要約
生物多様性関連で最近よく聞くキーワードである「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」と「ネイチャーポジティブ」について解説します。TNFDはリスクマネジメントの一部であり、自然環境が自社のビジネスにどう影響するか?というリスクの開示を目指しています。
本文:TNFDとネイチャーポジティブ
社長、大事なお話があります!
またお前か、生物多様性に予算はやらんぞ!
今日は生物多様性と似てますが違う話で「TNFD」と「ネイチャーポジティブ」です。これをやらねば企業は生き残れないそうです!以下のグラフ(Google trendsにおける検索頻度の経時変化)を見てください。TNFDは2022年ころから、ネイチャーポジティブは2023年ころから注目度がどんどん高まっています!
ハァッ!?また難解な横文字を持ち出してきたな?具体的になにをやるのか説明できるのか!?
それが、、、なにをやるかはこれから検討したいのです。他社はコンサル会社に高いお金を払ってます。うちも何とか予算を。。。
却下却下!勉強不足じゃ!コンサルに金を払わんでもワシがTNFDについてレクチャーしてやろう。今から全社員を集めるのじゃ!
こんな会社があるのかどうかわかりませんが、企業は生物多様性に取り組まねばならない時代が来ています。さらに最近になって出てきたキーワードが「TNFD」と「ネイチャーポジティブ」ではないでしょうか?
本ブログの以下の過去記事を書いた2021年にはまだほとんど聞くことがない言葉だったのですが、上記のグラフのようにその注目度はどんどん高まっています。
しかし、実際にそれらがなんなのかはまだよくわからない、という人がほとんどでしょう。そこで本記事では、まずTNFDとネイチャーポジティブとはなにか?それらはどのような関係にあるか?を解説し、次にTNFDのリスクマネジメントとしての位置づけについて解説します。
今回だけでは具体例の解説まではできないため、2回に分けて書いていきます。
TNFDとネイチャーポジティブとは?
TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略、日本語だと自然関連財務情報開示タスクフォース)とは、民間企業や金融機関が自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的な組織です。
2019年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で着想され、資金の流れをネイチャーポジティブに移行させるという観点で、自然関連リスクに関する情報開示フレームワークを構築することを目指しています。
環境省:自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラムへの参画について
一方ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止めて、さらに回復傾向に反転させることを言います。2021年のG7首脳による「2030年自然協約」にて、2030年までにネイチャーポジティブを達成する国債目標が表明されました。2021年ということでかなり新しい用語ですね。
環境省:G7 ネイチャーポジティブ経済アライアンス(G7ANPE)
ネイチャーポジティブの内容はわかりやすいですが、TNFDのほうはこの説明だけではハッキリ言ってよくわかりませんね。後でさらに詳しく解説するのでこの時点ではわからなくて大丈夫です。また、この説明ではTNFDとネイチャーポジティブはどんな関係にあるのかよくわかりません。次に両者の関係を見ていきましょう。
TNFDとネイチャーポジティブの関係
2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」では、ネイチャーポジティブ達成のための5つの戦略の一つとして「ネイチャーポジティブ経済の実現」が挙げられました。
また新しい用語が出てきました。「ネイチャーポジティブ経済」とは、自然保護を重視する企業を消費者や市場が評価するようになり、そのような企業に資金が多く流れるように変化した経済のことを指します。ようするに自然保護をするとこれまでは余計なコストがかかっていただけだったのが、逆に儲かるようになるというわけです。
でも、そもそもどうやったら自然保護をする企業が儲かるようになるのでしょうか?その答えの一つが生物多様性保全のような取り組みをリスクマネジメントの位置づけでとらえることです。冒頭で紹介した本ブログの過去記事でもそのような考え方を解説しています(本記事でも後で解説します)。
さらに、その生物多様性保全をリスクマネジメントとして位置づけた取り組み内容を開示することで、マネジメントがしっかりできている企業であることをアピールし、投資資金を呼び込む、という流れに持っていきたいわけです。これがまさにTNFDで求められている取り組みなのです。
環境省:ネイチャーポジティブ経済移行戦略の公表について
つまり、TNFDとはネイチャーポジティブを達成するための手段のうちの一つであるのです。
ちなみに「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」は、小泉進次郎氏ら環境系の自民党議員による政策提言を受けて、環境省が策定したものになります。
TNFDのリスクマネジメントとしての位置づけ
社長!ネイチャーポジティブについてはわかりましたが、TNFDについてはまだぼんやりとしかわかりません。なぜ「自然保護」タスクフォースではなく「情報開示」タスクフォースなのでしょうか?
うむ、よい質問じゃ、まずは情報開示とはなにか?から始めようかの。
投資家にとって投資先の会社がどのような経営状況かを把握することは最も重要なことです。一方で会社は投資家向けに有価証券報告書を毎年作成して公表することで経営状況を開示しています。
もしもこの情報が不正確であったら投資家にとってはたまったものではありません。実際に過去にはそのような不祥事が相次ぎました。そこで、財務情報の開示が正確であることを保証するために内部統制報告書を作成し、監査法人が監査したのちに公表することが義務付けられました。
そのうち財務の話だけだった内部統制は会社の不祥事に拡大し、コンプライアンスが入ってきます。このような内部統制は会社におけるリスクマネジメントの一部です。ここに問題があると会社の経営は一気に傾いてしまうため、単なるセクターごとのリスク管理ではなく経営全体の話になってきます。
さらに情報開示は拡大の方向にあり、日本では2023年から有価証券報告書において非財務情報の開示が義務化されました。非財務情報とは、数値で表せない経営戦略やサステナビリティの取り組みなどのことを指します。そしてサステナビリティのところでいよいよ環境保全のような話が入ってくるのです。
有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、「ガバナンス」及び「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとします。
金融庁:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221107/20221107.html
こういう流れの中に、環境面のリスク情報の開示としてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFDが位置づくと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。現状では日本も他国でもTCFDやTNFDは義務化されているわけではありません。ただし、将来的には義務化される可能性もあります。
このような経緯や法的根拠などからすると、これまでの企業の環境保全が広報戦略や社会貢献(CSR)に位置づけられてきたこととは異なり、企業経営のリスクマネジメントの問題として位置づけられるようになってきたと言えるでしょう。
リスクマネジメントなので、生物多様性の損失が自社のビジネスにどう影響するか?などを考えなければなりません。例えば食品や小売り企業であれば、原料や商品として農産物を扱います。農産物の生産現場にて花粉媒介昆虫が減少すると、送粉サービスが低下して原料となる農産物の生産に影響を与える、などのリスクが考えられるでしょう。
その対策として、自社だけではなくサプライチェーンの上流部である取引先の農家でその影響緩和に取り組むことなどを考える必要があります。特に途上国で原料を生産している場合、自然林を切り開いているなど持続可能ではない生産が行われている場合もあります。これだと原料が将来的に安定して調達できないというリスクがあります。
そのような自社が抱えるリスクについて評価して管理対策も併せて情報開示しよう、というのがTNFDの基本的な方向性です。「自然保護しよう!」じゃなくて「自社が自然環境から受けるリスクの情報を開示しよう!」なのです。
社長!なんとなくTNFDがわかってきました。それで結局わが社ではTNFD対応としてなにをすればよいのでしょうか?
では次に具体例を話すとしよう。
と思ったが、次の大事な会議の時間になったようじゃ。続きはまだ来週に話すことにしよう。
次回に続く!
まとめ:TNFDとネイチャーポジティブ
「TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、自然関連財務情報開示タスクフォース)」は、生物多様性を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を達成するための手段の一つです。TNFDは投資家が投資先の経営状態を判断するための情報開示の一つとして、自然環境が自社のビジネスにどう影響するか?というリスクの開示を目指しています。
その2として、TNFDに取り組むガイダンスであるTNFD提言を紹介し、実際の開示例として世界に先駆けて取り組んだキリンの環境報告書を紹介します。
コメント