要約
家電メーカー3社を対象とした人権リスク比較事例として、各社の人権方針について比較を行い、ソーシャルリスニングの手法を用いて各社の人権についての評判(レピュテーション)をチェックしました。人権方針に大きな違いはないものの、レピュテーションには大きな差が見られました。
本文:実際の企業における人権リスク比較事例
リスクの対象が財産・健康・環境に加えて人権などに広がりを見せており、世の中で人権を軽視した場合の悪影響が大きくなっています。前回までになぜ「人権リスク」に対応する必要があるのか?について解説したり、企業活動において人権リスクを評価し適切に管理するプロセスである「人権デューディリジェンス」について解説したりしてきました。
今回は人権リスクその3として、実際にいくつか企業における人権方針を比較し、それらの企業に対する人権についての評判(レピュテーション)をソーシャルリスニングの手法を用いて調べてみることにします。
比較する企業として、家電メーカーである三菱電機、パナソニック、ソニーの3社に注目します。三菱電機はブラック企業大賞を二年連続で受賞し、その後も不祥事が絶えません。他の二社は同業界における比較対象とします。
まず3社のウェブサイトから、各社の人権方針について比較してみます。次に、これまで本ブログで実施しているソーシャルリスニングの手法を用いて各社の人権についてのレピュテーションをチェックしてみます。最後に、ツイッターを使って各社の人権問題を洗い出してみましょう。
3社の人権方針のまとめ
まずは、3社のウェブサイトをチェックして各社の人権方針を読んで比べてみましょう。3社とも前回の記事で紹介した「人権デューディリジェンス」に取り組んでいる様子がうかがえます。
三菱電機
トップページ -> 企業情報 -> サステナビリティ -> 社会
の中に「人権」と書かれた部分が出てきます。SDGsの下に位置づけられていることになります。
報告書の中で6ページにわたる記述があります。三菱電機グループ「人権の尊重に関する方針」では以下の記載がありました。
2. 三菱電機グループは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、私たちの事業活動における人権への影響の特定・評価、負の影響が生じることの防止・緩和措置の検討など、いわゆる人権デュー・ディリジェンスの取り組みを進めていきます。また、事業活動が人権への負の影響を発生させた、又は関与していたことが明らかになった場合の是正の仕組みなどを整備します
また、人権の尊重の取り組みでは、リスク評価・人権教育・苦情処理メカニズム・社外との対話などの実施について書かれています。
パナソニック
パナソニックグループ -> サステナビリティ -> 社会への取り組み -> パナソニックグループ人権・労働方針
の中に人権方針が書かれています。三菱電機同様にSDGsの下に位置づいています。
人権デューディリジェンスに関しては以下の記載がありました。
パナソニックは、事業活動や製品・サービス、取引に関連する人権への負の影響を特定、予防、軽減し、対処方法を関連のステークホルダーに説明していく「人権デュー・ディリジェンス」の仕組みを、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき整備し、継続的に実施、改善していきます。
人権への負の影響についての対処、その継続的な改善について、パナソニックは関連する社内外のステークホルダーと対話や協議・連携を行っていきます。特に、人権リスクとの接点が多い調達活動に関しては、直接の購入先のみならずサプライチェーン全体で問題の発生を未然に防止できるよう購入先様との対話を強化し、理解と協力を得ながら人権デュー・ディリジェンスの実効性を高めてまいります。
また、これらの取り組みについて、公式ウェブサイトおよび関連する報告書やその他のコミュニケーション手段を通じて適切に開示していきます。
報告書は5ページにわたる記載があり、人権の尊重への取り組みでは、強制労働の禁止・児童労働の禁止・若年労働者の保護・差別の禁止・結社の自由・団体交渉権の尊重・適正な労働時間の管理などについて記載されています。
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/pdf/sdb2022j-human_rights.pdf
ソニー
ホーム -> サステナビリティ -> サステナビリティレポート
の中に「人権の尊重」という部分があります。他の2社同様にSDGsの下に位置づいています。
報告書には4ページにわたる記載があり、人権デューディリジェンスに関しては以下の記載がありました。
サステナビリティ担当上級役員が管轄する本社サステナビリティ担当部署において、ソニーグループ全体の事業活動およびバリューチェーンにおける人権インパクト評価を実施しています。2021年には、人権インパクト評価結果や規制動向を踏まえてソニーグループ全体の人権デューデリジェンス対応を推進するためのワーキンググループを本社サステナビリティ担当部署、法務・コンプライアンス担当部署が立ち上げました。人事関連部署や調達関連部署、各事業の関係部署と連携しながら、ソニーグループ全体の事業活動およびバリューチェーンにおける人権デューデリジェンスを実施し、潜在的な人権への負の影響の防止と軽減を推進しています。
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/library/reports/SustainabilityReport2022_humanrights_J.pdf
人権の尊重への取り組みでは、責任あるサプライチェーン・多様性の尊重・責任あるテクノロジーの開発および使用、などについて記載があります。最後の「責任あるテクノロジーの開発および使用」に関して、AIの倫理について「AI倫理ガイドライン」を定めるなどのところが結構特徴的ですね。
3社の評判に関するソーシャルリスニング
ということで3社の人権方針を眺めてみましたが、これを読んだだけでは違いはほとんどわかりません。3社とも大手企業だけあって、とりあえず「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいてやってます、ということの体裁はきちんと整っていますね。
体裁が整っていることと、実際の内情はまた別物と考えられます。そこで、次にソーシャルリスニングの手法を用いて3社のレピュテーションをチェックしていきましょう。
本ブログでは、Google検索履歴やTwitter、YAHOO!知恵袋などを対象としてソーシャルリスニングを行い、今人々がどんなリスクに注目していたり不安を持っていたりするかを調査しています。これまでの結果については以下で報告しています。
Google trendsで3社の検索結果を調べると、商品や株価などをキーワードとして検索するものが多く、評判についてはあまり意味のある結果は得られませんでした。
また、「人権」の検索数は毎年8月後半にピークが来るようです。経年変化はほとんどありません。検索キーワードは「人権 作文」などで、夏休みの宿題を調べているものと思われます。
YAHOO!知恵袋ではほとんどが就職に関する悩みであり、特に面白い結果は得られませんでした。
次にTwitterの解析です。いつものように「三菱電機」、「パナソニック」、「ソニー」を含むツイートを11月頭の1週間で収集してみました。テキストマイニングではあまり意味のある結果が得られませんでしたので、いいね順でソートして上位50ツイートを読んでみます。そして商品ではなく会社自体のネガティブなツイートの数を数えてみましょう。
三菱電機は7/50と結構な高頻度でネガティブなツイートがありましたが、ソニーとパナソニックはゼロでした。やはり全然違いますね。例として以下のようなツイートが目立つというのは会社の評判を反映していると思われます。
Twitterを用いたレピュテーションリスクの分析
いつもやっているソーシャルリスニングの手法ではあまり深堀りできませんでした。そこで、TwitterのWEB上で「メーカー名 人権」で検索をかけてみて、もう少し調べてみようと思います。というのも、Twitter APIでは過去1週間のツイートしかさかのぼれませんが、WEB上ではもっとさかのぼれるからです。
「三菱電機 人権」、「パナソニック 人権」、「ソニー 人権」で検索して、最新の50ツイートを人力で読んでみました。
三菱電機はとにかくひどいのが多数出てきます。パワハラ関係ではいろいろありますが、特に女性の監禁部屋の話が強烈でした。監視カメラによりトイレの出入り時間を監視され、トイレの時間が長いことを理由に懲戒処分を受けたとのことです。
パナソニックではウイグル問題(強制労働)に関与しているとの記事が出てきました。日本企業14社の関与が疑われるとの調査報告に対し、国際人権団体が各企業に質問したところ、パナソニックからは回答がなかったとのことです。ただ、どのように関与しているかは不明です。
ソニーでは2016年と結構前の記事が引っかかりました。コンゴにおいて未成年鉱夫が採掘したコバルトを使った部品を購入している企業の中にソニーが含まれているとのことです。それよりも最近の問題は出てきませんでした。
このようにツイートを眺めた限りでは三菱電機が圧倒的に評判が悪く見えます。評判と実態は別物かもしれませんが、悪い評判はレピュテーションリスク(企業の信用やブランド価値が失墜すること)につながります。これを改善するには実直なリスクマネジメントと情報発信が必要となるでしょう。
まとめ:実際の企業における人権リスク比較事例
家電メーカー3社はいずれも人権リスクマネジメントのプロセスである人権デューディリジェンスに取り組んでいることを公表しています。しかしながらソーシャルリスニングなどの手法を用いてレピュテーションリスクを探ってみると、3社に大きな違いがあることがわかりました。蔓延するパワハラなど企業文化を変えるには「取り組んでいます」という体裁を整えるだけでは不十分であると考えられます。
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