依存のリスク:旧統一教会だけではなく幅広い分野でリスク評価が必要

dependence 身近なリスク

要約

旧統一教会の解散命令請求に向けた動きに手詰まり感があるなか、宗教だけでなくさまざまな「依存のリスク」の問題が発生しています。依存させる側のリスク評価の必要性、宗教以外どのような「依存のリスク」があるか、依存のメカニズムや依存しやすい人の特徴についてまとめました。

本文:依存のリスク

2022年7月8日に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件から1年近くが立ちますが、事件はその後旧統一教会問題、すなわち宗教による搾取や政治への接近など思わぬ方向へ展開してきました。

安倍氏を銃撃した山上容疑者がまるで被害者であるような論調や、旧統一教会と政治家との結びつきを批判され、世論が炎上するなかで岸田政権は旧統一教会をつぶす方向に一気に舵を切りました。

宗教法人法に基づく解散命令請求が認められる法令違反の要件として、岸田首相は刑法違反のみならず「行為の組織性、悪質性、継続性が明らかで、宗教法人法の要件に該当する場合、民法の不法行為は入り得る」と明言しています。

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その後政府は質問権を6回行使してきましたが、解散命令請求を行うだけの証拠はまだ集められていないようです。

旧統一教会の解散命令請求「手詰まり」 強制力ない調査、長期化

旧統一教会の解散命令請求「手詰まり」 強制力ない調査、長期化 | 毎日新聞
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する調査で、文部科学省の外局・文化庁は12日、教団から6回目の回答を受け取った。宗教法人法に基づく「質問権」の行使により、昨年11月の初回から半年あまりで計6回延べ500項目以上の質問を送ったが、裁判所に教団の解散命令を請求するに至っていない...

さて、この件を「宗教のリスク」ととらえてみるとどうでしょうか。山上容疑者の母親は、旧統一教会への献金で自己破産して生活が破綻してしまったようです。宗教依存症とは以下の状態を指します。

自分自身の責任のもとで物事を決断し、問題を解決しながら生活をしていくことを放棄し、全ての物事の判断を宗教に委ね、自分自身では物事が解決できない状態、依存している人のことである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%97%E6%95%99%E4%BE%9D%E5%AD%98%E7%97%87

ただ、宗教に依存傾向のある人は、その宗教がなかったとしてもほかのものに依存しやすい傾向があるのではないでしょうか。

そこで、もっと幅を広げて「依存のリスク」と考えてみます。本記事では、カルト宗教のような依存させる側のリスク評価の必要性、宗教以外の「依存のリスク」としてどのようなものがあるか、依存のメカニズムや依存しやすい人の特徴、の順でまとめていきたいと思います。

被害者が出てからでは遅すぎる?平時からリスク評価が必要

旧統一教会に対する解散命令請求に向けた動きは、安倍氏襲撃事件とその後の政治家との結びつきが炎上したことで急激に進みだした印象です。事件が起こってから、世論が騒ぎ出してから動き出す、といういつもの後追い展開です。

そもそも何をもってカルト宗教なのでしょうか?世間で騒がれたから、ではダメだと思います。なんらかのリスク評価をもとに規制するかどうかを決めるようなプロセスが必要でしょう。そしてそれは世間で騒がれている宗教団体のみならず、一定以上の規模をもつ宗教団体全てをリスク評価しなければ不公平です。

そうなると、化学物質のリスク評価に習うならば、リスク評価の手法を定めガイドライン化し、管理措置(解散命令請求など)の線引き基準を定めることが重要です。このようなものが公表されれば宗教団体側もこれに引っかかる点は自主的に改めるようになるでしょう。

以下のサイトにもチェック項目がありますが、正体を隠した勧誘、マインドコントロールを行う、家族・友人や一般社会との断絶、犯罪行為の強要、脱会者への制裁、などはリスク評価の項目として重要となるでしょう。 

YAHOOニュース:カルト宗教の見分け方:良い宗教と悪い宗教の違いは?

カルト宗教の見分け方:良い宗教と悪い宗教の違いは?(碓井真史) - エキスパート - Yahoo!ニュース
■カルト宗教(破壊的カルト)とは安倍元総理銃撃事件の容疑者逮捕を機に、カルト宗教の問題が注目を集めています。あまり関心をもってこなかった世間が、今度は急に厳しい目を向け始めています。しかし、カルト宗教

このようなリスク評価は何か問題が起こる前に平時から行っている必要があります。現在の宗教をめぐる問題は、保障や被害者救済がメインであり、被害者が出てからではないと動けません。そもそも被害者を出さないような未然防止策が必要です。

本ブログの過去記事でも、事故が起こってからの規制強化と事前のリスク評価ベースの安全対策の違いについて論じていますのでぜひ参考にしてください。

知床観光船事故から考える、事故が起こってからの規制強化と事前のリスク評価ベースの安全対策の違い
知床観光船沈没事故を受けて船舶の規制強化が議論されようとしています。事故が起こってからの規制強化と事前のリスク評価ベースの安全対策という二つの安全のカタチがありますが、船舶安全の分野ではFormal Safety Assessment(FSA)という後者のフレームが整っています。

現在とるべき安全のカタチは「わからないものは危険とみなす」というものであり、情報を出さない宗教団体は危険な団体とみなすことになります。宗教団体側が平時から自分たちでリスク評価して、安全である(=リスクが許容レベル以下であること)を市民に納得させなければいけないはずです。どの宗教団体に入会するかはそのリスク評価の結果などを見ながら判断させればよいでしょう。

SNSの普及による新たな依存のリスク

依存症は宗教以外にも、アルコール、ギャンブル、インターネット、ゲームなどいろいろなものがありますし、ハマりすぎて人生が破綻してしまうものとして、キャバクラ、風俗、ホストなどもあります。

さらに、最近では「推し活」という言葉も一般的になりましたが、アイドルなどもAKB商法に代表されるように集金方法が多様化し、ハマった人からあり金をむしり取るシステムが巧妙化しています。加えてSNSの普及により、インフルエンサーとして個人でも「推される」活動が可能となり、より推し活が身近なものとなりました。

YouTuberの色恋営業にハマった女子高生二人が飛び降り自殺を生配信したり、地下アイドルに貢ぐために風俗で働いて妊娠した子供を庭に埋めた事件があったり、ホストクラブの支払いのために新宿の立ちんぼが増加したりなど、最近でもたくさんニュースがあります。性感染症の梅毒が過去最高レベルで増加し続けているのもこのような傾向が関係しているかもしれません。

文春オンライン:《女子高生2人が“飛び降り配信”》YouTuberピャスカルに悩んでいた新潟のXさんと松戸のYさんを繋げた“自殺願望”「自分の顔が嫌だ」「苦しんだ証を残しているんだ」

《女子高生2人が“飛び降り配信”》YouTuberピャスカルに悩んでいた新潟のXさんと松戸のYさんを繋げた“自殺願望”「自分の顔が嫌だ」「苦しんだ証を残しているんだ」 | 文春オンライン
4月13日午前4時ごろ、千葉県松戸市のマンション敷地内に少女2人が倒れているのが見つかり、いずれも死亡した。 マンション最上階の10階には、学校の制服のような上着と靴がそれぞれ2人分置かれていたとい…

週刊女性PRIME:愛知・我が子の遺体を庭に埋めた元保育士「月100万円貢いでいた」メンズ地下アイドルの“闇”

Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。

産経ニュース:「立ちんぼ公園」に集う交縁女子、買春おじさん、動画配信者 東京・大久保公園

産経新聞:産経ニュース
産経新聞社のニュースサイト。政治、経済、国際、社会、スポーツ、エンタメ、災害情報などの速報記事と解説記事を掲載しています。

年間40~50人で推移していた摘発人数は新型コロナウイルスの影響で、令和2年には20人台に減少したものの、一昨年、昨年はそれぞれ34人、51人に。増加傾向が続いている。今年に入りすでに18人を摘発。4月だけで10人を摘発している。女性らが売春する目的の多くがホストクラブへの支払いだったという。

女性が推し活のために風俗で働くようになる一方で、男性の場合は風俗などにハマって生活が行き詰まると、相手の女性を殺すなどの凶行に及んでしまいます。

FRIDAY:「彼女のきらびやかな人生に殺意が」吉原・風俗店女性をメッタ刺し「挨拶無視」32歳男の戦慄素顔

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推し活は生活に潤いを与えるメリットもある一方で依存リスクもありますね。宗教とかだけを特別視するのではなく、ハマらせて(考えることをやめさせて)貢がせるビジネスモデルをとっているものについては、もれなくリスク評価をして、どこかで線引きをして管理するようなやり方が必要になってくるのではないかと思います。

依存のメカニズムと依存しやすい人の特徴

次に、依存させる側ではなく依存してしまう側の問題を整理していきます。

厚生労働省:依存症についてもっと知りたい方へ

依存症についてもっと知りたい方へ
依存症についてもっと知りたい方へについて紹介しています。

依存症とは、アルコール・薬物・ギャンブルなどの特定の物質や行為に対して、やめたくてもやめられない、ほどほどにできない状態を指します。アルコールや薬物のような物質に対しても、宗教・ギャンブル、ホストのような行為に対しても、
・繰り返す
・より強い刺激を求める
・やめようとしてもやめられない
・いつも頭から離れない
などの症状が徐々に出てくることが特徴です。

依存のメカニズムとしては脳の機能が影響しています。物質の摂取・行為を行ったときにドーパミンという快楽物質が分泌され、これを脳が報酬と認識することで、さらなる報酬を求めて物質の摂取・行為がエスカレートしていきます。

その後、以前と同じ程度の物質の摂取・行為では快楽の報酬を感じにくくなり程度が増していく、ということを繰り返していくようです。

以前は性格的なもの(意志が弱いとか)が原因と考えられていましたが、最近はこのような脳の機能が原因と考えられており、どのような性格でもなる可能性があります。

ほかにも
・アルコールなどの物質の場合は遺伝的な体質(アルコールに弱いなど)
・孤独(周りに相談できる人がいない、助けを求めるのが好きではない)
・うつ病や発達障害
などが依存症になるリスク要因としてあります。

脳の機能の影響であるため、自分でのコントロールは限界があり、専門家(病院や自助グループ、回復のための施設など)による治療が必須になります。

また、宗教のリスク評価のところでも書いたように、依存症になってからでは遅いので、事前のリスク評価による未然防止にもっと力を入れるべきではないかと思います。

以下のサイトのように、アルコール依存、ネット依存、ゲーム依存、ギャンブル依存のセルフチェックができますが、メカニズム的に自分でコントロールするのは無理そうなので、やはり物質・行為の提供者側の配慮(広告などで快楽の報酬をあおるようなことをしないなど)が必要なのではないでしょうか。自主的な配慮ができなければ旧統一教会のように規制が必要という世論が形成されてしまいます。

国立病院機構久里浜医療センター:依存症スクリーニングテスト一覧

依存症スクリーニングテスト一覧 | 病院のご案内 | 久里浜医療センター
独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターの公式Webサイトです。アルコール依存症をはじめ各種依存症の専門治療を中心に、こころの病気全般の医療を実施している国立病院です。-

まとめ:依存のリスク

旧統一教会の解散命令請求に向けた動きに手詰まり感が出てきました。この問題に対する行政の動きは被害者救済に偏っていますが、そもそも被害者が出る前にリスク評価を行い、それをもとに必要なら規制を行うなどの未然防止策も必要になるでしょう。これは宗教に限らず、ハマらせて貢がせるビジネスモデルについては幅広く適用するべきです。一方で依存のもとになる物質・行為の提供者側は規制が発生する前に自主的な配慮が望まれます。

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