要約
コロナウイルス感染拡大防止のため自粛生活が長引くとサイバーリスクが増加します。サイバーリスクといえば情報流出や不正アクセスをイメージしますが、統計を見ていくと実は児童買春や児童ポルノをはじめとする性に関するものが非常に多くなっています。
本文
新型コロナウイルス対策で外出自粛が進み、「stay home」がスローガンになりました。そしてその影響でインターネットの利用時間が増加したのではないかと思われます。これまで本ブログでもsnsの定点観測をしており、ツイッターのツイート数自体が増えていることを感じています。そのような自粛時代におけるサイバーリスクとしてどういうところに注意すべきかを考えてみました。
統計でみるサイバーリスク
サイバーリスクといえば情報流出や不正アクセスによって役所や大企業が被害を受けるイメージが強いですが、それだけではありません。snsの利用時間の増加はネットリンチと呼ばれる匿名の誹謗中傷を増やす可能性もあり、これは人の命を奪うこともあるリスクとなります。また、10代の妊娠が増加しているとのニュースもあり、出会い系サイトの利用増加も背景にあるのかもしれません。以下のニュースでは「コロナの影響でアルバイトができず、援助交際をした」という内容があります。
警察庁は毎年「サイバー空間に関する統計」をまとめており、サイバー犯罪の検挙件数の内訳を公表しています。
その令和元年度における内訳を整理してみると以下の図のようになり、驚きの事実が浮かび上がります。
なんとサイバー犯罪の検挙件数の半数程度が性にまつわるものだったからです。児童買春・児童ポルノ法違反がトップで24%、ほかにも青少年保護育成条例違反、わいせつ物領布、ストーカー規制法違反が続きます。さらにその他の中にはH28年度まで数字が出ていた出会い系サイト規制法違反が2%程度含まれていますので、合わせると49%とほぼ半数となるわけです。学校が休校になるとこのような犯罪被害が増加することが予想されます。
サイバーリスクの代表というイメージの強い不正アクセス禁止法違反は9%程度です。ネットオークションなどを舞台とする詐欺の件数も多いですね。あとはマンガなどをアップロードする著作権法違反や、ネット上の名誉毀損などもあります。
サイバー犯罪対策
このようなサイバー犯罪による性被害防止の対策を見てみます。警察庁サイバー犯罪対策プロジェクト
からは、「コミュニティサイトに起因する児童被害防止のための官民連携の在り方」というタイトルの報告書が出ています。http://www.npa.go.jp/cyber/csmeeting/h28/h28_honpen.pdf
内容を見ると以下の4つの対策が出てきます:
・サイバーパトロール、サイバー補導の強化
・サイバー犯罪ボランティアによる監視
・sns事業者自身による対策強化の推進
・子供が使うスマホのフィルタリング
事業者による取り組みについて、ディーエヌエーやグリー、LINEなどが対策を強化した結果被害が減ってきたが、その分ツイッターの利用による被害が増加して平成28年度時点でトップにあるようです。ツイッターやっぱりね、という感じがします。
ツイッターでは誹謗中傷も日常茶飯事です。自分が名誉毀損の発言をしていなくても、他人の発言をリツイートしただけで名誉毀損で訴えられて慰謝料の支払いを命じられた事例もあります。「いいね」は拡散する行為ではないので大丈夫のようです(いまのところ)。
対策としては以下のようになるようですが、まずは専門家に相談することが大事ですね。
・書かれてしまった投稿に対する削除請求を行う
・発信者情報の開示・発信者の特定を行う
・発信者への損害賠償請求をする
・発信者に対して刑罰を与えるための刑事告訴をする
身近で見過ごされてきたリスク
ここまで、サイバーリスク(の検挙数)として性に関するリスクが半分を占めるということを整理しました。一方、本ブログではリスクに関するsns等定点観測の結果を公表しています。
最近はコロナ一色なのですが、コロナ禍以前ではYAHOO知恵袋でリスクを含む質問を検索して閲覧数が多い順に並べていくと、妊娠・出産のリスク、性行為や風俗のリスク、不倫や社内恋愛がばれるリスクなど、性に関する悩みが非常に目立っていたのです。ほかにも痴漢をしている本人からの捕まるリスクに関する相談などもあります。このようなリスクについては、その存在自体は当然認識できているものの、リスク学としてはあまり取り扱ってこなかったフィールドになります。このようなものをまとめて「身近で見過ごされてきたリスク」として整理しています。
そして、(リスク学の中で)見過ごされてきたリスクへ焦点をあてる必要があるという問題意識から、日本リスク研究学会(現在の日本リスク学会)2016年年会にて「身近で見過ごされているリスク」の企画セッションが開催されています。
身近で見過ごされているリスクの分類としては
・見えてるのに見逃されている
・見えてるのに「リスク」と考えられてなかった
・見えてきたのにまだ気づかれていない
・そもそも見えない統計的リスク
の4つくらいになるかと考えられます。このうち、性に関するサイバーリスクは、「見えてるのに「サイバーリスク」と考えられてなかった」という扱いかと思います。コロナウイルスをめぐる情勢は新たなリスクに焦点をあてる重要な機会になっているかもしれません。
まとめ
サイバーリスクといえば情報流出や不正アクセスをイメージしますが、統計を見ていくと実は性に関するもの(児童買春・児童ポルノ法違反、青少年保護育成条例違反、わいせつ物領布、ストーカー規制法違反、出会い系サイト規制法違反)が非常に多いことがわかります。リスクに関する悩みでも実は性に関するものが多く、性に関するリスクは身近で見過ごされてきたリスクという位置づけになると考えられます。
補足
リスク学事典の「1-4 私たちを取り巻くリスク(1):マクロ統計からみるリスク」に各種統計情報からみるリスクの概観が示されています。サイバー空間に関する統計の記載もあります。このとき図も作ったのですがボツになったので再編集してここで復活させてみました。
また、第10章は「共生社会のリスクガバナンス」と題してリスク学がこれまであまり取り上げてこなかった貧困、男女共同参画、障害者、介護、性的マイノリティー、外国人等の問題等を取り上げています。
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