、リスクを価値に変える手法~

ビジネス×生物多様性:生物多様性へのインパクトを管理し開示するには? ~GRI101:生物多様性2024へのアップデート~
EY:ISSBの生物多様性、生態系及び生態系サービスの開示基準導入と、自然関連開示の義務化の可能性を見据えて、企業が今できるTNFD開示


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