BMIの基準値のからくりその1:BMIの起源と標準体重の決め方

obesity 基準値問題

要約

線引き問題の一つとして、肥満の指標となるBMI(Body Mass Index)をめぐる基準値問題に着目します。BMIの起源や問題点、肥満の線引き、BMIに代わる指標やメタボ診断の基準などについて整理していきます。BMIの使用には人種・性別・年代・筋肉量・皮下脂肪と内臓脂肪の区別などの考慮に課題や問題があります。

本文:BMIの起源と標準体重の決め方

米国では成人の4割程度が肥満であり、肥満はごく普通のこととなっています。肥満=悪いことというイメージはもう過去のこととなりつつあり、逆に肥満の人を差別することがタブーとなってきました

以下の記事にあるように、やせていることがよいという規範への反対として、太った体を愛そうという「ボディーポジティブ運動」や、体型の多様性を擁護しようとする「ファット・アクセプタンス運動」などがあります。これらの運動は外見を重視するルッキズムへの批判やフェミニズムとも重なっています。

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肥満は本人が怠けている証拠ではなく、遺伝の影響が大きいとされています。それでも就職などで不利に扱われたりすることが多いようです。日本では外見を蔑視するお笑いへの風当たりも強くなってきました。

しかし肥満は健康上のリスクとなることは間違いありません。本ブログの過去記事では、食に関連するリスクとして最も大きいのが肥満(食べすぎ)であることを指摘しています。

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今回は二回に分けて肥満に関する記事を書いてみたいと思います。第1回は肥満の指標となるBMI(Body Mass Index)をめぐる問題に着目します。BMIの起源や問題点、肥満の線引き、BMIに代わる指標やメタボ診断の基準などについて整理していきます。これも一種の線引き問題となります。

BMIの起源と問題点

理想的なBMIは22で、25以上だと肥満と判定されます。BMIについては、最近Nature誌に掲載された記事が良くまとまっていました。BMIの起源や問題点についてこの記事の内容を紹介していきます。

Nature: Why BMI is flawed ? and how to redefine obesity

Why BMI is flawed — and how to redefine obesity
The main diagnostic test for obesity — the body mass index — accounts for only height and weight, leaving out a slew of factors that influen...

BMIの起源については以下のようにまとめられます。標準を決めることで標準から外れるものへの差別が起こる、ということがセットになってしまっているかもしれません。
BMIの起源は約200年前のアドルフ・ケトレーによる「平均的な人間」の特徴を説明する活動
・ケトレーは西ヨーロッパの男性の測定結果から、体重が身長の2乗とほぼ相関していることを発見し、ケトレー指数(現在のBMI)を開発
・「正常」と考えられているものについてのケトレーの研究は優生学の誕生に貢献

BMIは体脂肪の代用として使用され、数値が大きいと代謝疾患や死亡リスクがあがる可能性がありますが、以下の問題点もあります。
白人の測定値から開発されたためほかの人種には適合しない
・年齢層の違いも考慮していない
・身長と体重しか考慮しておらず、体脂肪など他の要因を省いている
・よって、BMIの大きい人がみな健康状態が悪いわけではない

ということで、BMI以外の指標も併せて使う動きが増えてきているようです。健康影響の原因は体重が大きいことではなく体脂肪率が高いことです。体重が大きくても筋肉が多くて体脂肪が少なければ健康リスクは高くありません。

また、体脂肪の中でも皮下脂肪と内臓脂肪があり、悪さをするのは内臓脂肪のほうです。内臓脂肪を測るための簡便な指標となるのが、メタボリックシンドローム診断の基準の一つである腹囲になります。

標準体重を決める動き

以下のサイトによれば、日本で体重を習慣的に測るようになったのは1930年代ということで、まだ歴史は100年に満たないようです。タニタが体重計を販売しはじめたのは1954年で、当時はヘルスメーターと呼ばれていました。この時代(食べ物が足りない時代)はまだ体重が高いほど健康だと思われていたのです。

タニタ:からだをはかることの歴史と変遷

からだをはかることの歴史と変遷|タニタマガジン | タニタ
体重をはかることは大昔から行われており、今ではからだの事がすみずみまでわかる体組成計が生まれています。この計測の歴史を振り返ります。タニタ マガジンは、「世界の人々の健康づくり」に貢献するため日々研究を続けるタニタがお届けする、健康に役立つ情報コンテンツです。

一方で「標準体重」を決めようとする動きもありました。標準体重を決める方法として、集団の体重分布の平均値や中央値から求める統計的な手法と、死亡率の低い体重を用いる疫学的な手法があります

そして「肥満」とは、標準体重に対して+10%もしくは+20%以上高い状態をさすのが通例だったようです。

1986年に厚生労働省が公表した「肥満とやせの判定表」は、男女別、年齢別、身長別の平均的な体重を標準体重としました。ただし、年齢別の平均を使ってしまうと、年齢とともに増加する肥満が容認されてしまう可能性もありました。

死亡率を用いて標準体重を決めようとする動きは、1940年代に米国のメトロポリタン生命保険会社が死亡率の低い身長と体重の組み合わせを報告したのがはじまりです。

1955年に松木駿らがこの結果から日本の標準体重表を作成して、これが長く用いられました。BMIの理想値22というのは、この松木の標準体重に相当する数字となっています。1940年代の米国のデータなので、人種・食生活・医療水準も現代の日本とはずいぶんと違いますね。その後1985年には、明治生命保険会社のデータを用いて日本人のデータに基づいた標準体重が作成されました。

BMIは計算に電卓が必要になるため、より簡便な計算方法も使われます。よく使われるのがBrocaの桂変法で、(身長cm-100)×0.9が標準体重(kg)になります。170cmなら63kgと暗算でも計算できます(BMIだと63.6kg)。欠点は身長が高い人の肥満を見逃しがちになることです。

参考文献:
西野素子 (1988) 標準体重法による肥満の判定. 慶応保険研究, 7, 33-39
https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/research/assets/files/research/bulletin/boh1988/7-33-39.pdf

BMIに変わる指標は何か?腹囲は内臓脂肪の指標となるか?

BMIの問題点を上記で整理しましたが、では体脂肪率や内臓脂肪を測定すればそれで解決なのでしょうか?

BMIを用いる最大の利点は、身長と体重は簡単・正確に測定できるという点にあります。それに比べると体脂肪率や内臓脂肪は簡単・正確に測定できません。

体重計を製造しているタニタが体脂肪率計も製造していますが、これは体脂肪率を直接測定するものではなく、代替指標として電気抵抗を測定するものです。より正確な方法は、陸上と水中の体重の差から密度を計算する方法ですが、家庭で簡単に測定できる方法ではありません。

ちなみに体脂肪率が男性で25%、女性で30%を超えると高いと判定されます。

内臓脂肪も正確に測定するためには腹部のCTスキャンを撮る必要があり、体重のように簡単には測定できません(やりすぎると被ばくの問題もあります)。腹囲を代わりの指標とするのですが、そもそも腹囲は内臓脂肪面積と相関はあるものの、ばらつきも非常に大きいのです。

内臓脂肪面積が100cm2以上の人に生活習慣病の増加が認められたため、これをメタボの基準値のベースとしたのですが、内臓脂肪面積100cm2に相当する腹囲は、男女とも75~95cmと非常に範囲が広いのです。

結局のところ日本におけるメタボ診断の腹囲の基準値は男性で85cm以上、女性で90cm以上となりました。この基準値は世界でも独特のものとなっています。特に男性の「85cm」が厳しすぎること(成人男性のほぼ半数が該当!)、世界で唯一女性のほうが大きな値となっていることが批判的に受け止められました。

なお、腹囲の基準値を超えた場合に
①空腹時血糖(≧110mg/dL)
②脂質(中性脂肪≧150mg/dL、HDLコレステロール<40mg/dL)
③血圧(収縮期血圧(上の血圧)≧130mmHg、拡張期血圧(下の血圧)≧85mmHg)
の3項目のうち2項目以上を満たす場合にメタボリックシンドロームと診断されます。

まとめ:BMIの起源と標準体重の決め方

BMIはケトレーによって1835年に開発され、現在は肥満の指標として使用されています。BMIの理想値22は米国における死亡率が最も低い身長と体重の組み合わせから決まっていますが、人種や性別・年齢層の違いを考慮する必要があります。筋肉量の違いや皮下脂肪と内臓脂肪の区別などが考慮されていない問題もあります。

次回はBMIと死亡率の関係について整理します。BMIと死亡率はU字型のカーブとなりますが、多少肥満なほうが死亡率が低くなることや、やせの死亡率が高い理由について注目します。

BMIの基準値のからくりその2:BMIと死亡率の関係
BMIと死亡率の関係はU字型のカーブとなり、やせでも肥満でも死亡率が高くなりますが、標準体重(BMI22)よりも多少肥満よりで死亡率が低くなります。肥満の死亡率が低くなる「肥満のパラドックス」とやせの死亡率が高いことについて、いくつかの研究を紹介しながら深掘りしてみます。

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