リチウムイオン電池の身近で見過ごされてきたリスク

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要約

各地のごみ処理施設で火災が頻発するなど、リチウムイオン電池がごみに混じって廃棄される問題が大きくなっていますが、これはこれまで「見過ごされてきた」リスクと考えられます。リチウムイオン電池のリスクと対策、これまで見過ごされてきた理由についてまとめます。

本文:リチウムイオン電池のリスク

栃木県宇都宮市にあるごみ焼却処理施設「クリーンパーク茂原」で火災が発生したのは2022年2月1日のことでした。消防隊と消防団80人が出動しましたが、消火に38時間もかかる大火災となり、これにより宇都宮市のごみ焼却能力が約7割も失われました。そして10か月後の同年12月24日にようやく復旧する見通しがたったとのことです。

2022年9月にまとめられた事故対策委員会報告書によると、出火原因を明確に特定することはできませんでしたが、ごみとして出されたリチウムイオン電池、スプレー缶、ライター等から出火したと推察されています。

最近になり、この事故だけではなくリチウムイオン電池によるごみ処理場での火災が頻発しており、ごみ処理場における大きな問題となっています。宇都宮市の火災では対応にかかった総費用はなんと57億円にも達するとのことで、自治体において非常に大きな負担となります。

読売新聞:「人命にも関わる」充電式電池による火災、ごみ処理施設で頻発…リスク大きく撤退する業者も

「人命にも関わる」充電式電池による火災、ごみ処理施設で頻発…リスク大きく撤退する業者も
【読売新聞】 宇都宮市茂原町のごみ処理施設「クリーンパーク茂原」は、2月に発生した火災の影響で運転を休止し、今も復旧の見通しが立っていない。出火原因は不明だが、ごみにリチウムイオン電池が混入した可能性も指摘される。充電式電池による火

NHK:宇都宮市のごみ処理施設 12月24日ごみ受け入れ再開へ

エラー - NHK

宇都宮市:事故対策委員会報告書

事故対策委員会報告書
宇都宮市公式Webサイト

そんなに大きな問題になっていたとは正直ぜんぜん知らなかったので、これは「身近で見過ごされてきたリスク」というくくりの中に入るものだと思いました。

本記事では、リチウムイオン電池によるリスクについてまとめます。まず、リチウムイオン電池による火災発生のリスクについて整理し、次にその対策について整理します。最後に電池の取り外せない製品の問題について考えてみます。

リチウムイオン電池による火災発生のリスク

環境省が行った2021年度調査からデータを見ていきましょう。

環境省:リチウム蓄電池等処理困難物対策集
https://www.env.go.jp/recycle/libtaisaku.pdf

二次電池(リチウムイオン電池やニッケル水素電池なども含む)に起因する収集車両や破砕施設の火災について、「発生していない」が1145市区町村、「発生している」が255市区町村、「二次電池に起因すると疑われる火災が発生しているが、原因は特定していない」が273市区町村でした。

二次電池による火災が発生した255市町村の中で出火件数は合わせて5601件であり、調査した市区町村1734で割ると、市区町村あたり年間平均3.2件という数字が出てきます。また、出火までいかなくても、火花の発生が2812件、煙の発生が2761件あります。つまり、どこの市区町村でも火災が発生して冒頭の宇都宮市のような状況になる可能性が十分あるわけです。

その中でも、火災の発生が年間100件以上という市まで複数あるようです。大規模な施設ほどいろんなものが混入する確率が上がり、また被害額も膨らみます。億単位の被害額になることも多いようです。

施設の被害は金額で示すことができますが、それ以外にも人的な被害が起こることもありますし、ごみ収集が一時的にストップしたりもするため、衛生的な環境悪化も引き起こしてしまいます。

火災の原因として最も多いのがモバイルバッテリーで、加熱式たばこやコードレス掃除機が続きます。これらは「不燃ごみ」として出され、収集車両や処理施設での解体・粉砕作業中での火災につながります。

通常電池は取り外し可能なものですが、充電池は取り外しのできない製品が多くなっています。スマホでも最近の製品は電池の交換ができるものがほとんどなくなりました。

小型家電ではそもそもリチウムイオン電池が入っていることすら容易に認識できません。電気シェーバー、電動歯ブラシ、携帯ゲーム機、ハンディ扇風機、加熱式・電子たばこ、ワイヤレスイヤホンなど、廃棄するときに電池が入っていることを見過ごしがちです。

ハンディ扇風機などは百均でも充電式のものが売られており、私も買ったことがありますが壊れやすいのですぐに捨てることになります。このときに中のリチウムイオン電池の存在まで考えることはなかなか難しいです。しかし、このようなものがごみに混ざることによって大事故につながることもあるのです。

環境省による以下の啓発動画もこの辺の問題がよくまとまっています。

環境省:セーフリサイクル!リチウムイオン電池!(正しい捨て方の動画)

YouTube
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リチウムイオン電池による火災発生対策

リチウムイオン電池のリスクはごみ処理施設における火災発生によるものです。ごみ処理施設は市区町村などの自治体が運営するものですので、その対策の主体も自治体単位になります。

ただし、主体が自治体であるがゆえに、その対応が自治体ごとにバラバラとなってしまいます。対策としては主に以下のようなものがあります:
・廃棄方法の普及啓発
・リチウムイオン電池を含む製品の分別収集
・ごみ処理施設における事前分別システム
・ごみ処理施設における火災検知や消火システム

例えば八王子市のWEBサイトでは以下のように分別収集の紹介、普及啓発を行っています。

八王子市:小型充電式電池(リチウムイオン電池等)が取り外しできない製品を「有害ごみ」で収集します。

お探しのページを表示できません

これらの対策には多額の費用がかかるため、実際に火災が発生しないとなかなか予算が付きません。そのためどうしても事故が発生してからの後追い対策になってしまうのですね。結果として、火災が発生してごみ回収が一時的に止まってしまったりします。

本来は事故が起こってからではなく事前のリスク評価ベースの対策が必要です。これは本ブログでも知床観光船事故を例に解説しています。

知床観光船事故から考える、事故が起こってからの規制強化と事前のリスク評価ベースの安全対策の違い
知床観光船沈没事故を受けて船舶の規制強化が議論されようとしています。事故が起こってからの規制強化と事前のリスク評価ベースの安全対策という二つの安全のカタチがありますが、船舶安全の分野ではFormal Safety Assessment(FSA)という後者のフレームが整っています。

冒頭で紹介した宇都宮市の事故事例は大きな被害額となりましたが、どうしても対岸の事故的に受け止められてしまい、どの自治体でも起こりうるというリスクの認識が甘くなりがちです。この辺が「身近だけど見過ごされてきた」理由ではないかと考えられます。

また、事故のリスクが金銭的なものだけだとすると、それは保険により「リスク移転」をするのが最適です。これは「全国市有物件災害共済会」という組織が担っているようです。「ごみ処理施設の火災と爆発事故防止対策マニュアル」というものを作ったりしていますね。

https://www.city-net.or.jp/research-top

実際には人的被害やごみ収集が止まって衛生問題が発生するなどの、別のリスクも考える必要があるでしょう。

電池の取り外しができないのは大問題

ここまでリチウムイオン電池の問題と対策を整理してきましたが、製造者側が電池を容易に取り外せる製品設計にする、というのは最低限必要なスペックであると思うようになりました。「見過ごされてきた」電池を可視化するということですね。

乾電池を入れるような機器では電池を入れたまま廃棄するというのは考えにくいのですが、内蔵されていて取り外しができない(そもそも電池の存在が認識できない)とそのまま廃棄されやすいでしょう。

スマートフォンを考えてみても、以前はアンドロイド機種は電池の交換ができるものが多かったのですが、最近のものは交換できなくなっています。スマホは個人情報のかたまりなのでそのままごみとして出す人はいないと思いますが、設計の方向性はやはりおかしいと思います。

スマホの電池が交換できなくなった理由は、単に買い替えを促しているだけではなく、以下のような技術的な要因もあるようです:
1.リチウムポリマー電池という固いケースを必要としない形状に変わり、スマホのカバーがそのまま電池のケースを兼ねているため大容量化できるようになった。
2.電池を交換できるようにすると、電池の保護、端子などの安全性保護、スマホ本体の防塵・防水の保護の問題が出てくる。
3.事故防止のため他社製の非正規品バッテリーを使えないようにしている。

IT Media: 「なぜスマホのバッテリーは交換できないの?」 その理由と問題の本質を考える

「なぜスマホのバッテリーは交換できないの?」 その理由と問題の本質を考える
しばしば聴かれる質問。だが、この問題については誰もちゃんと答えていないようなので、西田宗千佳さんが乗り出した。

多くの人がスマホカバーや手帳型スマホケースを使っていることを考えれば、1や2はあまりクリティカルな要因とは思えず、3の問題が大きいのかもしれません。

上記で紹介した環境省の調査報告「リチウム蓄電池等処理困難物対策集」には、小型家電の排出先のアンケート調査結果もあります。スマホではごみに出す割合が少ない一方で、腕時計や電気カミソリはごみに出す人の割合が一番高くなっています。そして、電気カミソリで電池の取り外しが可能であれば外して捨てると回答した割合は8割にのぼっています(それでも残り2割は外してくれないのか。。。)。

まとめ:リチウムイオン電池のリスク

各地のごみ処理施設で火災が頻発するなど、リチウムイオン電池がごみに混じって廃棄される問題が大きくなっています。ハンディ扇風機など、手軽に買えてリチウムイオン電池の存在が認識しにくい製品が増加していることも原因の一つとなっているため、そもそも電池の取り外しが容易にできる製品設計が求められます。

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